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「8時間遅れ」は1時間で解決できた/斉藤典雄

●月刊「記録」2003年11月号掲載記事

■高架化工事遅れで大迷惑

「首都の大動脈大混乱」「JR中央線234本運休」「18万人に影響」「JR高架化工事ミス」「復旧8時間遅れ」「JRの甘い見通し」「お粗末JR」「単純配線ミス」「走らぬバス長蛇の列」「バス乗ってもすし詰め渋滞」「休日台無し」「利用客怒り心頭」「人災だ」「いつ動くんだ」「イライラ」「ヘトヘト」「うそつき」「お役所仕事」等々。
 9月29日付朝刊各紙を賑わした見出しはざっとこんなものだった。どの新聞でも1面トップで報じられたのだから、大問題に違いない。
 概要はこうだ。
 JR中央線の三鷹から国分寺間(約6キロ)上り線で、27日夕方4時頃から大規模な線路切り替え工事を行った。その工事のため、三鷹~立川間についてはほとんどの列車を運休。バス代行を実施するなど、他の交通機関への振替乗車を呼びかけた。その後、28日未明3時半頃新設した武蔵小金井駅周辺の5ヶ所のポイントが切り替わらないなどの信号トラブルが発生。復旧作業が長引き、運転再開予定時刻の午前6時頃から約8時間近くにわたり、三鷹~立川間の上下線がストップ。動き出したのは午後2時頃という、利用客にとっては前代未聞のはなはだ大迷惑な事態である。
 まず初めに、線路切り替え工事について説明しなければならない。
 JR中央線の三鷹~立川間(約13キロ)には18ヶ所の踏切があり、朝夕のラッシュ時には「開かずの踏切」として交通渋滞を引き起こし、周辺住民の日常生活にも大きな障害となっていた。そのことなどから、1969年(昭和44年)に沿線20市町村(当時)による「三鷹・立川間立体化複々線促進協議会」が発足。これを受けて、JR(当時は国鉄)は東京都と協議を重ね、94年(平成6年)に本事業が都市計画決定された(踏切のある部分約9キロ-東区間・三鷹~国分寺間約6キロ、西区間・西国分寺~立川間約3キロを高架化にし、踏切を廃止するなど)。工事は2001年より全面着工されていて、完成予定は2010年度末というものだ。
 今回は、東区間・三鷹~国分寺間に仮上り線を新設。既存の上り線を、新設した仮上り線へと切り替える。最後に高架線へと切り替え、その後高架駅建築で完了。と、毎年1回、計8回に及ぶ「史上最大の決戦」というべき大計画なのである。
 ところが、冒頭の不測の事態が突如として生じてしまった。首都圏での運休時間や影響人員は過去に例がない最大規模だという。JR最悪の失態である。そもそもJRは「工事の延長は想定していなかった」というから、工事を甘く見ていたといわれても反論はできない。判断が甘いといわれても、驕りが招いたトラブルといわれてもだ。乗客無視、危機回避能力欠如、リスク管理お粗末等々、何といわれようが、言いわけは何一つできないのだ。
 原因は、当初は配線ミスであると断定され、作業員(下請)による初歩的な人為ミスだと騒がれた。が、さらに調査を進めた結果、約1週間後の10月6日には、配線図自体が間違っていたことが判明した。工事を請け負い、配線図を作成した会社のチェックでも、JRのチェックでも間違いに気付かないまま工事を行っていたというものだ。
 まったく信じられない話だが、これでは復旧できるわけがない。間違った配線図を基に確認作業が行われていたのだから、永遠と復旧はできない。まるで腹痛なのに頭痛薬を飲み続けているのと同じである。
 また、JRのチェック体制は一寸の抜かりも無い完璧なものとばかり思っていたが、このまさかの不手際には開いた口が塞がらない。まるでプライバシーにまで及ぶかのような私達社員への事細かなチェック(労務管理)能力を、今後はこちらの方へ集中させたらいかがかと言いたくなる。まさに管理体制の不備である。
 事件当日午後にはJRの幹部が、翌29日には大塚陸毅社長自らが記者会見で陳謝したばかりだが、10月7日の社長の会見では「表面上は単純なミスだが、たまたま起きたのではなく、組織の深部に問題があったと考えている」と話し、今後は大規模な工事現場には本社幹部を立ち会わせるなどの再発防止策も明らかにして、再び謝罪した。
 私は、非常に重く意味深な反省であると受け止めた。

