« コギャル、世相を語る! | トップページ | 鎌田慧の現代を斬る/ムダな公共事業が地域を殺す »

鎌田慧の現代を斬る/ライオンヘアーに隠されたタカ派・小泉の危険

■月刊「記録」2001年6月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

*         *          *

■中曽根稚児政権

 おおかたの予想に反して、小泉内閣が誕生した。成立当初の支持率は、各マスコミの調査で80パーセント以上を記録した。これは小泉純一郎人気の高さをあらわしたものだと伝えられているが、純粋にそうともいいきれいない。竹下内閣と並ぶ、史上最低9パーンセントの支持率を誇った森喜朗前首相への反動である。人間あまりにもひどいめに遭えば、予想外のなにかに期待したくなるものだ。
 高支持率で調子にのった小泉は、「新世紀維新」や「改革断行内閣」はては「政権交代のようなもの」と、自らの内閣を自画自賛している。また首相に就くと同時に首相公選論をテコにした改憲をブチ挙げている。断末魔の自民党は、「調整型」の総理から、「アジテーター型」への転換によって生き延びようとしている。
 藪から棒の首相公選論が、国民から支持されている理由は、デタラメだった前首相がちっとも退任に追い込まれなかった苛立ちからで、本気で考えているわけではない。
 忘れてはならないのは、ほとんどのひとたちをイライラさせた首相を支えていたのは、ほかならぬ小泉だったことだ。森派会長として忠義を尽くし、森がどんなに批判されても国民に敵対して森政権を支えつづけた。バカを支えて自分の人気取りに利用するなど、国民を愚弄するにもほどがある。
 まちがっては困るのは、小泉を支持する投票をしたのは国民ではなく、自民党員である。いわば特権階級内の選挙で選ばれたのだ。くたばれ!自民党の党員たちは、7月の参院選挙で負けると利権構造が解体される、という危機感から、「改革断行」を強調する小泉を支持したにすぎない。
 だいたい小泉の語る「改革」は、歴史を逆行する改悪でしかない。彼が総裁選挙中からわめいていた靖国神社の公式参拝など、戦前回帰そのものである。靖国神社は、軍国主義の象徴であるばかりではない。政教分離を定めた憲法20条に違憲するとして、公式参拝がつねに問題になっていた場所である。
 それを彼は、「日本の発展は貴い命の犠牲の上に成り立っている。戦没者慰霊祭の日に、そういう純粋な気持ちを参拝で表すのは当然ではないか」と、新総裁会見でいいはなった。「(公式参拝は)違憲の疑いを否定できない」との80年の政府統一見解をうち捨て、憲法違反を承知で参拝しようとしている。
 首相公選論、あるいは靖国参拝強硬で思いつくのは、中曽根康弘“大勲位”である。彼も若いときから首相公選を唱え、首相になってから靖国に公式参拝し、世論から批判されたことがある。この中曽根と森と石原慎太郎、いわば自民党右派勢力の謀議が、小泉の総裁選に大きな影響をあたえたことを忘れてはいけない。
 森は、青木幹雄、野中広務、村上正邦、亀井静香など自身をふくめた5人組によって首相におさまった。小泉の場合も、おなじような密談が都内の料亭でおこなわれたのである。
『朝日新聞』4月25日号によれば、「橋本君はかわいくない」と中曽根は森に語ったそうである。つまり小泉政権は中曽根にかわいがられた「中曽根稚児政権」といってもいい。
 こうして、小泉は、「右翼片肺内閣」をつくりあげた。
 防衛庁長官に起用された防衛大学出身の中谷元は、憲法改悪論者である。政調会長の麻生太郎は、総裁選で9条書き換えを言明していた。自民党幹事長の山崎拓などは、いまや公然と憲法改悪をブチあげ、「改憲して集団的自衛権を行使すべきだ」などとほざいている。小泉だって負けてはいない。
「集団的自衛権はあるが行使できないというのが今までの解釈だ。私は憲法改正が望ましいという考えを持っている。国益に一番大事なのは、日米の友好だ。日本近海で共同活動している米軍が攻撃を受けたとき、日本が何もしないことができるのか。すぐに憲法解釈を変えろということではないが、あらゆる事態を研究する必要がある」
「『憲法はこうすれば改正できる』と国民に理解されやすいのが首相公選制だ。ほかの条文は一切いじらない。具体的な改正で、改正手続きも鮮明になる」(『朝日新聞』4月28日)
 首相就任するやいないや、憲法改憲を公言したのは小泉が最初であった。しかも集団的自衛権の行使、つまり米国と一緒に戦争すると公言したのである。首相公選論などネズミ取りの毒まんじゅうである。

■この女性入閣でなにが変わる?

