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鎌田慧の現代を斬る/大政翼賛会がつくりだすニッポン強権国家

■月刊「記録」2003年7月号掲載記事

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 米英軍がイラクに侵攻から3ヶ月がすぎた。すでに彼らの残虐行為は、忘れさられようとしている。米英軍はあたかも通り魔のようにイラク全土を襲撃、破壊、殺戮し、いまだに居座っている。
 あの攻撃によって死傷した兵士や市民がどれほどだったか、米英軍は公表していない。AP通信によれば、市民だけで3240人。「イラク・ボディー・カウント」によれば、最高で7200人となっている。
 米英軍の武力攻撃は、大量破壊兵器の廃棄が目的であり、それが理由で大量のイラク兵や一般市民を殺害したのである。ところが大量破壊兵器が発見されていない。としたなら、米英の犯罪性は、厳しく問わなければならない。彼らの行為は、利権のための人殺しでしかないからだ。
 まして国連安保理の承認も受けず、独断と偏見で強行した侵略である。指導者のブッシュとブレアは戦犯として裁かれるべきだ。米英が自国をイラクとちがう民主主義国家だといい張るなら、国内の議会によって厳しく批判されるべきであろう。
 これは米英国だけではない。日本の問題でもある。小泉純一郎首相は、イラクの大量破壊兵器の危険性をさかんに喧伝し、あの侵略戦争に荷担した。大量破壊兵器がイラク国内にあるか疑問視されていたにもかかわらず、国際的に孤立しているブッシュの忠実なシモベとして、おベンチャラをいいつづけて、その責任は万死に値する。日本の国会はその責任を追求しなければならない。
 ところがイラク攻撃の余勢をかって、与野党は有事関連三法を成立させた。信じがたい蛮行である。これは先月号でも批判したとおり、国会が大政翼賛会化したことをしめしている。憲法を無視して、軍国化のための法律に、90%以上の国会議員が賛成したのだから、すでに日本の議会制民主主義が死んでいるといっても過言ではない。
 いまさらいうまでもなく、日本国憲法は武力による国際紛争の解決はしないと表明し、その思想を世界に広めるようとしている法律である。また憲法は、国民が守るべき法の総元締めであり、憲法99条には天皇および国務大臣、国会議員、裁判官や公務員などが、「憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定められている。
 有事関連三法は戦争の準備をするための法律であり、平和憲法である日本国憲法とは相容れない。つまり有事関連三法の成立は、憲法をあきらかに否定している。この国会決議に賛成した議員は、政治家としての権利と義務を放棄したのである。ミサイルへの燃料補給を理由に他国を攻撃できる法律が防衛のためであるはずがない。国会審議は黒を白といいくるめる古典的な三百代言を繰り返していたにすぎない。
「政権担当能力」をしめすため、という野望によって、民主党は賛成した。総理の座をねらっている菅直人代表は、有事法制への批判によって、アメリカの機嫌を損ねることを恐れたようだ。菅の欲望が、国民を危険な状況に追い込んだともいえる。

■どこにある!? イラクの「非戦闘地域」

 与党が成立を狙っている法律はまだある。イラク再建という名目で自衛隊を海外派兵するイラク新法案だ。1992年、国連平和維持活動(PKO)協力法で自衛隊の海外派兵に道筋がつけられ、2001年にはテロ特別措置法により戦時における自衛隊の海外出兵が合法化された。そして2003年、こんどの法律は戦地での武器弾薬や米英兵の陸上輸送まで想定している。
 自衛隊が従事するのは「非戦闘地域」に限るなどと、与党はいう。しかし米英軍にたいするテロ攻撃は、いまだつづいている。イラク国内全土が戦争状態にあることはいうまでもない。国内全域に反米英の武装勢力が潜むイラク国内で、どうやれば「非戦闘地域」を確定できるというのか。ゲリラ活動がおこなわれている「非戦闘地域」で、武器や兵士を運ぶのは、軍事行動そのものである。
 また派遣された自衛隊が攻撃される事態となれば、「自衛」という名の「抗戦」状態にはいるのは想像にかたくない。これだけ軍事作戦と一体化した任務を、戦争行為ではないというのは、夜中、他人の家に忍び込んでも、泥棒する気はなかったと言い訳するようなものだ。
 またテロ特別措置法と同様に、時限立法だから大丈夫だという議論もあるようだがとんでもない。時期が限定されているから、あるいは数年後に見直すからという理由で、これもでも国内の歯止めは次々と突破されてきた。成田空港の二期工事としての「暫定滑走路」は、ワールドカップ開催のためにつくられた。もちろんいまでも立派な「暫定滑走路」が稼働しつづけている。
 通常では認められない法律を暫定的につくりあげ、それを突破口として利用し、さらなる悪法を積みあげていく。この姑息なやり方は、国民を愚民化する悪どい政治手法でもある。
 このまま国会が進めば、有事三法の成立、テロ特別措置法の延長、イラク新法の成立と、戦争状態に大きく踏みだした、歴史的な国会となるだろう。小泉内閣の犯罪性が、将来必ず問われることになる。
 こうした法律の成立が新聞紙上を賑わす一方で、たいした審議すらなく成立したのが、心神喪失者処遇法である。過去に他害行為をおこなった心神喪失者を、精神科医と裁判官の判断で国立病院に強制隔離できる、おそるべき法律の誕生である。
 本来、医療行為であるはずの心神喪失者の入院を、治安維持に使うことは、これまでもおこなわれてきた。沖縄県に天皇が訪問したとき、地元の精神障害者が強制入院させられたことがあったほどだ。しかし治安対策や治安維持という名目で、いわば予防拘束として、一生涯、人を強制隔離できる法律などが許されるはずがない。
 おなざりの論議、そして強行採決。人は誰もが自由に生きる権利をもっている。国家に都合が悪いからと、簡単に強制収容、隔離することなど認められない。

