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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/斎藤さん お礼 三文字

■月刊「記録」1999年9月号掲載記事

○月×日
 今日は公休で家には私一人。ボケーッとくつろいで(?)いると、指導助役から電話があった。「×日の九七六H乗務中、国立あたりで車内でナイフを振り回している人がいるという通報を受けなかったか」と言うのである。もう二週間ほども前のことだが、そんな記憶はないので「ありません」と答えると、「よく思い出してほしい」と念を押すのだ。ないったらないので、「絶対ナイ」と電話を切った。
 もしそのようなことがあったとすれば、乗務報告書を提出しているはずである。念のため手帳をめくってみると、その日も公休だったのである。「乗務すらしていないではないか。助役のボ……」、まあ間違いは誰にでもある。「よし」としよう。
 この日の手帳には山陽新幹線福岡トンネル内壁崩落と記してあった。重さ200キロものコンクリート塊が走行中の「ひかり号」を直撃し、屋根が大破するという事故が起きた日であった。幸い乗客にけがはなかったが、大量の人を乗せて走る安全な鉄道にあってはならないことである。
 運輸省は直ちにすべての新幹線トンネルについて総点検の指示を出したのだが、JR西日本だけでも「コールドジョイント」と呼ばれる施工不良が2049箇所も見つかったという。
 JR東日本とJR東海は「今のところコールドジョイントは見つかっていない」としているが、トンネルの工法が山陽区間とほぼ同じであることから、「予想を超えた多さ」に驚きと衝撃を受けているようだ。
 突貫工事による手抜かりなのか、コンクリートの耐久性が問題なのか、原因を徹底的に究明し、早急に安全対策を講じなければならないのはいうまでもない。
 私なら何日間か新幹線を「公休」にして一斉に点検すべきだと思うが、このところさまざまな落下事故が後を絶たない。JR西日本では、この他にも新幹線高架橋からコンクリート片落下が相次いでいると連日報道されているし、東京の目黒では、7月6日に首都高から300キロもの鉄製標識が落下し、下の国道を走っていた乗用車に当たって車が大破(運転手は無事)するというニュースもあった。
 さらに、社会問題ともなっている学級崩壊はわが家にもいえることだが、子どもに対する親の「しつけ」の力が落ちた結果だと思うし、先週行われた昇進試験も落ちることが確実なのである。
 このように、落ちるはあまりいい意味で使用されないが、せっかくの公休である。落ちてくるのは雨だけで十分だ。残り少ない梅雨のひとときを楽しんで過ごしたい。

○月×日
『JRの秘密』に感動した、とわざわざ私に会いに来た人がいる。東海道新幹線の車掌をしているJR東海社員・斎藤文昭さん。何の面識もなかったのだが、国労組合員ということである。
 南部線・矢向車掌区の私の仲間が「電話番号勝手に教えちゃったけど、そのうち連絡がいくと思う」という話をしていたのだが、本当に彼から電話がかかってきたのだ。
 鉄道月刊誌『鉄道ファン』8月号の書籍欄に載った本の記事を見て、「こういう内容は国労の人が書かないとつまらないだろうな」と思っていたそうで、神保町の書泉グランデで実際に本を見てみたら、ズバリ国労組合員とあったので即買い求めたのだそうだ。
 ちなみにその紹介記事には「現役であるがゆえに日ごろ言いたくてもいえない車掌の本音を吐露したもので(略)、文章が軽妙でおもしろく(略)」とある。私の仲間はこの「軽妙」を「カルくてみょう」な文章というふうに理解しているのだが……。ま、それでもいいけれど。
 さて電話は「泊まり明けで、今東京駅にいる」ということであった。静岡にお住まいだと聞いたので、お疲れのところ八王子まで来てもらうのも申し訳ないので、結局三鷹で落ち合うことに決め、駅前の喫茶店で上品にコーヒーなどをすすりながら話した。
 彼は、よくここまで書いてくれたという感激を語り、自分も4年前に「身延線・四季彩々」(光村印刷社発行)という写真集を出版したということ、同じ斎藤といういうこともあり、年も近いし自分のことのように嬉しいと喜んでくれた。
 年は私より三つ下だが、私よりずっと大人の風格で落着きがあった。私は「斎藤さんって若いですね」などと言われてテレつつ、互いに「斎藤さん、斎藤さん」とヘンな気分で言い合い、職場のことや「鉄道員」として本を出せたヨロコビを2時間ほど語り合ったのだ。
 私は立派な写真集をいただき、彼が購入してくれた私の本には「国労三鷹車掌区分会・斎藤典雄」などと、またまた「ナメク字」のサインをしてしまった。
 もちろん写真集を出すくらいだから、彼の趣味は写真である。「電車ばかり撮っていたが、最近は人を撮るのが面白い」と言う。「国労は高齢化が進み、先輩たちがどんどん退転していき淋しいが、国労でやり通した顔が何ともいいんですよ」ということであった。
 今度ぜひ私の顔を撮りたいというので、「それだけはカンベンして」と答えると、「大丈夫、命や魂まではとりませんから」と返すのであった。さすが国労組合員である。

