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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/動員 落雷 全国大会

■月刊「記録」1999年10月号掲載記事

○月×日
 東京湾ナイトクルーズを楽しんだ。午後七時、竹芝桟橋(浜松町)から出航。大型客船(5000トン)に乗り、約2時間の周遊である。
 ロマンチックな夜の静寂のなか、レインボーブリッジの鮮やかなライトが君の瞳をやさしく照らしたらもうたまらない。肩を寄せ合うカップルは海風に吹かれながら恋を満喫している。
 私の若いころといえば、神社の境内や田んぼのあぜ道がデートコースで、人目を気にしながらコッソリやったものだが、今どきの若い子は大胆そのものである。
「ええぃ、勝手にしろぉ! しっかり抱き合って大切に愛を育んでくれい」と、私達オヤジ5人集は「飲み放題」のビール・ウーロンハイ・ワインを手当たり次第に呷りまくっていったのであった。
 黒人4人組の生バンドは、ナベサダの「カリフォルニア・シャワー」なんぞを演っていて、船内の気分を盛り上げてくれている。体が自然とリズムに乗り、ステージ前では皆が踊っている。首を突きだしては引っ込めるという光景を眺めながら、私は駅に群がるハトを思い出していた。
 羽田空港からは、1・2分おきと思われる間隔で、巨大な鉄の塊が離着陸している。そのラッシュぶりに改めて呆然とさせられるが、レールの上を走る電車とはケタ違いの厳しさがあるのだろう。飛行機のパイロットには敬服せずにいられない。
 帰り道、すっかり酔っぱらいながら山手線から中央線に乗り換え、JRにすべてを任せる。目を閉じると、東京湾のトロピカルな夜景がぼんやりよみがえっては消えていく。
 現実の世界へたどり着いたのは深夜であった。それにしても、飲むとなればどこへでも出かけてしまう愚かな私である。

○月×日
 一人でトボトボと国会へ出掛けた。動員である。
 国労は、国会会期末を迎えた「国旗・国歌法案」や「盗聴法案」などの重要法案の審議をにらみつつ、JR労使紛争の政治責任による早期全面解決を求め、9日間にわたりJR東日本本社前抗議行動、運輸省、国会前座り込み行動を展開した。
 本部高橋委員長は闘争団家族とともに「話し合いの場が速やかに設置されるよう」、運輸省、労働省に強く要請したということである。
 国会周辺は「炎天下などなんのその」と、いつにない盛り上がりを見せたが、結局は自自公の数の力で強行採決によって成立した。「強制はしない」「乱用はしない」というが、どんどん管理され、統制され、締めつけられていくのは明らかだ。
 決して多くない夏休みを海外などで満喫するのは大いに結構。今しかないのだから。その一方で、こうして国会に押しかける国民もいる。これだって今しかないのだ。

○月×日
 今日も1日が終わった。ガード下の居酒屋を後に、すっかり疲れ果てたうつろな目つきで駅に向かって歩いていた。頭上では「ゴォー」という轟音がひっきりなしに鳴り響いている。鮮やかなオレンジ色の中央線は渦巻くイルミネーションに照らされながら、こんな遅くなっても、ただひたすらに走り続けているのだ。
「今日も朝から晩まで、お前にしこたま乗りまくったよな……」と思い出した途端、なぜか無性に腹が立ち、電信柱に蹴りを入れていた。「イテェー!」
 激痛でよろけた私は、「オレはどうせサイテイだぁ」と叫びながら倒れ込み、傍らにあったポリバケツをコナゴナにしたのであった。ポリ…をコナゴナに……ん!? その瞬間、これは夢にちがいないと気づいたが、まぶたも身体も重くて起きあがることができない。
 再び眠ってしまったのだろうか。今度はスクリーンいっぱいに「秘密」というタイトルが衝撃的に浮かび上がり、なぜか「フーテンの寅さん」の曲が流れてきた。そして同僚が興奮気味に言うのだ。「典チャンの本、映画化されたんだね。スゴイじゃないか。JRを外してただの秘密にしたんだね……」
 中央線沿線にある映画の看板でも大きく宣伝しているのだという。……ん、それって、東野圭吾の小説「秘密」の映画化のことじゃないのか!? やっとそこで目が覚めた。
 どうも「秘密」って、ストレスがたまってよくない気がする今日このごろである。

○月×日
 毎日暑いが、今年のような夏らしい夏も珍しい。カッと照りつけるギンギンギラギラの真夏の太陽。抜けるような青い空と純白の入道雲のコントラスト。突然通り過ぎていくにわか雨。どれもが鮮明で実に美しい。
 頑丈そうで汚れ一つない真っ白な入道雲の上にゴロリと寝ころんでみたいと思う。通り雨は青空をバックにきらきらと輝いて見え、一瞬のうちに地上を洗濯してくれる。曇り空の雨とは風情がまったく異なるところが好きだ。
 中央線は何もいわず、ただただ今日の暑さにもジッと耐えて突っ走っている。乗務員室から見る昼下がりの景色はウソのように静寂で、まるで時間が止まったかのようだ。ふと、遠い昔がよみがえる。過ぎ去ったそれぞれの夏も、今となっては「後方オーライ」でよかったのか……。
 暦の上では立秋も過ぎた。甲子園の高校野球が終わるころには、トンボが夕焼けに赤く染まり秋風を届けてくれるだろう。あともう少し、短い夏。なんだか切ない。

