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サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/都庁34階 地裁判決 転倒事故

■月刊「記録」1998年7月号掲載記事

○月×日
 今日は都労委。昇進差別第19回目の審問のため新宿まで出かけた。もうすっかりなじみになってしまった都庁34階である。
 JR東日本本社のおエライさんから、明けや休みで動員された現場の助役さんまで、まるで私達国労組合員を威圧するかのようにズラリと傍聴席に陣取っている。しかも誰もが背広にネクタイという出で立ちで、私達のラフな格好に比べるとヒジョーに立派で偉そうにみえる。しかし錯覚してはいけない。それはただそう見えるだけで、人間としては全く対等なのだ。
 さて、今回は会社側の審問で立川車掌区の元区長(現在は出向)のT氏が証人に立ったのだが、私達を極悪非道者だとしてケチョンケチョンにけなすのであった。次から次へと個人の実名を挙げ、「遅刻はする、反発はする、社会人としての基本的心構えができていない、意欲的でない、惰性に流されている、事故を起こさなければいいという発想で、それは勤務態度の悪い社員でありました」という具合だ。
 また、オフの時間も勤務評価に入れたとし「休みの日はアパートで酒ばかり飲んで寝ているような社員でございました」とまでいうのである。
 昇進試験の受験資格すらないとでも言わんばかりだ。現場長たる区長に「足りないところは指導して、自分の部下は全員昇進させてやりたい……」などという気持ちはサラサラないのだ。反面、会社からは重宝がられ、順調に素晴らしく出世されたようである。
 呆れ果てた2時間はあっという間に過ぎ、帰り際、弁護士さんから衝撃的なことを聞かされた。19部の判決が11部と同じ5月28日に決まったというのである。この日はJRにとってダブルパンチの1日となるだろう。「JRに使用者責任あり」「JRに不当労働行為責任あり」の判決が下るハズである。それでもJRは反省のカケラもみせず即刻高裁へ控訴の申し立てをするのだろうか。 今日の都労委でも、紛争を解決しようなどという真摯な態度は微塵もくみ取れなかったし、和解はほど遠いのかもしれない。裁判で勝利しても、健全な労使関係を確立するために労使政策を転換し、解決局面に移行しないのでは話にならない。

○月×日
 気がついたら11年もの長い歳月が流れていたという感が強い。小学校に入学した子どもであれば大学受験を迎えるまでに成長している。
 この間、国労の旗の下で団結を守り、助け合い励まし合い、自問自答しながらも、それぞれ「人間として」の道を歩んできた。管理者がチェックしているときだけでも国労バッヂを外せば「処分」されずに済んだ。国労を抜けさえすれば「優良社員」として扱われたのだが、私達にはそんな不当なことはできなかった。
 国労は、労働組合法に定められている当たり前の運動をしてきたに過ぎない。なのにそれが上司に反発した、反抗的などという差別的な勤務評価として残された。いわれなき人権侵害であるのはいうまでもないが、みなの思いはただ一つ。1,047名の解雇撤回・JR復帰。10余年にわたり労働者魂を鍛えてきた私達は、どのような判決が出ようとも驚きはしないし、冷静に受けとめるだろう。
 どんなに苦しく辛くとも、勝利するまで闘いは緩めない。もう後へ引くことはできないのだ。

○月×日
 やはり三鷹・武蔵境界隈の飲み屋とは疎遠になりつつある。特に西荻窪の「戎」は、この命果てるまで通い続けると信じて疑わなかったのに……。私は意外と浮気性なのかもしれない。しかし住居も代わったのだし、寂しいなんて思わない。私自身も変わらなければならない。 そんなわけで八王子で飲むことが多くなったのだが、先日ある大発見をしてしまった。わがJR八王子駅北口前には「東急スクエア」なる、新築のシャレたビルがドカーンと立っているのだが、その中の八階にナント「戎」が入っていたのだ。しかし、ひとりで飲み歩くことの多い私は、その小ぎれいな店構えから「どうせ、キレイな女と一緒に入るような店なんだろう」と直感し、しばらく遠巻きに眺めていたのだが、どうも気になってしょうがない。とうとう数日後に暖簾をくぐってしまった。 新しい店だから、いまにも崩れそうで小汚い(不衛生とは違う。逆にそれが酔いどれの歴史を感じさせ、堪らない)本家・西荻の「戎」と異なるのは当たり前だが、木をうまく使った店の作りがナカナカの雰囲気である。品代や焼き鳥が1本から注文できるところも同じで、結構気に入ってしまった。しかし西荻の「戎」のような、いかにものんべいオヤジが通うような風格と味が漂う店になるまでには数十年はかかるだろう。
 「そろそろ引き上げて家庭サービスに努めなくては……」と思いつつ杯を重ねるのだが、「お兄さん、焼酎おかわり! あっ、まだ少し残ってる。グビッ」と、どんな店でもたいして変わらないのであった。

○月×日
 嵐の前の静けさか。何事も起こらない。ただじっと明日の東京地裁判決を待つのみ。悲しいことだが、ほとんどの組合員が興味も関心も示さない。明日の「一日総行動」の根こそぎ動員には何人が来るだろうか。
 いつものように一人静かにグラスを傾けつつも、明日のことが気にかかってしょうがない。判決文はもうすでに何日も前にできあがっているハズだ。早く見たい、いま見たい。見ないと眠れそうにない。
 明日は九時の裁判傍聴整理券確保に始まり、国会議員会館への要請行動などもある。私はただゾロゾロついて行くだけだが、Gパンではマズイという。年に何回も着用しないスーツを引っぱり出しながら「やっぱりオレも随分イカレちまったかな」と思った。

