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サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/内助の功 鉄道オタク 12月

■月刊「記録」1997年2月号掲載記事

○月×日
 今この生活があるのはJRのおかげである。仕事は楽しく酒もウマイ。感謝している。しかしこと争議関係となると「ねえ、ねえ、オカシイよねえ」と、私は会う人会う人に言いたくなる。部内で解決できない異常な状態だから、国労は外へ訴えるのだ。
 国の所轄である労働基準監督署に行くと、「JRはまだこんなことやってるんですか、変わりませんね」と呆れられる。そして、上部の労働基準局からも厳しい指導を受けるのだが、一向に改善されない。「JRといえども労基法の適用除外にはならない」と。それにしても「いえども」という表現には考えさせられる。
 また、同じく労働委員会が発した不当労働行為の救済命令にも、JRはどこ吹く風とばかりに一切従っていない。その数はなんと132件という前代未聞の異常ぶりで、中労委でも多くの事件が結審して21件の命令が出ているのだ。普通の企業なら命令に従うのが常識ではないだろうか。JRは裁判所へ提訴して争っているが、最高裁の判決に対してまで何のつもりか、「不本意だ、判決を取り消してもらいたい」などと、反省のカケラもなく、さまざまな法違反を平気で犯し、国の法体系をないがしろにしているのだ。どう考えてもオカシイ。つくづくヘンだと思う。
 事件を起こした張本人達は、争議をこれでもかこれでもかと引き延ばして出世コースを歩んでいる。そして、救済命令・勝利判決を受けた正当な人達はいまだに辛酸をなめ、以前の状況と何一つ変わっていない。こんなバカげたことがあってよいはずがない。私はどうしても納得できないし、断じて許せない。
 ふと思う。私達のやっていることは、まるで富士山を崩そうと毎日スプーンで穴を掘っているようなものだと。それでもいいさ。確信をもったことは最後まで貫きたい。いったい何度目の冬を迎えたのだろうか。せつないなあ。
○月×日
 妻は木枯らしの晩にポツリと言った。「わたし、来月から外来の婦長に決まりましたから」。
「よせ、よせよ。オレがボチボチ試験に受かって、そのうちドカーンと(?)行くから。今のままでいいじゃないか」、私はコトあるごとに妻に言ってきた。
 仕事の責任が重くなり大変だというより、これ以上家を空けられたら私自身がたまらんからだ。炊事、洗濯、掃除といった日常の家事。以前ならイキオイで何とも思わず片づけたのだが、近頃では山のような、洪水のようなそれらが、私を大災害にでも見舞われたかのような気分にさせる。何もしない、ホントに何もしない4人の子ども達。私の教育が行き届かなかったといえばそれまでだが、つくづく情けなく泣けてくる。そして私はこの通り、何年たっても「今のまま」でサッパリなわけである。 出世だ。普通なら誰だって「おめでとう」と、労いの言葉をかけるところだろう。しかし、私の胸中はフクザツだった。「あっ、そう、大変だね」と弱く呟いただけだった。素直に喜べない。なんだかちっとも嬉しくない。祝ってなんかやらない、もんね。
 しばらくすると「オレもなかなかやるもんだ、よくやって来たよなあ」という気持ちが沸き起こってきた。オレの内女の、違うな、内助の功も大したもんだ、と。しかしなんだナ。亭主が女房に「命預けます」なんて、時代の先端を行っているのかなあ……。

