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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/ひみつ 女性車掌 強風

■月刊「記録」1999年7月号掲載記事

○月×日
「典ちゃん、JRの本出したんだって、オレも買うから題教えてよ」と職場の同僚にいわれた。私は照れながらも「ひみつ、ひみつ」と丁寧に二度も教えたのだが、「題がわかんなきゃ買えないじゃないか」と怒って向こうに行ってしまったのだ。
 まったく、ため息の絶えない日々が続くが、本当に「秘密」なのだからヤレヤレである。しかし、こうしたちょっとした会話でもトラブルの原因になってしまったりする。言動には十分注意しなければならない。
 ところでナント偶然にも、『JRの秘密』は浅田次郎さんの『鉄道員』(ぽっぽや)と同じ定価なのだ。私のような小僧の書いたモノが、大作家が書いた本と同じ値段というのはどうしたことか。しかしよくよく考えてみると、どうせ私のは売れないはずである。もっと高くすべきではなかったのか……。
 私は居ても立ってもいられなくなり、都内の書店まで出かけて行った。私の本が目立つ所に山積みされて、ちっとも売れずに恥ずかしい思いをしているのではないか。それとも、ひっそり隅っこで見向きもされずに淋しい思いをしているのか……。そんな「お前」に今すぐ会いたい。会って「がんばれよ」と励ましてやりたかった。親心とはそういうものだろう。
 本といえばやはり神田の神保町だ。ということで、まずなんといっても有名な三省堂書店へ。しかし山ほどの本の中をいくら探しても「お前」はいない。そして本の間をさまよっているうちにふと思った。私の本は何というジャンルに分類されるのだろうか。新刊コーナーに名のある作家の作品や話題の本でもない、一個人の本が置かれるものだろうか。政治の本でもない。社会だろうか、いや趣味・娯楽か、旅でもないな……。とにかく一階から五階までくまなく探したが見つからなかった。
 めげずに東京堂書店をのぞく。こちらも大型書店だが、やはり新刊コーナーにはない。いったい「お前」はどこにいるんだ。隠れてないで出てこいよ。と、かなりアヤシイ状態で探し求めていると、ナント三階の理工学関係・鉄道という、場違いとも思える所でついに発見したのである。鉄道評論家・川島令三氏の『三大都市圏の鉄道計画はこうだった』という立派な御著書の隣りで、おとなしく三冊も私を待っていたのだった。素直に嬉しかった。「さわっちゃダメ、秘密なんだから。全部私のもの」などとかなり支離滅裂に激情しながら一冊だけ購入した。
 飯田橋駅前の飯田橋書店にも寄った。平積みはされていなかったものの、新刊コーナーに一冊だけ立ててあった。宣伝の意味でもそのままの方がいいかと、少しためらったが、「秘密が知られてはマズイ」などと血迷い、またも買い求めてしまった。
 発売元のある代々木界隈の書店には置いてあるのでは、という推測から立ち寄った金港堂書店では感激してしまった。入口のすぐ横に10数冊の山。力強く10冊購入した。購入した本は、八王子の行きつけの飲み屋のカウンターに置いていただいた。「汚れないように」と店長が一冊ずつビニールに包んでくれた。本屋にあまりないのに、飲み屋にある『JRの秘密』。これも私らしくていいかもしれない。

○月×日
 新人車掌30名の発令があった。学園教育と現場見習いを経て、約二ヶ月後の7月下旬には全員が一本立ちする予定である。
「国労組合員を指導車掌に指定せよ」と申し入れを行うのはいうまでもないが、特筆すべきは、今回女性車掌が1名誕生するということだ。「中央線に女性車掌誕生」という宣伝効果を狙ってのことかもしれないが、4月1日に改正された男女雇用機会均等法の影響もあるのだろう。
 いずれにせよ男職場という車掌の長い歴史に、新たな1ページが加わることは間違いない。しかし職場環境の整備は完全とはいえない。更衣室、トイレ、入浴、寝室など、ちょっと考えただけでもいろいろ問題がありそうである。また、異常時の対応等の労働環境(特に深夜帯)、さらに私達男どもと同じ勤務指定をするのかなど、問題は尽きることがない。
 そして何よりも「セクシャル・ハラスメント」という私達には今まで無縁だった重要な問題がある。女性と一緒に仕事をしたことがない私達にとって、果たして彼女を職場のパートナーとして尊重し合ってやっていけるのだろうか。私はヒジョーに心配でしょうがない。「斎藤は存在そのものがセクハラだ」などというヤツはいないだろうな……。

○月×日
 朝刊を広げたら、なにやら昨日は大変だったようだ。台風並みの強風で、速度規則や運転取り止めの線区が続出したという。わが中央線では、風に舞ったビニールが架線やパンタグラフに付着し、朝と夕方のラッシュ時に2度にわたってストップしたという。満員のまま駅間に80分近く立ち往生した電車もあったと報じられていた。
 まさに大混乱。駅構内は人で溢れ、乗客に詰め寄られる車掌の姿が目に浮かぶが、もちろんお客様も本当にお気の毒である。それにしても、同じ原因で乗客も車掌も困っているのに、どうしていつもお互いがいがみ合ってしまうのだろう……。
 さて、このような場合は速やかに振り替え輸送の手段がとられる。私達車掌は「振り替え輸送を御利用下さい」と何度もアナウンスをするわけだが、私鉄の方へ回っても乗客が殺到して乗車できる状態ではなく、再び長時間待つ結果となる。「急がば回れ」とはいうけれど、どうしてもという人以外はじっと待っているに限ると思うのだが、いかがだろうか。
 とにかく気を取り直し、ぜひまた御利用していただきたい。なにしろJR中央線は南米のハゲタカなのである。いつもコンドル!

○月×日
 夕刊紙「日刊ゲンダイ」に『JRの秘密』の書評が出ていた。初めての経験で私はかなり興奮した。しかし、私は「うんこタレ」にされてしまっている。私がもらしたとはどこにも書いていないのに……。それでも嬉しくて、そりゃもう嬉しくて、「日本ダービー」もロクに検討もできずハズしてしまったほどである。
 その翌日には、文化放送からなんと出演の依頼がきた。首都圏の通勤者を応援する朝の「小西克哉のなんだ?なんだ」という、世の中の「なんだ」を解決していく生放送の番組だそうで、「噂の大人倶楽部」というコーナーにゲストとして出てほしいというのであった。今までのゲストは、菅直人、浅田次郎、後藤田正晴、筒井康隆などなどのソウソウたるメンバーが並んでいる。なんで私なんかに……。
 もちろんお断りした。いつもマイクを握っているからといって、私が一番気にしているナメクジ声をラジオの電波にのせるわけにはいかない。絶対ダメ。私はJRのアナウンスだけで十分なのだ。

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