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政治の暴走を止められない最高裁

●月刊「記録」2006年8月号掲載記事

●取材・文/大畑太郎

 最高裁判所から調書が届いた。

第1 主文
 1 本件上告を棄却する。
 2 上告費用は上告人の負担とする。

第2 理由
民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。

 本誌06年3月号でお伝えした昨年9月の衆議院選挙の無効訴訟に対する最高裁の判断である。裁判所の窓口まで出向いて上告手続きし、上告理由書などを作成し、数万もの上告費用を支払った結果がA4の書類1枚。その門前払いの理由が上記の通りだという。簡単に書けば「憲法判断する事例じゃないから」ということだ。怒りを通り越して呆れた。
 95年8月8日郵政民営化法案が参院で否決されると、小泉純一郎首相は衆議院で採決することなく衆議院を解散した。憲法59条2項に定められた通り衆議院に差し戻し、3分の2以上の賛成が得られないことを確認し、同3項に定められた両院協議会を開催して初めて議会を解散できるというのにである。こうした解散権の乱用に対して、私を含む7人が4つのグループで裁判を起こしたのである。
 選挙無効訴訟の決まりによって高裁から始まった裁判は全員が敗訴であった。ただし、どの判決も「憲法判断する問題ではない」などとは断じていない。衆院の解散は政治性の高い行為だから裁判所の審査権が及ばないという60年の最高裁判決があるので、ちょっと判断できないんです、というような判決だった(解読困難な裁判用語を判決文から引用すれば、「本件解散が原告の主張する憲法の条項を手続を踏まないで行われた憲法違反のものであるか否かについては司法審査の範囲外の事項に属するものというべきであり」となる。正直、さっぱりわからん!)
 グループの1人である小山宏明氏が原告となった大阪高裁判決にいたっては、「なるほど、法案否決の後に、必ず憲法59条2、3項の手続きを踏まなければ衆議院を解散することができないかどうかは、一つの法的問題であり、法的判断の対象となるのは疑いないところである」とまで書いている。ところが、この判決を受けて上告した小川氏のところにも、上記とまったく同じような調書が届き門前払いとなった。
 大阪高裁の判決文の「当裁判所の判断」という文章をいくら読み直しても、憲法以外の法律が見あたらない。憲法76条1項、憲法81、憲法59条2、3項。それが書いてある法律のすべてである。もちろん上告理由書で、わざわざ法令違反を主張するはずもない。憲法問題ではないと門前払いする最高裁の「伝統芸」に、どうしたら引っかからないかを考えるのは上告の「常識」だからだ。
 この状況で、どうやったら「その実質が単なる法令違反を主張するものであって」という文言が出てくるのか不思議でしょうがない。同じような訴えだから日付だけ変えて同じ書面を送っておけば問題ない、といわんばかりの態度だ。
 何も私は選挙の無効を裁判所に認めてほしかったわけではない。法律にのっとり、きちんと話し合い、採決をへて決定していくという議会制民主主義の原則を確認し、強権的な衆議院解散が二度と起こらないような歯止めを司法に示してもらいたかっただけなのだ。
 小泉首相は解散後の記者会見で「今回の解散は郵政解散であります。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、これをはっきりと国民の皆様に問いたいと思います」と語った。つまり参院での法案否決に集まった国民の注目を利用し、そのまま郵政問題だけを選挙の争点にしたのである。
 このような手法は民主主義を危うくする。さして重要ではない1点に争点を絞り、そこで示された賛成票をバックに政治を動かすなど許されない。実際、民意は郵政にしか賛成を示していないのに、高齢者の医療費負担増が先の国会で決定した。
 絞った政策に対する国民投票に個人の信任を盛り込むことで独裁者が誕生した例は少なくない。ナポレオン皇帝も投票で選ばれているのだ。このような危険な芽を摘むべく起こした裁判に、司法が憲法判断すら行わず逃げ回る。この状況をどうすればいいのか!
「憲法的な判断はオープンに、数多くやるほうがいい。憲法判断を避け続けていると、世間の人のイライラが高じて憲法裁判所をつくれ、ということになる」と亀山継夫前最高裁判事が『朝日新聞』(04年5月7日)で語っている。まったく同感だ。政府と検察への気遣いに終始する暗黒司法の姿勢にはウンザリである。(■了)

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