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実録! 的屋エリート「極東会」での日々

●月刊「記録」2007年6月号掲載記事

●取材・文/イッセイ遊児

■ここ数ヶ月、暴力団組員の発砲事件が頻発している。4月に起こった長崎市長の銃殺も組から「リストラ」を迫られた暴力団幹部の犯行だった。さらに先日、愛知県の住宅街で家族を人質に立てこもり、警官を射殺した犯人も元暴力員である。4月末には指定暴力団極東会の組合員が「先輩」を射殺し、拳銃を持ったまま町田市にある自室に立て籠もった。この事件の背景には警察の取り締まりによる資金源の減少があるという。
この極東会が仕切る的屋の店員として数ヶ月働いた著者が、実際に見た極東会の現状をリポートする。

 的屋をやるきっかけは、法改正により風俗案内所が警察から目をつけられるようになったからだ。看板までも「指導」されて白黒に変わり、勤めていた池袋の風俗案内所はいよいよ暇となった。飛び抜けた文才もないわけでライター稼業で大もうけともいかず、職探しをした。その一環で、たまたま出会ったのが的屋だった。
「的屋」を広辞苑で引くと「いかがわしい品物を売る商人。→やし(香具師)」と書いてあるが、一般的には祭りや縁日で屋台をだす露天商をいう。よくお好み焼きやフランクフルトを売っている人たちである。
 的屋の求人は、たいがい店先に手書きで「アルバイト募集」などとあるものだが、たまたま見ていたガテン系求人誌に当たり前のように載っていた。
 また、やけに日給がよかったのだ。
 普通、派遣のバイトなどでは日給8000円がいいところだ。ところが的屋のバイトは1万2000円。これに大入りまでつく。現場までの交通費も支給。
 いまどきそんな待遇の仕事も少ない!
 さっそく面接に出かけたら、交通費と称していくばくかの金まで貰った。
 ただ俺が働くことになったO商店は実態のない商店で、極東会の人間を社長とする、不良の集まりだった。不良といっても喧嘩や恐喝をするわけではない。もちろん出店の仕事はきちんとする。ただ、まっとうな感覚があまりない、恥など関係ない、そんなところか。
 ある祭り会場の帰り道、堅気の的屋に質問してみたことがある。
「的屋は仕事柄、車での移動が多いですからね、免許がなければ仕事になりませんね」
 いくらアウトローだと言ったところで、日本で仕事をする以上、法律や世間体から逃れられない。色めがねで見られる分だけ的屋稼業も楽じゃないな、と思いながら口にした質問だった。
 彼は微笑みながら答えた。
「う~ん、半分は免許なんか持ってないっしょ」
 高速道路を走っていた。一瞬ギョッとしてシートベルとをギュッと握った。
「あ、僕は持ってますよ」
 彼は慌ててそう付け加えたのだった。

■極東会に2つグループ!?

 もともとヤクザと的屋は近い関係にある。
 ヤクザに博徒系と的屋系の2つが大きな主軸があるのは、その証拠だろう。その的屋系で有名なのが浅草の某団体と、俺の勤務先の社長が所属する池袋の極東会である。
 町田の事件で一躍脚光を浴びた池袋極東会は指定暴力団として認定されている。ならば極東会の的屋がすべてヤクザかというと、ここらへんは多少違うようだ。
 極東会に所属する「上司」によれば、「暴力団の極東会と名門的屋の極東会は違うんだぁー!」ということらしい。もともと極東会は的屋組織として結成されたものだ。ただ組織が膨らむにつれて博徒が増え、彼らの暴力沙汰によって指定暴力団となってしまったと「上司」は説明した。
 たしかに極東会の的屋は、その道では超名門。現在でも的屋になるなら極東会に入るのが最も近道と言われるほどである。そのプライドが暴力団と一緒にするな、という思いを生むのであろう。
「極東会は構成員2000人、準構成員が1500人。で、的屋が2000人ぐらい。だから暴力団の極東会と、的屋の極東会は組員数では互角だ」
 そう語る上司の目つきは尋常じゃなく鋭かったが……。
 俺の仕事は子供を狙った商売、寝かせたパチンコのようなスマートボールとくじ引きだった。
「金を残すなら粉ものを」
 仕事場の責任者はそう言った。粉ものとは小麦粉を使うたこ焼き屋などを指す。ただ労力がかかるそうで、俺が所属したグループはくじ引きをやっているのだという。
 さて、的屋の仕事だが、元来ものくさ者のヤクザがやる商売だけに、祭りや縁日以外の仕事は少ない。平日はほとんど仕事がなく、ただブラブラしている人間が多い。
 また的屋の仕事は季節によって多忙期も変わり、冬は暇で夏は忙しい。フリーライターもいつ忙しくなるか分からないので、できるだけ貯蓄をして、暇な時期に備えている人も少なくないが、的屋も冬は赤字になるのが常だという。つまり、平日に仕事がない上に、冬は仕事に出ても赤字で終わる。それを夏で一気に挽回する。冬の赤字分を帳消しにして、年間売り上げを黒字に変えるわけだ。
 もちろん縁日だからといって、だれでも店をだせるわけではない。場所を取り仕切る親方がいる。出店の場所は利権であり、その親分に顔が利かなければ出店はかなわないのである。出店料は関東で1店舗につき1日1万が相場で、関西では割り高の1万5000円。
 実際のところ親方はヤクザだが、形式上ヤクザ登録はされていない。ヤクザは的屋にもなれない決まりになっているからだ。しかしその売り上げは確かにヤクザ事務所に流れる。かわいらしい子供達の手から渡された小銭の山は、違法行為の資金源として使われる道を辿ることもある。

■ヤクザも静かに暮らしたい?

 どういった形のヤクザ(名門の的屋でも)にしろ、できれば静かに平和に暮らしたいと願っているのは確かなようだ。「同僚」もそんな雰囲気をかもし出していた。
 ただし組織の上層部がそれを許さない。面子が潰れる行為は御法度。また、金銭面での不利益を犯した場合も重罪として組から追われる。つまりヤクザにとっての人生の死を宣告させるわけだ。
 たとえ刑務所に入っても組が面倒を見てくれる「安心感」を選ぶか、なんの後ろ盾もない孤独な人生を選ぶか、ヤクザなりの厳しい選択を迫られているようだ。
 また最近のヤクザ稼業は実入りが悪い。今回の町田の事件の犯人は都営住宅に住んでいたと報じられ、ジャーナリストがテレビで呟いた。
「どうしてヤクザが都営住宅に住めるんだ。それが問題ですな」
 けっこう経済的に追いつめられていたとも報じられていた。ヤクザとして登録をしないヤクザも多い。となれば都営住宅への入居を禁止することはできない。
 とはいえ、いざ騒ぎが起これば身を投げて抗争事件の最前線に向かう。それがヤクザの「本性」でもある。
 学歴も、男も女も、なにも関係ない世界が、確かにそこにはあった。非常に人間くさいところだ。
 家族ぐるみの的屋では、おばあちゃんがゆっくりとした時間の中で仕事をしている。絶望工場、絶望会社とは180度違う世界が広がっている。
 ひとつだけ誤解のないように言っておくと、的屋にも純粋な商売人としての的屋もいる。一応商売の基本は学べるので、アルバイトをするのも悪くない。
 俺は仕事が終わった後、永遠と続く遊びに堪えられなくて仕事を辞めたが、今の日本では、当たり前のアルバイトをするよりも、的屋のほうがずっと気楽で、金も儲かる。あとはアルバイトをする会社を、きちんと確かめてからやるならば、なんの問題もない、たぶん。 (■了)

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