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「メディア弾圧3法案」を許さない!

●月刊「記録」2002年6月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部


 4月25日、ついに個人情報保護法案が衆議院で審議入りした。
 命令に違反した場合、「6ヵ月以下の懲役か30万円以下の罰金」が科される義務規定の適応除外は、「放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関 報道の用に供する目的」と定められた。新聞などで騒がれている通り、フリージャーナリストやノンフィクション作家などは、適除外として明記されていない。まして小誌のようなミニコミやその記者など、法案はおろか法案の不備を指摘した報道でも触れられていない。
 ミニコミ誌は、大マスコミと比べものにならないほど少ない予算と人数で作られている。そんなミニコミ誌が「報道機関」ではないとみなされ、罰則を科されたら被害は甚大だ。
 大企業ならばたかが数十万かもしれない。しかし年間購読料やカンパなどで、どうにか作られているミニコミ誌にとっては、その金が数ヵ月の製作費にあたる可能性さえある。
 また、罰則を科される前に出される「主務大臣から勧告」も大問題に発展する。この勧告に際して、どのような手順が踏まれるのか明らかではないが、官僚とのやりとりや反論のための資料作成などで、ミニコミのただせさえ少ない人員が削られていく。
 大マスコミなら弾圧との「闘い」に割ける人材も金もあろう。また大規模なキャンペーンをはることもできる。しかし例えば小誌が勧告を受けた場合、編集部として筋を通せば、会社としての体力が公権力によって少しずつ奪われていく。圧力が長期に渡れば、経済的な理由により発行を止めることにもなろう。
 共同通信のインタビューで、藤井昭夫内閣審議官は「少しでも報道要素があれば義務規定の適応除外だ」と発言している。しかし、こんな発言をどうやって信じろというのか! 
 1997年に何が起こったのかを、私たちは忘れていない。総会屋への利益供与が問題になったこの年、「総会屋との決別」という名目で、購読していた経済紙誌を証券会社が一斉に打ち切ったのである。しかも警察の指導で。当時、山一證券広報室は、「警察指導を受けた上で、当社としてどうするべきなのか独自に考えました」と小誌の取材に答えている。これだけ明白な言論弾圧が、何の法的根拠もなく実施された。しかもこの言論弾圧を、大手マスコミは報じなかった。ニュースバリューがなかったからである。
 もし個人情報保護法案が成立すれば、権力の刃が向かってくるのは、権力への抵抗意識が強いミニコミやホームページだろう。法律にのっとった処置により、小さなメディアは次々と殺されていく。もちろんニュースバリューのない小メディアの死など、どこも報じない。ひっそりと廃刊である。
 この法律を言論弾圧に利用するのは、なにも公権力だけではない。罰則のない努力規定となっている「基本原則」は報道機関が対象に含まれているため、取材対象者が起こす民事訴訟にも大きな影響を与える。
①利用目的を明確にする
②不正な方法で取得しない
③正確で最新の情報に保つ
④外部に漏洩しない
⑤本人の求めに応じて情報を見せる
 この5つの基本原則をたてに、内部告発者を追う権力者が民事訴訟を起こしたらどうするのか。
 公権力側の人々、あるいは大企業のお偉方にとって、民事裁判はたいした「事件」ではなかろう。豊富な資金の一部を使い、弁護士に任せればよい。しかし弱小メディアにとって、裁判ほど面倒な代物もない。期間は長く、関わりのある記者の労力も増える。弱小出版社にとっては、十分な言論弾圧となる。大マスコミにはジャブのようなパンチでも、体力のない弱小ミニコミ出版には体重の乗ったKOパンチだ。
 ただでさえメディアは、最近、名誉毀損における損害賠償金の増大に痛めつけられている。このデフレのご時世に、5~10倍も金額が跳ね上がっているのだ。
 多くの人は、ムチャクチャな取材をしている記事だけが、名誉毀損で負けると考えるかもしれない。しかし現実は違う。取材者には、取材源の秘匿という大前提がある。危険を冒して告白してくれた人を守るため、告発した当人を裁判所に呼べないケースも多い。しかも事実認定のための証明は、訴えられた側が負う。
 よく言われる通り、アメリカにおける損害賠償金額は高い。しかし事実の証明は原告側にあり、報道する側の権利も幅広く認められている。日本のように報道に怒った権力者が、次々と裁判を起こし、高額の賠償金を手にするわけではない。
 弱者が反撃の手段として裁判を利用することに文句を言うつもりはない。しかし実際にこうした手段を使うのは、情報に通じている権力者なのである。言論弾圧の一環となる裁判への取っ掛かりや、司法判決に悪影響を及ぼす法律など、断固作るべきではない。

