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「あの鳥」は大丈夫か!!

●月刊「記録」2004年4月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部

 日本をはじめアジア一帯で、鳥インフルエンザが猛威をふるっている。
 国内で25万羽以上のニワトリが死に、一番の被害が出た京都府の養鶏場裏の林では、鳥インフルエンザに感染したカラスの死骸が発見された。ついに野鳥のカラスにまで!
 これは危ない。通常、鳥インフルエンザは人に感染しない。しかし鳥同士となれば話は別。日本には絶滅寸前の鳥が少なくない。鳥インフルエンザの蔓延は、特別天然記念物のカンムリワシやタンチョウを駆逐してしまうのか!?
 編集部は、さっそく調査に乗り出した。まず目をつけたのが、ニッポニア・ニッポンの名で知られるトキだ。 1999年に中国から提供された友友と洋洋によって、日本初の人工増殖に成功したさいには新聞の一面を飾り、国中を沸き立たせた保護動物の「看板役者」である。
 さっそく新潟県佐渡トキ保護センターに電話した。ところが取材意図を説明し始めると、「おたくさんには申しあげられないな!」の声。怒っている?
 どうやら大厳戒体制下の最前線に、ヘラヘラと電話してしまったようだ。反省しつつトキへの不安を心から訴えると、職員が緊迫した現状を語ってくれた。
  「外にポストを設け、新聞配達員や郵便局員さえセンター内に入れていません。入れるのはセンター職員7人以外に、夜泊まってくれる警備員さんだけですわ」
 センターでは、農林水産省から出されているマニュアルに従い、消毒の徹底と人の出入りを制限したているという。もちろん観光客への公開も完全に禁止となった。 人工増殖によって昨年までに、40羽(成鳥22羽、ヒナ18羽)まで増えたトキを、1羽たりとも殺すわけにはいかない。そうした職員の思いが伝わってくる。
  「私どもから言わせれば、(鳥インフルエンザは)訳のわからない世界ですから。ウィルスがどこに飛んでいるのかもわからない。どの範囲まで保護すればいいのかもわからない。でも、せっかくここまで増やしてですね。(数を)ダウンさせるわけにいきません」
 センターにおけるウィルスとの攻防は、すでに死闘の様相を呈している。
 しかも今回の鳥インフルエンザ騒動は、思わぬ弊害をトキにもたらしているという。中国に頼らざるを得ない繁殖パートナーの提供を、今年、環境省が断念したのである。繁殖期の4月が間近に迫り、センターは現在いるトキでペアを組むしかなくなった。
  「やっぱり1つの個体の延長線上にある繁殖ですので……、新しい血を入れないのはよくありません。兄弟とか親子の関係で繁殖することになりますから」
 鳥インフルエンザは、トキから嫁や婿を奪ったのであった。今後、繁殖パートナーを増やしていきたいところだが、まだ先行きは暗い。
 3月1日には佐渡が一島一市になり、鳥インフルエンザが流行るまでのセンターは、お祝いムードに包まれていたという。3月15日にはキンの追悼行事も計画されていた。本来ならトキ目当ての観光客が、ぞくぞくと来園するはずだった。
  「トキの数が増えるたびに、どんどんお見せできるように、私はセンターを開放してきました。ところが、ここに来て逆行するようになってしまって……。苦しいというのが正直な気持ちです」
 取材に答えてくれた職員は、そんな苦悩を打ち明けてくれた。トキの保護とセンターの開放に力尽くしてきた職員の言葉は重い。ただ専門家が全力で守っているだけに、トキの安全はかなり高いことを実感した。

■徹底除菌でコウノトリを保護

 さて次に気になったのは、コウノトリである。
 日本では野生のコウノトリが約30年前に絶滅してた。そのため兵庫県豊岡市にある兵庫県立コウノトリの郷公園において、繁殖活動が行われている。その数、106羽。この順調な増殖の成果を受けて、同公園ではコウノトリを野生に戻す計画まで立てられているのだ。
 しかし25万羽を処分した浅田農産船井農場は近い。ましてタイのバンコク郊外では、保護区で800羽のコウノトリが死んでいる。野生化計画など吹っ飛ばしそうな状況なのだ。
 こちらにも、さっそく電話をかけてみた。すると
  「一般公開していたコウノトリがいたんですけれど、それを奥の非公開ゾーンのケージに移動しました」とのこと。もちろんトキ保護センターと同じく一般公開も取りやめている。
 さらにコウノトリを飼育している職員たちも、厳重なウィルス対策を講じている。
  「ケージに入るときの手足の消毒。それとマスク、ゴーグルの着用。以前からしていたことですが、今回改めて徹底しています。業者などが使う進入車両には、タイヤの消毒も実施しています」
 ちなみに、来園者も防疫体制維持のために消毒マットで、靴の裏の消毒を行っているそうだ。
 しかしここまで徹底しているにもかかわらず、万が一コウノトリが鳥インフルエンザにかかってしまった場合、どうするのだろうか?
  「今の段階ではなんとも申し上げられませんね。まだわからないですから。私どもで決定できるようなことではないんで、今の段階では、そこまでのお話しかかできません」
 当たり前だが、敵は見えない。どの程度の接触で感染するのか、何から感染するのかすらわかっていない。手探りのなか必死の防御が続いている現在、最悪のシナリオに回答がないのも仕方ないだろう。
 ただコウノトリもトキと同じく、専門知識に富むプロが知恵を絞り鳥インフルエンザウィルスから、鳥を隔離している。現状では、絶滅の心配などなさそうだ。