○月×日
 いよいよ判決の日を迎えた。久々に朝から晴れわたり、まさしく「勝利の日」にふさわしい青空だった。霞ヶ関にある東京地裁前は、闘争団をはじめとする全国の大勢の仲間が集い、誰もがすっかり歳をとってしまったが、労働者としての自信と誇りに満ちあふれている。
 私達は判決が出るのを固唾をのんで待った。その瞬間、誰もが言葉を失ったに違いない。一気に場は静まり返った。「なぜ? どうして?」全身から力が抜けた。中労委の救済命令が取り消されたのだ。
 「不当判決」である。断じて容認できるものではない。なのになぜか怒りが湧いてこない。「公正なはずの裁判所が一体どうなっているのか」という疑問と混乱が心の大部分を占めていた。
 11部の萩尾裁判長は「採用で不当労働行為があったとしても、その使用者責任は国鉄にあり、JRには責任はない」とした。続いて19部の高世裁判長は「JRが責任を負う余地はある」との判断を示しながらも、11部と同様に中労委命令を取り消した。つまり国労は勝てず、JRは負けなかったのである。
 今回の判決は、あらかじめこのような事態を想定し、実質的な責任を誰も負わなくて済むよう編み出された改革法23条の壁を越えることが出来なかったという一点に尽きると思う。
 もはや中央労働委員会の存在意義は全くないも同然だ。高世裁判長は「中労委の救済措置は限度を超えている」とも述べている。「人を救うのに限度があるのか」と反論したくなるが、労働委員会は労働者救済という夢を抱かせるだけの時間稼ぎの場でしかないのだろう。
 夕方から開催された日比谷野外音楽堂での総括集会で、岡田和樹弁護士は「表向きには国労にとって負けに見えるが、実質的には一勝一敗だ」と言っておられたが、これは慰めでしかない。事実は事実として厳粛に受けとめなければならない。国労の高橋義則委員長は「この判決を新たな闘いの出発点とし、中労委と相談のうえ、控訴等強い姿勢で望む。その中で政・労・使の和解の道を探る」と、裁判と和解を並行して進めていく考えを示した。 また長期化するのだろうか。私達の今日までの闘いは決して無駄ではない。生きている以上、人間としての尊厳を失ってはいけないのだ。いささかの間違いもなかったと確信しているが、もう何を信じたらいいのか分からなくなってきた。しかしどうしても国労敗訴、JR勝訴とはいえない私である。

○月×日
 「ありゃま、どうしちゃったの。お気の毒にね」。私達もよく知っている立川車掌区の仲間のYさんの事故を聞き、最初はそう思った。
 5月23日付読売新聞(夕刊)を要約すると、青梅線・小作駅で立川行き上り列車の車掌が、駆け込み乗車確認のためホームに降りて転倒し、そのまま電車は発車してしまった。このため車掌は駅の電話で指令に連絡するとともに、タクシーで次の停車駅の羽村駅に向かい再び乗務した。JR東日本八王子支社によると、同駅上りホームは見通しが悪く、車掌は転んだ際にメガネで顔面を切ったため拝島駅で交代し、病院で手当を受けたというものだ。ラジオ・テレビでも報道されたということだが、これでは新聞の見出し通り「駅ホームで車掌すってん、あぁ置き去り発車」でもよかったろう。
 私達も話を聞くまでは「顔をちょっと切ったみたいだ」くらいの感想で、「大けがじゃなくてよかったね」と軽く考えていたのだが、事実は全く異なっていた。まさに恐ろしい出来事で、Yさんは九死に一生を得たといっても過言ではないのである。
 電車への駆け込み乗車は日常茶飯事で後を絶たない。当然車掌は神経を尖らせているが、ホームが曲線で見通しが悪いような駅でも要員が配置されていないことが多い。そのため私達車掌の唯一のより所はITV(ホームを映し出すテレビ)なのだが、不鮮明で見づらいこともあり、完璧とはいえない。また、電車が動き出してもITVが一緒に動くわけではなく、死角が非常に多いのが実状である。
 そんなとき車掌は、片手で乗務員室の握り棒をシッカリとつかみ、身体をホーム側へ目一杯に乗り出して、見える限り確認する。文字に例えるなら崩れた大の字のような、不自然な格好となる。
 Yさんは電車が突然ガクンと発車したためにバランスを失ったのだが、ホームで転倒したのではない。片手で必至に握り棒をつかみ、宙ぶらりんの状態で引きずられたのだ。電車は速度を増す。ホームに駅員はおらず、誰も電車を停められない。約40メートル進んだところで力尽き、ホームに叩きつけられ、その勢いで線路に転落したのである。
 その恐怖は想像を絶するが、気丈で落ち着きのあるまじめなYさんも相当動転したに違いない。駅舎に駆け込み、指令の指示によりタクシーで電車を追いかけ、再び乗務し、緊急手配をされた交代車掌のいる三駅先の拝島駅で病院へ向かったというのだ。
 顔面から血を流し、制服のズボンはすり切れていたそうだ。私は涙が止まらない。Yさんは使命感に燃えた人だが、いくら本人が乗る気があったとしても、小作駅で対応した駅員が引き止めて、次の羽村駅からは管理者を乗務させるとか何とかならなかったのか。Yさんの立ち直りを祈っている。

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