○月×日
 あれほど「組織的犯行か」などと大騒ぎした列車連続妨害事件の1つ、JR横須賀線が100キロものコンクリート塊2ヶに衝突した事件と信号ケーブル切断事件は、21歳無職「鉄道マニア」1人の犯行だった。
 写真撮影や鉄道模型だけでは満足できなかったのだろうか。「列車が止まって大騒ぎになると興奮した」などと供述しているというから、とんでもない男である。もし捕まっていなければ、どんどんエスカレートしたに違いない。一歩間違えば大惨事という極めて悪質な事件だけに、私達乗務員も関係者もホッと胸をなで下ろしたところだ。
 脱線・転覆という恐ろしいことは訓練上だけで十分なのだ。これで少しは安心して通勤できよう。「ブレーキよし! タイヤよし! サドルよし!」私は自転車通勤なのだ……。しかし「一件落着」とはどうも思えない。100キロものコンクリートを線路上に置いたり、ケーブルを手際よく切断したりと、単なるマニアがたった1人でできるだろうか。また、防護無線機盗難から無線発報によるダイヤ混乱事件は未解決のままなのである。
○月×日
 国の所轄である中央労働委員会は、JRを相手として裁判所に「緊急命令」の申し立てを行なっているとのことである。憲法・労組法で設立された労働委員会の命令をことごとく無視している怪物JRだが、これでは他企業も「それならわが社も」となり、労働委員会制そのものが形骸化する恐れがある。労働委員会の存在意義にもかかわってくる。面目丸つぶれといったところだろう。
「緊急命令」とは、地裁・高裁・最高裁で訴訟中であっても「とりあえず救済命令を履行しなさい」と命ずる制度だという。うむ、知らなかった。国労は藁にもすがる思いで訴えているのに、なんでもっと早くしてくれなかったのさ。
 さて、これに対してこのほど「速やかに緊急命令を」と、181名の労働法学者の連名による要請文が東京地裁に提出され、また、日本労働弁護団を中心に53万人もの「緊急命令」を求める署名が地裁に積み上げられているということである。東京地裁は早期の決断を迫られている。「じれったいなもう、早く出さんかい」と、私もそうだが、国労としては気が気ではないのだ。「JRよろしく、なんだかオカシナ国だなあ」とつくづく思ってしまう。
 今夜も10時を回った。さあ寝よう。何かやり残したことはなかったかな。ん? 今日は酒飲んでない。まっ、いいか。
○月×日
「未解決のままである」などと書いたばかりなのに、防護無線機盗難・発報事件の犯人もあっさり逮捕された。まさに一網打尽、メデタシ、メデタシである。JR東労組と国労は、双方「お宅の仕業だ」と、内部犯行説をほのめかして対立していたが、フタを開けてみれば、「おたく」には違いないが、「鉄道オタク」つまり、またもマニア(3人)の犯行だった。
 それにしても、組合やマスコミにすっかり踊らされた感がある。私はあるとき、左ト全の歌に合わせてホームを歩いていた。「ズビズバァ、パパパヤ、やめてけれ、やめてけーれ、ゲバゲバ……」。すると足がもつれて転びそうになった。まったく、私はこのようにいつも通りなのだが、皆ホトホト踊り疲れてしまった。
 こんなことはもうコリゴリだ。まっぴら、うんざり、いい加減にしろだ。もうこれっきりにしてほしい。他人を陥れたり、疑ったり、敵対したり、傷つけたり……。なぜお互い手を取り合って生きて行けないのか。人は愚かな生き物だとつくづく思う。
 がしかし、どうも気になることが一つある。JR東日本の調べでは、4月から9月までに197回の妨害発報があったという。犯人はこれらの一部の犯行を認めたが、騒ぎの大きさに怖くなり、5月には無線機を川に捨てたと供述しているというのだ。
 ならば、それ以降から9月までの妨害発報はいったいどういうことなのか。やはり謎は残る。

○月×日
 12月である。カレンダーも1枚を残すのみで、今年も無事に終わろうとしている。
 私のJR中央線三鷹駅は、例えていうと「12月」だということに気づき、ちょっぴりセンチな気分になってしまった。乗務が終わるのが車掌区のある三鷹駅だからなどという単純な理由ではない。始発の東京駅が1月だとすると、次の神田駅が2番目で2月。そんなふうにたどっていくと、なんと三鷹駅が12番目の12月なのだ。ん? やっぱり単純か……。「オレって、どうしてこんなにボケなんだろう」。ま、つくづく性格なんでしょうね。 さて、この1年間を振り返ってみたら、「オレの人生はサケだ!!」という結論に到達した。何はともあれお付き合いくだされ。
 1月の東京駅。何事も最初はビシッと神妙になる私だ。今年も始まったばかりで先も長いことだし、ここで酔い潰れるわけにはいかない。丸の内にある「パレスホテル」10階のレストランで、皇居を一望しながらフランスワインを軽く嗜んだ。ここはスーツにネクタイの正装でないと敷居をまたげぬ決まりだそうだ。しかしワインじゃ物足りなくてね。何よりも、こんなところじゃ肩がこって私には似合わない。もう当分行くこともないだろう。 2月の神田駅。ハアハアとかじかむ両手に息を吐きながら、ガード下の屋台風赤提灯で熱燗とおでんを頬ばった。いつもこうして明日まで飲っていけたらな、と心底思ったが、底冷えするガード下に春はまだ遠かった。
 4月の四谷駅。満開の桜の木の下で、大勢の仲間と焼酎のウーロン割りをあおりながら歌えや踊れのドンチャン騒ぎ。花より団子で新年度がスタート。
 5月の新宿駅。都庁34階・東京都労働委員会での昇進差別事件傍聴の帰り、西口のどうでもいいような安い居酒屋で生ビールを酌み交わした。ホントにビールは恐ろしい。一口飲むとどうでもよくなってしまうのだ。ウイスキー、日本酒と、どこまでも突き進んでいく。挙げ句の果てには、都労委なんてどうでもよくなってしまうのだから始末が悪い。暑い夏がそこまで来ていた。
 9月の荻窪駅。新築のビルに改装してしまった駅前の「酒処・かみや」で、デンキブランを口にする。わざわざ浅草の「神谷バー」まで足を延ばさずに済むから助かる。
 12月の三鷹駅。忘年会にかこつけてベロンベロンのヘベレケ状態。もう何がなんだかわけがわからずヘトヘトに疲れ、酔っぱらってはいるが、なんとか無事に到着している。「もう飲むまい」いくど心に誓ったことか。明日になればどこ吹く風で同じことの繰り返しだ。次はいったい何処を彷徨っていることだろう。
 あっという間の1年であった。定期健康診断の結果は、肝機能のγ-GTPが正常範囲内だったことがなんとも心強い。一緒に飲み歩いた仲間達、そして、もしスペースが残っているなら妻にも感謝せずにはいられない! 今宵も飲まずに死ねるか!! の心境である。いったいどこがセンチなのだ。合掌。(■つづく)

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