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鎌田慧の現代を斬る/国有化で太る企業とマスコミの商業主義

■月刊「記録」1998年11月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■天下り大活躍

 いまから一二年前の一九八七年、「国鉄改革」が行われた。「国鉄処分」ともいうべきこの杜撰な計画は、バブルに踊っていた大企業に、国鉄用地争奪戦を繰りひろげさせることとなる。国鉄がもっている国有地の売却により、オフィスビルを乱造させ、さらに行き掛けの駄賃で労働組合も潰す。一石二鳥を狙った中曽根内閣のファッショ的なやり方にたいし、わたしは終始一貫反対してきた。結局、最近になって、この国鉄処分が重大な矛盾を生んでいるのが明らかになってきている。
 最近、国鉄清算事業団の三人の幹部が大林組に天下っていた事実が明らかにされ、旧国鉄用地買収の入札に関する情報が大量に林組に流れていた事実が発覚した。
 ここ数年、バブル崩壊による地価の下落があったため、凍結されてきた旧国鉄用地の売却が、なぜか活発になっていた。もちろん、地価が再上昇したからではない。商業価値の高い旧国鉄用地を買いたい大企業が、しびれを切らしたためである。しかも旧国鉄用地でもっとも重要な土地であった新橋駅近くの「汐留地区」は、なんと落札金額が非公開だった。極めて不明瞭な取引きと言わざるを得ない。
 この土地売却につづき、東京駅前の旧国鉄本社跡地や東京駅八重洲口(北口)など、超大型物件がどんどん売却された。その売買の裏で大活躍していたのが大林組だったのである。
 土地の落札を望む企業に、大林組が大量の応札価格などを情報を提供、その見返りとして大林組が工事の受注を受ける。これが大林組の「営業」方法であった。そして顧客を引きつけるための情報を得るために、天下り幹部を最大限に活用していたというのだ。
 入札は、高い金額を提示した入札者の企業に落札される。そのため他社の応札価格を知り、他社と僅差の値段で落札できれば最もお買い得となる。しかも入札を申し出た企業にたいしては、事業団がヒアリングをおこなっているのである。事業団が得た応札価格にかんする資料を、天下り人脈で入手すれば、無駄金をはたくことなく土地が手に入るというわけだ。
 一〇月一四日付の『朝日新聞』によれば、旧国鉄から事業団に移り、事業団理事から事業団の子会社へと渡り歩き、九五年に大林組に入社した幹部が、旧国鉄用地の大型物件の購入を担当していたという。さらに事業団の子会社「汐留開発」の元社長であり、事業団のOBでもある人物も、九七年四月に大林組に入社。営業本部参与に就いていた。このOBの再就職は、同年二月に行われた汐留地区A街区落札のお礼だったと噂されているというのだから、呆れるほかはない。
 ここから浮かび上げるのは、旧国鉄用地の売り手だった国鉄清算事業団の元幹部が、買手側の参謀になったという図式である。売る側がちゃっかり買手に回るなど、戦争にたとえれば味方の大将が、敵側の大将に取って代わったようなものだ。

■バブル頼みの「国鉄改革」

 そもそも国鉄清算事業団は、国民の税負担を軽くするために、旧国鉄用地を売却する組織だった。旧国鉄事業地をどれだけ高く売るかによって、国鉄の債務返済に投じられる税金(国民負担金)が少なくなるのである。だから、大林組の行為は、ほかのゼネコンにたいする裏切りだけではなく、国民にたいする裏切りになる。
 昨年以降、大林組のあと押しによって落札した主な物件と応札金額は、一〇月一三日付の『朝日新聞』によれば、次の通りである。
「汐留地区A街区」(落札金額は非公開)、「品川駅東口B-1地区」(同一八三八億円)、「旧国鉄本社」(同三〇〇八億円)、「東京駅八重洲口(北側)」(同一五六八億円)、「錦糸町駅(南側)」(同非公開)、「みなとみらい二一―二八街区」(同非公開)。
 バブル期には一坪一億円とも噂されたあった国鉄本社用地も、契約応札金額は、三〇〇八億円、坪単価に直せばおよそ8286千万円に収まっている。つまり、その土地下落分だけ国民の財産が減ったということだ。
 旧国鉄の赤字は、国鉄分割民営化当時二二兆七千億円だった。これらは旧国鉄用地の売却益によって、回収する計画となっていた。ところが現在の赤字は、二八兆円と増えている。
 この現実について、バブルが崩壊したからだという理屈を、かつての責任者たちが言っていたが、おかしな話だ。そもそも国鉄分割民営化はバブルだのみの政策だったのだ。消えるべくして消えたバブルによって、借金が増えることは、当初から予想されたことであり、国鉄改革を実施した責任者は、戦犯として責任を問われるべきものである。
 国鉄分割民営化の当時から懸念されていたように、国鉄の財産――つまり国民の財産――を大企業がいかに分補して行くかが、国鉄改革の最大のテーマだったのである。
 大林組に関連した疑惑を眺めてみれば、国民財産を大企業に横流しするように、旧国鉄官僚が工夫を凝らしているのがわかる。
 さらに国鉄分割民営化によって国民に押しつけられた、二二兆七千億円もの赤字の問題もある。先述したように、この赤字は二八兆円まで膨らんでしまった。
 この巨額の債務にたいして、一〇月五日に衆院で可決された国鉄債務法案は、JR負担分を半分にまけることを決めてしまった。当初予想されていたJRの負担分の三六〇〇億円の半分、一八〇〇億円を国の金庫で賄うことにしたというのだ。すでに二二四五億円ものお金が、たばこ特別税(仮称)などによって補てんされることが決まっているのにである。
 そもそも国鉄改革は、国民に赤字を押しつけないという名目で行われたのだ。ところがいまは公然と一八〇〇億円もの資金を国庫補助金でまかなうことになった。これは国鉄の亡霊がいまなお赤字を国民に押しつけていることを示しており、国鉄改革の精神に著しく齟齬をきたすものである。
 国鉄の歴史は、政府が全国の民間鉄道を極めて高い値段で買い上げるところから始まる。それを今度は安い価格で民間に払い下げ(JR化)、赤字分を再度国民に負担させるようとしているわけである。
 このような方法は、なにも国鉄ばかりではない。放漫経営の末、国有化が決まった日本長期信用銀行なども典型的な例だ。政府は財界に都合が悪くなると税金で尻拭いする一方で、国民の財産をかれらに安く売ることで、財界を太らせてきたわけである。
 このように財界だけを視野に入れておこなわれる数々の政策が、さほど反対運動が起きることなく通っていってしまう。野党や労働運動が、政府のやり方にたいして無力になっている証拠だろう。

