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それで会社は変わったか/第2回 まだら模様のカジュアルデー

●月刊「記録」2000年3月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部

■独創性を重んじる社風から生まれた

  『なぜ会社は変われないのか』(日本経済新聞社)という本が売れている。社内変革をうたったこの本は、2つの続編を併せて30万部以上の売れ行きだという。
 このベストセラーは、肩書きを外し社員同士が本音で話し合えように勧める。今までの社内改革のように、トップダウン方式を採用していない、かなり斬新な改革方法が紹介されている。しかし「社内の風通しを良くしようとする改革」というこのフレーズ、どこかで聞いたことがないだろうか? 
 円高不況以降、日本企業における組織の硬直化が問題になり続け、いくつかの改革プランが各企業で実行されてきた。先月紹介した「さんづけ運動」などは、その典型だろう。そして90年代中頃から大いに注目を集め始めたのが、カジュアルデーであった。
 カジュアルデーは、シリコンバレーを中心とした米国西海岸のコンピュータソフト会社から始まったといわれる。独創性を重んじる社風のなかで、若手社員がラフな服装で出社するようになった。こうした企業が業績を伸ばすにつれ、自由な服装も注目を浴びた。その結果、米国の大企業が「カジュアル・フライデー」と名づけ、週一回、ネクタイを外してカジュアルな服装で出勤する日を設けることになったのである。
 カジュアルデーが、日本に上陸したのは80年代末であった。88年2月にはカーオーディオのクラリオン、同年6月には北陸ジャスコで導入されている。だがカジュアルデーが多くの企業で取り入れられ、その効果が注目をあびるようになったのは、やはり90年に入ってからだろう。
 とくに94年3月、綿紡績の老舗であるクラボウのカジュアルデー導入は、大きく報道された。新しい綿素材の開発に合わせての導入が、話題にもなったからだ。この後、メンズ用カジュアルウェアへの参入を企てる繊維業界が、次々とカジュアルデーを導入していく。つまりカジュアルデーが、企業改革とともに販売促進の一環ともなったのである。
 導入当時の状況について、クラボウの広報部は次のように語る。
  「時代の閉塞感を打破する意識改革として、また高級綿素材を使ったアパレル製品の販売促進の意味もありカジュアルデーを導入しました。当時、業績が好転したことを憶えています」
 こうした一部総合商社を含む繊維業界のカジュアルデーを別とすれば、やはり導入した多くの企業の第一目標は、社内改革であった。

■ネクタイを締めた人に会いたい

 例えば、93年7月に導入したアマチュア無線機メーカーの大手、八重洲無線は、同年5月に社長となった長谷川淳氏の発案でカジュアルデーを開始。「いつもと違った視点から日常の仕事を見つめ直すことで、ふだんは気づかなかった部分が見えてくることもあるだろう」(『日経新聞』93年7月28日)と、カジュアルデーの効果に、新社長も期待を寄せた。
 また97年8月より都市銀行ではじめてカジュアルデーを導入したさくら銀行は、「従来の枠組みにとらわれず、新たに創造する楽しさを体得してもらうために導入した」と、広報部が導入の目的を教えてくれた。
 これだけではない。新聞報道によれば、雪印乳業は自分自身で作った殻を破るよう、思いを込めて導入したという。日本IBMは「柔軟な発想で製品の企画や販売にあたれる」ために、森永製菓は「自由な発想と行動の変革」のための導入である。
 では現在、カジュアルデーはどれほど社内に定着し、期待した効果が上がったのだろうか。実は、こうした質問には肯定的な答えが返ってくる場合が多い。さくら銀行広報は、行員にカジュアルデーが浸透していることを認めたうえで、「明るい職場環境になりました。お客様からも親しみやすいと評判です」と語る。
 伊藤忠商事の広報も、「社員の気分が明るくなったようです。服装から新しいコミュニケーションも生まれたと聞いています。またカジュアルデーを導入するようになってから、会議で発言するようになった社員もいるようですよ」と語る。
 先述したクラボウも「導入後 1年目の社内アンケートでも、『発想の転換に役立つ』、『リラックスできる』などの答えが寄せられております」と、効果を認めている。
 しかし、これが一般的な反応なのだろうか? 週1回のカジュアルデーは、それほど効果を発揮したのだろうか?
 さくら銀行などは、金融機関という制約もあり、服装は原則自由であるもののネクタイ着用である。しかも「清潔で、明るく、機能性のある服装で、なおかつ華美ではなく、お客様に不快感を与えない服装」を着るように、行員に指導しているという。
 クラボウでも導入してからしばらくは、Tシャツやスニーカーなどがいき過ぎた服装だと、社内でも問題になった。しかし試行錯誤の期間とし、1年間は静観するように担当者が会社に働きかけた結果、個人がTPOに合わせて判断するようになったという。
 一般的にいわれている通り、横並び意識の強い日本社会では、やはり異質な服装には強いアレルギー反応が起きる。そうなると接客時の服装を中心に、規則ができやすくなるのは当然だ。
 こうした傾向を裏付ける資料もある。94年7月に『繊研新聞』が行った、東京・大阪の一部上場企業に勤務する20~60歳までの男性社員に対するアンケート(有効回答237人)結果だ。
  「仕事で人と会う時に、どのような服装の人がよいか」という質問に、「スーツを着ている人が好ましい」と答えた人が、73・8%。「ジャケットとスラックスでネクタイを締めている人が好ましい」が、19・3%。「ジャケットとスラックスでネクタイを締めていない人が好ましい」が、4・8%。「ジーパンかTシャツかポロシャツが好ましい」と答えた人は、わずか2・1%だった。
 実に93%以上の人が、仕事ではネクタイを締めた人と会いたがっている。これでは社内といえでも、あまり思い切ったことはしにくい。会社にまったくお客が来ないことはありえないからだ。となればカジュアルデーの効果も限られくる。
  「(カジュアルデーが)企業の発展に結びついたかといえば、ちょっと厳しいですね。そもそも定量的に効果があるというものでもないですから」(八重洲無線・総務)という意見は、実のところ多くの企業の実感ではなかろうか。

