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出版界に浸食するトヨタ礼賛の怪

●月刊「記録」2007年11月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部

 トヨタの影響は産業界だけにとどまらない。じつは出版界もトヨタに「蹂躙」されているのだ。ネット書店大手のamazonで「トヨタ」を検索すると、その数3965件。もちろん、ここには著者が「豊田さん」の本も含まれるが、頭から100件のうち90冊がトヨタ関連本だった。
 これはイカン! いくら本が売れないとはいえ、出版界までがトヨタ方式をヨイショしてどうする!
 というわけでトヨタ関連本を買いに走った。そこで改めて気づいたのだが、やはりトヨタ式はどんな問題も解決してくれるらしい。企業の収益はもちろんのこと人間関係から怠惰な自分まで「カイゼン」してくれる。果ては英語までもが、「トヨタ式」ならうまくいくとか。
 この本を読めば人生がすべてうまくいくかも! と思ってしまった自分が悲しい。
 さて、気を取り直して、1冊づつトヨタ関連本を取り上げていきたい。
 まず手に取ったは『ビジネス漫画 トヨタ式自分「カイゼン」術』(原案・監修 若松義人 宝島社)だ。手っ取り早くトヨタ生産方式を知るなら、やはり漫画だろう。
 内容は業績が悪化している「極東ヨツマル物産」に“カイゼンのドラゴン”と呼ばれるサクラダが呼ばれ、社内をことごとくカイゼンしくいくストーリーだ。ワイシャツを第一ボタンまで開けダラリとネクタイを下げた筋者風のサクラダは、社内の反発をものともせずカイゼンするする。トヨタ式の肝となるセリフでは必ず顔アップなのも、ちょっと昔のマンガを見ているようで楽しい。
 しかし、このマンガには不思議な特徴がある。それは人物が少しでも小さく描かれると、顔が省略されてしまうこと。ひどいのになると1.5センチの輪郭があるなの瞳がない。白目で主人公をにらみ付けている。1センチの輪郭ともなれば、顔には眉だけ。あるいはノッペラボウ。正直、これはかなり怖い。おそらく小さく書き込む顔が「ムダ」だったのだろう。ムリ・ムラ・ムダ(3S)を削減するトヨタイズムに従えば、リードタイム(納品までの時間)を長くしかねない背景の人物などムダでしかない。恐るべしトヨタ生産方式。漫画制作にまで威力を発揮したらしい。
「トヨタ式」の概略をつかんだところで、次に読み始め
たのが『トヨタ流 自己改善力』(若松義人 著 経済界)
である。まえがきにも「自分をカイゼンしていくために、トヨタ生産方式の、ものの見方や考え方、行動の仕方は非常に有効である」と書かれており、怠け者で負け組の私にはピッタリとも思えた。
 しかし、さすが製造業で驚異的な利益率を支えるトヨタ方式。そのカイゼンが並ではない。例えば「『昨日のことは忘れてしまえ、明日のことも考えるな、今日が悪いんだ、今やっていることにムダがあるんだ』という気持ちで臨むことだ」などと書かれている。とにかく日々、目の前にあるムダを省くことだけに集中しろってことだ。そのうえ「『改善とかムダをみつけることは、死ぬまでの仕事だ』というのが大野氏の考えだ」と、トヨタ方式の創始者の名で、ずっとムダを見つけ続けてカイゼンし続けるのが重要だと説く。企業ならまだ分かるが(いや、ずっと企業だけ拡大してどうなるかとも思うが……)、自分の人生からムダを省き続けたら何が残るのだろう。
 考えてみれば、恋人など「ムリ・ムダ・ムラ」の最たるもの。恋人とのつきあい方を「標準化」して、誰とでもつきあえるようにしても浮気されるだけだし……。
 いったいこのトヨタ流自己改革をどうやって自分に使えばいいのかが、残念ながらサッパリわからなかった。 ならば人間関係、特に社内の人間関係をトヨタ式でカイゼンするのはどうだろう。教科書は『人間性尊重のモノづくりを極める トヨタ式人財づくり』(トヨタ生産方式を考える会 編 日刊工業新聞社)である。ちなみに「人財」は小誌のお得意の誤字ではない。人間尊重を込めたトヨタ用語である。
 さて、この本、第1章「人づくり」の初っぱなにくるのが「大野耐一氏の人の育て方」である。当然ながら甘いことは書いてない。
「では、どんようにしたら知恵が出せるようになるか? その中で最も良い方法は、人を徹底的に追い詰めて、困らせる中で、自らが考え、知恵を引き出すことだ」
 これが最善の策らしい。しかも「自主管理活動」のページでは、「困らなければ知恵は出てこない」→「死ぬほど困れば知恵は出てくる」→「職場長をどうやって困らせるか」→“上司はあくまで部下を困り続けさせねばならない”とも書かれている。
 オイオイ、賃金もネームバリューも高くない小社で実施したら、みんな辞めちゃうって。
 やっぱり我が社には採用できそうもない。
 過労死や自殺者を出した越谷郵便局のカイゼン活動を、  「改善参加者への『動機づけ』さえ誤らなければ、必ずや郵便事業の効率化に大きく貢献するものと期待されます」と締めくくっている本に従ってもしかたないが……。
『トヨタの元工場責任者が教える 入門トヨタ生産入門』(中経出版・石井正光)はタイトル通り国内外の工場で30年以上指揮をとってきた人物が著したもの。前出の大野耐一・鬼カントクの現場でのエピソードなど織り交ぜながら、当然のようにTPS(Toyota Product System)やカイゼンの素晴らしさを伝導。トヨタ以外の企業ではカイゼンは通用しないという通説(?)があることに対し、それはその企業に合った形でカイゼンを適応していないからだと一喝。とにもかくにも「ムリ・ムダ・ムラ」を省くこと、これが挙げられるがこの徹底ぶりがすごい。具体的には、部品を取る動作ひとつとっても筋肉を上下に動かすよりは水平に動かす方が疲れなくてすむ、1秒でもムダな時間を省くべしといった具合。以前テレビでトヨタ工場内の様子の映像を見たが、従業員たちはまったく身動きができないような部品ばかりを集めたボックスのような場所で窮屈に手を動かしていた。このトヨタイズムは今や一部の地方自治体にまで取り入れられているという。利益を生みだすのが究極の目的である企業体とはいえここまでくれば原理主義の領域。トヨタは人を育てる? どんな人間ができあがることだろう? (■了)

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コメント

オススメ出来るのは藤本隆宏著「ものづくり経営学」です。アマゾンでは高評価でしたけど…

投稿: バラ砂糖 | 2008年9月 7日 (日) 17時22分

工場運営に関しては良い事が描いてありましたが、一番大切なことが抜けております。

『お客様』の顔が一度として出てきません。

無理・無駄を省いて、原価100円で高級乗用車が造れたとしても、それを買ってくれるお客様がいなければ話になりません。お客様に買ってもらうまでの営業マンの苦労が全く描かれておりません。

従って評価は最低ランクです。

投稿: | 2008年12月 9日 (火) 07時49分

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