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サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/証人申請 手紙 おババ

■月刊「記録」1998年4月号掲載記事

○月×日
 いま国労は裁判所に対して、国鉄分割民営化の際に設立委員であった斎藤経団連名誉会長・杉浦元国鉄総裁ら5人を、証人として採用するよう申請している。これは東京地裁民事19部がJRの不当労働行為責任を問うために、採用過程での設立委員の認識を指摘したことに対し、斎藤氏らの証言が必要不可欠なためである。
 さて、2月3日付の新聞各紙の報道によると、一方の民事十11部では、北海道・九州の国労組合員がJRに不採用になった問題をめぐる訴訟について、和解による解決を断念し、五月から六月をメドに判決を出すことを決めたという。なお、早期・抜本的に解決を願う認識に変わりはないとして、判決の時期や内容に関わらず解決に努めるよう(関係者に)要請したということだ。
 この問題は昨年5月28日に結審してから、判決までに丸1年かかったということになる。しかし、この間も裁判所は非公式にJR側の人間を何度か呼び出し、和解の話し合いにつくよう要請したという。結局JRの拒否姿勢に変化はなかったわけだ。
「いうことをきかない子だなぁ、お前は。父さんを困らせるんじゃないよ」。これは私の息子に対する気持ちだが、11部の萩尾裁判長も、きっと同じような思いを抱かれて困惑していることだろう。
 それにしても長すぎやしないか。国鉄の分割民営化からすでに11年が経とうとしている。労働委員会といい、裁判といい、あまりにも膨大な時間が費やされている。本当にこのようなシステムも何とかならないのか。歯がゆくてしかたない。
 そうしている間にJRのトップは変わる。総理大臣さえコロコロ変わった。おエライさんは変わってしまえばそれでおしまいである。断じて許せない。変わらないのは、国鉄組合員というだけで仕事も誇りまで奪われ、今なお非人間的な扱いを受け続けている闘争団の仲間達と私達労働者である。
 しかし、人間としての真の心は変えることはできない。取り残されても、ペチャンコにされてもへこたれてはならない。人間は助け合って生きていくものだ。国労の勝利判決の日も目前に迫る情勢となった。

○月×日
「またか」と言われそうだが、滅多にない土・日の休みが酒浸りとなってしまった。
 丹波(京都)の山奥から、私の親友であるK氏が突然やって来た。普段のK氏は礼儀正しく誰からも慕われるいいオヤジなのだが、酒が入ると山奥に住んでいるせいだとは思わないが、ほとんどケダモノと化してしまい、手が焼ける。どれほど危ないかは、残念だがケダモノという以外は伏せておくしかない。なぜって、K氏の人権に関わるのだ。とにかく飲まなければいい人なのだが・・・・・。
 昼間から新幹線で飲んできたK氏は、もうすでに出来上がっていた上に、昔からの仲間であるM夫妻との再会も加わり、上機嫌だった。まずは焼き鳥屋で再会を祝して乾杯。それぞれの近況を報告しあいながら和やかに話は弾み、次はカラオケ。再び飲んで食い、歌うというより吠えまくったのであった。
 何事もなく、楽しいひとときを過ごせたことを感謝してM夫妻とはここで別れ、そんなに遅くない時間にわが家に辿り着いた。今度は私の妻の歓迎で酒宴は延々と続く。翌日が二日酔で台無しになるのが分かっていながら飲む。もうよせばいいのに、今日しかないとばかり、ホント、酒に懲りることはない。
 翌日、日曜日だが妻が勤務で、早朝に起きる羽目となった。二人とも体調は最悪で、何の当てもなくわが中央線に乗り、新宿駅で降りた。駅のトイレから出てきたK氏は目に涙を浮かべ、「もどした」と辛そうに言った。ぶらぶら都庁まで歩き、45階の展望台で身体を休める。JR中央線が、玩具の模型のように小さく動いているのが見えた。
「1レースだけやろう」と決めた馬券が運良く的中し、少し儲けたが、2人とも2日酔いで朦朧としているので、ちっともイキオイが出ない。「こうなりゃ迎え酒しかないやろ」と店に入り、ビールを注文した。
 新幹線で帰るなら近い方がいいと、新宿を後にして東京駅へ向かう。週末はどこもかしこも大変な雑踏で疲れてしまうが、日曜日の官庁街は驚くほどガランとして気持ちがいい。東京駅八重洲地下街の居酒屋で別れの酒を交わした。やっぱり飲んでこそK氏だ。今回は何事もなくて本当によかった。新幹線に乗るK氏を見送った。「ほな、さいなら」。男を見送るのに胸が詰まった。

