« サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/国労本部 カンバン ナメクジ声 | トップページ | サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/八王子 大チョンボ 中曽根 »

サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/サイキョウ線 春一番 JC常務

■月刊「記録」1997年5月号掲載記事

○月×日
 JR中央線は今日も大勢のお客様にご利用され、親しまれている。JRの電車は縦横無尽に走っているように見えても、実に規則正しく、精密なダイヤの上で厳粛に走っている。
 各駅でお待ちしているあなたを、あなたとあなたも、「乗りたい」という意志を最優先に尊重し、どんどん詰め込んでいく。一車両で一人が占める面積からはじき出された144人という定員も、ラッシュ時ともなればお構いなし。いつも定員オーバーで身動きすらとれない。
 さて、新聞やテレビでも報道されたが、警視庁は首都圏で最も痴漢の被害が多いといわれるJR埼京線で、「痴漢撃退作戦」を展開するという。一週間かけてのべ1000人を動員し、空前の規模で実行するそうだ。
 2月18日付の『夕刊フジ』には「最後部車両に気をつけろ」と書いてある。車掌は最後部車両で、安全確実な運行を至上命題として職務を厳正に遂行しているのだ。車掌には車内秩序の維持という職務もあるので、時々車内にも目を向けているが痴漢など眼中になかった。
 しかしなぜ最後部車両なのか。これはどうも乗り換え口に近かったりする関係で、混雑度が高いため、というのが原因のようだ。この乗務員室と仕切り一枚隔てた車内のあちこちで、いかがわしい行為が行われているのか!? 許せん!
 私はいてもたってもいられない気持ちだ。映画などの演技ではなく、本物を見てみたい……ん? ち、違うってば。人としての尊厳の欠片もない、サイテイなウジ虫どもをとっ捕まえてやりたいのだ。しかし、今日も乗客の表情を注意深く観察したのだが、皆苦痛に満ちているだけでゼーンゼン分からずじまいであった。まさか、それが演技ではあるまい……。やめてくれ。
 ちなみにわが中央線は二位ということで、辛うじて面目を保ったが、埼京線は断トツだという。さすが別名最強線である。

○月×日
 東京では、土埃で目を開けていられないほどの春一番が吹き荒れていたさなか、目を疑うようなニュースが飛び込んできた。
 JR東日本本社勤務の元社員(昨年懲戒免職)が在職中、三年間にわたり、オレンジカードやイオカードなどのJRのプリペイドカードを悪用し、なんと13億という巨額の詐欺の疑いで逮捕されたという。このような不祥事は、いつの時代も大なり小なり後を絶たないが、まさに前代未聞である。
 怒りよりも先に、ただただ呆れ返るばかりで開いた口がふさがらない。私など、来る日も来る日も信号の現示に特段の注意を払い、「出発進行」の指差喚呼の繰り返しでコツコツと働いている。特に可もなく不可もない。 仕事が終わると帰宅の途につき、歩行者信号が「みどり」になったら足早に進み、「あか」提灯の前では忠実に足を止め、月に何万円かのおこづかいを工夫しながら暮らしているのだ。それでも十分幸せだと感じるのは、悪いことをせず正しく生きているという確信があるからだと思う。
 この逮捕された、本来なら私達の模範となるべき本社の社員は、何が原因なのか、突如人間としての歯車が狂ってしまったのだろう。善悪の区別がつかなくなり、金銭感覚もマヒ状態となって、高級車に乗り、高級クラブなどで豪遊していたのだろうか。
 限りなくナサケナイが、深く深く反省して更正すると固く誓い、罪を償い、これからまっとうに生きられることを祈るだけである。なんて私がエラそうに言えた義理じゃあないけどね……。

