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サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/超奇抜 成人の日 チラシ

■月刊「記録」1998年3月号掲載記事

○月×日
 私の住むJRの社宅前はいつも人通りが絶えなくてせわしないのだが、今は近所の大学が冬休みということもあり、閑散としている。のんびりとした感じが実にいい。 昨今の若い人達のファッションは多種多様で結構なことだが、中には目を疑いたくなるようなものもある。そういう私も、若いころは大人からヒンシュクをかうような格好をしていた(らしい)ので、今さら苦言を呈する資格はないし、あえて言いたいとも思わない。
 私は人一倍キレイ好きと自認しているが、おしゃれというものには無関心でどうでもいいと思っている。若いころは思う存分に流行を追いかけ、とことん好きにやったらいい。しかしうちの子ども達だけにはあまり変わった格好をさせたくない、という気持ちが心の隅に少しある。
 私はこのように思考と実際が異なる部分が随分あり、自分自身でも本当に何を考えているのか分からないことも多い。
 それはさておき、実際うちの子ども達といえば、全くもってだらしないとしかいいようのない格好をしている。私はいつも制服制帽でキチンとしているのに、学校の制服の着方までがだらしない。「おい、もう少しなんとかならないのか」と呆れつつ、心の中で泣いている。
 今日の仕事帰りには、社宅近くの歩道前方に頭のてっぺんから爪先まで超奇抜な、私の好まぬタイプの女の子をカクニンしてしまった。「イヤだなあ」と思いつつ、追い越しざまにチラッと振り返り顔を見ると、ますますイヤな気持ちになり、「若いんだから好きにやればぁ」という言葉とは裏腹に、不機嫌な帰宅をしたのだった。 しばらくすると玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、ナントさっきの女の子ではないか。「うっそー、ナニそれー、チョーむかつくぅ」彼女の声が響く。息子の新しい恋人ということであった。私にはどう見ても変わり者としか思えない。まったくホトホト疲れてしまう。 年頭に際し、家族皆がまともであってほしいと心から願う。ん、まず私からまともになれ!? ハイ、おっしゃるとおりで……。

○月×日
 初詣で引いたおみくじが吉と出た。息子のは大吉である。私はこのようなことは気にしない性格だが、やはり嬉しい。たとえ凶が出ても動じないが、吉にこしたことはない。まずはメデタシ、メデタシだ。
 「方向」西の方よろずよし、「転居」よろし早くせよ、とある。新居となる八王子の方角はまさに西、完成したらすぐに引っ越そう。ヒョイと息子のおみくじをみると、まったく同じことが書いてあった。これだから信用できない。
 今年はいい正月である。元日、2日と続けて勤務で幸先がよい。年末も乗務であった。休んでなんかいられない。お客様が帰省するといえば列車を走らせ、年始に出掛けるといえば電車を動かすのだ。
 JR東日本の「企業理念」にもあるように、私達はお客様と共に歩み、総合生活サービス企業として、地域社会の文化の向上と豊かな生活の創造に貢献しなければならないのだ。なによりも休んでいるとサケばかりで身体によくない。仕事ならサケもセーブできる。毎日飲んでいることには変わりないが……。
 今日は妹一家が埼玉から年始に来た。彼らの二人の子ども達も随分めかしこんできて、うちとは雲泥の差である。夫婦そろって教師なのだが、やれアメリカへ旅行に行っただの、それヨットの大会に出ただの、ほれ高級車を買っただのと、まるでうちとは別世界の暮らぶりである。
 うちの子たちはただただポカンと口を開き、羨望のマナザシであった。いや実に妹の子ども達に対する意気込みには恐れ入る。それなりに大変なのだろうが、今の私と妻にはそれだけの行動力やパワーは微塵もない。
 ダンナが飲まないこともあり、その分私は昼間からの一人ザケでヘロヘロだった。でもね、私は私、これでいいのだ。妹には聞かなかったが、私のおみくじは吉だったのだから。

○月×日
 「成人の日」未明から降り続いた雪は、前回とは比べものにならない記録的な積雪となった。今年で3度目だが、いったいこれはどうなっているのだ。まさに未曾有の出来事といっていいだろう。
 JRを初めとする交通機関は、終日大慌れの状態で大混乱であった。報道関係者、お巡りさん、除雪作業に当った方々……、とにかく、あらゆる仕事に就かれていた人達、また新成人もご苦労さまであった。
 しかし、人間は考える葦である。前回の教訓が生かされ、都会の人も少しは雪に慣れたのか、救急車で病院に運ばれた人も前回よりは少なかった。私の職場でも、間引き運転を行ったために運休の車掌が大勢いて、休日呼び出し出勤を要請するまでには至らなかった。
 それでもJRの各部署において、国民の足を確保すべきと、一日中降りしきる雪の中で作業した社員が大勢いたことを忘れてはならない。
 雪が降るのは自然の節理である。春が近いということではないか。何があってもへっちゃらだと思いたい。何にでも努力して頑張って対応し、力を合わせ乗り越えていこう。阪神大震災のときも、雲仙普厳岳のときも人間はへこたれなかったのだ。
 実に美しい雪景色だ。普段は華やいだ東京の街をすっぽりと包み、シンシンと静かに、タンタンと単調に降り積もるさまは、まるで水墨画のようである。なんだかすっかり落ち着いた気分。こんなときならじっくり物事を考えられるような気がする。
 成人式や各種催しなども延期や中止が相次いだようだ。店も閉店の所が多かった。そんななかで上野動物園は営業していたというニュースが報じられていた。「アジアゾウ」の成人式は延期になったそうだ。うーむ、好きだな、こういうのって。