■法務省に人権意識などあるものか

 さまざまな報道で流れているように、メディアへの規制は個人情報保護法案だけに終わらない。人権擁護法案、青少年有害社会環境対策基本法案、いわゆる「メディア規制3法案」の残り2法案が、成立を睨んで着々と準備されている。
 この人権擁護法案も、恐ろしい内容である。ストーカー対策として作られた法律を参考にしただけあって、「待ち伏せ、見張り、つきまとい、継続的な電話やファックス」などを、特別人権侵害としている。
 しかし話したくない相手を何度もたずね、説得し、やっと真実は明るみに出てくるものだ。もちろん報道被害に目をつぶれというわけではない。誠意を示し、事実を引き出そうとする行動が、法律によっていきなり人権侵害になる危険性を指摘したいのである。
 以前、国際電話会社の既得権益を取材した際、法律の解釈を巡って、相手の担当者と何度も何度も話し合った。少しずつ資料を集め、その資料を下に取材を進め、さらに矛盾点を探す。そんな繰り返しから、埋もれた事実がやっと見えてきたのだ。
 考えてみてほしい。毎日新聞が報じた「旧石器発掘ねつ造」のスクープは、「待ち伏せ、見張り」の繰り返しによって得られたものである。あのビデオ撮影をストーカーと同様に扱い、弾圧しようなどという法律がまともだろうか? 法案を作った権力者にとっては、毎日新聞取材班のスクープ映像もストーカーの盗作ビデオも、たいした違いはないらしい。正直、呆れるほかない。
 さらに呆れたのは、人権救済のための人権委員会を、法務省の外局に置くことだ。
 96年夏、板橋区にある法務省入国管理局の収容所を、私は毎日訪ねていた。不法滞在で捕まったイラン人、ピルザン・マンスルさんにハンストを止めるよう、説得するためである。
 日本人と結婚し、大手電機メーカーに勤めていた彼は、離婚と同時にビザを失った。しかし母国イランで兵役を拒否し、海外留学を繰り返していたピルザンさんは、帰国するわけにもいかない。もちろん勤めていた会社は、ビザ失効でクビ。数ヵ国語を操る彼が就いた職業は、偽造テレホンカード売りだった。
 寂しかったに違いない。1人異国の地で辛かったはずだ。彼は離婚で全てを失ったのである。そんな彼の心の支えは子犬だった。別れた妻の名前を付けたペットと、いつも一緒に行動していた。ところが入管は、逮捕した彼を収容所に移す際、「犬は近所で育てるから」と騙し、その日のうちに保健所へ叩き込んだのだった。その犬の調査を依頼された私は、犬の死を電報で知らせた。そしてハンストは始まった。
 暑い面会室で見た、日に日に痩せていく体躯と、「僕の妻を殺した」と嘆く彼の表情を忘れることはないだろう。もちろん木で鼻をくくったような態度で犬殺しを説明する入管職員も、記憶から消えない。
 これこそ法務省の本質である。圧力をかけられる側に回らなければ、なかなか見ることのできない法務省の真実だ。こんな機関が人権を擁護するなど、チャンチャラおかしい。人権意識があるなら、まず内部から正すべきだ。
 この3法案は、「メディア規制」などという生やさしいものではない。本誌編集部では、本日より「メディア弾圧3法案」と呼ぶことにする。
 言論弾圧に対抗するには、言論で世論を盛り上げるしかない。多くの人々にアピールできるわけではないが、本誌も絶対反対の声を強めたい。
 これだけ危険な法案にも関わらず、メディアの足並みは揃っていない。『読売新聞』など、個人情報保護法案と人権擁護法案の修正試案まで発表し、法案成立のアシストをする始末である。
 だからこそ本誌は、各団体の反対声明を一挙に掲載する。反対の声を1つにして、より大きな反対のうねりを作りたい。そんな祈るような気持で、今回の特集を作った。
 もう1度、言おう。
 小誌、いや当社の存続の危機にもつながりかねない「メディア弾圧3法案」を、私たちはけっして許さない!(■了)

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