○月×日
 こうなるともう、エゲツないというか最低だとしかいいようがない。今度は電車の乗務員室に落書きがしてあったと、同僚が教えてくれた。
「三車(三鷹車掌区のこと)の斎藤、殺す」
 私はまだお目にかかっていないが、三鷹車掌区の乗務員で斎藤は二人いる。私でない斎藤氏は品行方正で、そんなことを書かれる理由が見あたらないから、きっと私のことだろう。「オレのせいで本当に申し訳ない……」と、彼に謝った。
 それにしても呆れるね、ったく。そんなことをして喜んでいるヤツの程度、いや、低度が知れる。チクリ・チクリとやっているつもりなんだろう。子ども達のお手本となるべき大人社会でこれだもの。「いじめはなくならないな」と、改めて強く感じた。つくづくナサケナイ。
○月×日
「注意すれば防止できる」とはいえ、人はだれしも大なり小なり、ポカを犯してしまう。
 JRでは、この種のポカが後を絶たず、誠に頭がイタイわけである。電車が停車駅を通過したり、駅員が寝過ごし駅のシャッターが開かず初電に乗れなかったなど、お客様への迷惑は数知れない。平身低頭謝るしかないのだが、できれば蓋をしておきたい。しかしこれがたびたび新聞紙面を賑したりするからお恥ずかしい。
 今朝の新聞にも小さく載っていた。帰宅ラッシュで満員のJR中央線、東京発高尾行下り快速電車が、西荻窪駅で160mオーバーラン(ホームに後部二両が掛かっている状態)して停車したが、後続が迫っていたために、そのまま次の停車駅の吉祥寺駅まで進んでしまった。そのため西荻窪駅で降車するはずの乗客約100人が、上り電車に乗り換えて戻ったというものだ。原因は、運転士がブレーキのタイミングを逸したためと書かれていた。 私が出勤すると、職場は当然このことで持ち切りだった。いつものように、新聞報道以外に山ほどのオマケがついている。当該車掌はうちの職場だが、気の毒に若い人だった。
 話を総合するとこういうことである。まず、オーバーランした電車を所定の停止位置にバックさせるのだが、指令は「後続接近のためそのまま進め」という究極の指示を出した。このやりとりですでに数分が経過している。若い車掌は必死なわけだが、このような不手際は満員の乗客にはかなり長く感じられ、「ナニやっとるんじゃJRは」的な腹立たしさが募ったのだろう。
 そして次の吉祥寺駅に着くや否や、怒りでプッツンしてしまった乗客の1人が、物凄い剣幕で「お前、現行犯だぞ」とか言いながら無理矢理車掌の腕をつかみ、ホーム事務室(約100m先)まで引っ張って行った。ところが事務室は無人である。なんとも不便なのだが、ホーム要員合理化で駅員がいないのだ。それにますます腹を立てたのか、今度はなんと階段を降りて改札そばの駅長室まで連れて行ったのだという。
 そこで見かねた他の乗客が、「あなた1人が客じゃないんだ、大勢の人が発車を待っている、車掌を早く戻しなさいよ」と言ったために、次は乗客同士のトラブルに発展したらしい。この間約10分で、その後ようやく運転が再開された。車掌には幸い怪我はなかったが大変な災難であった。
 この場合は確かにこちらにも落ち度があるが、不可抗力としかいいようのないコトに対しても苦情を受け、ときには暴力をふるわれ怪我を負うのも、私達現場の労働者である。大半が泣き寝入りで終わってしまうが、仕方ないでは済まされない。
 事を荒立てるのは嫌いだが、会社は時と場合によっては毅然たる態度で臨み、対策をキチンと講じてほしい。これは威力業務妨害として告訴も可能なはずである。

○月×日
 東京地裁で係争中である「北海道・九州採用差別事件」の判決が、五月連休後から夏休み前に出されることが必至となった。
 労働委員会の中労委命令を不服として、JRが行政訴訟に持ち込んだものである。いわゆる国鉄改革法23条の解釈を盾に、JR側はいわゆる国鉄改革法23条の解釈を盾に、「国鉄がやったことであり、JRには使用者としての責任はない」との主張を繰り返し、「裁判なら絶対に勝てる」と明言していたのである。
 その中労委命令とは、「改革法の存在を前提としてもJRの使用者責任は免れない。JRは採用にあたり国労に対して不当労働行為を行った」としたものである。これは国鉄とJRの同一性を認めた、私達にすれば当然の内容であった。
 JRはこれに対して、「労働委員会は法解釈を誤認している。支離滅裂だ」として再審査を申立て、ついには行政訴訟を提起して現在に至っているわけである。
 裁判の争点は、①JRの責任論、②不当労働行為の成立、③救済方法、の三つだが、裁判所は「不当労働行為の成否についてはもちろんであるが、使用者性の問題(責任論)について判断を示さないと先に進まないので、この点について集中的な証拠調べをした上で判断を示したい」との方針に基づいて審理を進めた。つまり、不当労働行為問題を切り離して、使用者責任問題についてのみ判断を下すというものである。
 東京地裁は労働委員会命令を尊重し、JRの不当性を認めた公正な判決を出さねばならないはずだ。国労の宮里邦雄弁護士が、法律家の立場として、「裁判所の判断について100%とか、いささかも不安がないとは思いませんが、負けるはずはないと思っていますし、勝利を確信しています」と発言されているのが心強い。
 いずれにせよ、使用者責任ありという判断が正しいかどうか、改革法23条の解釈を含めた判断が下されるわけである。中労委命令は、行政の法理に照らして正当であり、裁判所において取り消される余地はないが、もし万が一というようなことがあれば、労働委員会制度など無意味となり、法が死文と化してしまう。
 国労は、東京地裁判決をこの10年間の労働委員会逃走の総決算ともいうべき最重要局面と位置づけ、残されたわずかな期間の中で、勝利に向けて総力を挙げて取り組まなければならない。なんとしてでも勝たなければならないのだ。

