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妻の恋【いちばん好きな人から永遠に認められない その苦悩が恋愛体質を呼び起こす/蒔岡雪子(42)・語学学校講師】

 今夜は旦那さんが帰ってくるから、久しぶりにすき焼きにでもしようかな、それとも魚のホイル焼き? でも、それじゃあ息子たちは満足しないかも? いっそのこと今夜はハンバーグにして、具の残りをピーマンの肉詰めにしてお弁当用にするとか……。
 今日は仕事が休みだったので、いつもより少しのんびりモードで、午後の空いている時間に買い物に出ました。 ふだんだったら仕事の帰りにスーパーにかけ込んで、必要なものをカゴに入れ、自転車を飛ばして帰るのですが、こういうふうに昼間のんびり買い物できる日には、いつもより多めに買いだめしておくんです。
 今日はたまたま冷凍食品が二割引きになっていたので、いくつか手にとりました。育ち盛りの息子たちは、「また冷凍?」と口をとがらせるかも知れないなどと考えていると、ふと通路のわきにある鏡に映った自分の姿を見つけました。
 化粧っ気のない顔にブーツカットのパンツ。カーディガンを羽織って買い物カゴを手にした女性……。それはどう見ても「普通のお母さん」です。年の割りにはまだ「おばさん」は入っていないし、パンツもユニクロではなくGAPを履いているところにそれなりの自己主張は見える。でも、決して自慢できる容姿ではありません。「あれも本当の私なのかなぁ」
 こんなに「普通」している私が陰ではあんなに大胆なことをしているなんて、自分でも信じられません。なんだか他人事みたいに思えてきます。

■これが最後の恋になるのかも

 私、そもそも女としてあまり自信がないんです。
 スタイルが抜群というわけではないし、顔にしても十人並み。かといって、お茶とかお花とかダンスとか、人より秀でた一芸があるわけじゃない。仕事だってまだまだ駆け出しで、この年齢でようやくスタートを切ったばかりだし……。
 だから、そんな私を好きだと言ってくれる人があらわれると、正直いって最初はちょっと拍子抜けしてしまいます。
「はぁ? どうして私なの?」
 それでも相手が積極的に出てくると、ついつい浮かれちゃって。
「こんな私に振り向いてくれたんだ!」
 気がついたら、こちらも意識するようになっちゃう。 いずれにせよ女もこの年齢になると、ちょっと不安になりますよね。
「これが最後の恋になるかもしれない」
 だから、ついつい相手のプッシュを受け入れてしまう弱い部分が出てくるのでしょうね。いまのところ自覚症状はありませんが、40歳を超えたら女性は急速に下り坂だといわれるし。
「次はどこで出会うわけ?」
 と考えると、こんなチャンスはもう二度と訪れないような気がしてくる。そういう気持ちが無意識のうちに態度に出てしまうのでしょう。隙だらけといわれても仕方ないかもしれません。
「こうやってホイホイ男についていっちゃうのも、自信のなさの裏返しなのかな?」
 と親友に言ったら、
「自信がない割りには、次々と相手が出てくるじゃん。よくシャーシャーとそんなことが言えるわね」
 とあきれられてしまいました。
「私って恋愛体質なのかもしれない」
 自分では決して積極的だとは思わないけれども、そう言われてみれば実はという気もします。どこかで、男を手繰り寄せているというか……。

■何げないしぐさが男を狂わせる?

