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食卓が危ない??

●月刊「記録」2004年3月号掲載記事

 不規則な生活が常識となり、一日1食という日もあれば、2食という日もあるという若者は多い。また週に3回ほどハンバーガーを食べ、帰宅途中に寄るコンビニでは総菜や甘いものを買って食べる。添加物ごりごりのアブナイ食べ物たちに囲まれた生活を送る一方で、それでは健康にも肌にもよくないからと、サプリメントで栄養を補給するとの生活スタイルはもはや日常となった。

 そんな私たちの食生活に鉄槌を下すような事件が続々と起きている。
 ニワトリには「鳥インフルエンザ」(H5型)が東アジアを中心にはやっている。原則はトリ同士でしかうつらない病気だが、日々死者が増えているタイでは、ニワトリから人だけではなく、人から人へ感染した疑いが浮上した。
 決して人ごとではない。先日もスーパーマーケットへ買い物へ行って唐揚げを購入したところ、ラベルに大きく『タイ産』と書かれていた。普通にタイ産が売られているのだ。
 歴史上大流行したインフルエンザは、ニワトリからブタ、そして人へと、宿主が変わるたびに形態を進化させ、最後は人同士に感染するまでになったが、今回も同じルートをたどる危険性が高まっている。しかも史上に残る「スペイン風邪」「アジア風邪」などの当時の新種に比べて毒性が強いとの報告もあって、数億人の死者が出るとの観測がある一方で、抗生物質がなかった「スペイン風邪」の時代と同列で論じるのはナンセンスだという反論もある。
 とはいえ「トリから人」段階にとどまりさえすれば、加熱すればウイルスは死滅するし、鶏肉料理の大半は火を通すので食卓での危険は今のところ小さい。「タイ産」の肉も加熱すれば安全であり、それを証明するためにも販売は続けてほしい。過剰反応は外交関係にヒビを入れかねない。
 現時点で心配なのは肉より養鶏場である。狭く閉鎖されたところで飼育する標準的な日本の農法では、感染が爆発的に広まりやすい。首だけ出して、太らせて卵を産ませてるやり方が効率的だとしてもインフルエンザにかかって全滅してしまっては元も子もない。
 そこで従来の飼育方法ではなく、平飼いという広めの鶏舎で開放的に飼う方法が注目されている。この方法で育っているのが、フランスの赤ラベルというニワトリである。国内では茨城県のやさとが有名である。放し飼いだと野鳥からの感染がありうるので、あくまでも人の管理の目が届く平飼いは危機管理面でも有望である。

■危険な肉を食べるために行列!

 牛肉は01年にBSE(いわゆる狂牛病)が日本で発見されて問題になって以来、今日まで日本人の心理を微妙に揺さぶっている。
 BSEは異常タンパク「プリオン」が原因との説が有力だ。生命体ではないから加熱すれば死ぬといったたぐいではない。感染牛を食べると新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病という致死率の高い難病にかかる恐れがあるとされる。とくに脳やせき髄などの「危険部位」を避けた方が賢明だ。
 さて、前述の01年では、焼肉店では閑古鳥が鳴き、メディアには安全な牛肉が食べられない不満の記事が毎日のように載っていた。ある時は1ページ使っての広告もあった。おいしい牛肉を食べたいと著名人が会を作ったりもした。
 しかし、03年で米国でBSEが発見されたときは、以前のような騒ぎはほとんど起こらず、焼き肉店も繁盛、店頭に並んでいる肉の数も01年よりははるかに多い。
 ここまでは政府が米国牛の輸入を止めたから安心していると説明できる。しかし「吉野家」などの牛丼チェーン店が米国産牛のストック分の牛丼販売最終日に大勢の客がつめかけた04年2月ごろの騒ぎはおかしい。最後の牛丼をほおばる若者の写真が新聞一面を飾り、夕方のテレビニュースでは、牛丼ファンの生活を追いかけた特集が組まれ、「吉野家」と同じ味を再現するレシピなどを紹介するコーナーまでやっていた。
 なぜおかしいのか。「米国産牛のストック分の牛丼」というのは米国でBSEが発覚して禁輸になる日以前に輸入した肉であり、言い換えればBSE感染の可能性がある肉だからだ。日本でのBSE発症の際には流通中やこれから流通する予定だった肉が敬遠されたり差し止められたりした。なのに今回は危険な肉を食べるために列まで作っているのである。
 前回と今回のBSEへの消費者の対応の違いをどう考えたらいいのか。慣れたのだろうか、それとも諦めたのだろうか。
 BSEの牛が最初に発見された英国では今も昔も変わらず、肉が食べられているが、多数の国民が患ってもいないし、全滅する恐れもない。そんなに悲観することはないのであろうと推察するのは可能だが、だったら前回の騒動の理由がつかない。
 しかも米国でBSEにかかった牛は「へたり牛」ではなかったかもしれないというニュースが流れた。もしそれが本当ならば、あまりにもずさんだから日本政府が求めている厳密な調査に近いシステムが確立するまで輸入は当然ストップのままであろう。
 米国に条件をのませなければ禁輸続行を貫けるだろうか。貫かないと批判されるとの声がある一方で、米国産の牛でないとおいしく作れないという吉野家の牛丼を食べたい人のなかには「とりあえず解除して」との思いがあるのか。重要な問題提起をはらんでいる。

