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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/ヘルニア 昇進試験 臨時大会

■月刊「記録」2000年8月号掲載記事

○月×日
 いやはやなんとも、ヘルニアらしい。
 朝起きたら突然歩けなくなっていた。右下股に激痛が走り、感覚が麻痺しているように感じられた。私は咄嗟に「血管が詰まったのか……」と脳の方を心配したが、頭の中身は相変わらずのようだ。脚を引きずりながら、何とか朝の最低限の支度を済ませたものの、症状は悪化するばかりで一向に良くならない。
 腰痛は以前からあったのだが、医学書を開いてみると椎間板ヘルニアの症状と合致している。とりあえず整形外科に向かった。
 ドクターは腰のレントゲンを撮ったのだが、やはり脳外科にも行ったほうがいいとのことで、採血の後に頭部CTを撮り、MR検査の予約を済ませた。2週間分の消炎鎮痛剤をもらい、仕事に行ってはイケナイというので、ひとまず家で安静の身となった。しかし、じっとして動かなければ痛みも痺れもない。3日も経つと痛みは消えたが、今度はじっとしていても常に痺れがあり、少し気持ち悪くなってきた。
 診断書をもらいに再び病院へ向かう。街では誰もが颯爽と歩いている。普段は考えもしないが、健康であることのありがたみがこれほど胸に沁みたことはない。病院は車イスや脚を引きずった老人であふれかえっていた。
 あと2、3日したら仕事に出ようと思っていたのだが、病院から渡された診断書は、なんと6週間安静というシロモノだった。「こんなんで、そんなに重いのか」と驚きショックを受けたが、そ、そんなに休んではいられない。
 ドクターは、デスクワークならいいが、車掌はあちこち動くからダメだという。もう4日も休んでいる。これ以上、職場の皆に心配をかけたくない。いや、喜ばせたくないというべきか。冗談はともかく、私はドクターにお願いして、とりあえず2週間ということにしてもらった。そのころにはMR検査の結果がわかるはずで、そのときにまた改めて書いてもらうことにしたのである。
 それにしても困った。ヘルニアは治りにくい病気であることももちろんだが、この忙しい時期になんということだ。大事な昇進試験の日程も組まれているし、何よりも7月1日の国労臨時全国大会が目前に迫っているのだ。

○月×日
 MR検査の日となった。時間は午後3時からとなっていた。
 しかし、昼過ぎに病院から電話があり、ナント機械が故障して動かなくなったというのである。そんなことってありなのか。「本当に申し訳ありませんが、来週にしていただけませんか」と低姿勢で病院はいう。そんなこといわれてもね。予約がイッパイということで、初診からもうすでに10日以上経っているのである。
 私は戸惑いと憤慨の入り交じった声で、「来週だなんて、今日だって休みをもらったんですよ(ウソだけど)、そんなに休めない……。明日なんとかできませんか、土曜日ですけど……」と少し強引に頼んでみた。
 するとしばらく待たされ、「夕方の5時になりますが、それでもいいですか」という返事が返ってきた。「まったくもう」と思いつつ、申し入れを受け入れた。
 なぜだか知らぬが、私はいつもこうしたアクシデントに見舞われているような気がしてならない。一筋縄では行かないことが他人に比べて大すぎはしないか。考えすぎだろうか。
 続いて今度は、職場の事務助役から電話があった。
「来週の月曜日、どうする?」
 そう、昇進試験の日なのである。どうせ受からないのだが机に座っているだけだし、受けに行こうかとも思ったが、「今回はパスします」とあっさりお断りした。
 よかったね、受かりたい人はライバルが一人消えて……。
 なんだかドッと疲れた一日だったが、夜にまた電話がかかってきた。今度は国労のとある幹部からであった。「臨大の傍聴券が一枚あるから来い、記録の取材として許す」という。ウ、ウレシイ。なんてラッキー。
 明日はいよいよ臨大である。

