« 北朝鮮と新潟 第2回/拉致問題によって被害者から加害者に | トップページ | ホームレス自らを語る/大穴が当たって女房は去った・上野宏彰(54歳) »

北朝鮮と新潟 第3回/在日蔑視と日本人の大国意識

■月刊『記録』98年6月号掲載記事

■住所を教えたらいきなり警察連行

「慣れで差別があるのは当たり前という認識になっている」と言う梁寿徳・ハナ信用組合新潟支店次長の話に耳を傾けていると、差別経験を在日朝鮮人らに「慣れ」させる日本社会、日本人に私はどうしようもない憤りを覚える。「慣れ」は、常に苦痛にさらされ続けていなければ宿らない。その苦渋の原体験を彼は話してくれた。
  「小さい頃、夜の公園で祭りの後にペンライトを振りかざして遊んでいたら、警官がやってきた。警官に尋問され『あそこの団地に住んでいるんだ』と告げると、理由もなくパトカーに押し込まれて警察署に連れて行かれた。母親が警察に呼び出され、後で母親にしかられた。警察は団地のどこに在日が住んでいるかを把握していたんでしょうね」
 現在、北朝鮮への敵視と相まって在日朝鮮人らにもその矛先が向けられるが、そうした状況下にありながらも梁氏は拉致加害者に批判的だ。
  「拉致被害者も拉致に遭わなければ、普通に本国で幸せに生活できた。拉致事件については、同じ民族として恥ずかしい」
 加えて、在日朝鮮人にバッシングを加える人々に、彼はこう訴えたいと告げる。
  「日本人拉致がたとえ強制連行に対する報復だとしても、喜んでいる人は同胞には1人もいません」
 在日2世の梁次長は生まれたときから民族名を名乗り、朝鮮籍だ。現在38歳で、1児の父である。来年、小学校に上がるので、朝鮮学校に行かせるという。理由を尋ねると、単純なことだというように
  「朝鮮人だから朝鮮学校に行くのが自然。朝鮮の文化で朝鮮の生活習慣の中で学習するのが当然」
と答える。
 彼自身も朝鮮学校をへている。学校卒業後、旧朝鮮銀行に就職した。これほどまでに北朝鮮に帰属しているという意識が強く、数多くの日本人による差別を経験しているにもかかわらず、彼は日本人拉致に対しての反省の語を口にした。
 日本人拉致への憤まんの切っ先を日本人から向けられているというのに、反省を伴って事態を考えることがどうしてできるのだろうか。梁氏の「懐の広さ」は、個人の資質によるものも大きいのだろう。拉致事件発覚以後の日本人の在日朝鮮人に対する差別行動も、「こうした差別激化は一時的なもの。そのうちに静まってくるだろう」と静観を決め込む。
 在日朝鮮人の人々と接してみたことで、遠い過去の出来事と思われていた戦争の面影を、私は近くにたぐり寄せたような気がした。在日朝鮮人と呼ばれる人々は、先の戦争がなければ「在日」としての人生はなかったともいえる。多くの韓国・朝鮮人が先の大戦時に、日本軍が植民地化した朝鮮半島から日本に強制的に連行され奴隷的労働に従事させられた。過酷な労働で亡くなる者も後を絶たなかった。もちろん植民地となった母国は荒廃した。
 そうした負の遺産が多くの韓国人・朝鮮人の運命を変えてしまった。私が新潟で会った在日朝鮮人はごく限られた人たちに過ぎないが、彼らと接するたびに、過去の歴史の後戻りできない怖さに迫られた。