■運転再開よりも原因究明を優先

 さて、現場の各駅では、朝から動いていると思っていた利用客でごった返し、騒然となったことはいうまでもない。さらに混乱に拍車をかけたのはバス代行が9時過ぎに中止となったことである。理由は、運転士と車の手配がつかないとバス会社から断られたからだが、万が一、工事が遅れることを想定して、事前にお願いしておけばこんなことにはならずに済んだことであり、何から何までお粗末という他はない。
 しかしながら、一番の問題は復旧に対するJRの判断ではなかったか。当日に幹部は会見でこう述べている。「原因を突き止めた上で復旧させようという思いが強すぎたかもしれない」。つまり、運転再開より、原因究明を最優先させたのだ。その結果として、故障していない別のポイントや踏切など、全部の総点検を余儀なくされ、大幅な時間を要することになったのだ。
 JR東日本の「行動指針」で謳ってある「お客様第一」を考えるならば、運転再開を念頭に置くことは分かり切ったことだ。幹部たるもの、そうした気持ちがなかったとは思わないが、いつも直接お客様と接している私達現場第一線の社員とは決定的なズレを感じないわけにはいかない。一度でもいいから、超満員の電車に乗ってみたり、騒然とした現場の中に立ってみたらいかがだろうか。これでは「乗客無視」といわれても仕方がない。
 ならば、どのような対応をすべきだったかである。繰り返しになるが、「お客様第一」に運転再開を最優先させるということに尽きる。原因究明は終電後に行えばいいのである。異常事態なのだから、何もダイヤ通りの正確な運行にこだわる必要はなかったのではないか。誤解されては困るが、どうせしょっ中遅れている中央線である。初めから、特急の待ち合わせや車庫入れなどのポイントで振り分けることは全て中止にして、1本の線路でどんどん動かしていけばよかったのだ。
 結局は、ポイントを鎖錠(固定)して運転再開に漕ぎつけたわけだが、鎖錠する作業など1時間もかからないのだ。そうした判断があまりにも遅すぎたということである。
 それにしても、またしても、安全を担うJRの信頼を大きく失墜させ、安全神話にひびが入ってしまった。今後は、このようなことが二度と起きないように、管理体制をビシッと整えるしかない。毎度のことだけどね。また、技術陣の「真のプロ」としての奮起を促したいものだが、今や技術の継承はおろか、関連会社や下請けへの外注化が当たり前になり、責任の所在までが細分化され、うちさえよければという全体の一体感が希薄になったことも一因なのではないだろうか。
 いずれにしても、お客様あってのJRである。足止めされた大勢の人の中には、重要な会議だった人、結婚式だった人、行楽の人、お年寄りとさまざまだが、秋晴れの休日を台無しにしてしまったことは、私もJR社員の1人として、今ここで改めてお詫びを申し上げたい。

■その後もトラブル続出…

 ここから先はJR中央線のその後である。この事故から3日後の10月1日午前10時頃、またしても武蔵小金井駅構内で、新設された別のポイント2ヶ所が故障して、電車は20分近く立ち往生した。最大39分遅れで14本が運休、4万人に影響したという。これは、配線には問題なく、ポイントの切り替え部分のネジの調整不足が原因だった。
 さらに、10月3日午前7時半頃、またまた同駅構内で、架線を吊っている「ちょう架線」を覆うカバーから煙が上がり、線路に焼け落ちるという事故が発生した。これも新設された部分だが、電流は流れていなかったという。原因は調査中で、8本運休、8000人に影響。
 まだある。この工事による影響で、同駅隣の東小金井駅付近の踏切では、踏切を渡る距離が長い所で2倍以上になった。そのため、もともと閉じている時間が長かったのが、10月1日などは午前8時から9時までの1時間は閉まり放しだったという。JRは各踏切に警備員を配置して監視に当たらせたことにより、普段は遮断機の下をくぐって横断する人が多いのだが(危険だから止めてほしい!!)、それが出来なくなってしまい、「会社に遅れる」と警備員に殴りかかるトラブルも起きている。
 また、東小金井駅では踏切が当てにならないため、周辺住民は自転車を担いで駅構内を行き来するという問題まで起きている。
 それに、まだあるから困る。10日には、80代の老夫婦が踏切を渡り切れずに、電車が緊急停止する一幕もあった。たった今(11日)は、三鷹駅と高尾駅で人身事故が相次いで発生し、また止まっている。
 このように、中央線は挙げれば切りがないくらい事故が多いのだ。まったくもって、てんやわんや。呪われているのか? そんなことはないだろうが、今回の大失態を職場の同僚達は「工事が終わっても、まず、まともには動かないだろうと思っていたよ。必ず何かが起きるだろうとね」と口々に言っていた。私を含めてだが、これほど大変な事態になるとは思わなかったにせよ、とにかく小さな事故やトラブルが後を絶たないからなのだ。裏を返せば、社員はみんな、自分のJR会社を信用していないということだろうか。
 最近では、JRバス関東の飲酒運転、東労組役員らの逮捕や組合事務所の家宅捜索等々、JR全体のモラルが低下していると見るべきではないのか。私達、社員全員の心のタガが緩んできて、締め直す時期に来たという警鐘かもしれない。合掌。(■了)

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