■成立寸前だったクビ切り法

 また労働基準法の改悪も、与党と民主党の合意で成立した。改悪の背景を少し説明しておこう。
 これまでの労基法には、解雇権がなかった。たとえば無断欠席があまりにも激しく、会社に著しい損害をかけたなど、誰がみても解雇が当然というケースしか、解雇は認められていなかった。それ以外の解雇は、解雇権の乱用として規制されてきた。もちろん労働組合活動による解雇は、不当解雇行為として労組法によって規制されている。
 しかし解雇が規制されていると、簡単には企業側のリストラが進まない。いじめ抜いて自主退社に追い込むなどの方法で、企業はリストラをおこなっているのだが、この状況を強化したい自民党と財界が、労基法の改悪を狙っていた。
 当初、厚生労働省がしめした労働基準法改悪案の法案要綱には、2つの大きな問題があった。1つは、労基法に「解雇できる」との条項を盛り込んだがこと。もう1つは、不当解雇の対策として金銭解決を法律に明記したことである。「解雇できる」と法律に定められれば、立場の弱い労働者は正当な理由もなく職を失う危険性が高くなる。また金銭解決が認められれば、たとえ裁判所によって解雇無効の判決がでても、再雇用されることなくカネでの解決となってしまう。日本の裁判状況をみれば、高い補償金など期待できないことはあきらかだ。どんどん首を切り、あとからゆっくり補償金の金額を交渉できるようになれば、解雇は非常にやりやすくなる。
 幸いなことに、この2つの条項は、今回の改悪では削除された。しかしギリギリまで与党が粘り、あともう少しで「改悪案」に条項が盛り込まれていたことは、ぜひ知っておいてもらいたい。雇用を危うくする法律が、この不景気に成立直前だったのである。
 いわゆる「解雇ルール」が法律案に盛り込まれなかったからといって、改悪案に問題がないわけではない。
 最大の問題は、有機労働契約期間上限が、現行の1年から3年に延長されたことだ。これまで正社員ではない不安定な雇用は、1年ごとに更新しなけれならなかった。このような変則的な雇用の長期化を、労基法は原則的に認めていなかったのである。そのため、なるべく臨時雇用の期間を短くするよう法律が企業にたいする圧力にもなっていたのである。
 しかし今回の改悪により、臨時雇用の長期化はますます進むことになった。臨時雇用としての期間が長くなればなるほど、他社で正社員になれる可能性も低くなる。また仕事を覚え、自信がつきはじめた3年目ともなれば、労働者本人も会社を辞めにくいだろう。つまりこの改正は、臨時雇用という身分のまま働きつづける労働者を増やそうとするものなのである。

■犯罪者と接触したら、即逮捕

 今国会で審議される危険な法案の1つに、共謀罪がある。共謀罪とは、犯罪実行に着手していなくても、犯罪の打ち合わせをしただけで罰することができる法律だ。 この法律の制定が準備されていると聞き、わたしは1910年に起こった大逆事件を思いだした。この事件は、社会主義者だった宮下太吉ら4人が「爆発物取締罰則違反」で逮捕されたあと、犯人と強いつながりがあったとの理由で、幸徳秋水・大石誠之助・管野スガら12人もの社会主義者や無政府主義者を死刑にしたものだ。なりふりかまわず思想弾圧した、日本史上に残る汚点である。
「共謀」という名でこのような事態が想定できる法律が成立するともなれば、市民は思想弾圧に怯えることになる。犯罪者と交流があっただけで逮捕されるのなら、犯罪者の範囲は無限に広がる。
 このように次々と成立させてきている悪法によって、日本は強権国家へ急ピッチですすんでいる。
 有事法制は戦争時における私権の制限が特徴の1つだった。戦争に協力できない「国民」は罰する、という強権。それは国家総動員法の復活ともいえる。
 テロ特別措置法やイラク新法案は、平和憲法をないがしろにして軍事国家に歩を進めようとする悪報だ。心神喪失者処遇法や共謀罪盗聴法は、警察などの国家権力を増大させ、治安上問題だと政府が感じたらすぐさま監禁し、人権を排除できる強権といえる。
 そして労基法の改悪は、これまで政府の暴走を抑える労働運動の壊滅させる強権である。
 これまでもたびたび触れているとおり、こうした強権を牽制すべきメディアは、メディア規制3法などによって、手足を徐々に縛られはじめている。そして、さらに国民総背番号制など、コンピュータによる人間の管理と支配も進んでいるのである。
 うかうかしている間に、国民は政府に反対意見を述べることさえできないように、監視され、規制されてしまう。逆接的な意見に聞こえるかもしれないが、もし自民党の一党支配であったならば、ここまで強権的な法律が成立することはなかった。
 公明党や保守党、また防衛政策などでは自由党や民主党などの協力を得て、みんなで法律を作り上げたという自民党の言い訳が、より危ない法律を通過させている。大政翼賛国会の怖さである。
 現在は、共産党と社民党という一部の「非国民的」な政党だけが「強権法」に反対している。しかし、事態が進めば、国策に反対する少数政党のそのもの弾圧も可能になる。
 日本はいよいよ抜き差しならないところにきてしまった。国会で審議がおこなわれるたびに、国民の権利がひとつずつ消されていく。いまなにか運動を起こさなければ、戦時中の暗黒の国家にもどってしまう。その不安を、大きな声にだして抵抗していくしかない。 (■談)

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