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鎌田慧の現代を斬る/殺して、壊して、カネ儲け。ブッシュのあくどいやり方

■月刊「記録」2003年5月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

*            *            *

 戦争は国家による人殺しの奨励である。1人でも多く殺せば国の名誉が上がり、殺人者の名誉はさらに上がる野蛮な構造となっている。どんな理由があったにしても、戦争は国家による醜悪な大イベントでしかなく、きれいな戦争などあるわけもない。とはいえ今回の米英軍によるイラク攻撃は、近年まれにみる“汚れた戦争”であった。
 なぜブッシュ大統領が戦争に踏み切ったのかは、大いなる謎である。そのため「理由なき戦争」とも呼ばれ、国際的にも反対意見が強かった。ブッシュの唱えた侵略の大儀は、大量破壊兵器の破壊とイラクの解放であった。しかし戦争がほぼ終結してなお(4月17日現在)、大量破壊兵器は発見されていないし、イラクのひとびとが「イラク解放」に、さほど喜んでいるようにもみえない。シーア派の幹部たちもフセイン打倒には気勢をあげたものの、米英軍の駐留を歓迎しているわけではない。
 米軍が大量に放ったミサイルは、1万8000発にのぼるという。トマホークだけでも、750発もぶち込んだ。これだけ凄まじい大量破壊をおこなっていて、どこが「イラクの解放」なのだろうか。事実は「イラクの破壊」でしかない。住民が喜んで米軍を迎えるなど、完全な夢想である。
 独裁政権の倒れた象徴として、バクダッドではフセイン像の引き倒しが、生中継で全世界に伝えられた。一部報道では、独裁者のチャウシュスク政権崩壊になぞられるむきもあったが、引き気味のカメラにはまばらに集まった住民が映り、住民の蜂起と呼べるほどの熱気はなかった。実際、アメリカ側の演出だったのでは、との報道も流れている。
 今回の戦争では、アメリカの大本営発表の空言がなんどかあきらかになっている。開戦当初はフセイン大統領の死亡説が流れ、そののち本人がテレビに登場。また南部都市バスラを米英軍が制圧、おなじくバスラで住民蜂起が起こったといった情報も、アルジャジーラなどの記者リポートによって、ウソと判明した。
 思い返せば12年前の湾岸戦争は、「キレイな戦争」として報道された。前線取材が徹底的に規制され、ひとけがないように見える施設をミサイル攻撃する映像が主役だった。まるでテレビゲームのような映像が、これでもかこれでもかとばかり放映された。もちろん市民は大量に殺された。ただ映らなかっただけである。これもアメリカが発表した絵空事だった。
 しかし、そのときのあまりに露骨な情報操作がメディアから批判され、今回のイラク侵攻では従軍記者取材が認められた。世界各国から500人以上もの記者が集結したという。しかし、結局現場ではきびしい報道規制があったと伝えられている。
 また、なによりジャーナリストにとって許し難いのは、アルジャジーラのバクダッド支局やアブダビテレビなど、アラブ系のメディアが攻撃されたことである。事前に米軍に知らせておいた支局が、けっして外れないと自慢されてきた米軍のミサイルによって爆撃され、1人の記者が死亡した。
 これはイラク国営放送が攻撃されたのとおなじ文脈で考えるべきであろう。自分たちに都合の悪い報道は、暴力によって口を封じる。そんな“アメリカ民主主義”の意図が如実にあらわれている。もっと簡単にいえば、目撃者は殺せ、ということだ。
 そもそも米英は、アルジャジーラを目の敵にしていたふしがある。開戦後には、ニューヨーク証券取引所の取材から追いだした。またイギリス兵の死体や捕虜が放映された際には、イラク政府のプロパガンダの手先だとしてイギリス軍の高官が名指しで非難した。そして空爆である。アメリカ型民主主義とは、言論圧殺のことなのか。
 また4月9日には、チグリス川沿いにあったジャーナリストの拠点、パレスチナ・ホテルも米軍から攻撃され、ロイターなどの記者2人が死亡した。こうした事態について、国際ジャーナリスト連盟も激しい抗議を表明している。
 しかし非難にたいして、国防総省のクラーク報道官は、「これまで、多くの報道関係者に私は伝えてきた。戦争は危険なものだ。戦場にいる時、あなた方は安全ではない」(『朝日新聞』4月10日)と平然と責任を記者たちに転嫁している。危ない場所にいるのと、意図的に殺されるのではおなじ危険でも大ちがいである。クラーク報道官の発言は、自分たちの犯罪を覆い隠しているにすぎない。