○月×日
 まさか、こんなことになろうとは……。
 国労第66回臨時全国大会は大混乱の末に休会となり、再会時期等は未定ということである。
 朝からよく晴れた暑い一日だった。大会は労働運動全体の命運をかけたといっても過言ではなく、各方面から注目を集めていた。
 午後1時の開会だったが、会場となった永田町の社会文化会館前は、午前中から機動隊による厳重な警戒で、全国の大勢の国労組合員、支援の人たちで溢れかえっていた。
 いつもの様子とは明らかに違っていた。解決案には断固反対、四党合意は撤回すべきとする反対派の組合員らが大会中止を求めて会場入口にピケを張り、本部執行委員や代議員の入場を阻止していたのだった。
 何とも険悪なムードが漂っていた。そのためいつまでたっても開会することができずに5時間も遅れるという前代未聞の大会となったのだった。
 私は3時過ぎには病院へ行かねばならず、結局は待たされただけで会場を後にすることになってしまった。しかし、その間休みなくマイクを握って抗議している反対派や闘争団の思いは、十分すぎるほど身にしみて理解できたし、当事者である闘争団を抜きにして、本部が解決案の受け入れを決定したのは事実である。
 また、同時進行だとされた、採用や和解金等の水準も何も出ていないということからも、この日に大会を開くということには無理があり、中止になるのではという気持ちで会場をあとにしたのだった。
 案の定、その後も騒然とした雰囲気は何ら変わることなく、賛成派と反対派の組合員同士が小競り合いになるなど、さらにエスカレートしたそうだ。繰り返すが、開会にこぎ着けたのは5時間後の午後6時であり、それもまったく収拾がつかないものだったという。
 大会では冒頭から激しい怒号が飛び交い、「JRに法的責任はない」とした与野党四党間の合意文書の承認などを含む大会方針案を議題とし、高橋委員長は「四党合意の賛否だけを問うのではなく、四党合意とセットで国労の要求が同時に実現できることを大会の意思として確認することが必要だ」と述べた。
 一方の反対派は強い異論を唱え「四党合意については、引き続き職場討議を継続すべきだ」とし、「具体的な解決案(採用人数や金額など)が示された段階で、大会において判断を求める」との修正案を出したという。
 しかし、3時間近く経った午後9時ごろに、宮坂書記長が集約を始めた採決直前に、傍聴席にいた受け入れ反対の闘争団員ら数十人が次々と壇上に駆け上がり、「大会は無効だ」「解決案は、闘争団切り捨てそのものだ」などと声を張り上げ、執行部側と激しいもみ合いとなって大混乱したため、議事進行困難と判断した議長が大会の休会を宣言したのである。
 代議員から聞いたり、翌日の朝刊を読んだ話を総合すると以上のような感じだが、私には大会の一部始終が目に見えるようである。自分の気持ちとは裏腹に、「やっぱり国労だったんだなあ」という思いを強く抱いた。いつもの闘う労働組合、闘う駄々っ子、国労。勝利するまで闘うぞぉだったはずであり、その通りになってしまったのだ。
 私は自分の甘い考えをちょっぴり恥じた。正しくないことは正しくない。13年もの長い間、私たち国労組合員と闘争団は解決金を求めて闘ってきたのではないのだ。
「不当労働行為は認められない」という労働者として当たり前のことが原点だったのであり、「JRに法的責任あり」を認めさせるために闘ってきたのである。
 昨年の3月18日の臨大では改革法を承認したが、本部・代議員のすべてが「たとえ改革法を認めても、憲法、労組法は守る」「労組法の根元を破壊する不当労働行為は断じて認められない」と確認しあったではないか。
 国労に対して不当労働行為があったことは、労働委員会全体が認め、あの反動的東京地裁判決も、そして政府さえも不当労働行為の存在を否定はしていない。また、ILOですらその存在を認めているのである。
 これだけはいえる。もし仮に、解決案が承認されて、この闘争が終結するとしよう。
 国労本体はJRという会社がある限り、労働契約・労使関係があるわけだから、労働運動、組合活動はその後も継続されていく。たとえ屈辱的な敗北をしてもその後がある。しかし、闘争団の場合はどうか。家族を巻き込み、命をも削る思いの、まさに人生を駆けたすさまじい闘いだったのだ。闘争団にとっての終結とは、その人生の総決算という重大な意味が含まれているのであり、たった一度しかないことなのである。
 つまり、その後がない。そこが国労本体と違うところだ。だからこそ、あやふやな解決は絶対にできないし、また、そうさせてはならないことなのである。
 それではどうすればいいのかと問われても、私には答えることができない。大会がこうした事態となり、政治解決は遠のいてしまったのだろうか。決裂するのではなく、今こそ組合民主主義にのっとった話し合いが必要なときではないのか。

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