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「健康意識」とサプリメント

●月刊「記録」2004年7月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部

 薬局に限らずコンビニでも簡単に手にはいるようになったサプリメント。これは「薬」ではなくて、栄養補助「食品」なのだ。一日に必要な栄養素を食事だけで摂取できないときの補助として飲むのが一般的な利用のされ方である。
 サプリメント市場は年々成長しており、大手のファンケルでは、94年の売り出し初年で約15億円を売り上げたのを皮切りに2000年には約220億円と200億を突破。現在は約300億円近くまで到達し、当初の20倍以上の売り上げだ。
 同社はかつて無店舗で「無添加」をうたった化粧品を販売し、健康に気を使う女性を中心に支持を広げた。その後「無店舗」はやめたが無添加路線は食品にも手を広げた今でも守っている。
 サプリメントの販売を開始した94年2月当初はビタミンC、ローヤルゼリーなど28品目を売っていたそうである。
 ファンケル広報担当者は「消費者の健康意識の高まりと共に売り上げも増えていきました」と背景を推察する。確かに「健康意識の高まり」もあるかもしれない。しかしよく考えてみるとサプリメントを必要として飲んでいる人の多数は不規則な生活をしている人である。
 ここには大きな矛盾がある。つまり普段が不規則=健康とはいえない生活を送っているために、本来ならば気にしなくてもいい「健康」へと関心が高まっているという構図に、だ。言い換えれば健康への志向は不健康な生活を続けることが前提となっている。いささか問題ありではないだろうか。
 本来ならば3回きちんと食べ、しかもバランスの取れた献立が必要だ。そうすればサプリメントを頼らなくてもいい。こうすることが本来の「健康意識の高まり」であるべきである。

■「不健康」だから買う

  「健康意識が高まって」いるにも関わらず、日々の生活が病因につながる「生活習慣病」が増えている。
 生活習慣病には、ガン、動脈硬化、高血圧、2型糖尿病などがある。最近子供の間で増えている肥満もその一つだ。
 かつて壮年期を迎えた人が多くかかる疾患ということで「成人病」と呼ばれていたが、生活習慣の混乱、とくに食生活の乱れが日常化した今はもう子供もかかるので最近では生活習慣病と呼ばれるようになった。
 したがって規則正しい食生活を送ることが生活習慣病を回避する大切な要素になってくるのはいうまでもない。1日3回ちゃんと食べよう。それが難しくてもバランスの取れた食事を心がけようということだ。
 もっとも現代人が食生活を正しくするのは容易でない。3食をしっかりとることが仕事柄不可能な人もいれば、朝食をきちんといただいてから出社したくてもできない人もいる。そのうち可能であっても「朝からご飯なんて……」と食べずに出社する習慣がつく場合もあろう。責められない現実ともいえる。
 一方の「バランスの取れた食事」も言うは簡単だが、実行するにはよほど意識しないとうまくいかない。朝はこれを食べたから昼は別のあれにしようと強く意識してセレクトするようにならなくてはならない。「そんなの簡単」と思ったら大間違いだ。なぜならばそれがうまくいっていないからこそ生活習慣病が増えているからだ。かくしてサプリメントは売れていく。
 さらに本物の「健康意識」派が売れ行きに拍車をかける。いくら規則正しい食生活を送っていても「環境の変化によって野菜中の栄養素量が減ってきているから」などと考える本当の健康志向もまた確実に増加中。要するに「不健康だから」と「より健康に」の一見正反対の人たちが「どっちにしろ必要だ」とばかりに買い求めているようなのだ。

