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気分だけは『深夜特急』―あるがままのシンガポール―

●月刊「記録」2004年11月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部

 諸事情により、立て続けにシンガポールを訪ねざるを得なくなった。半年で3回。正直、多すぎます……。靖国神社の分社でもあれば旅のついでに取材でもしてくるのだが、いかんせんシンガポールに靖国はない。いや、そもそも取材対象になりそうなモノが、少なすぎるのである。
 シンガポールと聞いて何を思い出すだろうか?
 高級ホテルの乱立する街、あるいは買い物天国の観光地のイメージだろうか。
 たしかにシンガポールの中心部には、高級ホテルが並んでいる。村上龍の小説にも登場するラッフルズ・ホテルやザ・リッツカールトン・ミレニア・シンガポール、ザ・フラトン・シンガポールにシャグリラ・ホテル・シンガポール。どこもシングル1泊で3万円近くする。
 素敵だろうと思う。でも、貧乏ライターの私は、そんなところに泊まる余裕はない。買い物もしかりだ。
 仕方ない。見たモノをあるがままに描くしかなかろう。気分だけは、沢木耕太郎の『深夜特急』である。
 MRTという地下鉄に乗り、リトルインディア駅とファーラーパーク駅のどちらかで降りると、そこにリトルインディアが待っている。そうインド人街である。
 通りの店では、サリーの布や金のアクセサリーなどが売っており、独特の匂いが立ち上る。スパイスなのかもしれないが、苦手な人にはキツイ香りかもしれない。
 しかし、このリトルインディアの名物(勝手に名物にしてますが)は、なんといっても人ごみである。
 夜8時にファーラーパーク駅を降り、ムスタファセンターというスーパーに向かっていって歩いていくと、センター前に黒山の人だかりができているではないか。最初、辺りが暗くよく見えなかったが、近づいていくにつれ人だかりはすべてインド系だとわかった。どこからどうやったらこれだけの人たちが……と思わせるほどの人数だ。
 有名神社の元旦や、お盆の原宿竹下通りを想像してもらえばいいかもしれない。広場を進もうとすれば、肩がガンガン当たる。しかも集まっている人々が何もしていない。ただ集って話しているだけ。だいたい2~3人ずつのグループになっているようだ。
 そもそもムスタファセンターは、ただの激安店である。日本でいうと激安の殿堂ドン・キホーテとダイエーをミックスさせた便利なスーパーいったところか。その前がいきなり集会場になっているのだから、日本人には不思議な光景だ。ショッピングするでもなく、食事するでもない。目的を見いだせない大集団。ちなみに、このよくわからない活気は、シンガポールでもリトルインディアでしかお目にかかれない。ドン・キホーテに集うヤンキーと同じだと考えれば、納得もしやすいのだが……。 見渡す限りのインド人と私。通常なら緊張しそうな場面だが、これまた不思議なことにムスタファセンター前の誰もが私に注意を払っていなかった。なぜか部外者としての扱いを受けなかった。
 インドを満喫しつつセンターに入り、バスタオルやシャンプーなど日用品を買う。
 不思議だ。日本ではあらゆる場所で部外者扱いされるたものだが……。タイ人に間違われることはあっても、インド人には見えない私なのに肌が馴染む。
 日本社会に馴染めない人には、ちょっとお勧めかもしれない。ただし夜にならないと大勢のインド系はいない。昼間はただのスーパーと道。注意してほしい。

