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親学を検証する。

●月刊「記録」2007年7月号掲載記事

●取材・文/本誌編集部


 教育再生会議の第2次報告から省かれた親学。「子守歌を聞かせて母乳で育児をしろ」だの、「授乳中にテレビをつけるな」だの、「早寝早起きをして、子どもに朝ごはんをたべさせろ」だの、よけいなお世話としか言いようのない内容ばかり。
 日本中で反対の声があがるのも当然と思っていたら、毎日新聞社が行った調査によれば、賛成47%、反対44%と数字に大差なし。20代にいたっては、賛成68%、反対28%で賛成の圧勝。30代、60代、70代以上も賛成が反対を上回ったという。
 賛成が多いのは、40代と50代だけ。それも約4割が賛成で、約5割が反対という結果だった。
 新聞などでは反対が強くて第2次報告への掲載が見送られたと報じていたのだが、どうも実際の「世論」と温度差があるようだ。メディアの片隅にいる編集部員としては、個人の生活に政府が口を出してくるなど大問題だと感じてしまうのだが……。

 というわけで、実際に子育てを担う女性に、親学についてどう思うのかを聞いてみた。
 まず露骨に不快を示したのが、0歳になる子を持つ30代の女性Kさん。
「そんなの余計なお世話だよ、ほんと。子育てなんてしたことない人が決めたんじゃない」とバッサリ。「理想的かもしれないけれど、そんなことできるはずがないよ」とのことだった。
 例えば「テレビを見ながらの授乳」については、「そんなときだってあるよ」と答えてくれた。3時間おきに起こされ、30分は授乳やおむつ替えに動かなくちゃいけない。自宅から出ることもままらず、ストレス解消は食べることとテレビを見ることぐらい。しかも慢性的な寝不足で、あかちゃんが寝ているときは一緒に寝ていることが多いとなれば、「テレビを見るのなんて授乳中ぐらいしかないじゃん」ということになる。
「PTAに父親も参加」にいたっては、怒る気にもならないといったように鼻で笑った。
「私と同世代のお母さんの旦那さんって、働き盛りでしょう。この御時世にPTAに出られるようじゃ、その会社危ないって。経済的に不安だからっていう理由で働いているお母さんも少なくないんだから。
 生活に余裕のある、暇な人が決めたんじゃないの。世の中もっと切実です」
 たしかに彼女の旦那さんは忙しいらしい。会社に泊まり込んで仕事をする日も少なくないという。そのような状況で子育てを続ける女性にとって、「親学」など腹ただしい以外の何ものでもないのだ。
 彼女は最後に言った。「『親子で演劇などの芸術を鑑賞』なんて、いつ?って感じ。私なんて妊娠中に、『最後』だと思ってオペラを観に行ったんだから……」
 しかし同じ子育て中といっても、40代ともなると若干風向きが変わる。
 現在2歳の子を持ち、保育園で働いていた経験を持つOさんは「今の若いお母さんには必要じゃない」と賛成理由を口にした。
「保育園で働いていたときも感じたけれど、今の若いお母さんはヒドイもん。親学で取り上げたことは、どれも当たり前のこと。でも、それが正しいと知らないお母さんもいっぱいいるから、決めてあげれば若いお母さんも安心なんじゃないかな」
 ちなみに彼女は「テレビを見ながら授乳したこと」などないという。「早寝早起き」も、きちんと子どもをしつけて生活のリズムをつければいいだけのこと。「眠らないようなら昼間に子どもを遊ばせればいいし」と語ってくれた。
 経済的にも精神的も余裕のある専業主婦の彼女にとって、「親学」は当たり前だから自分には必要ない。ただしジェネレーションギャップを感じる若いお母さんには必要との立場のようだ。
 同じ40代でも子育てをしている状況により、かなり答えが変わりそうだが、「わけわからん若い親に規範を教えなきゃ」という思いは、親学をぶちあげた教育再生会議の面々と同じ感性のようだ。
 では、毎日新聞のアンケート調査で圧倒的に賛成した20代は、どのように考えているのか。独身の女性に話を聞いてみた。
 20代Oさんの第一声は「親の世代がやってきたことだし、ごく当たり前のことじゃないかな。私も母乳で育てたいし」だった。ただ、これは子育てを他人事として考えたときだ。共働きや授乳で胸が垂れることを考えると、「ミルクにするかも」と意見が変わった。
 もう1人の20代Sさんは「親学はモデルハウスみたいで、個人的には気持ち悪い」と語る。彼女にとっては理想的すぎて生活感のない指針だという。
「私たちの子どもの頃は酒鬼薔薇事件とかがあって、まっとうな子育てが大切だとすり込まれているように思います。だから逆に子どもを持つのが怖いとも感じますけど。一方で子育てはロハスみたいに素敵で賢いというイメージもありますね」とも。
 心の奥底では、親学の求める「まっとうな子育て」に憧れてしまう部分があるという。その意味では「同世代がこの指針に賛成するのも分かる」と話してくれた。
 こうやって話を聞くと、賛成がけっこう多かった理由もわかる。下の世代に向けて、あるいは憧れとして「親学」をとらえれば、賛成の人数が多くなるのだ。これは図らずも教育再生会議のメンバーの姿勢と重なる。
 バタバタと忙しく、もう1週間近く自宅に帰っていないわたしから見れば、父親のPTA参加など絵空事でしかない。だったら時間をくれと言いたくなる。
 今回感じたのは、現実を知らない人々が教育を審議し、同じく現実を知らない人が賛成する不気味さだ。「モデルハウス」ばかり建てても人が住めないことを、教育会議のメンバーも認識すべきだろう。(■了)

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