○月×日
 どうも気になるなあ。10年前にうちの区長を務めていたSさんが車掌区に来ていた。いったい何しに来たのだろう。
 私は乗務を終え、車掌区へ戻るところだった。「やぁ、斎藤君。元気にしているか。いま車掌区に寄ってきたところだ。試験受けてどんどん上行かなきゃダメだよ。なんか困ったことがあったら電話くれ、な」と、相変わらずの早口で一方的に喋り、私に名刺をくれて足早に立ち去っていった。
 名刺には「JC代表取締役常務・S」とある。JCとは、いまや雨後の竹の子のようなイキオイで各駅構内に出店されている、JRのコンビニエンスストアのことである。Sさんは車掌区を出てからは新宿駅駅長を歴任した人で、かなりの立身出世だ。
 それにしても不思議だった。ナニって、私の名前を覚えていることが、である。会ったとたんに私の名前が出てきた。私のようなヒラの部下の名前など覚えているものだろうか。しかも10年ぶりなのである。どうしても勘ぐってしまう。私のことで来たのではと。つまり私はJCに配転させられるのではないだろうか。
「オレはJCの斎藤だ」。うむ、いいかもしれない。何事も明るく前向きにとらえたい。しかし、うーむ……。
○月×日
 これぞ青天の霹靂、実に恐ろしい体験をした。そしてこれは非常に汚い話であることを、あらかじめお断りしておかなければならない。これこそ経験した人でないと分からない。私は初めてだったが、同じ目にあった人はきっといる。最近弱っている私は、そんな人達とぜひお友達になりたい心境である。
 私はいつものように、家でお風呂の掃除をしていたのだった。掃除など嫌いだが、仕方なく毎日こまめにやらざるを得ないのだ。そのさなか突然もの凄い悪臭が鼻を突いた。これは排水溝からの臭いだと、すぐにピンときた。ヒマな私は柄付きタワシなどを持ち出してきて、ついでにタイルもキレイにしてしまった。
 掃除を終えて一服していてると、私のシラノ・ド・ベルジュラク並みの鼻先に、さっきの臭いが染みついてしまったようで、気持ちが悪くなってきた。着ていた衣服を全部洗濯機に放り込んで、シャワーを浴びた。しかしサッパリはしたものの、なぜかまだ臭いが残っている。 そのとき、鼻水がタラリンと滴り落ちた。一ヶ月ほど前に風邪をひいてからは、鼻水だけが長引いていた。それでマスクを手放せないでいたのだが、流行りの花粉症かなと軽く考えて、別に気にもしていなかった。
 ところがである。私は愕然としてウロタエてしまった。突如悪臭の原因が判明したのだ。排水溝などではない。なんと臭いのは自分の鼻水だったのだ。拭いたティッシュを見てみると、それまでは何の汚れもなく美しい(訳はないか)無色透明だった鼻水が、黄色く悪臭を放つ、膿汁となっているではないか。
 熱もあった。一日中何となく身体がだるい気がしていたのは、熱のせいだったのだ。私は、これはまずこの世に例を見ない奇病であると直感した。顔の中、特に鼻の辺りが腐っていて、当然脳も侵され手遅れに違いない……。ホント死ぬほどビビった。
 そうこうしているうちに、今度は口からも膿汁が止めどなく吹き出してきた。自分でも信じられなかったが、現実だからコワイ。しかも臭いは下水の悪臭とでもいうか、最悪なのだ。こんなものを一時でも口に含んでいられようか。吐き気も襲ってきて食事もできない。誰が下水の水で、ごはんを胃に流し込めますか。ただただ鼻をかみ、ペッペ、ペッペしつつうがいするしかなかった。 どうしよう、もう明日から外へ出られない。泣けてきた。私は完全に下水悪臭男と化してしまったのである。 帰宅した妻は、そんな私をしり目に医学書を冷静に開き、呑気に言った。「あなた歯が悪いから、これじゃないかしら……」。そこには「急性上顎洞炎」とあった。確かに症状がすべて合致している。しかしこれほど汚らしい病気が、そう易々と判明してたまるものか。いくら看護婦でも、妻のことなど信用できない。
 翌朝、早い時間に職場に電話を入れて休暇をもらった。ここで助役とのやり取りを書いている場合ではない。それほど大変だったのだ。一番で病院に行きドクターに診てもらうと、悔しいかな、妻の言うとおりであった。「治癒するから心配なし。併せて歯科にも行くように」。トホホ、しばらく病院通いか。気が重い。

|

« サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/国労本部 カンバン ナメクジ声 | トップページ | サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/八王子 大チョンボ 中曽根 »

サイテイ車掌のJR日記/斎藤典雄」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7647687

この記事へのトラックバック一覧です: サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/サイキョウ線 春一番 JC常務:

» 車掌が車内で排便!異臭で車両交換=JR福知山線 [時事報道ターミナルステーション]
8月31日(金)午前6時15分ごろ、兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口駅で、同駅発京田辺行き普通電車(7両)の運転士から総合指令所に「車内が汚れている」と連絡があった。直前まで運転室にいた男性車掌が「便をもらした」と運転手に告げており、JR西日本は悪臭のため使用できないと判断し、車内清掃のため電車の運行を取りやめたという。... [続きを読む]

受信: 2007年9月 1日 (土) 22時09分

« サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/国労本部 カンバン ナメクジ声 | トップページ | サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/八王子 大チョンボ 中曽根 »