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妻の恋【生活スタイルを守るためだけの結婚 彼氏は人生観を変えてくれた/浜口香苗(32歳)・派遣社員】

――えっ、32歳。すごく若く見られるでしょ。
「うん、見られる。頭が足りないからかな(笑)」
――でも肌もきれいですよ。
「それは化粧で隠しているから(笑)」
 打てば響く。
 まじめな答えも軽口も、こちら側の期待と場の空気を裏切らない。
 取材者として相手を笑わせることはままあるが、こちらが大笑いすることなどめったにないものだ。しかし香苗さんの取材では、最初から最後まで腹を抱えて笑いどおしだった。
 セミロングの茶髪ときめの細かい真っ白な肌は、どう見ても20代にしか見えない。その日、ピンクのニットにジーンズというカジュアルな服装だったが、長い脚と大きなひとみは十分に艶っぽかった。
「Kー1の前座試合でラウンドガールをしていた」
 という彼女の冗談をまに受けた男がいたというのもうなずける。
 ただ、真っすぐに向けられた視線の強さは、さすがに20代の女性にはない威圧感がある。自信のない男なら、ちょっと飲みに誘うことなどためらいそうな感じだ。

■引っぱり上げてくれる男がほしかった

――旦那さんとは、どうやって知り合ったの?
「同じ会社の人。もともとは友達だったの」
――旦那さんから付きあおうって言われたの?
「うん。そのときは『まぁ、いいや』と思っちゃった。だれでもよかったの。当時、すごくどん底の状態だったから。私を引っぱり上げてくれる人がほしかった。それだけでよかったのに、なんか結婚することになっちゃったのね。水面まで浮かび上がったらバイバイするつもりだったのに、そのまま巻き込まれちゃった」
――えっ、じゃあ結婚前もラブラブじゃなかったの?
「うん。付き合いだした当時でさえ、彼の一人暮らしの部屋を訪ねると、向こうは新聞を読んだり、本を読んだり、英語の勉強なんかしていた。同じ部屋にあるデスクで。
 二人で笑ったりなんてしないよ。だって、ほとんど会話ないもん。それこそテレビはNHKしか見ない人だから。話も面白くないし。
 旦那はいわゆる普通の人。曲がらずに、わき目もふらず、真っすぐに歩いてきたの。だから私とすれ違うことさえ、ほとんどないのよ。私は南半球から、彼は北半球から歩いてる感じ。それで真んなかで、ちょっとだけすれ違う。『あれ? いますれ違ったよね』って。
 生きている世界がぜんぜん違う。でも、結婚相手なら『アリ』だと思ったの。私はワガママだから、結婚後も自分の生活のリズムを崩したくなかった。だから、それがかなう相手と結婚したんだ。

■刺激はいつも家の外にある

 結婚しても、外で飲んだり、クラブに行ったり、たまに友達の家に泊まったりとかしたいじゃない。束縛されるのだけは絶対にごめんだった。もちろんいまも門限はないよ。
 さすがに旦那も不倫だけは許さないけどね。それは当たり前でしょ。
 男友達と二人で飲むときも隠さずに言うよ。
「何もないから言っていくんだよ」
 って。旦那は、
「おまえにその気がなくても男のほうは違うんだ。隙あらばと思ってるぞ」
 なんて答える。でも、みんな古い付きあいの友達なの。中学時代の友達とかは、13歳ぐらいからの知りあいよ。それに比べれば旦那とは付きあって七年、結婚して5年ぐらいでしょ。まだ新参者じゃない(笑)。
 だから文句を言う旦那に、
「おまえのほうが後から出てきたんだよ」
 って言い返すんだ。そうすると旦那も、
「そこまで言うなら行っておいでよ」
 と、あきらめるね。
 旦那としては、できれば私の夜遊びをやめさせたいとは思っているみたい。といって押さえつけたら、離婚だって私が言い出しかねないからね。
 ただ旦那に告げていく相手とは、本当に何もないのよ。ウソはついていないんだ。付きあっている彼とのことは言わないから(笑)。
 私は「事故」が起こらないタイプなのよ。シャッターを閉めるのが早いんだから。そういうところは隙がないって、よく言われるもん。
 私のガードが堅いことを知っているから、旦那も夜遊びを許しているんじゃないかな。
 結婚としては成功だと思ってる。自由だし、経済的にも不自由ないし、宝くじにうまく当たったみたい。こんな人、なかなかいないもん。
「楽しいことは、外に求めればいい」
 それだけのこと。刺激ならば家の外にいくらでもあるし。

