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2000年ピカチューはカラーで見られない?/―ゲームボーイ・カラーが売っていない―

●月刊「記録」2000年3月号掲載記事

●取材・本文/本誌編集部

■ゲームボーイカラーが欲しいの

 徹夜の仕事を終え、やっと布団にもぐり込んだ朝、一時間もしないうちに携帯電話が鳴った。ええい、いまいましいと思いつつ電話に出ると、友人の姪のS子ちゃんであった。初々しいセーラー服姿が脳裏をよぎる。
  「大畑のおじちゃん! お願いがあるの! ゲームボーイカラー見つけてほしいの」
 おじちゃんと呼ばれるのはつねづね不満だが、中学生の彼女からみれば仕方がない。以前、あるゲームソフトが品薄で手に入りづらくなっていたところを、街中を取材かたがた見つけ出してあげたことがある。その実績を見込まれての再びの「お願い」なのだろう。きっと大畑のおじちゃんのことをスーパーマンかなにかと思っているのに違いない。
 安眠を邪魔されて頭にもきたが、かわいいS子ちゃんの頼みであれば仕方がない。どうせ街中を一日まわれば今回も見つかるだろう。と、非常に安易な気持ちでOKした。「おじちゃんに任せとけ!」と、寝ぼけ頭で。それがことの始まりだった。
 さて、コンピュータやゲーム機を買うなら東京は秋葉原である。なによりショップの数が多い。隣の店、隣の店へと順々にめぐればそのうち見つけ出せるだろう。私は、メインストリートの中央通りで、ゲーム機を扱っている店を片端から訪ねていった。
 ところがである。
  「品切れです。二~三週間に1回、せいぜい10台ぐらい入ってくるだけですよ。入ってきても1日で売り切れます」(ソフマップ一三号店)、「ないんですよねえ。先週はけっこう入荷台数が多くて、3~4日は店にもあったけれど、10台ぐらいだと1日ももたないんですよ。今週も入荷するとは思いますけれど、詳しい日程はわかりません」(ヤマギワソフト)。なるほど、たしかにゲームボーイカラーは見つけにくいのであった。電気ショップ・ツクモにいたっては、「いつ入るかずーっとわからないんです。今年に入って一度も見ていないんですから」と店員が嘆きの声をあげた。         
 その後も各ショップをまわったが、店員から聞く話はお寒いものばかり。比較的頻繁に入荷していると思われるラオックスゲーム館でさえ、一週間~10日ごとに30~40台程度だという。

■入荷数が10倍の店がある…

 なぜこれほど品薄になってしまったのか?
 ゲームボーイカラーは1998年月末に任天堂から発売された。ショップの店員によれば発売当初は商品がダブついていたという。状況が一変したのは、昨年11月に同社より「ポケットモンスター金」と「ポケットモンスター銀」という二つのゲームソフトが発売されてからである。
 これらは、ご存じ「ピカチュー」のキャラクターが米国でも大フィーバーしたゲームソフト「ポケットモンスター赤」と「ポケットモンスター青」の後続ソフトである。カラー対応になったゲーム「ポケモン金・銀」を動かすために、ポケモンファンが一斉にゲームボーイカラーを手に入れようと動き出した。結果的に品薄が生じる。2月14日現在でも店頭でみつけるのは、ほとんど不可能に近い状況だ。
 しかも調べてみると、ゲームボーイカラーの置き引きや、小学生からカツアゲする輩まで出てきていることがわかった。いやいや品薄は、かなり深刻なのであった。
 それではと、任天堂広報室に品薄の状況を訊ねてみた。こちらは「品薄の状況はかなり改善していると思います。ただお客様の多い店舗では、すぐに売り切れてしまいますので」との答え。
 そうなのか? 客足が多すぎる秋葉原を狙ったのが間違いだったのか? と、客が少ないと思われる東京の郊外にあるおもちゃ屋にも足を運んでみた。しかしやはりここでも軒並み品切れ……。
  「一週間に一度ぐらいは入荷するんですが、数が少なくて数台なんですよ。だからすぐに売り切れちゃいます」(長崎屋・武蔵小金井店)、「最近、やっと10台ぐらい入るようになりましたが、12月からお客様の御予約を受け付けており、まだ20人近く予約が残っている状況です」(丸井・国分寺店)と、秋葉原よりますます事態は悲惨である。
 客は少ないかもしれないが、入荷台数はさらに少なかったのだ。これでは入手は難しくて当たり前。
 それならばと、知り合いのおもちゃバイヤーに電話をかけ、ゲームボーイカラーの入手方法を聞いてみた。
  「年末に比べるとねえ、少しは改善されたけれど、今も品薄だからな~。まめに店をまわるしかないかな。でもね。任天堂の場合、データ店と呼ばれる店への入荷は多いんだ。同じまわるなら、データ店のほうが入手できる可能性は高いかも」
 このバイヤーによれば、業界には売上個数や発売ソフトの予約状況などを随時メーカーに報告しているデータ店がある。データは、メーカーによってマーケティングなどに活用されているとのことだ。
 さっそくバイヤーにデータ店はどこかを聞き出し、指定された店に出向いてみた。そしてあまりの違いに驚いた。
 例えば、さくらやホビー館(新宿東口)だ。ここでは週に一度の入荷ではあるが、入荷量が格段に違うのである。2月13日には150~60台を入荷して売り切ったという。もう一店、データ店であると指定された小田急百貨店(新宿店)でも、同じく2月13日に100台弱ものゲームボーイカラーを入荷し完売している。
 秋葉原の多くの店と比べてこの入荷量の違いは驚きである。もっとも、どちらの店もすでに完売しており、買えなかったことに変わりはない。
 一方、念のためまわったヨドバシカメラ新宿東口店や小田急以外の百貨店では、秋葉原と似たり寄ったりの状況であった。全店が一斉に入荷した2月13日に限っても、ヨドバシカメラが10台、伊勢丹が20台、高島屋が20台、京王百貨店が10台と、小田急百貨店の入荷数の5分の1、10分の1なのであった。
 これだけ入荷量が違うなら、はじめから入荷日を調べて小田急百貨店とさくらやに直行すればよかったではないか。それにしても、こんなに入荷量に差があるなんて普通の消費者は知らないだろう。だが考えてみれば、小売りへ商品が卸される日は直前になってわかるそうだから、消費者が事前に入荷日を調べること自体が不可能だった。
 ゲーム機探しが徒労に終わったことへの逆恨み混じりで、入荷数の偏りについて、任天堂広報室に説明を求めた。
  「問屋からの入荷数が店によって差があるのは当然だと思います。お得意先には多く入れることもありますから。ただし変な形で(店への)入荷数に差をつけるようなことは、もちろんしておりません」
 そりゃそうだ。どの店に何台入荷しようとメーカーの自由ではある。売上個数が随時報告されるデータ店のほうが、需要にみあった商品の入荷もしやすいだろう。しかし隣り合うデパートで入荷量に10倍もの差があることなど消費者は知らない。消費者が血まなこになって商品を探している時期に、ここまで入荷量に偏りがあるのが、なんだか解せない。いや、どっちにしても手に入らないのだから同じことか。いずれにしても私はこの日、ゲームボーイカラーを手に入れられなかった。 

