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サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/昇進試験 見習い車掌 カラス

■月刊「記録」1996年8月号掲載記事

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○月×日

 昇進試験が迫っている。国労組合員は何回チャレンジしても受からない。不合格馴れしてしまった私達には、イヤイヤながらも年に1度の「行事」だからと仕方なく参加する雰囲気が非常に強い。いわゆるアキラメムードなのだ。
 イヤイヤならよしたらいいのにと思われるかもしれない。しかしこれは、国労が「昇進差別」であるとして東京都労働委員会に救済申し立てを行い、闘っている「事件」でもあり、全組合員が受験していこうと取り組んでいるのだ。つまり、「上位職になど上がらなくてもいいもんね」という人でもほとんど皆が受けている。このことからも、国労には従順で真摯な人が多いということがよく解る、でしょ。
 がしかし、考えてもみよ。入社したてのわが子のような若い社員と、同じ場所で同じ地位の試験を受けるのだ。乗務経験が豊富であるのはモチロンのこと、知識や技能に関しても遥かにスグレているという自負とプライドがある。抵抗を感じる組合員がいて当然だが、「こんな合否のデタラメな試験なんてクソくらえ、やってらんないよ」と思いつつも、私達は胸を張って試験に挑む。ハッキリいって惨めなものである。しかし、これこそ並みの人間にはチト真似はできない、ちょとやそっとのことには動じない国労組合員の度量ではないだろうか。
「典ちゃんはいつの日になってた?」と数人の同僚から聞かれた。「×日だよ」と答えると、「なぁんだ一緒じゃない、よろしくね」と口々に言う。「よろしくね」とはコレいかに。いやはやなんとも、試験が終わったらちょいと一杯、残念会をやろうという約束なのである。私達はいつもなにかにつけて飲む。楽しく飲むことしか頭にないのだ。困ったものだよね。
 誰もが受ける前から落ちると端から決めてかかっているが、やはり受かりたいのが本音である。この昇進試験の制度により賃金格差が拡げられている以上、私にとってもますます切実な問題となっている。JRという会社に労働力を売って得た賃金こそが生活費なのだから。
 今年こそ合格したい。「オレはJRのサイテイだ」などという汚名も返上したい。家に帰ったら必死で勉強しようとヒソカに思う。試験まであと2日だ。もはや深刻な様相を呈する秒読み段階となっている。こんな日記など書いている場合ではない。「うーむ、あと2日か」。合理的なやり方はないものかと真剣に考えてみる。でも、こうなったらやっぱり、運を天に任せるだけしかないみたいだね。「グッド・ラック」。