■触られるのはノーサンキュー

 結婚前の一年間は旦那とも定期的にエッチしてたの。それでも普通の恋人に比べたら全然少ないよ。一ヶ月に一回とか。
 もともとエッチ自体が好きじゃないんだ、私。結婚してからも、彼ができるまではエッチしていた。妻の「お仕事」だと思って。それも三回に二回は断った。
「もう断れないだろう、さすがに怒るだろう」
 と思ったら、しょうがなくやるって感じ。演技して必要以上に声出したりして、早く終わらせろーって。旦那は女に慣れていないし、演技だとはわからないと思う。
 本当に気持ちいいときは私、声なんて出ないもん。自分の世界に入り込むから。旦那とのエッチで気持ちよかったことなんて、恋人時代も含めて一度としてないなぁ。
 2年前に彼氏ができてからは、旦那とは一回もしてない。もうできなくなったね。
 もともと旦那への愛がないから本当に好きな人ができたら、それさえも嫌になっちゃった。別に生活するぶんには構わないから、いっしょにベッドに入るのはOK。でも触られるのはノーサンキュー。触ってくると寝たふりしちゃうもん。ウソいびきをかいたりしちゃう(笑)。
 でもさ、夫婦なんてそんなもんだよ。だいたいね。
 といって結婚生活をあきらめたんじゃないんだよ。自分の生活スタイルを守りたいから結婚したんだもん。旦那に対しても、不満なんてひとつもないし。いや、本当に。
 旦那が面白くないのは仕方ない。そういう人間だとわかって結婚したんだから。自分が選んだ相手でしょ。

■好きでもない男と結婚してどうするの

 私の母親は好きな人と結婚したらしいから、私の結婚観を聞いて、
「本当にそれでいいの? 本当にいいの?」
 って何度も聞いてきた。
「好きでもない男と結婚してどうするの」
 ってことなんだね。
 たぶん毎日同じ時刻に帰ってくるような旦那だったら、堪らなかったろうな。海外赴任が多いのが救いなのかも。そういう職種なのも、結婚前から織り込みずみよ。もちろん赴任先には絶対に付いていかない。他人から見ると、
「子どもがいないのに、何で奥さんが来ないのか」
 と思うみたいだけど。
 結婚したときも、彼は京都に赴任していて、新婚一年目はほとんど別々に暮らしていた。式を挙げても、そのままお互い実家に帰ったからね。
 そういえば、結婚式の四日前には合コンに行った。式の日取りが決まっているなかでの合コン!
「いまから合コン行ってくる」
 っていまの旦那に言ったら、
「いいよ」
 だって。
 困ったのは新婚旅行。好きじゃない人との新婚旅行ほどムダなものはないよ。どこに行くか決めるとき、とにかく時間をつぶせる何かがなきゃダメだと。
 タヒチなんかは海しかないでしょ。夜は何もないわけじゃん。それじゃ困るのよ。だからラスベガスにしてくれと(笑)。夜はスロットでもやっていればいいから。そういう何かがなくて、ずっと一緒になんかいられないと思ったの。

