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鎌田慧の現代を斬る/人が食い合うのを奨励するコイズミ改革

■月刊「記録」2003年11月号掲載記事

*          *         *

 このところ頻発しているのが、JRの事故である。
 先月末には、JR東日本の中央線高架工事にともない、運転開始の予定時刻から8時間にわたって上下線が不通となる事態となった。後日あきらかになった原因は、配線ミス。しかも図面段階からまちがっていたという。 また工事が終わったあとも踏切の距離が延びたために老人が渡りきれなかったり、クルマがはさまったり、ほとんど踏切があかないなどの状況がつづいている。そのため焦った老人が転倒してケガをするなど一触即発の事態が発生している。
 さらに今月6日には、夜間の線路改修工事でショベルカーのショベル部分を線路に置き忘れ、京浜東北線が激突する事故も起きている。
 共通するのは、単純ミスが重なっていること。そして事故を予見し万が一に備えていなかったことだ。
 いまから16年前、JRの前身である日本国有鉄道(国鉄)職員がいかに仕事をサボり、だらしないかを、新聞各紙が連日のように報道していた。たるみ運転だ、就業時間前の入浴だ、といった連日のネガティブ・キャンペーン(ブラック・プロパガンダ)に力を得て、「国鉄改革」がすすめられたのである。それから16年がたったのに、サービスが向上するどころか、国鉄時代以上の事故が相次いでいる。それは「国鉄改革」の正体を暴いたともいえる。
 安全性を無視して合理化を進め、子会社・孫会社に仕事を投げて経費を下げる。結局、国鉄を民間企業化させることで、関連企業を儲けさせたが、乗客の安全や労働者の雇用は「改革」の犠牲にされた。つまり人間を幸福にするための民営化ではなかったのである。
 その象徴的な事例が、国鉄労働組合(国労)員への弾圧だ。
 新幹線の運転手を売店の売り子にし、車両工場のベテラン技術者をうどん屋やそば屋で働かせ、売店や自動販売機用の販売する缶ジュースを運ばせる。国労組合員というだけで、JRは人間あつかいしなかった。
 国労にたいする人権無視がJRの本性だとわかれば、最近の事故への対応も理解しやすい。もしJRが人間を尊重する企業であれば、ケガ人がでるまであかずの踏切を放っておかなかったはずだ。
 国鉄の分割民営化に反対して解雇された1047人のひとたちは、鉄建公団訴訟原告団をつくり裁判闘争をつづけている。鉄建公団とは、かつての国鉄清算事業団を吸収した組織である。仕事のない事業団でイジメ抜き、さらに3年後に解雇したJRの雇用責任について争っている。
 地方や中央の労働委員会では、1047人の解雇が不当労働行為と認定されてきた。ところが各裁判所は、反動判決によってJRの雇用責任はないとしたのである。そして2001年、国労本部までもが権力に屈服する道を選択した。
 しかも国労本部は、組合の方針に反対した組合員22人を、組合員権3年の権利停止処分としたのである。労働組合が意見のちがう労働者を処分するのは、組織の弱体化を招くことはあっても、強化にはつながらない。組織にたいする不信を生みだすだけである。これは労働運動の鉄則でもある。国労本部は、誤りをすみやかに是正すべきだ。
 人間を尊重しない企業システムは、不況とともにさらに強まっている。前号でもブリヂストンや新日鉄の工場火災について触れたが、そのごも出光興産の北海道精油所で2回も大きな火災が発生した。発端は地震だが、現地の本部長でさえ「天災ではなく人災だった」と発言しており、地元住民の不安はますます高まっている。
 製造業の生産設備の平均使用期間は、最近10年間で2年以上も延びたという。それに加えて、安全を無視したリストラが横行している。安全にたいする企業の意識は、きわめて弱くなっており、労災、過労死、過労自殺をうみだしている。国の監督の強化が必要だ。