■インターネットでは値段高騰

 店で買えないならインターネットではどうだろう。最近、インターネットではフリーマーケットばやりであるという。きっと何台かは出ているはずだ。さっそく調べてみると、出ていた出ていた。やはり出品されていた。しかもかなりの数である。そして価格は高騰している。メーカー希望価格6800円の商品が、中古でも8000円の値をつけている。
 2月中旬の現在でも、新品ともなれば8000円台中盤で取り引きされている。どうやら新品のゲームボーイカラーを標準価格で買いつけ、プレミアつきの値段で売りさばこうする輩が大勢出ているらしい。こういう奴がいるから品薄のモノがよけいに品薄になるのだ。そもそも6800円の商品を2000円も上乗せして買わせようなど、こっちの弱いところを突いたもうけ方が気にくわない。
 頭に血をのぼらせつつネットサーフィンをしていると、次に見つけたのは、サンリオが発売している「ハローキティーゲームボーイカラー スペシャルボックス」(一万二八八〇円)だった。同社の人気キャラクターであるキティの絵柄付きのゲームボーイカラーである。これにソフトを付けてセットで売り出したものだ。
 もうこの際、キティ付きでもソフト付きでも仕方がない。S子ちゃんにとって大畑のおじちゃんはスーパーマンなのだ。しかし、サンリオに問い合わせると、
  「98年から発売していたのですが、11月末にお客様からの注文が殺到いたしまして今は在庫がない状態です。もしかしましたら店によっては残っているところもあるかもしれませんが……」(同社広報)と、やっぱりここでも在庫なしだ。1万2880円という高価格にもかかわらず完売とは……。いやはや、ゲームボーイカラーそんなにすごい人気なのか
 これだけの品薄を消費者はどう思っているのだろうか。私のように怒ってはいないのか。街角で話を聞いてみた。
  「日曜日に入る(入荷する)ことが多いから来てみたけどやっぱりないんだ。友達も持っているし、早くやりたいよ」(10歳・男子)
  「子どもにせがまれて探しているんですが、なかなかありませんね。ないものは仕方ありませんけれどねえ」(40歳・会社員)
 結局、丸々一週間近くかけてゲームボーイカラーは入手できなかった。街で取材をしていると、このゲーム機を持っている人からは、やれ画面がきれいだの、野生のポケモンをカラーで見るとかわいいだのと、いかにもうれしそうにさんざん自慢され、そのたびにS子ちゃんの顔が浮かんだ。すまない。大畑のおじちゃんは無力だ……。
  「昨年4月から月間150万台の生産態勢を取り続けており、そろそろ状況も改善すると思います」
 任天堂の広報室は、問い合わせるたびに繰り返すのみ。でも、ないものはないのである。
 任天堂はユーザーに甘えていないか。「ポケモン金」で、ピカチューがしかける「甘える攻撃」は、会社の姿勢の反映か。

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