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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/お手伝い 桜満開 トクベツ

■月刊「記録」2001年5月号掲載記事

○月×日
「典ちゃんはよく一人で飲みに行くよね」と、同僚達からよくいわれる。私もそれは不思議に思う。そういう皆もサケ好きなのに、仲間となら行くが、一人ではまず行かないのだという。
 うーむ、なぜなのか。サケが好きだから行くには違いないのだが、一日が終わり、何も用がなければ、私は一人でも暖簾を潜りたくなってしまう。そう思ったら、すぐ潜る。でも、アル中ではないよ。朝から飲むことはしないし、夜まで我慢できる。いや、我慢などはちっともしていない。別に飲もうとは思わないだけだ。夜勤の時だって、サケのサの字も浮かんでこないわけだから。
 一日を、一人静かに振り返り、明日のことをぼんやりと考えたいと思う。飲み屋でなくてもいいのだが、やっぱり飲み屋のカウンターに腰掛けて、差し出されたおしぼりで鼻の脂を拭きながら、「熱燗」と力強く伝えると、店員さんの「サケ一丁」という「復唱」が店の隅々にまで響き渡る。まるで一日の疲れを吹き飛ばしてくれるかのようだ。
 これでまた一つ、新しい連帯の輪が生まれる、わけはないが、その瞬間に感動しつつ、納得したかのように頭を上下に動かしたりしている自分がいる。どうせ皆飲んでいるのだから仲間じゃないかと思ったりもする。ここで頭を掻きながら照れることはない。「さぁ来い」とデーンと構えていればいいのだ。
 すると、そんな当たり前のことにヨロコビを感じている間もなく、すぐに熱燗が運ばれてくる。「今日はもう、何もしなくてもいいんだ」という安堵感でグビッと一杯。「家に帰って寝るだけだ」という脱力感でグビッ、グビッと杯を重ねると、2つ3つの欠伸と共に、ジワジワと恍惚状態に陥っていくのだ。わかるだろ、たまらないよな。
 あとはもう惰性でトボトボと帰途につくだけとなる。地面を見つめて、「どっからでもかかってこい」とかナントカ呟きながらチンタラ歩く。夜空を見上げて、「バーロー」と弱く吠えてはテクテク歩く。他の店の暖簾を目にしては、「また今度ね」とスタスタ歩く。歩いているうちに酔いがどんどん醒めていく。
 今夜もまた、闇の中を一人彷徨う酔っぱらいオヤジなのである。

○月×日
 実は、最近、府中に足しげく通っているのだ。京王線に乗ってだが、となると、わが社JRを利用するのとはチトわけが違う。京王八王子から府中までの230円の切符を正しく購入するのである。従って「私は純粋な? 客なのだ」と、ヨロコビを感じつつ堂々と乗るのだが、悲しいかな、やはり同業である車掌の放送が気になってしまうのだった。
 これは、マイクの扱い方が悪いからで、「高幡不動、高幡不動です」という、最後の「す」の部分が途切れてしまい、「高幡不動で」で終わっちゃうから、さあ大変。「高幡不動で」何か事故でも起きたのかと、暫し、心配してしまったりするわけですよ。ったくもう。
 で、話はそんなことではなく、なぜ府中に行くかである。私の知り合いが店を出した。今年1月から、念願の飲み屋を府中に開店したのだ。エライなあ。
 で、居心地はいいし、安いしで、よく行くようになった次第なのだ。ま、20人も入れば一杯という小さな店だが(そういっては失礼か…)、この3月でバイトの子が辞めてしまい、何から何まで店長1人でやらなければならない。そんなわけで、少しでも混むとてんてこまいとなる。
 この前なんか私、客として飲んでいたのに、途中から見るに見兼ねて、店員しちゃいましたよ。(もちろんボランティアです)。
 仕事では使わない「いらっしゃいませ」とか、接客六大用語を連発しながら、おしぼり出して、注文とって、お運びから下げまで。店長には、「やれやれ」などと溜息をつきながらも、内心は「なかなか板に付いているではないか」と思い上ったりして、結構面白がって楽しんでいたのでした。
 遙か彼方府中、広大な府中、未知の府中。2001円もあれば気持ちよく酔えるし、府中人にも必ず会える。「2001円府中への旅」。ん!? どこかにあったコピーだが、私は客なのに、手伝えることを秘かに期待して、本日も断固決行するのである。