○月×日
 日勤で昼ごろ出勤すると、内勤担当で私の上司に当たるTさんからの伝言があった。
 1時間ほど前に電話があり、私にぜひお礼をしたいというお客様(男性)が、「東京駅のホームで待っているから、私が東京駅に着く時間を教えてほしい」と言うので、教えておいたというのである。
 Tさんは隣にいる助役とニヤニヤしながら「何かいいことしたのか?」などと言い合っている。私はこれといってお礼をされるようなことをした覚えはまったくなく、どう考えても思い当たるようなことがなかった。
 それどころか、詳しい話を聞いているうちに、だんだんウス気味悪くなり、腹立たしささえ覚えるような複雑な気持ちになってしまったのである。
 まずはじめに不信に思ったのは、電話を受けたTさんが、「斎藤と言っても何人もいるから」と言ったことに対して、電話の相手が私のフルネームを言ったということである。胸につけているネームプレートには名字しか書かれていないし、よほどのことがない限り「三鷹車掌区の斎藤です」以外のことを言ったりはしない。
 次に、Tさんもうっかりしていたとしかいいようがないが、その人の名前すら聞いておらず、何に対するお礼なのかも聞いていなかったことだ。ともかく、あまりにも不明な点が多いし、お礼だといって「ボコボコ」にされるお礼参りだったらどう責任をとってくれるのだ。そんなことされる覚えはまったくない。
 例えば「こういうものだが、だれそれの住所と電話番号を教えてほしい」と会社に電話があったとする。このような場合は、本人にカクニンをとった上でとか、相手の連絡先を聞き、折り返し本人に連絡させるというのが本筋ではないのか。今回の件はこれと同様のケースである思うのだが。しかし、もう手遅れだ。私はその電車で東京に向かわねばならない。なるようにしかならない。
 いきなり写真を撮られたりするんじゃないだろうか……、知り合いや友人であってくれればいいなー、などとさまざまに思いをめぐらせながら、少し緊張気味に終点東京の前方をカクニンする。しかし停止位置付近に待っている人など、だれもいないのだ。
 折り返し運転だったので、乗務位置交換で注意深くホームを歩いたが、大勢の乗降客の中にも声をかけてくる人はおらず、結局何もなかった。あーいやだ、いやだ。何ともスッキリしない不快な1日であった。

○月×日
「暑っ!!」。いきなり夏になったという感じがする。一昨日のお昼のニュースが「梅雨明け」と告げたその瞬間から、気温がグングン上昇し、「これぞ夏」という猛烈な暑さとなった。
 昨日も今日も朝からギンギンに晴れ渡った。カッと照りつける太陽は陰ひなたを作るとしても、そこに陰謀などない。森羅万象大自然の節理なのである。
 それにしても梅雨明け前、2日連続の雷の暴れようはすさまじいの一言に尽きた。まるで地響きのように足元が振れ、男は「うおっ」、女なら「キャーッ」という悲鳴とともにホームへしゃがみ込んだくらいなのだ。
 電車は決まった所(レール)を走るしかないのだから、雷による空中攻撃から逃げることはできない。私はいつ直撃されるのかと、ハラハラし通しだった。
 むかしから雷が鳴ると梅雨が明けるといわれている通り、気象庁も翌日には何の躊躇することもなく「梅雨明け」を発表し、実に正しい夏の到来となったのも近年では珍しい。 広大な空も、アスファルトも木陰も、郵便ポストも信号待ちのオバちゃんのブラウスも、見渡す限りみんな皆夏一色の一日となった。
 梅雨明けしたからといって、公衆電話の受話器を頭の上にもっていき、「このシャワーは水が出ないのか」なんてことはもうしない。そして「仕事が終わったらビールだ、ビール」というワンパターンな私も卒業である。
「スターダスト」などの、ジャズのスタンダートナンバーを聴いていると、心の芯まで涼しい気分になる。鈴を転がしたようなピアノのタッチ、静かで落ち着いていても力強いスネアドラム、ずっしりと腹の中にまで踊り込むウッドベースの音、それだけで十分、だったはずなのだが、なぜか何か物足りない。やっぱり生ビールしかないのだろうか……。

○月×日
 ヒジョーに暑い1日だった。夕方、冷房のよく効いた本区で涼んでいたら、区長がわざわざ私たちのいる控室までやってきて、「斎藤さん、時間ある?」と聞くのである。10分後には乗務だったので、「ないです。36分のに乗るんで」と答えると、「5分で終わらせるから、ちょっと来て」と区長室に呼ばれた。
 5分といえば短いが、イヤなことなら長い。ましてや相手が区長となればなおさらである。出勤したときに「昇進試験の発表をやっている」と役員から聞いていたので、それだろうと思ったら、案の定だった。
 区長は、机に置かれた資料に目を落としながら、もう何年も聞き慣れたお馴染みの「不合格」を早口で告げると、「引き続き勉強して、来年頑張って下さい」と明るく締めくくった。
 一応詳しい中味を尋ねてみると、作文は「まぁまぁ」、一般常識と業務知識は「やや不足」という、ちっとも詳しくない曖昧な表現で、私は「勉強して受かるのなら、一生懸命やってます」とだけ言い、5分で終わる話が一分もかからず退出した。
 それにしても、もうどうしたもんだろうか……。ショックとかヤケ酒だとかの感情はまったく湧いてこず、やっぱりなんだかオカシクなるのだ。「オレって、すっげえ頭ワリイんだろうな……」。近くにあった服装の整正用のバカでかい鏡を覗いてみると、やはりいつものすっげえバカみたいな自分の顔が映っている。
「落ちてこそ斎藤」という傾向がすっかり定着し、「受かったときの斎藤」という対策が立てづらくなった今日このごろである。やはりヤケ酒という気にはならなかったが、この日は本当に飲めなかった。この晩は泊まり勤務で、深夜1時17分30秒着の豊田行最終電車まで乗務だったのだ……。

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