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サイテイ車掌のJR日記・斉藤典雄/必勝法 1680円 青テント

■月刊「記録」1999年6月号掲載記事

○月×日
 この時期、週末ともなるとJR中央線は競馬新聞を手にしたお客さまがヒジョーに多くなる。沿線には府中の東京競馬場、中央線から乗り入れする総武線の西船橋には中山競馬場、水道橋、新宿、立川に場外馬券売場があるからだ。
 マンション購入を期に、競馬はヤメたことになっているはずの私だが、妻には内緒でコッソリやっている。本当にたまーにだが。しかし、とんと当たらずカスリもしない。もちろん当たらなければ話にならないのだが、それでもオモシロイ。
 そして私はつい最近、大発見をしてしまったのだ。なんと競馬必勝法をあみ出してしまったのである。目からウロコが落ちるとはまさにこのことだろう。これはいまだかつて誰一人、気がついた者はいないはずだ。競馬に限らず勝負事に絶対はないが、かなり確率が高いので、私を信じてぜひ参考にしてほしい。
 先日行われた桜花賞では、三歳児牝馬で最強といわれた大本命一番人気の「スティンガー」が大負けし、勝ちを拾ったのは四番人気の馬だった。専門家や解説者は「スティンガー」の敗因について「スタートで出遅れた」「ぶっつけ本番のローテーションで挑んだため」などと言っていたが、私にいわせれば、彼らは大変重要なことを見落としている。
 馬は人間がわかる。大人か子どもかの区別もつくはずである。桜花賞での「スティンガー」の位置(かなり後方)から一着でゴールするには、ものすごい瞬発力と猛ダッシュが必要だったはずだ。そしてあの馬にはそれを可能にするだけの力があった。ではなぜ負けたのか。騎手である。騎手が50歳近い大ベテランのオッサンだったからだ。
「人馬一体」という言葉があるではないか。馬の方が騎手にケガをさせてはならないと判断したのである。若い騎手が乗っていれば「この人なら多少の荒技でも運動神経がありそうだから大丈夫だろう」と、危険を覚悟で駆け抜けて一着になったに違いないのだ。騎手に対するやさしい思いやりで「スティンガー」は競馬をしなかったのだ。
 その証拠に、一着から三着まではすべて20代の若い騎手が独占した。「スティンガー」の対抗馬として有力視されていた三番人気の馬も、やはりオッサン騎手のために馬群に沈み、着外となっている。
 利口な馬は騎手を思いやるのだ。「ウソつけ! それならオッサン騎手が一着になるレースはどうなんだ。ケッ」という素朴な疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれない。しかしこれは単に馬が歳をとり、神経が図太くなって騎手に対する思いやりが希薄になったからに他ならない。
 以上の点を考慮して馬券を買えば当たるはずである。しかし、私の財布には金がない。そして競馬は果てることなく開催されている。困ったものだ。

○月×日
 待ちに待ったゴールデンウイークがもうすぐだ。しかしこれは世間さまの話である。私は4日と5日が休みなだけで、残りは仕事。妻も当直とやらが入っていて、私とはかみ合わない。従ってこれといった予定もなく、寂しいといえば寂しいが、いまさら別になんとも思わない(ことにしている)。
 それにしても新緑が美しい季節となった。まばゆいほどの瑞々しい若葉が春風にそよそよと揺れている。自然は正直だからステキだ。そのうち突然太陽がカッと照りつける暑い日がやってくるだろうと、エディバウアーというメーカーのバーゲンセールに出かけた。
 白とクリーム色の半袖ポロシャツが二枚で4900円。やっぱり夏はジーンズに白のシャツがピッタリだ。本屋とレコード屋にも寄ろうと思ったが、衝動買いしそうな気がして踏みとどまった。やきとり屋で一杯だけと心に決め、暖簾をくぐったのだが、勘定書をみると焼酎のウーロン割りが四杯で1680円と記されている。なぜだろう……。
 なお後ろ髪を引かれながら家に帰り、ついでにタンスの中を整理した。冬物をしまい、夏物を出す。着もしない服が山ほどあるのには閉口してしまった。恥ずかしくて、といっても妻のババパンツなどではなく、若向きのために二度と着ることはないと思われる服がヒジョーに多かったのだ。捨てようかと迷うが、貧乏性の私にそれは出来ない。しかし私がこれから身につけなければならないのは、こうした服ではなく教養なのである。
 そして何よりも驚いたのはJRの制服の多さであった。タンスの中で一番の面積を占めているのがこの制服なのだ。わんさかある。山のようにある。本当に押しつぶされそうだ。ヘルプミー。酔いがいまごろ回ってきたようだ。

○月×日
 立川・日野間、多摩川橋梁下の河川敷に二つの青いテントを見かけるようになってから、かれこれもう3年以上たつのだろうか。いまでは四つに増えている。花見やキャンプでよく敷物に使ったりする青いビニールシートで作られた簡易式である。なにしろ河川敷だ、冬なら寒かろうに……。
 テントの傍らにはテーブルらしきものまであり、木と木にロープを張った物干しには時折タオルやズボンなどが干してある。乗務で通過中、何度か目撃したことがあるので、人が住んでいることは間違いなかった。
 たしか2年ほど前の真冬だったと思う。一つのテントの方にまったくといっていいほど人気がなく、生活跡が感じられない日が続いたのだ。私たち乗務員の間でも「この寒さだし、もしや……」という不安が広まった。つまり「死んでいるのでは」ということである。
 早速、しかもなぜか私が三鷹駅前の交番に行く羽目になり、オマワリさんに事情を話すと、その場所は日野署の管轄ということで、すぐ電話で確かめてくれた。すると、さすがというかなんというか、日野署はその住民? のことを承知しており、ときどき様子をみに行ったり、また逆にその住民も交番にちょくちょく顔を出しているので心配ない、ということであった。
 それにしても、どういう生活をしているのだろうかと不思議に思うが、並みの人とは比べものにならない抵抗力や生命力があるのだろう。なにより私は、あのテントに近い将来、必ずや新聞や郵便などの配達の人が現れるような気がしてならないのだ。だからいつも注意深く見守っているのだ。

○月×日
 感慨無量である。
 本誌連載中の私のアホバカ文の単行本化が決まり、年頭から加筆や修正やらを行っていたのだが、ようやく五月下旬に刊行される運びとなった。
 書名は『JRの秘密』。みなさんにぜひとも手に取っていただきたい。カバーには「車掌がコッソリ教える」などと書かれているが、JR車内でもどこでも堂々と広げて読んでもらいたい。
 また、大変ありがたいことに鎌田慧さんがお言葉を寄せてくださり、「いいのかなあ」と照れくさいことこの上ない。腰巻き(オビ)に「いったん覚悟を決めてしまえば、怖いものなど何もない」と書いてくださったのだが、そんなに肝の据わった人間でないことは周知の事実なのだ……。

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