○月×日
 通常国会も始まり、何かと騒々しいこのごろである。 国労中央闘争委員会は、この年度末までを「解決に向けて絶好の機会」と位置づけ、十年余りで築き上げた力を総結集しようと、闘いの強化を遮二無二になって進めている。
 東京地裁から「和解勧告」や「JR当事者責任」を示唆する見解を引き出したこと、また、二十八兆円の長期債務を抱える国鉄清算事業団が10月に解散されることから逆算すると、さまざまな問題を今国会で決定せざるを得ない現状となっているのだ。
 つまり、政治の場では長期債務の処理問題だけでなく、採用差別問題も、分割民営化に伴う未解決事項であるという認識なのである。私はここで今後の成り行きを占ってみたい。地裁の判決がどうなるかは、判決が出てからでは遅いので、今言っておかなければならない。
 結論は国労勝利、JR負けである。民事十一部での「裁判所の意見」をもう一度よく読んでみると、「本件紛争について抜本的な解決を図るべき時期に来ている」とある。
 すなわち、JRの主張が認められ、国労が負けたのであれば、国労は当然今後も闘い続けることになろう。これでは「抜本的な解決」とはならない。つまり裁判で国労が勝ち、JRが負けるということでなければ、頑なに「裁判では絶対に勝つ」との態度をとり続けるJRが、「うーむ」と国労跡地の方角を見つめて社会常識を取り戻し、和解の席に着くことはないのである。
 これは蛇足だが、裁判所としても今後中労委から同じようなJR問題が続々と百件以上もあがってくるのはウンザリのはずだ。ここまで来ると、法理論より裁判所の感情論で決着がつくのではと本気で考えてしまう。
 民事十19部も然りで、設立委員が不当労働行為を知っていたなら、JRに当事者責任がある、という見解を示したことは、まさに国労側に斎藤英四郎氏(経団連名誉会長)ら設立委員を調人として法廷に呼びなさいという、勝利への道筋を暗示してくれたといってよい。
 国家的不当労働行為の最高責任者を法廷に引っぱり出すなど、裁判史上にも労働運動史上にも前代未聞で例がないという。まあ、これはおそらく実現はしないであろうが、このような裁判闘争や清算事業団問題が微妙に絡み合い、解決に大きく傾いているのである。
 以上、すべて推理だが、こうなればいいなとつくづく思う。しかし、まんざらでもない気配も感じるのだ。

○月×日
 引っ越しが迫っている。部屋の整理やら準備やらで慌ただしくなってきた。
 10年20年と使用していなかったものがワンサカ出てくる。廃棄するかどうかでひと悩み。友人・知人からの手紙やアルバム、子ども達の幼いころの物……。こんなことがなければ一生押入れの奥にひっそりとしまわれていたままであったろう。懐かしさにどっぷりと浸り、ただ眺めているだけで半日が過ぎてしまう。ちっともはかどらない。
 昭和50年、国鉄が発行した職員募集のチラシ。「基本給6万8千7百円」「……なお、努力次第で助役、駅長、区長、管理局幹部等に昇進する道がひらかれています」。 昭和61年、処分通知。「国鉄分割民営反対第11次全国統一行動と称し、ワッペンを着用したことは職員として不都合な行為であり遺憾である。よって訓告する」。
 昭和62年、JRへの採用通知。「東日本旅客鉄道株式会社設立委員長、斎藤英四郎」
「賃金17万3千6百円」。
 ……さまざまな思いが脳裏を過ぎる。世の中ウソばっかり。ホンッ…とに情けない。振り返ってみれば、どうにもなじめなかったものが多すぎたかもしれない。
 しかし、自分自身を見つけ出すために生きなければならない。身の回りのちょっとしたことに感動を覚え、幸せだと感じながら生きていきたい。これでいいのだ。

○月×日
 わがJR中央線はいったいどうなっているのか。一月八日の雪害以降、連日ダイヤが乱れているといっても過言ではない。今日も初電からストップし、朝のラッシュ時間帯は大混乱となった。
 原因は、中央線を動かす「列車運行管理システム」のコンピュータが故障したということなのだが、お客様にどのようなお詫びのアナウンスをしたものか、非常に悩んでしまった。余計なことを言うとさらに混乱を招いてしまう。
「えー、列車を動かすコンピュータが、あー……」などと本当のことを言っても、「ナヌッ!? 中央線が『こんぴゅーた』で動いているだぁ!!」と、ただでさえ連日の事故で殺気立ち、キレる寸前の怒れるお客様に油を注ぐだけである。
 私はサイテイ車掌よろしく、ハッキリいってコンピュータのことなど何も分からず、全くたち打ちできない。乗務員室から逃げ出したい気分であった。
「えー、先ほどのアナウンスを訂正して、お詫び申しあげます。中央線は運転士が動かしているわけでございますが……」、あー疲れる。
 これでは暴動も起きかねない。このままでは順調な日には、「JR中央線は本日平常運転」ということが大ニュースになるかもしれないではないか。それにしても異常事態である。今すぐにでも社長に出てきてもらって、山一證券のように「社員は悪くございません」と、お詫びの会見でもしていただかねば治まらない気分である。

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