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鎌田慧の現代を斬る/翼賛カレー体制の地獄図絵

■月刊「記録」2003年3月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 和歌山市で98年7月に発生した、4人死亡63人の被害者をだした「カレー毒物混入事件」にたいする判決が、12月11日、和歌山地裁でいいわたされた。林真須美被告にたいする死刑判決に、わたしは重大な疑義を抱いている。
 まず、この判決において直接的な証拠はあきらかにされていない。つまり状況証拠による死刑判決である。しかも間接証拠には、被告の犯行以外の行為までふくまれている。新聞などに掲載された判決骨子には、次のように書かれている。
「被告は保険金取得目的でカレー事件発生前の約1年半の間に、4回も人に対してヒ素を使用しており、通常の社会生活において存在自体極めて稀少である猛毒のヒ素を、人を殺害する道具として使っていたという点で、被告以外の事件関係者には認められない特徴であって、カレー事件における被告の犯人性を肯定する重要な間接事実である」
 裁判官が林被告の犯行と断定したこの4つの事件は、被告が作った食事を食べたあと、被害者が急性ヒ素中毒の症状と合致した症状をしめしたこと。あるいは被害者に多額の保険金を掛けていたことなどを根拠としている。しかし事件発生当時、嘔吐などの症状をヒ素による中毒だと病院側が認定したわけではない。もしそうなら、その時点で警察が動きだしていたはずである。つまり「ヒ素混入」を疑えば、状況が説明できるといった程度の「証拠」といえる。
 検察側にいたっては、カレー事件から10年以上前に起こった従業員の死亡や夫の激しい嘔吐までふくめ、計11件もの事件を被告の犯行とし、そのすべてを間接証拠にしようとした。ここまでくれば呆れるほかないが、さすがに、裁判所は、このうち、7件は退けられたとはいえ、くず湯、牛丼、マーボー豆腐、うどんなどの4件を証拠として採用している。これらの保険金不正取得殺人事件は、いずれも「未遂」に終わったもので、証明は難しい。
 また、林被告がなぜカレー事件を起こしたのかもハッキリしていない。近隣住民の冷たい態度に被告が激高したという検察側の主張を裁判所は退け、「動機が不明確である等の事情は被告の犯人性の判断に影響を与えるものではない」といいきっている。動機は不明だが犯人だ、との判決である。
 これまで自供に重きを置く司法当局の方針が、数々のえん罪を生みだしてきた。密室で自供を強要し、証拠が不足していても刑が確定した。ところが林被告は、完全黙秘を貫いている。すると今度は、黙秘を認める。が、間接事実で有罪にする。
「被告はカレー鍋に亜ヒ酸を混入したと極めて高い蓋然性をもって推認することができる」。この判決でを眼を疑うほどに多用されているのは、「蓋然性」である。『広辞苑』によれば、「蓋然」とは「或いはそうであると思われるさま」という意味であり、「必然」の対語であるという。「あるいはそうかもしれない」という程度の認定で、死刑に処するのはあまりに、無責任だ。
 さらに量刑の理由として次のように書かれているのも気になる。
「カレー事件は猛毒の亜ヒ酸をひそかに食べ物に混入するという匿名性の高い犯行態様であるばかりか、子供を含む不特定多数の者が食べることを知りながら、多量の亜ヒ酸をカレーに混入した無差別的犯行である。極めて悪質かつ冷酷といわなければならない。
 死亡被害者の無念、悔しさは言葉に表しようがない。最愛の家族を突然奪われた遺族の心の傷は深く、その悲しさ、理不尽な死に対する怒りは、聞く者の胸に強く迫る。本件犯行の残酷非情さを感じざるを得ない。被告の遺族のこの悲痛なまでの叫びを胸に刻むべきである」
 裁判官は声を詰まらせて朗読した、との報道もあったが、死刑判決が当時の沸騰した世論に影響され、そして迎合していないかどうか。
 その一方で、裁判官は、ことごとく、マスコミの過剰な報道をも批判している。「事件の捜査、審理にも及ぼしかねなかった」と書いているが、本人自身、それに大きな影響を受けているのだから、他愛ない。さらにマスコミによって報道されたビデオを証拠として採用した件については、次のような理屈を用意している。
「報道機関には、国家に適切に権力を行使するよう促す役割もあると考えられ、報道機関が作成した映像が証拠とすることは報道としてのあり方として矛盾しないものと考える」
 これは暴言だ。報道機関の役割とは、国家権力の行使を促すためではない。国家権力の行使を監視するためで、どさくさまぎれの我田引水。けっして認められない論理である。マスコミは抗議すべきである。裁判官がマスコミを国家の道具とみなしたことは、さいきんの政府のマスコミ規制方針に忠実に従ったものだ。
 そもそも、マスコミの犯罪報道は、「犯人視」報道が中心である。警察情報による報道だからだ。大事件の「容疑者」は、たいがい「犯人」あつかいだ。これらの報道が冤罪の解決を難しくしてきたのに、こんどは、その犯人視報道を証拠に採用するという。「容疑者」が犯人にされる恐るべき構造が、ここにできあがったことになる。
 わたしには、林被告が犯人か、それとも犯人でないかはわからない。しかし、直接証拠がなく、「蓋然性」程度でしか判決を下せないとしたら、むしろこんごの裁判を変え、勇気をふるって推定無罪とするべきだった。検事が新証拠や新事実を発見したときに、あらためて有罪判決にすればよい。このような曖昧な形で死刑判決が許されるのは、まるで中世的暗黒だ。小川育央裁判長の脳裏には、「無罪を証明できなければ有罪」という判断が刻み込まれているようだ。しかし「疑わしきは罰せず」。「合理的な疑いを超える程度に証明されなければ」無罪、それが裁判所の基本のはずだ。有罪を証明できなければ、世論に迎合せず、率直に無罪とすべきだった。

