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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/ギンナン 芋煮会 国労組合歌

■月刊「記録」1999年12月号掲載記事

○月×日
 高尾行き最終電車の乗務だった。時計の針は深夜1時を回っているというのに、車内は座れない人も多く込んでいた。私の疲れた身体は「もう寝るだけだもんねモード」に切り替わる直前で、30分後には訪れるはずの寝室での仮眠を心待ちにしていた。
 ところが、である。すんなりと終わらないのが中央線なのか。国分寺駅に差し掛かり、私は到着監視とドア扱いをするために、進行方向にクルリと向きを変え、何気なく車内に目をやった。そこでビックリ仰天、摩訶不思議、わけの分からない異変に遭遇したのである。ダレもいないのだ!
 ついさっきまで私の目の前(乗務員室前)にいた、大勢の乗客が消えていた。厳密にいえば、シートで眠りこけている数人以外の乗客が、隣の車両(二号車)へ移動してしまったようなのである。
「いったい何ごとか。どうしたんだろう」と思ったそのときに、強烈なニオイが漂ってきた。ものすごくクサイ。すぐにピンときた。このニオイはギンナンだ。しかしギンナンなんてどこにも見当たらない。他に考えられるのはアレしかない。まさかアレなのか。
 二号車寄りに固まっている乗客は、怪訝な顔で私の方をジッと見つめている。私は呆気に取られながらも「まさか、ニオイの元はオレじゃないよな」と、片手が自然に自分の尻をカクニンしてしまった。大丈夫、いくらサケで脳が侵されているにしても、括約筋はまだまだ健在である。
 国分寺に到着し、ドアを開けるやいなや、乗客は小走りに駆けだし、二号車、三号車へと移動していく。シートや床がアレで汚れていてはマズイと、ホームから車内を注視したのだが、異常はない。ふと乗務員室の方を見やると、乗務員室からは死角になっている車両のいちばん隅っこに、小ギレイなどこにでもいるサラリーマン風、推定年齢三九歳が突っ立っていた。誰も見ていないのに、彼は新聞で顔を隠して棒立ちの状態である。もはや彼のズボンに大量のアレが蓄えられているのは明らかであった。が、正面から見た限りでは、ズボンの汚れもなく、足元も何ともない。
 さて、声をかけるべきかと迷いながらも、一応列車を発車させた。「飲み過ぎたのだろうか」「終電だから途中で降りるわけにはいかなかったのか」「どこまで行くのだろう」「大丈夫ですかくらいは言ってあげるべきか」とアレコレ考えつつ、躊躇しているうちに西国分寺を過ぎ、国立に到着すると、推定年齢三九歳のお客さまは小股で歩きながら下車されたのだった。
 私は発車ベルを押しに行きながら、できる限り彼を見ないように努めたのだが、無意識のうちにそちらへ目がいってしまった。「オーマイガ……」スボンのお尻から踵まで、アレの汁でもうベッチョリ。いやはやなんともご愁傷さまであった。
 中央線・深夜の運行事件、これにて完。

○月×日
 天高く馬肥ゆる秋。橙色の電車、中央線・高尾行きと、黄色の電車、総武線・三鷹行きは同時に中野駅を発車した。高円寺、阿佐ヶ谷を過ぎても、先行争いは互いに譲らず、ほぼピッタリと併走している。
「押さえきれない掛かり気味とは違います。さわやかな風を切って、実に気持ちよくマイペースで走っているといった印象を受けます。いいですよ」という声が、どこからともなく聞こえてくる。
「夏を越えて一回り大きくなりましたね。豪快なフットワークから成長が見られます。高尾行きはこのコース得意ですし、まず心配ないでしょう」「ここは上りより下りがいいんですよ。ニンジン畑も見えてきますから……」
 予想通り、高尾行きは荻窪あたりからジワジワと三鷹行きを引き離しにかかった。吉祥寺を過ぎて、最後の直線、残り400メートルの勝負となる。ゴールは三鷹だ。このまま高尾行きが力で逃げ切るのか。三鷹行きが追い上げ、再び並びかけるのか。それとも遙か後方から、特別快速一気の強襲という番狂わせがあるのか。
 闘いは熾烈を極めた。「それ行け、高尾行き! 負けるな、そのままそのまま……」手に汗を握る興奮の一瞬である。結果は、高尾行きが猛追する三鷹行きを一車両差押さえてゴールイン。見事優勝を果たしたのであった。担当車掌は、高尾行きコールがわき起こる三鷹駅ホームを誇らしげに引き上げていった。こうして今日の乗務も無事終了。
 いよいよ今週から10週連続で、中央競馬・秋のGIレース幕開けとなる。私は週末になるとソワソワして馬耳東風状態となってしまう。なにしろ馬券を買わなくても、レースを見ているだけで楽しい。
 ……こう書いておかないと、ドンドン無駄遣いしそうな気がするのだ。