 そういってみれば最近別れた不倫相手の山村には、こう言って責められました。
「こうなったのは雪子のせいだ。あんたが色目を使ったからだ」
「どう責任をとってくれるんだ!」
 感情が高ぶった彼にそう泣き叫ばれて、途方に暮れたことも。山村は直属ではないにせよ、一応上司に当たる人。私からしてみれば、彼にも他の人と同様に当たらずさわらずフレンドリーに対処していただけのつもりでした。
「そういう何げないしぐさが男を狂わせるんだ」
 山村にそう言われたときには本当に驚いてしまいました。
 でも、その恋は最悪でした。山村は精神的にひどく不安定で、最後はほとんどストーカー状態……。
 夜道に隠れて仕事帰りの私を待ち伏せていたり、ひどいときには夜インターフォンが鳴って、モニターを見たら彼が家の前に立っていたということもありました。そのつど何とかなだめて引き取ってもらったものの、家族の手前どうしようかと冷や汗が出たほどです。
 山村とはいわゆる「ダブル不倫」の関係だったんです。彼は5歳ほど年下で、まだ学校に上がっていない子どもが二人もいました。
「だからお互い良識ある付きあいをしよう」
 という約束で始まった不倫恋愛なのに、別れ話が持ち上がった時期から、だんだんと彼はおかしくなっていったんです。
 社内恋愛だったから、事態はよけいに面倒なことになってしまいました。もちろん、私から会社の人に山村との関係を話すことはありませんでしたが、彼のほうはこれ見よがしに、見え見えな態度をとるんです。たとえばすれ違いざまに私をそばの給湯室に押し込んで、こう怒鳴ったりする。
「こんなに愛してるのに、どうしてあんたは別れようとするんだ!」
 ところが次の瞬間には私を抱き寄せて、キスしようとするんです。振り切ろうにも、そんなときの私は殴られるかもしれないという恐怖で、金縛りにあったようになってしまいます。
 実際、何度かですが、髪を引っぱられたり、殴られたこともありました。いつまた暴力を奮われるかもしれないという恐怖と、会社の人そして最終的には自分の家族にバレるかもしれないという不安で、胸が引き裂かれそうでした。
 どういう理由にせよ、怒っている彼をなだめて、とりあえずその場を丸く収めることだけで精いっぱいだったんです。

■恐怖心から関係を引き延ばしてしまった

 もっとも、恐怖心からダラダラと関係を引き延ばした私も悪かったのですが、いまから思えば、ほとんど「共依存」というか、DV(ドメスティック・バイオレンス)まがいな関係だったのだと思います。だって二人だけでいるときは、山村は考えられないほど優しいんです。「僕は雪子に夢中なんだ」「いつも一緒にいたい」
 などとささやかれながら抱きすくめられると、
「この人はこんなに私のことを愛してくれる」
 と目頭が熱くなるほどです。付きあうといっても、お互い家庭があるわけですから、仕事の帰りに車で出かけるとか、ホテルへ行くとか、限られた空間と時間しかありませんでした。限られているからこそ美しいというか、その間はセックスも含めて彼は本当にメチャクチャ優しいんです。そんなときの山村はまるで別人です。
 ところが、何かがきっかけでいったん不機嫌になると、態度が急変してしまう。
「あんたのせいで人生がメチャクチャになった!」
 などと言って、怒鳴るは暴れるはで、会社にいるときにみんなの前で見せる人あたりのいい姿は跡形もない。私を殴った後には、
「どうしてこんな事しちゃったんだ。許してくれ!」
 と急に土下座して涙を見せたり、
「こうなったのも自分のせいだ」
 と言いながら自分の顔を殴りつけたり、自分の手にたばこで焼きを入れるときもありました。
 そんな山村を見ていると、恐怖心と同時についついかわいそうになってしまい、
「やっぱり私が別れ話を言い出したのが悪かったのかしら」
 とか、
「別れ話さえなければ、彼は穏やかでいられるのかしら」
とか、はたまた、
「こうなったのは本当に自分の責任なのかもしれない」 とか、いろいろな考えがグルグル私の頭のなかを駆け巡り、なかなか別れるきっかけがつかめませんでした。そんなこと繰り返しているうちに、気づいたら1年が経っていました。