○月×日
 桜がアレヨあれよと満開になった。例年より1週間から10日も早いのだという。
 東京・高尾間の中央線沿線にも、桜並木は結構あり、毎日のように眺めることができるからとってもハッピーだ。ポカポカ陽気の日中に、ズラリと並んだ淡いピンクを見ていると、やはり心が和み、穏やかな気分になる。
 それにしても、これほど開花が心待ちにされ、人それぞれの思い入れが大きい花は、桜以外にないのではないかと、ふと思った。
 ただ季節の変わり目というよりも、入学・入社や転勤といった、人生でいう節目に丁度よく重なり、生きていく喜びに、文字通り華を添えてくれる。そんな、まさに門出を祝うにふさわしい花だからではないか。
 でも、誰しも順風満帆という人生を送っているとは限らない。それでも、そうした人にも気持ちを奮い起たせ、夢と希望を感じさせてくれるように思うのだが、どうだろう。深い傷を負い、心が重く沈んでいる人にでさえ、春の暖かな木洩れ日と共にすべて平等に、やさしく包み込んでくれるのだから。
 桜は、「皆しあわせになれよ」といっているのかもしれない。
「アー・ユー・ハッピー?」といえば、われらが永ちゃんこと、ビッグ・スター矢沢永吉だが、彼は高校の卒業証明書を破り捨て、故郷の広島から夜汽車で東京へ向かい、なぜか横浜で下車し、そこからロック人生が始まったのだと、「ハッピーをつかみ取れ」と題して、夕刊(日経)に連載されていた。
 突然、桜とは何の脈絡もないことのようだが、永ちゃんの桜の頃の淡い出来事ということで、ま、よろしく!
 しかしながら、「横浜」という車掌のアナウンスを聞いて下りたのかどうか、気になるねぇ…。

○月×日
「花吹雪か…?」。そんなはずはないと、寝ボケ眼で窓の外をよく見ると、なんとビックリ、雪なのであった。桜が満開だというのに真冬並みの寒さだ。自然は時として非情な一面を見せるものだ。何が起きるかわからない今日この頃である。
「3月31日、土曜日、なごり雪、年度末、締め括り、最終日、なんまいだぶ、合掌、うーむ」などと一人ぶつぶつ呟きながらコーヒーを入れ、朝刊をぼんやり眺めていると、今度は一瞬グラッと小さく揺れた。テレビをつけると「6時9分ごろ、関東地方に地震が…」と出ていた。
 思えば、「忘れたころにやってくる」はずの災害が次々と起きた1年だった。有珠山噴火、三宅島噴火、鳥取西部地震、芸予地震と続き、本当に気の毒に思うが、あまりにも目まぐるしくて、何がなんだかわからない今日この頃である。
 国労は大会以降、新三役で関係省庁へあいさつ回りに行き、各政党に解決への要請を行ったそうだが、国労に対する不信があり、解決気運が薄れているということだった。まるで、賞味期限が切れてしまったかのような冷たい反応だが、あとひと踏ん張りなのだから落ち込むことはない。
 それにしても、狂い咲きになごり雪…。そう、世の中全体狂っているのだ。ん? おれか、一番狂っているのは…。

○月×日
 JR青梅線はトクベツなのである。もちろん、私達の仕事のメイン、中央線を基本にした場合だが、数ある他線区の中でも最も密接なつながりがあるからだ。
 例えば、中央線を夫だとすると、青梅線は妻だというように、親なら子、兄なら弟というくらい一心同体だといってよい。ん? なにも、中央線が中年紳士で、青梅線が青いコゾーだとか、どちらが上だの下だのと差別的なことをいっているのではないですよ。風呂上がりにビール、ごはんにみそ汁、食後にお茶と、とにかく切っても切れない関係なわけで、どちらも重要であることに変わりはない。
 前置きが長くなったが、つまり、直通運転(相互乗り入れ)をしているため、ちょっとしたトラブルでも、その影響をもろに受けることになるからだ。従って、常にわが身のことのように気に掛けざるを得ないのである。
 その青梅線が今、大変なことになっている。乗務員は皆「恐くて乗っていられないよ」と口を揃える。そうなのだ。もはや、ひと事ではない。
 3月の下旬頃から走行中の電車への投石が相次ぎ、乗客にケガ人も出た。窓ガラスが割られ、車内からはこぶし大の石も発見されている。場所はいずれも拝島、牛浜、福生辺りだが、警察やJRの厳重な警戒の中、犯人は未だに捕まってはいない。
 悪質な悪戯では済まないが、6件目となった4月1日午後10時過ぎの事件は、ゾッと寒気がするとんでもないものだった。沿線から投げられた石が窓を割っただけではない。車内を貫通して、反対側の窓をも突き破って飛び出したというから驚きだ。約60人の乗客にケガがなかったことは不幸中の幸いだが、本当に人が投げたのかという疑問が湧く。電車の窓は強化ガラスのはずだが、貫通などするものだろうか。なにか機械のような気もするが、人と人の間を擦り抜けるというのも相当な腕前で、「ゴルゴ13」のような的中率ではないか。感心している場合ではない。そんなことをしているお前なんか「マンガ」にもならないクズ野郎だといいたいのだ。誰が褒めるものか。
 一刻も早く犯人を捕まえてほしいが、青梅線に限っては、当分の間トクベツにヘルメットを被って乗ったほうがいい。ホントにそう思う。

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