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個人情報保護法案に断固反対する!

●月刊「記録」2001年6月号掲載記事

●取材・本文/本誌編集長

 当初今年4月にも成立かとみられていた個人情報保護法案は、政局の混乱などで、いまだ成立していない。しかし政府が法案を引っ込めるという話は聞いていない。このままでは遅かれ早かれ、国会に上程され、多くの政府提出法案と同様に可決してしまうだろう。そんなことは断じて許せない。ここでは、あまり論じられてこなかった小誌のようなミニコミの立場から、絶対反対のわけを記す。
 これまで論じられてきた問題点は、同法案が「基本原則」として「個人情報は、利用の目的が明確にされるとともに、目的の達成に必要な範囲内で取り扱う」「個人情報は適法かつ適正な方法で取得する」などを掲げ、「個人の権利を侵害する場合は本人の同意を得る」「訂正を求められたら行う」などを掲げ、違反した場合には主務大臣が勧告・命令を行い、したがわない場合には6ヵ月以下の懲役か罰金30万円以下が科されるというものだ。
 同法案は同時に、これらの規定を適用しない者として「放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関」を挙げてはいるが、私達のような「出版社」は明記されていない。出版社は「その他の報道機関」ではないとか、ある出版社は「その他の報道機関」だが、月刊『記録』など「報道機関」に値しないと判断されれば、たちまち不正に流出した個人データを悪用している業者と同様の扱いを受けるということだ。
 ミニコミの多くは、一般に「報道機関」という言葉から連想されるような立派な設備もなければ、雑誌の装丁もみすぼらしい。読者も少ないから、取り締まられても社会的反響は大雑誌よりはるかに少ない。十分に「最初のいけにえ」にされる資格を備えているといえよう。
 次に、同法案に掲げられるお題目は、まともなジャーナリストならば常に心がけているという点だ。小誌は「弱者・少数者」を編集方針の原点に当てているので、彼らが不利にならないよう、利用の目的を明確にしたり、本人の同意を得るといった行為はしてきた。訂正どころか、取材対象者が社会的不利をこうむりそうだったら、掲載を断念することさえある。国家権力に改めて説教されるなど、片腹痛い。
 問題は、同意が得られなくても書くべきことは書かねばならない場合である。政治家、官僚、大企業の腐敗や不正を知り、報道しなくては、それこそ「報道機関」ではない。要するにこの法案は、そういうことを雑誌は書くな、書きたければ疑惑の張本人の同意を得よ、でなければ牢屋行きだといいたいのだ。
 先述のように、『記録』は、取材対象者が弱い立場の場合、十分に配慮してきた。主に苦情を申し入れてくるのは、先に挙げた政治家、官僚、大企業といった手合いである。むろんそれらを批判する場合も、相手側への取材は原則として申し込む。その上で書くべきことと判断すれば書く。
 ミニコミ独自の問題は他にもある。マスコミと違い、政治家、官僚、大企業といった批判対象よりもはるかに規模も財力も小さいので、彼らが「名誉毀損」だと小誌に圧力をかけてくると正直つらい。裁判になれば多大の費用と時間がかかる。これはミニコミの存続どころか、会社の存続をも危うくする。それを承知で「警告」などという文書を送りつけてくるのだ。よくマスコミが人権を侵害するという話を聞くし、それ自体は十分に考えなければならない問題だが、その裏に、ミニコミが発言できなくなっているという事態があるのを知ってほしい。
 仮に民事裁判になったとしよう。それこそ私達は「個人情報保護」のために、相手方が聞きたがる情報源を秘匿する。ところがこの国の判例では、民事訴訟において「情報源の秘匿」を真実を立証する程度を緩和する条件として消極的にしか認めない。したがって「情報源の秘匿」を守って敗訴するか、情報源を暴露して勝利の道筋を描くかの二者択一を迫られる。本当に個人情報を保護したいのならば、まず、「情報源の秘匿」を公的に認めるのが先である。やっていることが逆なのだ。
 まだある。それでも民事の名誉毀損では免責要件として「目的が専ら公益を図ることにあった場合」があった。ところが個人情報保護法は「公人」にも適用すると解釈される。これでは何も書けなくなってしまう。
 それでも、まだ『記録』は、「我こそは『その他の報道機関』だ」と主張することもできよう。だが、フリーのライターは適用除外からはずされている。これこそ同法案の決定的な悪である。多くのフリーライターは、自腹を切って取材現場を周り、記事を書いては発表の場を探している。近年の出版不況で、とくに若手のライターは作品を発表する場が減少している上、単行本にしてもあまり売れない状況が続いている。生活苦を抱えるライターが数多くいることを私は知っている。それでも彼らが現場に向かうのは、青臭いほど「社会正義」の実現に貢献したいと願っているからだ。それを主務大臣の監督下に置き、いうことを聞かなければ懲役刑が待っているというのでは、もはや彼らに明日はない。
 個人情報保護の美名に隠れて、途方もない言論弾圧が始まろうとしている。ミニコミとはいえ、小誌も黙ってはいられない。私にできることは何でもするつもりだ。

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