○月×日

 先日、うちの職場に30人もの新人がドヤドヤとやって来た。今後のJRを担う期待の車掌達の赴任である。あどけなさの残る夢多きカワイイヤング。オメデトウ!!
 彼等は憧れ?の車掌試験に合格すると、1ヶ月間を大宮にある中央研修センター(旧鉄道学園)で過ごす。ここでは運転・営業の鉄道規則や心得、接客・サービスなどを泊り込みで学ぶ。そして、めでたく終了証書を手に見ると、それぞれの車掌区に「車掌見習」として配属される。約1週間の机上学習後いよいよ本線乗務の見習いとなり、1ヶ月ほどの見習い期間を経て、晴れて車掌として1本立ちするわけである。
 さて、見習いには指導する者がつく。当然それは、私達先輩車掌が手取り足取り懇切丁寧に教えるということになる。会社から指定された特に優秀な者が1ヶ月間マンツーマン、付きっ切りで指導に当たるのだ。右も左もわからぬ新人だから、食事、風呂、寝るのも飲みに行くのも一緒という、いわば公私共に、密接で強固な師弟関係が形成されるのである。
 とにかく指導車掌にはトコトン世話になる。もはや一生頭が上がらぬほどの絶大なる影響力が生じるといっても過言ではない。見習いにとっては指導車掌サマサマなのである。
 ところで、私達国労組合員で指導車掌に指定される者は何人いるかというと、それが、な・なんとゼロ!! 赤ん坊でも数えられる「だあれもイナイ」のである。会社はこうも徹底して異常な施策をとっている。
 私の職場には、JR東日本内最大の東労組(東鉄労のこと)、鉄産労、そしてわが国労と、3つの組合が併存するが、指導になるのはいつも決まって東労組の組合員が圧倒的多数を占め、鉄産労がチョビチョビ、そしてもう一度言うが国労はゼロなのである。
 組合間差別であることは一目瞭然だが、特に問題なのは車掌歴20・30年の経験豊かな国労のベテランを差し置いて、車掌になってわずか2年程度の東労組の若い車掌を指導にしているという点である。なにも私は若いから技能や安全面が劣るとか、不安だというのではない。若くても一人前の立派な車掌達である。
 利点も確かにある。若者同士で息が合い、同じ東労組だから仕事もしやすいだろう。また、和気あいあいと活気に満ちて職場の活性化にもつながるかもしれない。しかし、もっと真剣に考えるべきではないのか。
 車掌とは安全正確な運行が至上命題であり、常に人命を預かるという責任重大な任務をもつ。要は、事故など異常時のイザという局面で、いかに的確な判断で技能や知識を発揮できるかということにつきるのではなかろうか。初めのうちは誰もが緊張でたじろぐものだ。中には何度やってみてもオタオタと五里霧中の者もいる!?が、経験を積んでこそ適切な対応が可能になるものである。 また、各線区にはさまざまな細かい特徴がある。乗降客や沿線の状況・駅・信号・踏切・線路等の把握。やはりこれらも経験が長いほど身につき、精通した者こそよりよい指導ができるのはわかり切ったことである。
 例えば、沿線で保育園のある場所とか、あの駅のアソコには鳥の巣があるとか、あの家の爺さんは12年前から沿線(JRの敷地)に勝手に野菜を作り、ときどき草むしりをしているとか、一見車掌業務とは関係がないことのようだが、実はヒジョーに大ありなのだ。園児達に手を振らなければならない。ホーム歩行中に鳥のフンが落ちてくることはよくある。爺さんが突然ボケて線路内に立ち入る危険性だってないとはいえない。ねっ!! 他にもこのような事例は山ほどあるが、JR中央線も2・3年で「完全制覇」できるものではない。
 以上のことから、会社は優れた知識や経験に重点を置き、ふさわしい人物を指導車掌に指定すべきなのだ。
 それとも会社は「車掌など誰にもできる、斎藤だってやっている」と、運転士の付属品ぐらいにしか考えていないのだろうか。会社を家庭に例えるなら、JRはわが家のような不良品になってもよいというのか。私だって子ども達を、家庭を良くしたい。家庭教師もお手伝いさんも雇いたいくらいだ。「この親にしてこの子あり」でわが家の場合はしようがないが、JRは会社をよりよくしたいと本気で考えるのなら、このような不合理な指定方法も組合間差別も直ちに改めるべきである。
 新入社員は1人残らず東労組に加入させられる。会社と東労組が一体であることが良く分かる。東労組は、入社以前に会社しか知り得ぬ採用内定者宅へ「組合の説明」と称して菓子折り持参で赴き、「最大組合で昇進にも有利になる」などと加入の確約まで取っている。国労が加入を呼びかけるビラを配布すれば、会社自ら回収に当たる。加入オルグに熱心な国労組合員を直ちに他職場へ配転するなどの露骨な見せしめによる報復的措置など。 このように常軌を逸した大人気ないお粗末は枚挙にいとまがなく、今となってはただ呆れ返るばかりだ。会社イコール東労組は、私達国労に対して敵意をあらわにし、新人には指一本触れさせまいと国労排除の労務政策に躍起だが、今にきっと破綻するだろう。
 会社管理者にも東労組の中にも、一部の「集団」を除けばオカシイと思っている人が大勢いる。己れの保身のためコワくて何も言えないだけなのだ。「国労は間違ってはいない。国労は正しかった」と、誰もが認める日が必ずやってくる。国労は勝利する。そして正常なJRに戻るのだ。良心を持った人間であれば、いつかはきっと更正するものである。実はこの世の中に「妖怪」などは存在しないのだ。