■面白くしようと夫を教育したが無理

 でもね、主婦の仕事だけはきちんとやっているよ。私いまも派遣で働いているけれど、家事は手を抜かない。結婚した以上、私の責任だと思うから。これは主婦の「お仕事」だね。そういうことは、ちゃんとしてるつもり。そういうところだけはね……。
 ご飯をつくること、朝起きて旦那を送り出すこと、洗濯してアイロンをかけること――そういう「お仕事」はちゃんとやるから、私の行動に文句を言うなと。
 旦那にしたって、
「ここまで自由にしてやっているんだから、家事ぐらいしてくれ」
 と思ってるでしょう。それぐらいはしてあげないと、何のために結婚したのかわからない(笑)。そうでしょ? まぁ、最低の「お仕事」しかしない私ズルいんだろうけどね。
 旦那を面白い人にしようと思ったこともあったよ。来る日も来る日も二人でいるわけじゃない。同じ部屋で共存しているんだからさ。どうにか変えてやろうって。
 旦那が会社から帰ってくると、私から面白い話をいっぱいしてあげたの。それで旦那の話も聞いてあげたりした。でも、いっこうに奴は成長しない。無理だったな……。
 旦那は旦那で、結婚をきっかけに私を変えようと思ったらしい。とりあえず、たばこを止めさせたかったみたい。でも、無理だったけどね(笑)。
 普通の会話はするよ。社内結婚だったから、何課のだれがどうしたとか、共通の話題があるにはあるし。でも、NHK番組の小難しい話なんて私は聞きたくないし、逆に私がクラブに行った話を旦那は聞きたくないのね。
「奥さんがそういう場所に行って、いろんな男と話し込んでいるのは知りたくない」
 ってことらしい。行くのは構わないけれども話題にはするなというわけ。
 旦那の浮気? 絶対にないね。浮気できる男って面白いから。相手を楽しませる男じゃないと、浮気はできないと思うの。でも女をどうしたら楽しませてあげられるか、旦那にはわからない。だから遊べないんじゃない。逆に旦那が面白い話をできるようになったら、女ができたんでしょうね。

■恋愛と結婚の違いを知った歳の夏

「そんな結婚生活が、どうして続くの?」
 とみんなそう言う。でも、もう五年も続いているのと答えると、今度はみんな驚く。
 付き合ったのは、私の心が貧しくなっていたから。結婚の約束までしていた大好きな男といっしょになれなくなってね。
 彼は金持ちだったの。はんぱじゃない大金持ち。付きあっている最中から、彼の母親によく言われたわよ。
「おたくとウチとは身分が違うから、結婚はしないでくれ」
と。でもお互いにすごく好きだったから別れられないの。彼も親を説得したし、私もいっしょに実家にお願いにいったこともあった。でも、ダメで、ダメで、ダメで、ダメ……。ついには、相手の母親から慰謝料を渡されたよ。300万の小切手。
「これで別れてくれ。ウチの息子に言っても無理みたいだから、あなたから別れたいと言ってほしい。そうしたら息子もあきらめるから」
 そこまで言われるなら、お金も彼も要らないと思ったんだ。いまなら500万円ぐらいまで釣り上げておけばと思うよ(笑)。でも、当時は受け取ったら負けだと思ったの。
「そんなに言うなら別れます」
 ってね。もう二年間ぐらい彼と努力してきたのに、これでしょう。
「別れるのは嫌だ」
 彼はそう言ってくれた。彼の勤務先が商社だったから、イギリス転勤の話もあったの。「親を捨てて、二人でロンドンに駆け落ちしよう」
 とも言ってた。でも、もともとお金持ちの子でしょ。裕福な人生しか知らないわけよ。愛はいつか冷める。そのとき、
「おまえと結婚したおかげでカネがない」
 なんて思われたくなかったの。それで、
「別れましょう」
 って私から言ったの。
「結婚と恋愛は違うんだ」
  二四歳の夏。このとき初めてわかったんだ。

※続きは「妻の恋」(アストラ)をお読みください。

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