■注意が必要なのはツル

 では、人に守られていない野鳥たちは、大丈夫なのだろうか。野鳥の安否をたずねるべく、今度は日本野鳥の会にお邪魔した。
  「渡り鳥については、日本にくる途中で感染しても、死んでしまいます。逆に感染して治ってしまえば、もうウィルスを持っていないので感染は広がりません。そういう意味では心配する必要はないはずです」
 そう語るのは、日本野鳥の会の主任研究員である金井裕さんだ。金井さんは、繁殖期になると多くの野鳥が縄張りを構えるため、より一層、感染の危険は少なくなることも教えてくれた。ペアで生活が続くため、他の鳥と接触する機会が少なくなるからだという。
 たしかに群れていなければ、一気に感染が広まる危険性はない。巣を探すのが困難なほど広い縄張りを持つ猛禽類などは、地域的に野鳥への感染が拡大しても死ぬ数は限られてくるだろう。
 ただし、それはあくまで野鳥の環境が整っている場合である。環境悪化などによって、生息地が限られ、群が密集してくると話は変わってくる。
  「今、一番気にしないといけないのはツルですね」
 ズバリ、金井さんが指摘した。
 ツルは江戸期以降の乱獲が祟り、現在、生息場所は鹿児島県出水市周辺と、山口県周南市八代の2ヶ所だけ。今年確認されている個数は、山口県は15羽、鹿児島県は約1万羽だけなのだ。
 もしここに毒性の強い鳥インフルエンザウイルスが入ってきたら、その結果は火を見るより明らかだろう。生息場所が限られているため、ツルに逃げ場はない。もちろん縄張りも通常の野鳥より狭いため、感染の危険性は増す。
 ついに今回の取材で、絶滅の危機にさらされてしまう鳥に出会ってしまったのか。そんな不安を見透かしたかのように金井さんは言った。
  「大丈夫でしょう。じつは、ここ何年か続けて、生息地の限られた鳥の大量死が起こっています。しかし絶滅にはいたっていません」
 2000年秋には、韓国に生息するトモエガモが鳥コレラで1万羽死んでいる。なんと1ヶ所に10万羽から30万羽いた鳥だという。さらに、2002年の冬には、台湾に生息するクロツラヘラサギが、エサの貝などに繁殖したボツリヌス菌によって、70羽死んでしまった。この鳥もほかの環境で、暮らすことのできない鳥だったという。
 つまり薬も医学知識もないトリが、密集して暮らしていても、絶滅まではいかないのだ。ウィルスや菌を乗り越えて、強い個体だけが生き残る。いわば自然淘汰が起こるだけだ。
 鳥インフルエンザによって、バンコクのコウノトリが800羽死んだといっても、群は1万羽ぐらいいたとの情報もある。死んだ鳥の数こそ多いが、1%も死んでないという見方もできるのだ。
 もちろん繁殖環境が悪化していれば、通常の野鳥より絶滅の危険性は高い。しかし、そのマイナス分を人が補ってやることで保護できる。
 考えてみれば、動物絶滅の原因になっているのは、常に人間だった。自然だけで生物が淘汰されることはまずない。
 今回、25万羽もの鶏を処分する原因となった鳥インフルエンザも、野生の強さを失った大量の鶏を、あれだけ狭い地域で飼育していなければ、これほど感染を広げなかっただろう。
 むしろ日本野鳥の会がウィルス以上におそれているのは、人の噂だという。現にある民放局のニュースでは、感染源として謎の黒い鳥の存在が報じられた。
 しかし「そんな格好の鳥などいない」と、謎の鳥のスケッチを見ながら金井さんは断言した。野鳥から感染する危険性に過剰反応すれば、こうしたデマも一人歩きし始める。いずれ鳥など殺してしまえという声さえでかねない。
 すでにツバメに対する不安の声があがり、ペットとして飼われている鳥まで捨てられて始めている。野鳥にとっては、鳥インフルエンザより人間が恐ろしい存在なのだ。絶滅の引き金は、やはり人間が握っている。 
 とっ、ここで新たな疑問が!
 日本野鳥の会のメンバーは、鳥インフルエンザを調査するため、地方自治体からも協力を依頼されている。実際、あの船井農場周辺の野鳥の調査にも会員が参加した。それ以外でも、もっとも野鳥に近づく人々こそ日本野鳥の会のメンバーではないか。高濃度な接触を伴うと感染するといわれ、海外では人への感染例も報告されている。会員に危険はないのだろうか?
  「はい、野鳥には近づけませんので」
 そうだった。野鳥には近づけない……。だからこそ紅白歌合戦で、NHKホールの観客を舞台からカウントすることができるのであった。感染どころか、触ることすらできん、それが野鳥。
 というわけで野鳥の会の会員が安全であることも、最後に報告しておきたい。(■了)

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