○月×日

 JR東海高山本線で特急列車が50トンもの落石に衝突し脱線するという事故が起きた。軽傷17人ですんだのは奇跡的だ。
 大雨により地盤が緩んだ結果の落石だが、脱線車両は下を流れる飛騨川に落ちかけ、斜面の途中で止まるという、大惨事とまさに紙一重だった。
 いつものことだが、時間が経つにつれ次から次とお粗末な事実が浮かび上がってきた。この山林の地主から落石の危険性を指摘された県は、調査をしたものの「安全だ」という結論を出していたという。また、事故速報が遅れたのは乗務員が近くの民家まで電話を借りに行ったからだという。
 列車に搭載されていた無線機はなんと司令と交信ができない旧式の無線機だったというからナサケナイ。
 当然のように運輸省は全国の鉄道事業者に危険箇所再点検の通達を出した。コトが起きてからでは遅いよね。今年2月には北海道豊浜トンネル崩落事故があったばかりではないか。過去の教訓が全く生かされていない気がしてならない。安全は輸送業務の最大の使命である。早急に改善策を検討し安全には万全を期すように、なんて私がエラそうにいうまでもない。

○月×日

 この春からの一連の列車妨害事件である東海道本線の置き石3件について、「カラスの犯行」であると神奈川県警が断定した。カラスが石をくわえて線路上に置くという、決定的な瞬間をとらえた写真が新聞に載っていた。 それにしてもカラスがクロだったとは。シロなわけはないのだが、なんだかオカシくて拍子抜けしていまった。カラスじゃ憎めないよね。もしかしたら、人間がカラスを見ている以上にカラスは私達を高い所から見て知恵をつけているのかもしれない。弱い者は心ない人からいつ何をされるかわからないから。
 しかし、なぜ線路に石なのか。カラスに歌で問いかけてみたい。「カラス、なぜ置くの」と。これはやっぱり「カラスの勝手でしょ」しかないだろうな。「カァ、カァ」。

○月×日

 乗務中よく知人を見かける。とくに通勤ラッシュ帯にその確率は高い。今日は都庁に務めるM氏を見た。私の住む街、中央線武蔵境のホームでは、名前は知らないがあの顔もこの顔もお馴染みになってしまった。私は別にキョロキョロしているわけではありませんよ。業務は厳正に遂行している次第である。
 誰もが皆、バリバリ働きながら生きている。来る日も来る日も毎朝、超満員の中央線に乗ってそれぞれの職場に向かうのだ。新宿と四ツ谷でほとんどの人が下車され、お茶の水・神田・東京でみな下車される。仕事場までその先も更に乗り継いで行くのだろうか。私は職場まで自転車で10分で着いてしまうし、たとえ電車を利用しても1駅、降りた目の前が職場だ。だから電車通勤の人を感心するし、ご苦労様と心から思う。
 さて私達中央線車掌は、終点の東京に到着したら乗務が終わりというわけではない。一服している暇などないのだ。5分程ですぐ折り返し下り電車の乗務となる。しかし上りラッシュの殺人的混雑とはうって変わってガラリと空く。乗務中なのに不謹慎のようだが、ホッと一安心、ちょいと休憩という気分が本音である。
 ふと、新宿で降りた知人M氏が思い浮かぶ。いまごろ彼は職場(都庁)に着いて、デスクに向かい1日を有意義に過ごそうと仕事に励んでいるのだろう。なんだか彼が羨ましく感じてしまう。私はといえば‥‥、あっ間もなく新宿に到着か。「出口は右側です」のアナウンス、こればっかり。私も電車を降りて会社に向かいバリバリ仕事をしたいと思う。だって1日中電車に乗っているだけなんだから。ん?ちょっと違うか。  (■つづく)

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