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鎌田慧の現代を斬る/テロルと狂牛病

■月刊「記録」2002年1月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 なんと世界は愚かなのだ、と腹立たしい気持ちで21世紀最初の年を送ったひとたちは多いであろう。と同時に、なにもできなかった自分の無力さをふかく感じさせられている。それでも、テロルと報復の論理をうけいれないひとたちが、けっしてすくなくなかったことが、未来をさらにひどいものにしないことにつながるのであろう。
 一瞬にして倒壊した、ニューヨーク世界貿易センタービルの映像が、なんども繰り返して流されたあと、あのビルにピザの出前にいって行方不明になった男の話を、テレビが放映していた。
 メキシコだったろうか、どこか中米の国から妻がやってきて、ボランティアたちの助けをかりながら、夫の消息をたずね歩く、というドキュメンタリーだった。
 男は故郷に妻となん人かの子どもを残してはたらきにきた、出稼ぎ労働者だった。たしかに、あのツインタワーは、世界経済を支配する強者の象徴だったかもしれない。しかし、そのまわりには、さまざまなひとたちの暮らしがあった。
 海外を旅行すると、旅先で貧富の差がますます拡大しているのを感じさせられる。その「悪の根元」が、いかにも地盤の堅そうなマンハッタン島に聳えていた、世界貿易センターだと考えるのはもっともかもしれない。しかし、実際そこに生活していたのは、「先進国」のエリートサラリーマンたちだけではない。テロリストたちが救おうと考えていた、貧しい国の貧しい人たちもまた、そこに依拠して暮らしていたのだ。
 テロリストの攻撃は、皮肉にもこうした現代社会の複雑さを、瓦礫のしたにみせつけたのだった。
 テロルによって、グロバリゼーションという名の「市場原理主義」をやめさせることはできない。おなじように、テロルの「首謀者」として、ひとりの男の首に三五億円の懸賞金をかけて殺したにしても、テロルをやめさせることはできない。
「市場原理主義」とは、弱肉強食の論理をやや上品にいっているだけのことだ。世界に経済格差をつくりだし、敗者をどんどんふやしていて、なんらこころを傷めることのない連中が世界を支配しているかぎり、テロリストを産みだす無限の憎しみをなくすことはできない。
 ひとりの男を捕まえて殺すために、なん百億ドルものカネをかけ、なん万人もの兵隊を送りこみ、なん万トンもの爆弾を投下し、なん千人もの人間を殺し、なん百万人もの人間から家と仕事を奪って、路頭に迷わせ、難民にしている。泥道に「参戦」の轍をつけておいて、つぎの出動をやりやすくするため、と解釈するしかない。それと米国への迎合である。 
 迎合はいじめられないための防御策、と考えたにしても、日本には戦争はしない、という国是(憲法)がある。独立した国の首相なら、自分の立場を主張するしかない。
 世界貿易センターへの攻撃のあと、日本の首相が、訪問先の大統領と会って、チャッチボールの相手をしてもらい、保安官のポスターをもらって帰ってきた。一国の首相としては軽挙妄動にすぎるが、それをとめた側近はいない。「日米友好」は国益と考えられているからだ。ロシアもイギリス、ヨーロッパの国々(少なくともイギリスはヨーロッパ)も、いじめっ子のような米国を支持している。
 しかし、戦争がどうして国益なのか。ほかの国の民衆を殺すのを、どうして支持できるのか。それが経済利益になるからだ、としたなら、経済的な利益のために、人間はなにをしてもいいのか、というしかない。

■効率主義の弊害としての狂牛病

  米英軍によるアフガニスタンのタリバン政権にたいする攻撃がくりかえされていたあいだ、日本を襲っていたのは、狂牛病パニックだった。
 これは厚生労働省の無責任体制に問題があったにせよ、その発生原因は人類的な課題ある。
 もともと草食動物である牛の飼育のために、牛の解体作業から発生した廃棄物を、飼料に加工して、仲間の牛にあたえる、という発想は、利益追及のためからである。母乳のかわりに商品価値のひくい骨肉粉を液状にして子牛にあたえ、放牧よりは手間のかからない牛舎に縛りつけて、草のかわりに骨肉粉をあたえていたのだ。
  「共食い」の野蛮な風習は、飢餓からではなく、効率の追求からはじめられた。この野蛮を牛に押しつけたのは、すべて利益だけで動く人間の都合である。クロイツフェルト・ヤコブ病をもたらすプリオンの発生は、自然の摂理を無視した、人間の欲望の結果だった。各国ともに、さいきんになってようやく、骨肉粉を牛にあたえることは中止した。
 新兵器を発明し、大量殺傷の効率化をはかり、「野蛮な民族」の頭のうえから新型爆弾を降り注ぎ、災いを後世に残す悪習は、戦争も飼育もおなじ論理になる。ひとを殺す効率化はもういいかげん、終わりにすべきだ。 (■談)

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