■隠蔽だらけ、八百長だらけの原発事業

 このあやふや判決の裏で密かにおこなわれたのが、東京電力の偽装事件処分である。東京電力は、福島第一原子力発電所の試験データ偽装工作などの発表を小泉の訪朝時期にぶつけ、新聞でのあつかいを小さくさせる姑息な手段をとった。今回もカレー事件を隠れ蓑に、保修課長を諭旨解職に、他8人を降格やけん責など懲戒処分にすると発表した。大事件の陰に隠れて事実を小出しする姑息さは、データ偽造や自己隠蔽を繰り返してきた同社の体質をよくあらわしている。まるでゴキブリだ。
 もちろん、こうした戦略にのってしまうマスコミにも問題はある。北朝鮮報道にみられるように、「集団主義報道」によって、1頭走れば1000頭走る“ドッグレース取材”をしているからだ。
 12日には、「東京電力の不正損傷隠し事件」を東京地検に告発した市民の記者会見がひらかれた。記者は熱心にみえたが、紙面化したのは、『朝日新聞』と『日経新聞』のベタ記事にとどまった。全国3180人の市民による検察庁への告発は、近隣住民どころか日本じゅうに重大な驚異をあたえながら、「身内」だけで解決しようとする東京電力にたいして、正当な罰をあたえさせようするものである。大東電なら、企業犯罪に目をつぶろうする原子力安全・保安院を動かそうとする運動を、公器の新聞が大きく報じないでどうするのだろう。
 そもそも原発推進官庁である経済産業省のなかに「保安院」があるのは、ピッチャーがアンパイアを兼ねるようなものである。もちろん電力会社も経産省とおなじ原発推進の立場であるから、三者は“なあなあ”の関係である。なるべく不正は隠し、見つかったものだけ身内で適当に処分する。そんな八百長三昧が、何十年もつづいている。誰かが行動を起こさなければ、事実は永遠に闇のなかなのだ。
 膨大な人命に関わる原子力発電所の操業を、事故隠しや損傷隠しによってあえて維持したのは、全国住民の命を軽く扱った犯罪行為といえる。
 東京電力にたいする告発状は、「様々な情報を総合すれば、かなり以前から、国も電力も、原発の損傷の発生は不可避であり、予防保全の考え方は破綻していることを相互に了解していたと思われる。にもかかわらず、予防保全の考え方に基づいて『原発は常に新品同様の状態にメンテナンスされた上で運転されている』という、虚偽の宣伝を繰り返してきた」と断じている。
 これまで、なんど事故を起こしても、国・電力会社・監督機関のなれ合いがつづいている。それでは、原力会社や関連企業の隠蔽体質が変わることはない。第2のチェルノブイリ事故が日本で起きる前に、原発から撤退しなければならない。安全をもとめる市民の声を伝え、撤退をはやめさせるのが、メディアの役割のはずだ。

■イージス派遣に喜んだのは?

 報道状況は悲惨だ。三ヵ月も続く連日のラチ報道と相変わらずの「国民的」北朝鮮バッシング、そして先ほど触れたカレー事件の大報道。その陰に隠されていたようにインド洋にむけて出向したのが、イージス艦である。 小泉内閣およびウルトラ石破茂防衛庁長官の最大課題の1つが、イージス艦の派遣だった。『毎日新聞』(12月10日)によれば、派遣決定の1ヶ月も前の11月8日、山崎拓自民党幹事長は「日本はイージス艦を派遣する。イラク攻撃の間接支援になる」と、来日したファイス米国防次官に断言したという。こうした動きにたいして、公明党も口では反対を唱えながら、「黙認」のサインとか。“はじめに派遣ありき”。とにかく「護衛艦のローテーション」、「艦艇内の居住性」、「調査能力」など、どうでもいい派遣理由がつけられた。
 日本は約1200億円もする“無用の長物”イージス艦を4隻もアメリカから買い、貿易赤字削減に貢献した。その虎の子1隻を、280人の兵員をつけてアメリカ軍に貸すという。しかし世界最大の軍事大国であるアメリカにはイージス艦が約60隻もある。日本の1隻に期待しているわけではない。派遣は実績稼ぎおしつけといえる。
 石原防衛長官は大のイージス艦好きで、風呂でもイージス艦のプラモデルで遊ぶのが趣味だ、という噂が国会周辺で流れているそうだ。真偽のほどはともかく、イージス艦派遣はヘータイごっこのひとつなのだ。
 今回のインド洋へのイージス艦派遣は、既成事実を作るための派遣である。先月号で取り上げた教育基本法改が、憲法改への橋頭堡であるのと同様、イージス艦派遣はこんご多国籍軍に参加するさいの大きな踏み石となる。軍事大国へまっしぐらである。
 いま、小泉政権にたいする批判は、ほとんど経済政策に偏っている。しかし、小泉政権の本性は、アメリカ国家の経済政策と軍事方針にひたすら忠実に、人民の支配強化と収奪を強め、軍国化へとむかうどう猛政権である。それはマスコミ規制の欲望によくあらわれている。
 それでなおかつ支持率が高いというのだから、いまや有権者の無知こそ批判すべきだ時期だ。保守党の野田党首が自民党に復帰しようとしたり、民主党の鳩山党首が自由党と合同して「民主自由党」をつくろうとしたり、元自民党の連中は自分の都合ばかりで、いかにも権力に弱い。彼らに任せておくと日本は加速度的に破滅への道を進む。不満はキチンと声にすべき時期だ。(■談)

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