■初めて彼の正体を見せつけられる

 そのころには私もほとんどノイローゼのようになってしまい、
「不倫なんかしたから罰が当たったんだ」
 と真剣に自分を責めました。ゲッソリとやせこけた私を見て、しまいには見かねた会社の友人が、
「明日のぶんは私がカバーしといてあげるから逃げなよ。今日にも辞表出して」
 と耳打ちしてくれたんです。その人に私たちの関係を話したことは一度だってなかったのに、まわりの人には2人の関係がたぶん見え見えだったのでしょうね。
 いずれにせよ、山村は立場上は私より上だったので、私のほうが辞めるしかありませんでした。その話を聞いた山村はみんなの前で、
「雪子さんが辞めちゃうと寂しくなるなぁ。僕が引き止めても言うことを聞いてくれないから、みんなで引き止めてくれよ」
 なんて、調子のいいことを言っていました。そのとき初めて、私の前ではあんな態度をとるくせに、
「結局自分の身がかわいいんだなぁ」
 と彼の正体を見たような気がしました。ただ、仕事を辞めてからも、最初はしつこく連絡がありました。携帯もメールも全部着信拒否しているうちに、ある時点を境にプツリとかかってこなくなりました。さすがにあきらめたのかも知れません。
 そのころは息子たちでさえ、
「お母さん、病気なんじゃないの? 医者に行ったら?」
 と言っていたほど、私は家でも不安定でした。でも、上の息子が、
「どうしたの? 会社で何かあったの?」
 なんて聞くと、下の息子は、
「答えたくないんなら、無理に言わなくてもいいよ」
 と口を挟んでくれました。きっと、本能的に私が隠し事をしているのに気づいていたのでしょうね。
 旦那さんさえも、
「仕事、つらいから辞めたい」
 などと訴える私に、
「どうして?」
 とは決して聞きませんでした。私のほうも、
「職場でいじめみたいなことがあって」
 と軽くはぐらかしておきました。旦那さんはそれ以上事情も聞かずにただ、
「大変だったな」
 とだけ言ってくれました。良識があるからか、それとも私のことに興味がないからなのか、いまも私にはよく分かりませんが……。

■「私が絶対に入れない場所」に暮らす夫
 じつは今朝も、旦那さんが出勤したあと数時間1人で泣きました。掃除をしていたら急に悲しくなってしまって……。
 数年前に家を建てるとき、旦那さんが出した唯一の条件は、自分の部屋をもつことでした。彼はここを書斎と呼んでいるのですが、最終的には自分のベッドも入れて、食事をとるとき以外はほとんどそこで生活しています。 旦那さんにとって書斎は自分の城で、あまり私に入ってきて欲しくない様子……。もちろん私だって勝手に彼の机のなかをのぞく気持ちもないし(第一、机の引き出しにはカギがかかっています)、彼のプライバシーに立ち入るつもりもありません。それでも、
「掃除ぐらいはしてあげなくちゃかわいそうかな」
 と思って、ときどき掃除機をかけたりベッドメークくらいはします。ただ、以前ベッドの上に開いたまま置いてあった本を机の上に戻しておいただけで、露骨に嫌な顔をされました。
「本は勝手に触らないでくれ」
 って。いっそのこと、
「書斎の掃除はしないでくれ」
 と言ってくれたら、二度とあの部屋に入ることもないだろうに、旦那さんもそれは言わない。それを言ったらおしまいだと思っているのか、それとも掃除だけはして欲しいからかは分かりませんが。
 いずれにせよ、
「入るな」
 と言われない以上、そこだけ掃除しないのもかえって空々しくて変だし、結局いつもパパパっと掃除機をかけて、ベッドメークして、「はい、おしまい」という感じ。 書斎のドアをそっと開けると、同じ家のなかなのに、そこだけ違う空気が流れているんです。旦那さんの匂いと積み上げられた本の香り……。そのドアを開けるたびに、
「私が絶対に入れてもらえない場所に彼は生きているんだ」
 という明白な事実を見せつけられる気持ちになります。「これから先もこの距離は決して縮まることはないんだろうな」
 と思ったら急に悲しくなって、もっていた掃除機を投げ出して、自分のベッドに駆け上がって、そのまま突っ伏して泣きました。

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