■疑われればマスコミから制裁

 腹の立つことは、なにも国鉄問題だけではない。
 7月末に発生した和歌山県の毒物混入事件関連では、いわば別件といえる形で保険金詐欺事件の容疑者が逮捕となった。まだどちらの事件も解明されてはいないが、一部週刊誌は容疑者夫婦をカレー事件の犯人と特定したような扱いをしている。日本の犯罪報道が、目を覆うほどに凶暴性をエスカレートさせている様子がよくわかる。
 逮捕前からマスコミが疑わしき人物を中心に取材攻勢をかけて大騒ぎするのは、ロス事件や奈良県月ヶ瀬村の殺人事件などでみられたことだ。今回もそれと同様、逮捕する瞬間をヘリコプターで撮影し、警察の車を追尾して放映するという大混乱状態になった。
 常時二〇〇人以上の報道陣が容疑者の夫婦宅を取り巻いて日夜監視するなど、警察でも行わないような大捜査体制が敷かれている。警察が犯人として逮捕する前から、犯人扱いで報じる権利がマスコミにあるのかどうか、厳しく問われるところである。
 マスコミは過当競争に煽られ、疑われたものはマスコミによって必ず理不尽な制裁を受ける。このような取り返しのつかない事態が、平然とまかり通るようになっている。
 近所の混乱もひどかった。現場付近では、ほぼ全世帯が要請文を張り出していたという。「心身共に疲労しています。報道取材を自粛して、静かに休息させてください」と書かれた文面からは、混乱に巻き込まれた住民たちの叫びが聞こえてくるようである。

■目的意識を喪失したマスコミ

 今回の保険金事件の容疑者については、一部週刊誌では目隠しをした写真が数回にわたって掲載されていた。このようにもはや修正のきかない段階にまで、夫婦を追い込んだのは、マスコミである。えん罪かどうかを問題にしているのではない。マスコミが作りだした犯人が一人歩きした、ロス事件やサリン事件の教訓が生かされていないとなげいているのだ。
 現在、当時を上回るバカ騒ぎ行われていることに驚きを感じる。いうまでもなく、疑われていた人物が「犯人」となるのは裁判によってである。それどころか裁判で判決を下ってもなお、本人がえん罪を主張し、逆転無罪になるケースもいくつもある。
 もちろん警察の責任も免れられない。
 今回の事件で和歌山県警は、なん十人もの警官隊を投入し、まるで凶悪犯人の大捕物といった状況を作った。忘れてはならないのは、この時、家には子どもが居たことだ。すくなくとも警察は、家の中に子どもがいれば、どれほど傷つけられるかを考慮すべきだった。逮捕状を取ったあと、彼らを任意出頭させて逮捕する方法もあったし、家宅捜査はそのあとでも十分にできたはずである。
 保険金事件の容疑者を凶悪犯人あつかいするために、警察はマスコミの力を利用し、マスコミも警察に手を貸したのだ。本来、国家権力に対峙すべきメディアのすることではない。
 これまでなん度もえん罪事件が起きているのにもかかわらず、マスコミはなんら自粛しようとしない。こういったマスコミの極端な商業主義は、どれだけ批判しても批判しきれない。
 だいたいマスコミが大殺到して事件報道を書きまくる。しかも個人を槍玉にあげるという方向になってきているのは、報道すべきものがなにかを考える姿勢が忘れられていることを示している。国民のなかにあるさまざまな不満が、犯罪事件の容疑者にむけられるようになってきているのではないか。
 一方で、このようなバカ騒ぎを冷ややかに見ている人がすくなくないことも、マスコミは知る必要があるだろう。 (■談)

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