■前近代の雇用関係に逆戻り

 最近の記事で胸を衝かれたのは、山梨県都留市の朝日川キャンプ場駐留場で、男性3人の遺体が発見された事件である。
 この3人は、同市の朝日建設の日雇い労働者とみられている。新聞報道などによれば、この会社の60人ほどの労働者たちは、プレハブ2階建ての宿舎で生活していたという。32室もあったというのだから、巨大収容所だった。
 ほとんどが東京の山谷や大阪の釜ヶ崎など、いわゆる「ドヤ(簡易宿泊所)街」から連れてこられた日雇い労働者や路上生活者であった。これまでも賃金の未払いなどで、なんども問題になっていた企業だったという。仕事にでても1000円のタバコ代を支払うだけで、賃金の全額が支給されることはない。そのうえ宿泊代や食事代、さらには敷地内に作った娯楽施設で飲み食いさせ、法外な料金を取っていたらしい。
 そうした圧制のもとでトラブルが発生し、殺され、埋められた。このような暴力支配の「暴力飯場」(作業員宿舎)は、かつて北海道や九州の炭鉱地帯、あるいはさまざまな地域の土木現場にあった。きわめて前近代的なシロモノである。
 かつてわたしは、北九州市の「労働下宿」で働いた経験がある。競艇場でカネをすったり、小倉の勝山公園でウロウロしていた労働者が手配師の甘言によって集められ、同市八幡区の春の町にある労働下宿に収容され、新日鉄の工場などで働いた。
 これらの施設は70年代まであったが、そののち姿を消す。またバブル景気のなかで「暴力飯場」(作業員宿舎)にいくような労働者も減っていった。原発の下請け企業などに山谷や釜ヶ崎から来ていた労働者もいたが、朝日建設のように暴力を受けたり、殺されることはなかった。
 しかし現在、不況によって職場からリストラされる人があとを絶たず、山谷や釜ヶ崎にいる労働者を必要とする土木工事も減ったため、ドヤ(簡易宿泊所)代が払えなくなって路上生活者になる人たちが激増している。そうした人たちが、朝日建設などの「暴力飯場」(作業員宿舎)に収容されるようになったのである。
 もっとも苛酷な路上生活よりも、飯と屋根がついている生活の方がマシであり、定期的な仕事がなく、食事代と宿泊代が引かれているうちに借金が増えても、まだ「暴力飯場」(作業員宿舎)の方がいい感じる人たちが増えてきたのだ。
 こうした極限状態に置かれた労働者たちが「トンコ」や「トンズラ」や「ケツを割った」(逃げる)りし、それにたいする暴力的な報復が、「暴力飯場」(作業員宿舎)では繰り返されている。
 これらは北海道の開拓時代、道路工事などのために朝鮮から連行されてきた朝鮮人労働者が遭遇した現実の復活でもある。
 あるいは1984年5月、北海道の夕張市で収容していた労働者に火をつけて殺し、保険金がだまし取ろうとした事件を思い起こさせる。
 この事件の発端は、炭坑事故により日高組の労働者が死に、経営者の日高夫妻に保険金が入ったことだった。そのカネで贅沢三昧に暮らしていたものの、仕事が途切れがちになったため、労働者を寝かしておいた宿舎に火を放ち、保険金を受け取ろうとした。
 この火災による犠牲者は7人。そのなかには中学1年生と小学6年生のきょうだいもふくまれていた。日高夫婦は従業員4人に生命保険と火災保険をかけ、あわせて1億3800万円を手にしたといわれている。
 これは保険金目あての殺人事件であったが、不況のなか労働者を殺して儲けるという資本主義が、完全に復活したといえる。
 労働者の死をカネに代えるのは、なにも暴力飯場だけではない。企業が社員にかけている団体保険は、労働者が労働災害によって死亡すると、保険金が会社に入る。そのなかから涙金だけを遺族にあたえる「搾取」を、大企業もおこなっていた。
 そもそも資本主義は、労働者を喰って、経営者が太るきわめて前近代的なシステムである。なかでも派遣業は、労働者の賃金をピンハネして不労所得を得るものでしかない。
 ところが現在、この派遣業の勢いもすごい。
 コンピュータ社会の発展とともに膨大なプログラマーが必要となり、派遣労働者がプログラムを組むようになったからでもある。
 それでもコンピュータ産業や専門的な技術が、人材派遣の条件であったうちは、まだマシであった。労働者派遣法が改正され、来年3月からは全製造業への派遣が解禁される。つまり技術者でない単純労働者を、ピンハネ目的で生産ラインに合法的に派遣できることになる。
 労働者派遣とピンハネは、労使関係のもっとも醜い部分であり、労働者の保護の観点で考えれば、ピンハネはけっして認められない。人材派遣法の改正は、前近代の復活である。
 現在でさえ日本の資本主義はどう猛であって、ついに気に入らない労働者を殺して埋めるという極端な形まで生みだしてしまった。派遣法の改正は、こうした流れを加速させるにちがいない。フリーターやアルバイター・パートタイマーの使い方は、ますます経営者の思い通りになるだろう。
 つまり労働者は戦前の無権利な状態にもどされたのである。殺害されてキャンプ場にうち捨てられた労働者は、いかに労働者の命が安くなってしまったかを物語っている。

■軍拡シフトと「暗愚の森」の幽霊たち

 残念ながら選挙と発行日程が重なったため、選挙の内容については、今号では触れられない。しかし自民・公明・民主の三大政党ともに憲法改悪路線のため、選挙結果がどうであれ憲法改悪にむかうスピードが憂慮される。
 新しく誕生した小泉改造内閣は、改革路線などと呼ばれているが、じつのところ「軍拡路線」でしかない。
 安倍晋三は、49歳にして幹事長に抜擢されたと話題になっているが、「小型核兵器をもつことは憲法上問題がない」と核武装を合憲といいきった人物である。また岸信介、安倍晋太郎とつづいた三代目の“世襲”政治家である。岸は60年安保を機動隊によって成立させた張本人であり、超ウルトラ軍拡政治家といってもよい。安倍晋三も、その血をしっかりと受け継いでいるといえよう。 そのほかにも法務大臣の野沢太三は参院憲法調査会長を務め、憲法改悪に奔走した。教育勅語信奉者の森喜朗率いる森派に所属し、憲法改悪路線を内閣から推し進めようとしている。
 石破茂防衛庁長官は、軍事オタクとして知られ、徴兵制を合憲と発言するタカ派でもある。中川昭一経済産業相は、石破防衛庁長官の後任として拉致議連会長を務めてきた。小池百合子環境相は、同議連の副会長。この3人はアンチ北朝鮮勢力であり、軍事的・高圧的な解決を望む軍拡シフトでもある。
 憲法改悪を公然と掲げる小泉純一郎は、軍拡・改憲路線を官房長人事にも反映させた。福田康夫官房長官、細田博之・山崎正昭両官房副長官は、いずれも小泉の出身母体であり、タカ派の多い森派に所属する。「暗愚の森」から化けてでた幽霊といえよう。
 このように日本はますます危ない道を歩んでおり、チェック機能すら利かなくなっている。大政翼賛化してきた政治をせめてもとにもどすためにも、こんどの選挙で、自民党を吊し上げるしかない。(■談)

※文章の一部に不快用語が使われているが、劣悪な状況を表現するため、現在使われている表現を併記した上であえて使用した。検討した上での掲載であることをご理解いただきたい。

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