■数名だけで実施中

 比較的早い時期に週1回のカジュアルデーを導入し、最終的に平日すべてを服装自由にした某企業から、今回の取材を断られた。企業名を出さない約束で取材を進めると、現在、カジュアルデーが転換期を迎えているからだという。
 契約社員やアルバイトなど一部従業員が、厚底サンダルやタンクトップなどで来社することが重なり、完全に自由だった服装のルールを考えているのだという。「いや、まあタンクトップっていいですけど、さすがに仕事はしにくいですね」と、担当者も笑って答えてくれた。
 カジュアルデーが当初の目的通り、社内の風通しを良くしたなら、こういった問題が頻繁に起きてもおかしくない。実際、米国でも、非常に差別的なキャラクターのTシャツを、カジュアルデー初日に着てきた男性が問題になったと、カジュアルデーを特集した米国の男性誌『GQ』(九五年七月号)は報じている。
 単にビジネスマナーがなかった従業員がいただけではないかと、こうした事例を断じるのは易しい。しかし暗黙の社内規定に縛られることなく、社員が自由に考えて行動できたからこそ、このような問題が起こったとはいえまいか。少なくても、カジュアルデーの服装に細かな決まりがあるようなら、こうした問題は起こらない。
 まったく逆の事例もある。
 社風の堅さから、最寄りの駅名に引っかけて「四ッ谷区役所」などとも呼ばれる雪印乳業では、93年から一部部署でカジュアルデーを導入した。しかし、現在まったく定着していない。
  「人事部の人材開発センターの提案で、数年前には営業部門ではない企画スタッフなどの何部署かでは、カジュアルデーが取り入れられました。しかし社内全体には広まりませんでした。
 現在、カジュアルデーを実施しているのは、社内でも数名です」
 いくつかの部署で取り入れられながら、自然と立ち消えになっていった過程を考えると、暗黙の社内規定がカジュアルデーを許さなかったのだろう。それでも数名で実施し続けているのには驚くしかない。

■リトマス試験紙だった

 カジュアルデーを導入した企業については、株価や格付けなども調べてみた。結果的にいえば、カジュアルデーの実施と業績には何の関連性もみつからない。たとえカジュアルデーが社風を変える力があったにしても、そうした変化が業績に現れるのには長い時間が必要となる。簡単に因果関係など見つかるはずもない。
 では、あのカジュアルデーのブームは何だったのだろうか。そして導入した企業に何を残したのだろうか。
 結局、カジュアルデーは一つのリトマス試験紙となったのではないか。会社がどこまで社員の自主性を重んじているのか、そして横並びの意識からどこまで脱しようとしているのかを、目に見える形で示したのである。
 14年前にカジュアルデーを導入したというレイノルズ・エム・シー・タバコの広報では、カジュアルデーが100%浸透した現状を次のように語ってくれた。
  「個々人がジーンズ、スニーカーなど、自分に気持ち良いと思う自由な服装をしています。接客など、外部の方にお会いする予定がある場合は、個々人が常識を持った判断で整えています」
 外資系だけに服装のくだけ方は、他社と比べてかなり進んでいたが、現在問題は一切起こっていないという。毎日ノーネクタイでもかまわない企業が、米国に山ほどあることを考えれば、これもまた驚くべきことではないのかもしれない。
 こうして考えてみると、やはりカジュアルデーが社風を大きく変えることはなかったようだ。しかし上手く活用すれば、社員にとっては福利厚生の一環にはなる。先述した『繊研新聞』のアンケートによれば、「スーツをどう考えていますか?」という質問に、「仕事上仕方なく着ている。できれば着たくない」と答えた人が74・7%もいたからだ。
 社内改革と大上段に構えないで、社員が働きやすい服装で楽しめば良いぐらいの思いで導入すれば、それに見合った効果は見込めるだろう。
 函館信用金庫は、今年2月からカジュアルデーを導入する。金融自由化に伴う社内改革の一環だと思い取材したところ、意外な答えが返ってきた。
  「2000年で、ちょうど良い節目ですから。それで導入することにしたんですよ。まあ、金融機関の堅苦しいイメージを取り払って、お客様との距離を縮めるのが目的ですが」(函館信用金庫・人事)
 肩肘張っていない姿勢に、かえって好感を持った。
 ちなみに従業員の服装は「毎日がカジュアルデー」がずっと前から当然、というのが、わが出版界である。

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