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鎌田慧の現代を斬る/ピースボートの旅から-タヒチ

 いま、ピースボート船上で、この原稿を書いている。 タヒチからフィジー、そこからオーストラリアのダーウィン港に寄港して、めざしているのは、インドネシアのバリ島である。明朝、到着する予定なのだが、船の最終目的地はイギリスのサザンブトン港。が、わたしはシンガポールで下船して、東京へ帰る。この不景気の時代に、たしかに信じられないほどに安い旅行とはいえ、船で地球一周するひとたちが、老若男女あわせて、七五〇人もいることに驚かされた。
 この旅で、わたしは各地の先住民族のひとたちと出会った。自然のなかで、自然の恵みをうけて、誇りたかく暮らしていたひとたちが、ヨーロッパからの「文明」の侵攻(日本も無縁ではない)によって、どれほどひどい目にあわされたか、そのことをあらためて知らされる思いがした。
 タヒチは仏領ポリネシアの中心である。首都のパペーテは、バルコニーのついた家並がつづく、こざっぱりとした植民地風の街で、観光にやってきたフランス人やアメリカ人の老夫婦たちがのんびりと歩いている。ドイツ人のグループ・ツアーの姿もある。トラックを改造した「ル・トラック」が庶民の足なのだが、色調はどこかエレガンスである。
 夜になると、岸壁にはトラックを利用した屋台(ル・コット)が集まってくる。中国系住民が多く、「チャオメン」などの焼そばなどが売られている。物価が東京よりも高いのは、完全にフランス経済に支配されているからのようだ。

■英仏の戦争の犠牲になって

 小学生からフランス語での教育である。先祖の歴史は教えられていない、というから、完全な植民地教育である。ここはポマレ王が君臨する王国だった。最初にやってきたのは、イギリス人の宣教師だった、という。その一〇〇年あとにフランスの神父がやってきた。イギリスとフランスが、ポマレ王と彼ら流の条約を結ぼうと強制し、ついに一九八〇年六月、ポマレ五世はフランス共和国政府がつくった、すべての領土を譲渡する契約書にサインさせられてしまう。
「第一条 共和国大統領は、一八八〇年六月二九日にソシエテ諸島にてポマレ王と共和国弁務官の間で署名され、タヒチ王の支配下にあるすべての領土の支配権をフランスに完全譲渡した宣言を。批准し、実行する権限を持つ。
 第二条 タヒチ諸島およびその従属諸島は、フランスの植民地となるべく宣言された。
 第三条 タヒチ王の元領民すべてに、フランス国籍が与えられる」
 ポレマ王の「宣言」は、本人の直筆によるものかどうかは不明だが、きわめて屈辱的なものだった。
「……ソシエテ諸島およびその属領の統治権、行政権およびすべての権利と権力を、完全かつ恒久的にフランスの手に譲渡する。
 かくして、わが国家はフランスの一部になった。しかし、タヒチの法律と習慣を考慮にいれつつ我が人民を統治していただけるように、この偉大なる国にお願い申しあげたい」「反核独立」を市の方針にしているファアア市の集会で、ジャンピエール・ポマレさんの話をきいた。ポマレ五世から数えて六代目とか。彼によればフランス領土とされる前、フランスとのちいさな戦争があって、千人の戦死者をだしていた。そのあと、フランスがタヒチをふくむポリネシアを、イギリスがニュージーランドを支配することで、折りあいがついた。 
 ポレマさんは丸顔で、そういわれてみれば、育ちがよさそうな感じだが、いまはごくふつうの市民生活をしているようだ。土地を譲渡したサインをさせられてしまったため、いま王家は力をもたず、市民たちからさほど尊敬されていない、とか。
「フランスの領土になったのは、自由と平等によってではなく、英仏の戦争の結果でしかない。仏軍は大砲と銃をもってきたが、わたしたちはレイと笑顔しかもっていなかった」とポマレさんがいった。
 ポリネシアのなかで、独立を主張するのは、三〇パーセントほどのひとたちでしかない、という。あと、一五パーセントふやして、国連の場で独立を問題にしたい、という。国連への期待がつよいのは、そこで先住民の権利が論議されてきたからである。
 独立のためにいま必要なのは、武器を手にしての「独立戦争」ではない。民族意識の覚醒であり、そのための教育である。しかし、学校教育はすべてフランス式の教育であり、ポリネシアの歴史教育はタブーとされている。メディアはすべてフランス政府によって管理されているのだが、自由ラジオ・テファナがタヒチの歴史講座を流して、圧力を加えられている。もちろん、教科書にはタヒチが植民地化された歴史は書かれていない。
 もうひとつの問題は、経済的な自立である。タヒチの経済はフランス軍に依存していて、独立は政府機関や軍ではたらいているひとたちに失職の不安をあたえている、という。タヒチは観光の島であるばかりではなく、軍事基地の島であって、いわば沖縄やグァム島とおなじ構造をもっている。核基地の写真をうつしていて、フィルムを没収された観光客もいる。
 ポリネシアの総人口二一万人のうち、四分の三がタヒチ島でくらし、その大部分がパペーテ郊外に住んでいる。郊外にあるスラム街の住民は失業者で、核実験の建設現場ではたらいていたほかの島からの移住者、という。仏領ポリネシアの歳入の四分の三以上は、フランス政府からの補助金で、このうち、四五パーセントは、モルロアでの核実験の関連といわれている(『パシフィカ』九五年一〇~十一月号)。
 軍事基地依存経済から、観光や伝統的なバニラや養殖真珠、花、漁業の育成など、これまで軽視されてきていたものへの復活の道もある。