■完璧を目指せば飲む量が増えてくる

 そうである以上「サプリメントに頼るな」と叫ぶのは非現実的だ。正しい使用法を探る必要があろう。
 サプリメントの一番良い点は、飲み方がとても簡単なところだろう。自分に足りないと思われる栄養素が入っている製品を買ってきて、袋に記載されている粒数を守って飲めばいいのである。
 食事のように食材を買ってきて、調理して盛りつけなくても、水で飲むだけで簡単に栄養補給できてしまうのだからこれ以上楽なことはない。
 だがここで大きな疑問がわく。一日に必要な栄養素を補うためには、足りない栄養素がなにかを知らなければ摂ろうにも摂りようがないという点だ。
 もちろん日本人が一日に必要な栄養素量を細かく定めた「日本人の栄養所要量」というのがあるので、それを参考に一日必要な量を「食品成分表」を見ながら電卓片手に計算して摂っていけばいいのである。
 だがそれが容易ではないのは「日本人の栄養所要量」を手元に持っている人などほとんどいないことでも明らかだ。自分で調べないならば病院へ行って栄養指導をうけたり、身近に栄養士がいれば「あなたに必要な栄養素量をすべて含んだ献立を作ったわ」などということが可能だが、これまた現実にはほとんどない。
 したがって「私にはビタミンCが足りないと思うから摂るわ」というように、自分で何が足りないかをたいした根拠もなく摂取している人が多いと容易に想像できるが「生兵法はけがのもと」という古いことわざもある。素人判断ほど危険なものはない。
 たとえば不規則な生活を送っている人はビタミンだけが足りないわけではなく、完璧をめざせば数十種類はあげられる。すべてを果てしなくサプリメントに加えていくことなど不可能だ。
 1つの栄養素に限っても一粒飲んだだけで十分というわけではないことは意外に知られていない。サプリメントだけで補おうとすればするほど、飲む量も多くなるから面倒になる。
 以上の問題も含めて「サプリメントにはお金がかかる」のも深刻だ。オーソドックスなビタミンやミネラルなどは安いが、摂りづらいものや希少価値の高いものになればなるほど価格があがっていく。
 よく新聞広告などで目にするローヤルゼリーやプロポリスなどは驚くべき金額である。高くても健康でいたい、健康になりたいという健康オタクならば気にはならないだろうが。絶大な効果を期待すると裏切られる可能性が高い。
 なぜならばサプリメントは本来が食品であり、消耗品だからだ。消耗品だから飲めばなくなる。即効性のある薬ではなく、続けなければ効果が表れない食品なので毎月効果が表れるまで飲み続けなくてはならないし、病気を治すために飲むのではなく病を予防するためだから「ここでやめてもいい」というラインもない。そうした特性を踏まえると高いサプリメントに手を出しづらい。だから毎月飲み続けるならば低価格の方がいいはずだ。低価格路線のファンケルが売れ続けるのは、そこにも原因があるのだろう。

■食事を楽しむのが基本

 重ねていうがサプリメントは食品である。したがってカプセルに入っていたり錠剤だったりと薬に似ているが実際には食物に由来するのだ。端的にいえば食べているのとある一点を除いて同じである。
 例えば食物のマグロの眼球裏に多く入っていて、摂取すると頭が良くなると話題になったDHAや、カニの殻から取られた脂肪が気になる人にはおすすめのキトサンなど、食材で摂りたくても一度には摂りづらい栄養素や、眼球疲労に効果的とされているブルーベリー、トマトに多く含まれるリコピンなど食材でも手軽に摂れる栄養素などさまざまあり、TPOに合わせてセレクトできるのである。他にもビタミンやカルシウムなど身近な栄養素も含めて一口にサプリメントと言っても種類は豊富だ。その意味でサプリメントは食べる暇もない忙しい現代人にとって救世主のような存在といえなくもない。
 ただしサプリメントでは栄養は満たされるが腹は満たされない。これが先に述べた「一点を除いて」の一点である。現状ではサプリメントだけで生きている人はほとんどいない。
 今では原点である食事こそ大切にしようという運動が起こっている。「スローフード運動」だ。これは「消化が遅い食べ物」という意味ではなく「ゆっくりと食事をする」ということで、ゆっくり食べる楽しさを再認識しよという、食生活・食文化を大切にするイタリアから始まった運動である。
 スローフードが浸透し当たり前になったら、家族で食事を囲むという文化も復活する。そうすればバランスのとれた食事をとることも可能だ。
 そのためには浸透させられるだけの土台作りが必要になってくる。農林水産省が厚生労働省、文部科学省と共に策定した「食生活指針」に「食事を楽しみましょう」という項目を作っているのだから、具体的に動き出してもよいのではないだろうか。
 そうすれば生活習慣病も減り、団らんがキレる子供を減らす一石二鳥である。
 サプリメントが売れるということは、現代人の食生活、食事に対する考え方が希薄になってきていることを示している。ついにサプリメントで全ての栄養を摂っている人も出てきたくらいだ。この先さらに希薄さが増していったら、栄養補助食品から、サプリメントが食事の主となる日が来るのだろうか。
 もう一つ問題がある。数年前にゴージャス姉妹で有名な叶姉妹が出演したダイエット用サプリメントのCMがあったが、痩身を目的としたサプリメントである。
 ドラッグストアへ行くと、栄養系と同じくらいダイエット目的のサプリメントが売られているのを目にすることが多いはずだ。女性のやせ信仰は「健康意識の高まり」とは全然異なる。これがなくならないかぎりこれまた「健康」とは無縁のダイエット系サプリメントは売れ続けるだろう。(■了)

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