 このように危険な内閣の登場を、マスコミはさっぱり批判せず、バンザイ報道するのは犯罪的だ。なんとか不況を脱してほしいという庶民の期待を小泉にむけさせ、担ぎ上げている。眼くらまし報道だ。
 組閣当時、『毎日新聞』は一面に大きく女性閣僚5人の写真を入れて、小泉内閣の登場を祝った。女性が入閣したのは評価すべきことであったにせよ、まるで奉祝新聞だった。
 国土交通大臣の扇千景は、いわずとしれた改憲論者。法務大臣の森山真弓は、労働省の官僚出身、死刑執行について、「法秩序の維持が必要な場合はやむを得ない」と言明した死刑断行派。文部科学大臣の遠山敦子は文化庁長官だった人物で、教育基本法の改革路線をつづけるという。環境の川口順子大臣は、旧通産省の審議官で環境破壊を推進してきた官庁の幹部である。田中真紀子は、いわば小泉人気の生み母でもある。
 5人の女性が閣僚に選ばれたのはいい。しかし、これでなにが変わるのだろうか。
 おなじ『毎日新聞』でも、5月11日の記事は眼をみはるほどで、「『改憲内閣』の様相 小泉首相、9条に踏みこむ」と見出しを掲げた。大新聞には珍しく代表質問の本質をズバリと付いた記事であった。『朝日新聞』などと比べても、きわめて明確な紙面づくりだといえる。さらに「小泉首相の改憲発言の変遷」という欄までつくり、彼の危険な思想をあきらかにした。
 小泉首相は、9条および前文の削除をターゲットにしている。憲法改正手続きの簡略化も、自民党内で企てられている。かつては石原慎太郎が唱えていたが、いまは幹事長の山崎拓などが「憲法改正を発議する要件としての国会議員の3分の2以上の賛成を、過半数の賛成に緩和すべき」などと発言している。こうした内閣が、どうして80パーセント以上の拍手によって迎えられるのか。人気に迎合し、危険性を指摘できないマスコミの怯懦は、歴史に禍根を残す。
 自民党が突出した異常な状態にありながら、最大野党の民主党は対決姿勢を明確にしていない。民主党自身内部に改憲論者を抱えているからである。鳩山由起夫代表からして、改憲論者であり、幹事長の菅直人も「改正議論をタブー視はしない。国民的な合意が得られる課題から改正していくというのはひとつのやり方で、9条改正の突破口になるから反対という意見にもくみしない。憲法を自分の力で変えられるかどうかは、日本の民主主義の強さが試される問題だと思うからです」と『朝日新聞』(5月14日)のインタビューに答えている。「柔軟」な姿勢での対応は、党内世論の反映である。自民党のように、政策抜きの野合集団でしかない民主党の弱点が憲法問題に極端な形であらわれている。

■弱肉強食政策が日本を失業者だらけに

 首相に就任して以来、小泉が強調しているのが、「構造改革」である。「構造改革なくして景気回復なし」という発言を、なんどとなく繰り返している。では、景気回復の目玉である経済改革とは、どんなものか。
「構造改革を実施する過程で、非効率な部分の淘汰が生じ、社会のなかに痛みを伴う事態が生じることもあります」
 この発言は、小泉の所信表明演説で語られたものだ。読めばわかるとおり、彼の経済改革は弱者切り捨ての論理であり、強者にくみしたグローバリゼーションへのシフトを明確にしている。つまり大企業バンザイ主義である。いかに大企業の暴走をチェックして、国民の生活を安定させていくかという視点を、まったく欠いている。 さらに驚くべきことには、終身雇用制の抜本的な見直しを厚生労働省に指示している。
①2、3年の期限付き雇用の対象拡大
②解雇ルールの明確化
 これらの方針は、生涯雇用を中心にした現在の雇用制度を抜本的に変えてしまう。2~3年の雇用が広がるということは、2~3年でクビにされるのが前提の、いわば一億総臨時工化となる。解雇が全面的に進められていくことになる。彼の経済改革の本質は、ここに見事にあられている。こんな政策で景気が復活するはずもない。 最近の欧州の政策は、いかに雇用をつくるのかが重要視されている。ドイツやフランスなどで雇用が急速に改善してきているのは、ワークシェアリング、つまり仕事の分かちあいによるものだ。
 フランスでは、週35時間労働制となり、法定労働時間はさらに週4時間も減らされた。ドイツでも長期失業者の再雇用プログラムが実施され、あらたに雇用された労働者の賃金の半分は、地元の労働局が補助する政策をとっている。
 労働時間を短縮し、その分だけ雇用を増やす。あるいは失業者を公的な仕事によって救う。こうした先進国の分かちあい政策と逆に、小泉の解雇政策は失業者を増大させていくだけだ。
 また、彼が断行しようとしている不良債権の最終処理にも、多くの危険がある。都市銀行などが抱えている不良債権を処理するために、融資先の企業を整理すれば、ゼネコンなどの倒産が急激に進む。一説には、建設業だけで50万人以上の失業者が生まれるという。このように弱肉強食の改革が、国民の生活にプラスとなることはありえない。
 今回の組閣で経済財政政策担当大臣となった竹中平蔵は、ソフトムードで人気も高い。しかし、もともと森内閣の経済担当顧問として働いていた「教授」であり、現実についてはなにも知らない。金もち優遇政策も変わらない。ソフトイメージとは裏腹に、極端な弱肉強食主義者である竹中は、労働者をどん底に突き落とすだろう。 小泉政権が掲げる前近代的な政策が「構造改革」という名によってもちあげられているのは、マスコミの犯罪行為である。内閣誕生当初のご祝儀記事はいつもの例だが、そろそろ小泉内閣の問題点を書かなければ、ジャーナリズムなど存在理由はない。 (■談)

|

« コギャル、世相を語る! | トップページ | 鎌田慧の現代を斬る/ムダな公共事業が地域を殺す »

鎌田慧の現代を斬る/鎌田慧」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7018547

この記事へのトラックバック一覧です: 鎌田慧の現代を斬る/ライオンヘアーに隠されたタカ派・小泉の危険:

» 田中真紀子 [政治家]
田中真紀子氏 軽井沢の土地売却 [続きを読む]

受信: 2007年7月 4日 (水) 18時12分

» 女性社会情勢 [赤ちゃんポスト 女性雇用状況変化などの現状]
熊本県の医療法人・聖粒会が運営する慈恵病院が導入を発表した 海外ではドイツ イタリア などは以前より導入しているが、国内ではどうか・・ [続きを読む]

受信: 2007年7月 4日 (水) 23時28分

« コギャル、世相を語る! | トップページ | 鎌田慧の現代を斬る/ムダな公共事業が地域を殺す »