■シンガポールに貴乃花が

 さて、夜のシンガポールのお勧めがムスタファセンター前なら、昼のお勧めはハウ・パー・ヴィラ、通称タイガーバームガーデンである。そう、あのメンタームのような薬・タイガーバームをつくった兄弟がこしらえた庭園である。
 かつては入場料を取っていたようだが、私が行ったときには無料開放中であった。それなのに日本人観光客は、まずいない。
 ここの売り物は、なんといっても等身大の人形の数々。しかも全体として何を作りたいのかよくわからないのが特徴だ。おそらく下敷きにあるのは、中国の伝説なのだろう。
 しかし芝生の上で妙にリアルな顔でにらみつける蟹女を見た日にゃ、驚くったらありゃしない。だって蟹の甲羅にいきなり女性の首が生えてるんだよ~!
 あと顔だけ鶏、体が人間の夫婦がけんかしている人形とか。しかも等身大……。
 もっとも印象に残っているのは、170センチほどの自由の女神の像の2~3メートル先にある力士だ。2人のお相撲さんが化粧まわしを巻き、土俵入りの姿で向かい合っている。そして2人の中心にはなぜか台があり、実物より大きなタイガーバームが3~4つ置かれていた。そのうえ向かって右側の力士は、双子山親方つまり初代貴乃花にそっくり。
 シンガポールくんだりで何をしている親方……。
 初代貴乃花の活躍を知らない年齢だけに、私にとっては週刊誌などで騒がれた2代目貴乃花との軋轢や離婚騒動の印象が強い人だが、さすがにタイガーバームに向かって土俵入りはすまい。もしかするとシンガポールではかなり知られた男になっているかもしれないが……。
 さて、このタイガーバームガーデンで唯一、入場料を取るのが地獄巡りである。1シンガポールドル、約70円弱。
 入り口には15センチほどの人の生首がいくつもおいてあり、その様子を横目で見ながら洞窟へ。最初の人形(入場料を払っても、メインは動かない人形なのに変わりなし)は、閻魔大王だ。3メートル以上はあろうかという閻魔様が、こちらを睨み付けている。いや、暗闇の閻魔様はけっこう怖い。
 ここから先は、両脇にひたすら地獄が並ぶ。体を突き刺されている地獄や寒水地獄などなど。ミニチュアだか、照明もきちんと考えてありけっこうリアルなのだ。もっとも気持ち悪かったのは血の池地獄。赤い血の池で何人もの人が苦しみの表情を浮かべている。
 ぎゃー、なんで1ドルも払ってこんなもの見せるんだ?? 日本人観光客がいないのも当然だろう。
 しかし中国系の客は、けっこう展示物に見入っている。私の後ろには、地元の人らしい10~15人の中国系が見学していた。
 なぜ???
 これは帰国してから調べたことだが、そもそもこの地獄は中国風のもらしい。中国の地獄は、日本のように、ずーっと長い期間放り込まれるわけではない。浄化のプロセス、生まれ変わりの場所とし地獄があるらしいのだ。たしかに地獄の巡りの最後のミニチュアは、老婆から水をもらって更正する場面となっていた。
 つまりこの地獄巡りは、残忍さを売り物にした見せ物ではなかったのだ。宗教的バックボーンがあれば、浄化プロセスとして楽しめるらしい。西洋の宗教画でも、貼り付けにされたキリストの絵も多い。しかし残忍だという批判を聞いたことはない。
 地獄巡りのリアルさに「ぎゃー!」と叫んでいた私は、異文化への理解が足りぬということだろう。

■プロレス技のオンパレード

 さて、ここまで紹介した観光地(?)がお気に召さない方のために、最後の切り札を紹介したい。
 それはチャイナタウンにあるヒンドゥー寺院「スリ・マリアマン寺院」の道路を挟んだ向いにあるタイ式マッサージだ。
 60分コースで約3500円ほど。私にしてはちょっと高い。しかし日本のマッサージとはかなり違う代物なので、ぜひ試していただきたい。
 まずはマッサージ専用の服に着替える。下はハーフパンツで、上はジンベさん。女性は赤の服だった。
 このタイ式マッサージ、最初はおとなしく足つぼをマッサージされる。かかとや土踏まずが入念に押される。若干痛い個所もあるが、なかなか気持ちよい。ただ足の指を伸ばされたときは、かなり痛かった。もともと足腰が強い方ではないが、小さな悲鳴をあげるほどの激痛だった。
 しかーし、タイ式マッサージの本領は、こんなものでない。脚や腰をもまれているうちに、タイ人らしいお姉さんが、やおら私の膝の後ろに足の裏を当て、一気に引っ張るではないか! いや、そのあたりから、どんどん技は過激になっていく。まさにアクロバティック! 
 仰向けの私の背中に足を入れたと思ったら、やおら膝を立てて腰を伸ばし、さらに腕を引っ張る、引っ張る! 腰から肩までどんどん伸びていくのがわかる。なんだかプロレスごっこのようだ。淀みなく繰り出される技の数々、あらゆる部分を伸ばされ続けて1時間。
 いや、気持ち良かったッス。けど疲れました……。
 ちなみに男性もマッサージを受けられます。隣に、自分よりも大きい男性を小柄で華奢な女性が軽々と持ち上げて、体を引っ張っていたので。
 日本でも受けられるタイ式マッサージを、なぜにシンガポールで? という疑問は解けないが、たまにはマーライオンやハイ・ティーではなく、こういう変わった旅も刺激的でよいのかもしれない。 (■了)

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