■過剰反応も心配だ

 それにしてもここ数年、食肉に問題が発生したり、牛乳に黄色ブドウ球菌が混入したり、肉まんに認可されていない添加物が入っていたり、数え上げればきりがないほど「食の問題」が起こっているが、消費者の過剰反応ではないか。
 そうした問題は今に始まったことではない。過去にもこのような事件・事故はたくさんあった。公衆衛生が発展し、人々の清潔信仰がますます上昇している現代だから問題視されるのか、それとも本当に問題なのかを見極める必要がある。
 食品業界には、HACCP(ハセップ)という食品品質の管理方法がある。これは1960年代の米国で宇宙食の安全確保のために開発されたのだが、HA(Hazard Analysis)が危害分析、CCP(Critical Control Point)が重要管理事項ということで、危険なものを分析して、なにが原因かを突き止めたら記録し管理することで日本でも導入されいる。
 他にもiso(イソ)という国際規格もある。isoには9001と14001という種類があるが、食品に関係するものは9001(品質マネジメントシステム規格)だ。国際規格ということもあって、食品業界でもisoの認可が下りたものを前面に出しているし、ラベルにも表記されている。
 1995年に施行されたPL法(製造物責任制度)は、食品の欠陥が原因で、生命、身体、財産に被害が生じたら、その製品を供給した企業が責任を負う損害賠償制度である。
 今は、これらの制度によって一段と安全が増したはずである。とはいえ、火のないところに煙は立たない。ここまで来るのにさまざまな食卓を揺るがす事件があったはずだ。今のように、工場もオートメーション化されていないし、公衆衛生も不十分。法もしっかりしていなかっただろうし、消費者よりも供給側の企業が強かった。
 食品にまつわる事件・事故をあらためて振り返ってみよう。先に過剰反応と書いたが、かつての日本ではBSEなど真っ青の毒食品が大手を振っていたのである。
 数年前にヒ素入りカレー事件が世間を騒がせたが、1940年代から1960年代にかけては食品にヒ素が含まれて中毒になる事件が相次いで起こっている。
 ヒ素の事件として大きかったのが、1955年に起こった森永ヒ素ミルク事件だろう。患者数約12400人、死者約140人にも及ぶ大事件で、原因となったヒ素は、調製粉乳製造時に使用した工業用薬品の乳質安定剤(リン酸二ナトリウム)の中に不純物として混入していたようである。
 工場で作られた調製粉乳100グラム中から約3グラムが検出されたにも関わらず、製品の回収が遅れた。
 ちなみに中毒症状は、食欲不振、貧血、発疹、皮膚の色素沈着、下痢、肝・腎・神経系の障害、そして死に至る。爪や毛髪にヒ素が沈着する。
 粉ミルクが原因だから乳幼児がその被害者である。生まれたばかりで、その先明るい未来が待っていたであろう子どもたちがヒ素中毒にかかってしまうのは残酷である。
 その他にも加工、製造中の事故による中毒事件がある。1968年福岡県で、食用油が原因の大規模な食中毒事件が起きている。
 被害者数は約一万人。症状は、皮疹、発汗、爪の変色や変形、手足のしびれ、肝臓障害などで死ぬ危険性もある。これを油症という。
 原因物質は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)という環境汚染物質で、油の製造途中でパイプから漏れたらしい。
 PL法がこの時からあれば、被害者は損害賠償請求ができたし、企業の社会的責任も十分問われただろう。
 前記以外にも、農薬の問題がある。昨今のオーガニック野菜のブームから、たい肥を使っている農家も増えてきたが、以前はDDTなどの有機塩素剤を散布している農家はたくさんあった。
 害虫駆除や除草などに強い効果を発揮し、大量に農作物が作れるといったメリットから使われてきたが、やはり化学物質なので体内に蓄積される。ちなみに『食品衛生学』(愛智出版)によると、「有機塩素剤系は有機リン剤系よりも急性毒性は弱いが、慢性毒性はむしろ強いとされている」と書かれている。
 技術が発展して豊かになればなるほど、その代償は大きくなっている。大量生産をするために農薬をまく。それはそれで結構なことだが、いずれ自分達の身に帰ってくる。
 そして自然界では、私たちの主食である肉たちが反乱を起こしている。結局いつまでたっても、私たちの食卓は危ないのだろうか……。(■了)

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