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妻の恋【セックスの途中で目を覚ました娘のオムツを替える ひどい妻? でも成長のワンステップだった/葉室千枝子(33歳)・主婦】

 今年5歳になった長女は最近、動物番組がお気に入りです。ウミガメが遠くの海から産卵のために身の危険を冒してまで陸に揚がってくる姿や、ライオンの母が子どもたちに狩りを教える姿、カンガルーが袋のなかの子どもたちに乳をやる様子……。
「ママ、見て! キリンさん!」
 まだ3歳の下の息子が私のひざに頭を乗せてソファに寝そべると、長女も反対側から肩に寄りかかってきます。子どもたちのぬくもりを感じながら、動物番組に見入る時間はたしかにホッと息を抜けるひとときですし、その光景はかたわらから見れば幸せそのものなのかもしれません。
 でも、厳しい自然と戦いながら子育てに励む動物たちの姿を見ているうちに、ふと不安な気持ちが頭をもたげます。

■「もしも」という不安に終わりはあるのか

 たとえば、いまもし森でクマに襲われたら、私はクマと立ち向かってでも子どもたちを守り抜けるだろうか? もちろん、子どもたちを無条件に愛しているし、何か究極の事情で(それこそクマに襲われるとか)自分の命を投げ出して子どもを守らなければならないとすれば、喜んでというわけではないにしても、子どもたちが助かるのなら自分は死んでもいいかとあきらめるでしょう。
 でもそれは単に「仕方ない」という義務感で、本当の愛ではないような気がしてくるのです。こんなことを考えるのは、
「もしかしたら自分の愛が足りないからかしら」
 と思ったりして胸が痛くなってきます。
 でも、はたと私は思いとどまります。そもそもなぜいま私がクマに襲われることを考えなければならないのだろう。いまは自宅でテレビを見ていて、クマなど突如襲ってくることは絶対あり得ないし、いくら最近は凶悪犯罪が増えているとはいえ、突然だれかが拳銃をもって家に浸入してくる確率は道を歩いていて交通事故に遭うよりも低いことはよく分かっています。
 それでも母になってからというもの、この「もしも」という不安、こわれかけた飛行機で雨雲のなかを低空飛行しているような不安感が消えることなくまとわりついています。
「子どもが小さいからだよ。大きくなればもっと気分が楽になるよ」
 夫はこう言うし、たしかに自分でも考え過ぎる傾向にあると思います。
「軽い不安神経症ですね」
 医者にもそう言われて、ときどき気がついたときに通院するようにしています。
 でも、これって本当に神経症なのだろうか? 子育てと同時に本当に終わるのか? そもそも、終わりってどこにあるんだろう? などなど、本当にいったん考え出すとキリがないんです。これでも最近はずいぶんよくなったのですが……。

■妊娠確率の高い日を夫は計算していた?

「子どもを生んで母になってはじめて、女は自信をもてるようになる」
 などと人はよく言いますが、私にとって最初の妊娠・出産、そして子育てという一連の出来事は、まるでその通説を逆行する大事件でした。だいたい、妊娠を知ったその日から出産まで、喜びなんてこれっぽっちもありませんでした。絶え間のないつわり、身体のむくみや乳房の痛み、いつまでも続く微熱――。
 そもそも私が子どもを生んだのは、単にできちゃったから、と認めざるを得ません。その一ヶ月前、夫は当時勤めていた外資系の会社が撤退したために職を失いました。休職中の彼を尻目に、私自身はまだまだ仕事に打ち込みたかった――。でもどうしても欲しいと懇願する夫の手前、堕すわけにもいかなかったんです。
 新婚半年で妊娠なんて、いまから思えばハメられたとしか思えません。計算してみると、彼は危ない日なのを知っていて、わざと手を抜いたとしか……。
 その日、夫はソファでネイチャー雑誌を読んでいて、
「男の子の生まれる確率は戦争のときに高くなるんだってさ」
 と、その前後の記述を声に出して読み上げました。それによると、戦争などの非常事態下で妊婦が感じるストレスと男の子の生まれる確率に相関関係があるとのことでした。
 戦争があると男が死ぬ確率が高くなる。だから男がもっと生まれる――。その記事には確かそんな記述が載っていたと思います。
「つまり種の保存というやつだよ。人間、戦争という究極の状況に置かれると、セックスがしたくなるっていうじゃないか。どうせ死ぬのなら子どもぐらい残しておきたいって、それ男の本能だろ」
 などと、夫は悟り切ったような口調でそう言っていました。

■母性っていったい何?