○月×日
 闘争団家族からの切実なる訴え、手紙を読んだ。なんともやり切れない。私達はJRの仕事があるだけ救われている。同じ国労の仲間なのに気の毒で何と言ってよいかわからない。「いつもノーテンキに酒ばかり飲んでいて済まなかった」とお詫びしたい心境だ。筆舌に尽くしがたいとはまさにこのことである。抜粋して一部をご紹介したい。
『議員の皆さま、重要な法案が目白押しの国会会期中でありますが、ぜひ、私の声に耳を傾けてください。十年以上も前の「国鉄国会」で決められた組合差別はしないという付帯決議や、一人も路頭に迷わせないという中曽根元首相答弁がいまだに守られていません。
 虫けらのように、国労というだけで一方的に職場を追放される。また、百名を超す仲間が国鉄当局の脱退工作やイジメ・嫌がらせで自分の命を絶つといった異常な状況のなかで、心優しい夫は本当に悩まされていました。 正当な労働組合である国労に残ったというだけで、どうして不採用なのか。繰り返しますが、まるでゲームのように国労というだけで差別し、排除する。そのことをどうしても許せません。これはみんなの共通した気持ちです。だから苦しくても手をつないで頑張っています。 壊れた生活のなかにもそれなりの幸せがあります。夫達が一日も早くJRに帰れるように、ぜひ、先生方のお力をお貸しください。どうぞよろしくお願いいたします』――九州熊本闘争団家族・栗原幸子さん。
『国鉄が分割民営化されてから十年以上の歳月が流れました。その間、私達は言葉に言い表せないほど、辛く苦しい立場で生活してきました。「怠け者」のレッテルを貼られ、金銭面では最低の生活を余儀なくされ、明日食べる米の心配をする日々が続いたのは本当に事実なのです。
 それでもどうにかやってこれたのは、夫は何も悪いことはしていないと信じていたからです。夫達のアルバイトの収入だけでは、子供の教育費すら支払うことが出来ず、援助金を受けています。ある日、小学校1年生の息子が私にこう言ったのです。「お母さん、給食費払って! それでないと僕、給食食べられない」と。
 小さな体を振るわせ、大粒の涙を流したわずか七歳の息子が、どんな悪いことをしたのでしょうか。私は闘争団員の妻としてだけではなく、母親として、そして一人の人間として、これ以上いたずらに解決を先延ばしする人間を許すことはできないのです。
 人間には許せることと許せないことがあります。「一人も路頭に迷わせない」そう言った人たちがいました。言った人はそのことを忘れてしまったのかもしれませんが、私達はハッキリ覚えています。嘘をついてはいけないことは小さな子供だって分かります。なぜ嘘をついたのか、そんなことが許されていいのかと、私は不思議でならないのです。
 どうぞ心からお願いします。一日も早く解決できるようにお力をお貸しください。私たち家族は、一分でも一秒でも早く解決の時が来るのを心の底から望んでいます』――北海道名寄闘争団家族・橋本真弓さん。
 まったくその通りだ。11年間頑張って、よく耐えてこられたと敬服するほかない。ガンバロウ!! あともう少し、待ちに待った春が必ず訪れる。

○月×日
 十年余にわたる、人間の生きざまを賭けた闘いが、今まさに最大の山場を迎えている。この次はどうするなどということは、もうない。勝つか負けるか、待ったなしの最重要局面である。
 2月18日、東京地裁民事19部・5都県採用差別事件の裁判で、高世裁判長は突如として結審を言い渡した。すでに結審している北海道・九州採用差別事件の民事11部に合わせ、5月下旬から6月ごろに判決を出すという。 11部において「裁判所の意見」として、紛争が長期化していることを鑑み、「早期抜本的解決を図るべき時期にきている」と述べられたように、のんびりなどしている場合ではないのだ。11部も19部も中身は似たり寄ったりなのである。
 高世裁判長は、国労が申請した斎藤英四郎氏ら設立委員の証人採用は必要なしとした。直接関わった当事者を証人として採用しないことには不満も残るが、「設立委員の認識」が地労委・中労委を含めた今までの審理や他の証拠で、十分立証されていると判断したからであろう。もし万が一立証されていないとなれば、証人を採用しないことが審理不尽として裁判所の重大な責任となることからも、すべて検討し尽くした上での判断であるはずだ。 いずれにせよ、国労勝利判決は揺るぎないと確信する。多数の労働法学者や学識経験者で構成される全国の地労委・中労委が一致して、JRの使用者責任や不当労働行為を認めているのである。裁判所という司法の場で覆るものではない。
 そしてJRは、国鉄改革法を盾に「責任」はない、ないと言い続けてきた。しかしその「JRは国鉄を継承しない(別法人)」とする改革法23条も、この10年余の社会的常識で完全に崩れようとしている。おエライさんがいくら継承しないといっても、政府が長期債務をJRに負担させようとしていること自体が、JRが国鉄を引きずっていると認識しているからではないか。
 証券取引法違反の嫌疑がかけられ自殺した自民党の新井将敬代議士。彼の遺書の一部が報道されていた。
「我われは法をつくる仕事をしている。不法なことでも法はつくらなければならない」(2月20日付朝日新聞)。まさにコレだと思った。改革法も不法なのであろう。
 心を引き締め、自信と確信を持とう。幸せの結末、「はっぴいえんど」で締めくくりたいものである。

○月×日
 何はともあれ、3日後に引っ越す手はずとなった。頭金も全額払い込み、ついにわが家のものになったのだが、ちっとも実感が湧いてこない。しみじみ喜びに浸っている暇が全然ないのだ。ここしばらくの間、あちこちに出向いては何が何だかさっぱり分からないまま、担当者の言う通りに、ただひたすら実印をベタベタ押しまくった。書いた書類も数知れない。
 秒読み段階となった今は、最後の準備でえらくシビレている。仕事に出ているときが一番ホッとするといっていいほど、目まぐるしく忙しい。
 長い間住み馴れた武蔵境を離れるという思いより、八王子の新居で暮らす今後の夢と希望の方が遥かに大きい。しかし、なじみの飲み屋と疎遠になるのかと考えると実に淋しくなる。なにしろ妻以外でお世話になった女性は、この飲み屋のおかみをおいて他にいないのだ。
 よく通った。大好きだった。優しく上品で、悲しくなるほど美しく、心から安らぐことができた。お礼を言わなければならない。ありがとう、本当にありがとう。長生きしてほしいなぁ、飲み屋のおババ・・・・・。

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