○月×日
 JR連合傘下の鉄産労(東日本鉄道産業労働組合)は、東労組の横暴が目にあまるとして「JR東日本の民主化」を掲げ、職場規律の是正について会社側に申し入れを行っている。内容は、勤務時間中の鉄産労の組合員に対し、東労組役員等が話し合いと称して業務を妨害する行為が発生しているが、職業規則に則り厳正に対処されたい……、といったものだ。
 これには私達も異論なく同感であり、会社側の毅然たる対応を期待する。なにしろ職場はいま、暗く異常としかいいようがない事態となっているのだ。
 ことの発端は、9月に旧鉄労系の組合(JR連合内)が「芋煮会」を開催したところ、何人かの東労組組合員が参加していたことが発覚したということであった。その中にウチの職場の内勤担当である東労組組合員、Nさんが含まれていたことが大問題となった。
 掲示板に張り出された東労組のビラによると、「JR連合解体闘争宣言」という見出しで、「総対話行動」とか「組織破壊攻撃粉砕」という文字が踊っている。Nさんの実名を呼び捨てであげ、「組織破壊者と断定する」「他労組と酒を酌み交わしたことを断じて許すわけにはいかない」というのである。どうやら東労組は「芋煮会」をJR連合による「JR東日本の民主化」宣言の一環として捉えたようだ。
 勤務を終えたNさんに「話し合い」と称し、皆のいる控え室で役員7、8名が取り囲み、対話、いや説得、はたまた恫喝か、とにかく理解に苦しむことを5時間、6時間と延々やる。止めに入る者は誰一人としていない。
「ヒドイですよね。Nさんかわいそうだけど、口を出せばボクもやられる」と、東労組の若い組合員達はヒソヒソ言ってビビっており、管理者すら見て見ぬふりで何もしない。これでは見せしめ、つるし上げ以外のナニモノでもない。「どんなに謝ろうが、土下座をしようが本心ではない。絶対に許さない」というのだから。
 さらに驚いたのは、この「芋煮会」に東労組組合員がコッソリ現れ、スパイさながらにビデオやカメラで参加者の証拠を撮って帰ったということだ。先の「話し合い」を含め、こうした人権侵害ともいえる行為があちこちのJR職場で連日行われている。
 最近では東労組の若い組合員達が、やはり2時間、3時間とやられていた。聞けば、陰で東労組の批判をしたとか、国労の人と仲良くしていたとか……。誰かが「あの人はこうしていました」と役員に密告したりするのだろうか。
 20歳のT君の場合は、なかなか堂々としていて「話し合いならいくらでもするが、何人もで取り囲んで……。しかも話し方が喧嘩腰じゃないですか」とハッキリ言った。すると役員は何も言えず黙りこむのだった。若い人は決して片寄った思想に染まることなく、当たり前の気持ちを忘れないでほしいと強く願う。
 それにしても、労働組合の「闘争宣言」なるものが、労働条件や安全問題に対してではなく、自らの組合員に対してであるかのように感じられるが、まったくもって言語道断で、呆れるほかない。
 何週間かが過ぎ、結局Nさんは東労組を脱退した。というより、正確には脱退させられたととるべきか。Nさん脱退の掲示には「脱退用紙に署名する際、『やめたくない』と意識的に大声を張り上げ、周囲の同情を買うような演出をしてみせた」と出ている。東労組、そりゃあないだろう。
 Nさんは今後、内勤から車掌(乗務員)へ降格させられるという噂も広がっている。何から何まで驚くばかりだが、東労組は会社の人事権まで握っているかのようである。
 私も気がヘンになりそうだ。Nさんガンバレ!! というしかない。

○月×日
 職場の先輩、Fさんの激励送別会が盛大に行われた。
 国労は65歳定年制を要求しているが、JRのいま現在の一般的なケースは、57歳で関連会社への出向となり、60歳誕生日の月末が退職日となっている。
 これについても問題は山積していて、「定年わっはっは」とはいえない状態なのである。まず、現在の景気・雇用をめぐる厳しい動向からも出向先がない。以前ならキヨスクや駅ビルに当たり前のように出向したものだが、どこもかしこも人減らしの真っ最中なのだ。
 しかも、国労に対しては希望職種や希望地を無視したり、通勤不可能な場所や単身赴任をせざるをえない発令など、最後の最後まで組合間差別、いやがらせを行ってくる。結果、「休職コース」選択へと追い込まれたりする事象が多くの職場で発生している。会社にしてみれば早く辞めていただくのがイチバンということだろうか。
 今回のFさんは、中央線車掌として40年近くも歩んでこられた大先輩だ。来月からは「東京ステーション・サービス」という出向先で3年間従事される。長い間の乗務、本当にご苦労さまでした。私達後輩への数限りないご指導、ご鞭撻をありがとうございました。新天地でのご活躍とご健康をお祈り申しあげます。
 一人、また一人と先輩達が職場を去っていくのは実にさみしい。しかし、心から感謝を込めて労をねぎらい、「あとは俺達に任せてくれ」と力強く送りだすしかない。
 最後はいつも決まって国鉄労働組合歌を歌う。皆が輪になりスクラムを組みながら。
「わたくしたちは おれたちは
  国鉄に生きている
 正しいこころと 赤い血の
  かよう手と手を しっかり結び
 国鉄労働組合の その旗の下で
  あしたを信じ 働くものだ
 国鉄労働者」
 皆、すっかり涙ぐんでしまっている。
 真っ暗な帰り道、「10年先、オレが辞めるときには送別会をやってもらえるのだろうか」という笑えない思いがふと脳裏をよぎった。国労の後輩は何人もいない。光陰矢のごとし、周囲にはもう冬間近の気配が漂っていた。

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