在日朝鮮人には我慢してもらえ
 2004年5月22日に小泉首相は、02年9月の日朝平壌宣言後、再度北朝鮮を訪問した。同日に、拉致被害者の子どもら5人が、先に帰国を果たした両親の元へと日本にやって来た。この成果を、04年2月9日に自民、民主、公明党の賛成多数で可決、成立した改正外国為替・外国貿易法(外為法)の効果だと見る向きが日本国内に強くある。
 改正外為法は、「わが国の平和、安全の維持のために特に必要がある」と日本政府が判断した場合に、日本単独で閣議決定によって送金停止、資産凍結、輸出入規制などの経済制裁を行うことができる。それまでの外為法は、国連決議や日本を含む複数国の合意が条件となっていた。北朝鮮への圧力政策として、このような自国の都合のみを優先する法律が成立したのである。この動向に対して、北朝鮮は「互いの安全を脅かす行動を行わないと確約した朝日平壌宣言への乱暴な違反だ」との談話を発表している。
 拉致被害者の子どもたちが両親と再会を果たした日朝首脳会談の3週間後、6月14日に自民、公明、民主3党の賛成多数で特定船舶入港禁止特別措置法(入港禁止法)が可決、成立した。
 拉致問題に対して北朝鮮が最大限の譲歩をしているにもかかわらず、強硬的な施策で北朝鮮に対するのが当然だとする風潮に乗って、賛成多数での入港禁止法成立だった。明らかに日本側の平壌宣言不履行である。
 改正外為法と入港禁止法の2法が、北朝鮮に対して強硬的な外交手段としての経済制裁を加えるために、いつでも発動できるようになっているのが現況だ。日本のこうした一連の威圧的な動向に対抗して、北朝鮮は日朝平壌宣言以来の友好的な態度を変更し、最後の切り札ともいうべき核ミサイル整備に着手しつつあると伝えられる。
 経済制裁2法が発せられれば、影響を受けるのは北朝鮮ばかりではない。祖国にいる者への支援のために送金、物資の輸送などを行う在日朝鮮人にももちろんその影響は及ぶ。
 新潟県庁の拉致被害者支援室の関係者は、経済制裁2法が発動された場合の北朝鮮国民、在日朝鮮人らへの影響について「やむを得ない。とりあえず彼らには我慢してもらえばいい」と自分勝手な意見を展開する。
 日朝平壌宣言以来、北朝鮮は譲歩的な態度で外交の場に臨んでいた。これ以上ない譲歩で日本との国交正常化を望んでいるのは明らかなのだが、国内に「国交正常化すれば、日本からお金が引き出せるから」との意見が多いのには辟易する。そうした態度は、貧困に窮している北朝鮮に対して日本が経済的に豊かであるという大国意識、優越感からの見下しに過ぎない。
 北朝鮮政府が譲歩的に日朝外交を進めていても、北朝鮮に対しての非難が日本国内で高唱されるなか、さらにその非難を煽る結果となる事態が起きた。04年11月に開かれた日朝実務者協議の後に外務省高官が持ち帰った横田めぐみさんの遺骨が、別人のものあることが発覚したのだ。めぐみさんの両親に対しては、これは酷な仕打ちであっただろう。この事件以降、北朝鮮への非難はピークに達し、北朝鮮への経済制裁を待ちわびる声はこれまでないほどのトーンに高まる。
 しかし本格的に北朝鮮に経済制裁を加えてしまえば、核武装した北朝鮮がミサイルを日本に飛ばし、アメリカが北朝鮮にミサイルを発射するという最悪の事態に陥る可能性がある。そうなれば、拉致された日本人の安否確認などできる状況ではなくなってしまう。拉致問題の平和的解決を望むのであれば、北朝鮮との対話、交流を中心に積極的に北朝鮮に関与する施策が最適なのではないだろうか。日本国内では生ぬるいと批判される、韓国のノ・ムヒョン政権による北朝鮮への「太陽政策」は、まさにその積極的な関与の施策である。(つづく)

|

« 北朝鮮と新潟 第2回/拉致問題によって被害者から加害者に | トップページ | ホームレス自らを語る/大穴が当たって女房は去った・上野宏彰(54歳) »

北朝鮮と新潟/坂勇人」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7180085

この記事へのトラックバック一覧です: 北朝鮮と新潟 第3回/在日蔑視と日本人の大国意識:

« 北朝鮮と新潟 第2回/拉致問題によって被害者から加害者に | トップページ | ホームレス自らを語る/大穴が当たって女房は去った・上野宏彰(54歳) »