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妻の恋【自分自身が嫌っていた女だと知ってから 大人同士の改めての出会いだと悟るまで・山城智子(33歳)・主婦】

「男の人に対しては何も期待してないの、私。でも、女であることだけはいつも確認していたいのね」
 山城智子さんは、こちらの視線を外すことなくそう言い切った。
 学生時代、ファッション誌の読者モデルをしていたという彼女は、黒のカットソーから左右にまっすぐに伸びる鎖骨をのぞかせていた。白くて細いその首にはシルバーのアクセサリーが光る。彼氏からの贈り物だという。
「母としてだけではなく、外でも一人の女として認められたいの。私のこと、夫も子どもも大好きなのがよくわかる。でも、それが重いときがあるのね。こんなにダメな母親なのに……」

■まじめな年下の青年を育てるのも面白い
 25歳のとき、それまで勤めていた会社を辞めた。そして、再就職までのつなぎとして始めたスポーツクラブのアルバイトで、当時23歳だった現在の夫と知り合った。
 智子さんが記憶している夫の第一印象は、
「すごく掃除をきちんとやる男の子」
 だったという。
「旦那はね、大学までスポーツ一筋で生きてきた人だったの。水泳でインターハイにも出て、ユニバーシアードも。大学を卒業してからは理学療法士になろうと決意して、私が知り合ったときは専門学校の学生さん。黙々と勉強して新しい自分の夢に向かって学んでいる姿が、すごく初々しくてね。この人はお金もないし、地位も名誉も何もないただの青年だけれど、育てたら面白いかもしれない。そう感じたの。
 いまは誰からも好かれる好青年という感じだけだけれど、40、50歳になったら、すごく面白いんじゃないかって」
 アルバイトを始めて数ヶ月で付きあいが始まり、その数ヶ月後にプロポーズを受けて結婚。学生で金のなかった彼に代わり、家計を支えていたのは智子さんだった。
 まじめな彼は落ちこぼれることもなく、3年間で資格を取得して病院への就職を決めた。ほどなく智子さんは男児を出産する。
 この5年間の結婚生活は順調そのもの。彼女も浮気しようという気さえ起こらなかったという。
「若いときから不倫とかは生理的にダメだったの。結婚している男がなぜ浮気をするのって。ムシズが走るような感じ。そんな自分が今こんなことになるなんて思ってもいなかったわ」

■横浜の超高級ホテルにある中華料理店で

 しかし30歳にして、彼女の人生は予期しない別の道へと転がりはじめる。
 その相手は、高校時代からの知り合いで、兄の友人でもあった。
「結婚前も後も付きあったことはないし、キスだってしたことない人だったの。ただ誕生日プレゼントなんかは、たまにくれたりはしてたかな。商社マンで、お金を持っている人だったし。まぁ妹みたいな感じ。その人が夕食に誘ってくれたの」
 場所は、横浜の超高級ホテルにある中華料理店。
「すごい高額だけど、異常にウマかったよー」
 と彼女は笑った。
「ん? ホテルの名前は秘密よ。ふふ、某ホテル」
 イタズラっぽくはぐらかす笑みに、白くきれいに並んだ歯がこぼれる。自分を美しく見せるポイントを知っているタイプの女性のほほ笑みだと思う。
 アップから残された髪の毛がきれいな卵形の輪郭に沿って垂れ、笑うたびに揺れている。取材中なのに、なんだか彼女の笑顔に照れてしまう自分に気づいた。
               *           *

■断れなかった。死んでしまいたかった

 中華料理店のあとは、ホテルのバーへと直行したの。高層ホテルの窓の外は、ライトアップされたベイブリッジと横浜港を行き来する船が光ってた。
 でも、景色もがきれいだなんて思わなかったよ。知らない男でもないし、ドキドキもしてなかったもん。いや、カクテルはたしかにおいしかったけれどさ。
「なんか子どもを生んで、すごくきれいになったね。女は子どもを一人生むと違うんだね」
 なんて言われて……。そのときすでに12時近かったけれど、まだ私は自宅に帰れると思っていたのよ。彼が送ってくれると思ってたから。 ところが、さも当然のように言い寄ってきちゃった。
「たまにはゆっくりしていこうよ」 なんか部屋は予約されているみたいだし、どうしても断れなかった。旦那は子どもと一緒に実家に帰っていたし。
 信じられないぐらい豪華な部屋でしたよ。まぁスイートじゃないけど、ものすごい広さ。たぶん食事代や部屋代、全部合わせれば20万円ぐらいかかってたんじゃないかな。
 ただエッチもまるっきり気持ちよくなかったし、そんなに楽しくもなかった。だって、そのあとスゴイ後悔しちゃったもん。すごい落ち込んだ。もう死んじゃおうかなと思うぐらいに。
 次の日の朝はとくに最悪だった。もう泣きそうなくらい。
「私なにやってんだろう」って。

■幼いときイタズラされたトラウマ
 自分の浮気が許せなかった。そんなことを簡単にしてしまう自分が、すごく汚らわしく思えて。
 私、古傷があるの。子どものとき見知らぬ男にイタズラされた過去があって、そうでなくても男が嫌なのに、結婚している男となんて……。すべてが許せなかった。
 それなのに、私自身がそういうことをやっている。私のもっとも嫌いなことを自分でしてるじゃんって。そんな自分を受け入れられないの。「こんなの自分じゃない」
 そう心のなかで叫んでいた。
 でもね、それこそ自分だったんだよね。それが私だったの。私はだれとでも寝れちゃう女だったんだもん。そうなの、そうなの。そのとき、わかったのよ。
 あの日に、男と簡単に寝ちゃう自分を発見したことで。
 彼であろうと別の男であろうと、誘われていい気分にさせてもらって、おいしいご飯でも食べて、お酒の一杯でも飲んだら、たぶんコロッといっちゃう。そんな女なんだ、私は。そのときは、そう思っちゃった。
                *            *

■あなたは少しも悪くない
「許せない自分」との葛藤は、この日から始まった。
「汚らわしい自分を受け入れなきゃ」
 とは思う。けれども自己嫌悪は募るばかり。一時は、新興宗教の門をたたこうかと真剣に悩んだこともあったらしい。ときには死にたいとも。ただ、どうしても踏み出せない。
 そんなときに彼女が始めたのが、インターネットでのメル友探しだったという。

※続きが気になる方は「妻の恋」(アストラ)をお読み下さい。

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