■核実験は子宮を爆発させるようなもの

「わたしたちは、いつの日か死ぬのです。それでも、子どもや孫たちに、こころのそこから安心して暮らせる環境を残してあげたい。核や感情の爆発のない未来を望みます」 
 とジョアナ・ガステンさんがいった。彼女は六人の子どもを産みつづけていた十年間、不安に脅かされていた。障害児が産まれないかどうかを心配していたのだった。身内にはCFF(太平洋実験センター)ではたらいていたひとたちが多く、障害児の子どもたちはすくなくない、という。
 九五年九月、世界世論の反対を押し切って、フランスが核実験を強行したあと、タヒチのガストン・フロス領土政府長官が渡仏するため、ファアア空港にきたとき、彼女たちは二千人の市民や労働者たちと空港のターミナルを占拠した。滑走路に座り込んだひとたちもいる。放火事件もあって、「暴動」状態になった。六四人が逮捕された。彼女もそのひとりで起訴されている。
 九八年十月の判決では、懲役三年など四人に実刑がだされた。タヒチでは、子どもが産まれると、胎盤を土に返して、そのうえに好きな木の苗を植える。彼女の木は「パン」の木である。だから「地下での核実験は子宮を爆発させるようなものだ」との憤りが強い。
 たしかに、いままでは、フランスの核実験に依拠するようにして生活してきていた。被爆の知識がなかったからである。ガンや白血病になると、患者は本土につれていかれて検査された。が、結果はなにも知らされず、カルテもみせられていない。
 フランスは六〇年二月にアルジェリアで核実験に踏み切ってから、九六年一月まで、すでに二一六回も実施している。六六年七月から太平洋のモルロア環礁で開始、その後のほとんどはタヒチを拠点としたモルロアでおこなわれている。そのためにはたらいてきた労働者は、一万五千人にもおよぶ。このなかから被爆労働者があらわれている。
 サンゴ礁が破壊されて、死滅したサンゴに「渦鞭毛藻」が発生して毒化した魚がふえている。水は天水なので汚染されている。なぜフランスはここで核実験をくりかえしてきたかといえば、そこは植民地だからである。とすれば、実験の中止と独立の要求がついには一致することになる。
 ボルドー大学帰りのテチアラヒ・ガブリエルさんは、「ヒテイ・タウ」(日の出の鳥)という団体をつくって、自立の運動をつづけている。「核の植民地支配は暴力だ」というのが彼の主張である。

 南太平洋は、かつての戦争のとき、兵士たちの飢餓の島としてつたえられている。マラリアと飢えによって、膨大な数の日本兵たちは、まったく無駄にたおれていったのだが、そのとき、島の住民たちはどうしていたのかはあまりつたえられていない。わたしたちは、フィジー島でバナナ島の旧住民たちと会うことができたが、日本海軍の虐殺をきかされることになる。
 が、それらの蛮行はここだけの話ではない。日本軍は土地を奪っただけではない。無謀な戦略配置は飢餓状態をつくりだし、住民から食料を奪った。虐殺と人肉を食う非道を行った事実の解明が残されている。

-シンガポールへむかう船上から-

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