○月×日
 いつもながら私事で恐縮だが、川崎から木更津までの「東京湾アクアライン」を初めて渡った。海底トンネルと海上橋をドッキングさせたというこの道は、どこまでも一直線。そして車内は涼しく思いきり快適。「イエロー・サブマリン」を口ずさみながらゴキゲンである。
 途中、東京湾をぐるりと一望できる「海ほたる」という人工島で休憩をとった。限りなく広がる青い海と青い空はいつまで眺めていても飽きることがない。
 それにしても、この異常なほどのトンボの多さはなんであろうか。こんな東京湾のど真ん中に岸から飛んできたのだろうか。トンボの行動範囲とはこれほど広いものなのか。トンボの幼虫「ヤゴ」は淡水に生息するはずではなかったのか。それとも、これがホントのシオカラトンボなのか……。
 厳しい残暑が続いている。木更津のホテルで一泊し、翌早朝にトンボ返りした。

○月×日
 もう散々だった。中央線は4時間もストップし、駅間の電車からは乗客が線路に飛び降りる。車内では女性客が具合が悪くなり、トイレを我慢ができない人が続出。駅舎は停電で真っ暗。券売機は止まり、改札口は無制限大開放状態。初電が動き出しても終電がまだ走っている。
 8月24日、夕方からの局地的な激しい雨と落雷で信号が故障したことなどにより、首都圏の電車は運転を見合わせる区間が相次ぎ、帰宅の足が大混乱したのだ。
 その予兆は十分にあった。寒冷前線の通過に伴って大気の状態が不安定となり、北西の空は真っ黒。今にも巨大な「恐怖の大王」が降ってくるようであった。
 JR東日本によると「停電の事故としてはJR発足後最大規模」ということである。
 山手、京浜東北、高崎線等は、1時間から2時間後には順次運転が再開されたが、中央線だけはちっとも動こうとしない。最後の最後までダメなのである。
 私が宿泊地である豊田に着いたのは午前3時。15人泊まるはずの所にまだ4人しか来ていなかった。私は初電担当で、3時50分には起床しなければならない。もちろん寝られない。みんな大変なのだった。
 それにしても、小田急や京王線はいつも大丈夫で、なぜ中央線だけが……、とつくづくイヤになる。復旧に手間取る最大の原因は、このような突発事故に対応できる社員の常駐が極端に少ないからではないのか。それなのに会社は、今後も保線や電力等の社員を削減し、外注化しようと計画している。
 一睡もせずに勤務解放(終了)が25日10時20分。昼ごろ帰宅し、死んだように眠った。

○月×日
 社文会館で二日間にわたって開催された国労第65回定期全国大会は成功裏に終了した。
 いわゆる労働組合の全国大会といえば、年に一度のお祭り的な気分もあるものだ。しかし1047人不採用差別事件を抱えている国労は限りなく深刻で、重い緊張感に包まれており、お祭りのおの字もなかった。
 今大会の議論は、3月18日の臨時全国大会で承認した「国鉄改革法」について、その後の本部の対応に批判が集中した。
 高橋委員長のあいさつは、「政治折衝など足踏み状態にある」「直ちに解決できるような情勢ではない」という苦渋に満ちたものであったが、「本部は不退転の決意で早期解決に向けて取り組む」との特別発言もあった。なんにせよ、臨大以降の局面はすでに解決へ向かって動いているのであり、今さら路線がどうこうというのではなく、政治による解決をもってよしとすべきではないのか。
 政府は、解決交渉テーブルの設置を前に国労に対して譲歩と屈服を迫り、ハードルをどんどん高くしている。私たちは今こそ本部を信頼し、一枚岩の団結をより一層強化して総力をあげて闘い抜かなければならない。
 今回、特に印象に残ったのは、上野支部で55歳になる仲間が「最後は国労で」と復帰した、との報告だった。前途多難で情勢は厳しいが、同じように思っている仲間は多いはずだ。国労組合員としての誇りと生きざまをかけ、自信をもって奮闘しなければと身が引き締まる思いであった。外見はデレッとしたままであるが……。
 さてこの2日間、私は何をしていたかというと、本部の許可を取り、物販の一画をもらって本を売っていたのだ。
「『JRの秘密』。国労組合員は必読、四十肩で背中もかけない中央線車掌が、それでも書いた渾身の力作、国労の正当性、JRの異常、現場長も助役も読んでいる、負けてはいられない、今すぐ読もう」などと書いた、にわか仕立てのビラを作り、その辺をウロウロ、ソワソワと、恥ずかしさに耐えながら売り歩いていたのだった。
 朝買ってくれた代議員などは夕方帰るとき、「いやぁ面白かったよ、あと2冊くれ。職場の仲間におみやげだ」と言うのだ。ん!? この人は大会で何をしていたのだろう。いったい、いつ読んだのか……。
 ま、一人ぐらいお祭り的余裕のある人がいてもいいではないか。

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