 私が妊娠したのはたぶんその日です。人は本当に不安なときに子どもが欲しくなるか、それが統計的に立証された事象かどうか、それは知りません。
「そんなことを思うのは男だけじゃないか」
 いずれにせよ、私に言わせればこれが本音です。どうせ生むならば状況のいいとき、楽なときにしたいと思うのが母性ではないでしょうか? できてしまえば腹をくくるにせよ、不安なときに自ら望んで子どもを生む女がいるのでしょうか? 
 こんなふうに言うと、まるで私には母性がないように聞こえるかもしれません。
「子どもと旦那がいれば私は幸せ。どんな苦労でもできるわ」
 なんていう女を私はもともと絶対に信用できません。きっと自分の無能さを隠すために、そう言っているだけなんじゃないかとさえ思ってしまいます。「子どもがいるから仕事ができない」 という焦りは理解できます。しかし、それを口実に自分に対する努力を怠っている主婦たちをみると、イライラするんです。もっとも、そういう私もいまは主婦をしているわけで、たぶん子育てのフラストレーションがたまっているから、よけいそう見えるのかもしれません。
 そもそも私が浮気に走ったりしたのも、ホルモンのバランスが崩れたことに加え、フラストレーションが溜まっていたせいでしょう。

■妊娠でキャリアを台無しにしたという思い

 いまから思えばあの時期、何もあれほど、
「仕事、仕事」
 と目くじらを立てる必要もなかったのかもしれません。妊娠した当時、私は外資系証券会社の調査部に転職して半年で、子どもはまだまだ先と考えていました。私たちは職場結婚だったため、結婚を機に私が転職したばかりだったんです。
 たまたま夫が失業したのに加えて、早く新しい職場で認められたいという焦りもありました。男性の同僚や上司に妊娠を知らせるのが嫌で、しばらく会社には黙っていました。おなかが目立ってくるのを考えると憂うつで、布団をかぶって泣いたこともありました。 いまはどうか知りませんが、当時外資系の証券会社といえば、いわゆる「青い目のお金持ち」を手玉にとろうという下心で入ってくる女性も多いなか、徐々に専門職の女性が増えていた時代でした。専門職で雇われたからには、待遇は男性とまったく同じで甘えなど許されません。ただそのぶん本気でやれば認めてもらえる職場でもあったわけです。
「なのに、せっかくのスタートを妊娠で台無しにした」
 との想いはいつしか怒りに変わり、その怒りを夫にぶつけてしまう日が多くなりました。

■夫と同等にはなり得ないという絶望感

 専門家に言わせれば、当時の私は妊娠をきっかけにホルモンのバランスが崩れる「マタニティー・ブルー」に陥っただけなのかもしれません。しかし医学的にどう説明されようと、私にとっては「妊娠・出産」と本来ならば女の花道といわれる時期にすごく不幸だったということに変わりはありません。 さすがに危機感があったのか、夫もその一ヶ月後には仕事を決め、生活は落ち着きました。私には会社に残る選択肢もありましたが、体調がすぐれないせいですっかり闘志がなえてしまったうえに、どうせまともな仕事ができないならば辞めたほうがマシ、という気持ちもあり、あっさり退社してしまいました。夫が同業者だったことも嫌になってしまった原因のひとつでした。「これから先どんなにがんばっても、子どもがいる以上夫と同等にはなり得ない」
 という絶望感が、
「そのぶん養ってもらわなければ割りが合わない」
 という半ば復讐のような気持ちに変わりました。
 会社を辞めてブラブラしているとかえっていろいろ考え過ぎてしまうため、生活のリズムを変えないように電車で二駅のところにある中央図書館に朝から通うことにしました。

■図書館通いがきっかけで

 図書館までの30分から40分の距離はいい運動にもなり、なんといっても社会に出てからというもの仕事の資料以外の本を読むことはほとんどなかったので、久しぶりの読書はいい刺激でした。ジャンルを問わず手当たり次第に読みあさりました。
「いつもずっと本を読んでるんですね」
 ある日いつものように本を読んでいると、外国人の男性が声をかけてきました。アンディーというこのアメリカ人は、アジア史の博士課程で学んでいるということで、どこかの国際団体から奨学金が出たので研究も兼ねて日本に来ているとのことでした。
 それだけのことはあってアンディーの日本語は完璧でしたし、文学の話も好きでした。そのうち、週のうち何日か会うようになりました。

※続きは「妻の恋」をお読み下さい。

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