■石油メジャーと軍需産業で政権固め

 イラク攻撃が終盤戦にさしかかったころから、ブッシュ政権の閣僚たちが関係する企業の利権があきらかになってきた。
 ブッシュ政権は、まれにみる国際石油資本(石油メジャー)政権である。ブッシュ自身、テキサスの石油会社の重役だったのだが、2000年の選挙では、石油ガス業界から選挙資金として2億円以上受け取っていた。まさに石油利権大統領である。
 チェイニー副大統領は、油田開発会社のハリバートンの元CEO(最高経営責任者)である。このハリバートンの子会社は、イラク侵攻なかばで70億ドル(8400億円)もの油田の消火・復旧事業を、無競争で受注している。またライス米大統領補佐官は、大手石油会社シェブロンの社外取締役。さらにエバンズ商務長官は、長年、石油会社で働いてトップもしめたことのある石油業界の実力者だ。
 いうまでもないことだが、イラクは産油国である。砂漠の下には、1125億バレル、確認埋蔵量世界第2位の原油が埋まっている。イラクに親米政権が樹立すれば、フセイン政権下で利益を得ていたフランス・ロシア・中国などの既得権益を崩すこともできる。また、これまでサウジアラビア主導のOPEC(石油輸出国機構)に仕切られていた中東の原油価格が、親米イラクの原油増産で大きく揺らぐことにもなる。結果的に“石油メジャー閣僚”たちも、大きな利益が転がり込む。
 さらにブッシュ政権には、軍需産業とも強いつながりをもつ閣僚も並んでいる
 リチャード・パール前米国防政策委員長は、国防総省が許認可権をもつ企業の顧問だったという理由で委員長を辞任した。噂されるアラブの武器商人との関係は、彼の横顔をしめしている。
 ラムズフェルド国防長官は、軍需産業系のシンクタンクで理事長だった人物であり、超タカ派のウルフォウィッツ国防副長官は爆撃機などをつくるノースロップ・グラマン社の顧問、チェイニー副大統領の妻にあたるリーネ氏もおなじく爆撃機などを製造するロッキードマーチン社の役員だった。
 戦争は、兵器の大量消費の一大チャンスである。『毎日新聞』(4月9日)は、今回使われた兵器の値段を次のように報じている。

トマホーク〈ミサイル〉
 1発…50万ドル(6000万円)
JDAM〈精密誘導爆弾〉
 1発…約2万4000ドル(287万円)
バンカーバスター爆弾
 1発…14万5600ドル(1747万円)
ステルスB2A〈爆撃機〉   
 1機…21億ドル(2520億円)
FA18E〈爆撃機〉
 1機…6000万ドル(72億円)
M1A2エイブラムズ〈戦車〉
 1両…430万ドル(5億1600万円)

 こうした高額の兵器が湯水のように使われるのだから、米軍需産業関係者の笑いは止まらない。
 人を殺せば殺人者であるが、人を殺してモノを売りつければ英雄となる。それがブッシュ型のモラルなのだ。今回のイラク侵略は、古い兵器の在庫一掃と新兵器の開発を狙ったビジネスショーと考えれば、とてもわかりやすい。
 さらにもう1つ、イラク戦争はアメリカ経済に特需を連れてきた。戦争復興である。

■壊したヤツラで復興独占

 復興費用の額はいろいろと取りざたされているが、『読売新聞』(4月6日)は「戦争が3ヵ月程度で終わった場合は1560億ドル(約18兆6000億円)」というエール大学教授の試算を発表している。
 これらの膨大な復興費用と戦費は、ヤクザのみかじめ料のようにアメリカが世界各国から回収するつもりのようだ。もちろん日本も例外ではない。
 しかも現在、アメリカはイラクに債権をもっていない。日本・フランス・中国などは巨額の債権もっているため、フセイン政権が転覆したいま、どのようにそれを回収するかに頭を悩ましている。
 こうした状況にありながら、ライス米大統領補佐官は「イラク解放に命と血をかけた連合軍(米英)が、主導的な役割を期待するのはごく自然なことだ」と述べ、破壊しつくしたあとの儲け、戦後の復興需要は事実上、アメリカで独占すると宣言した。
 今回のイラク侵攻は、アメリカの1人勝、との宣言である。
 石油利権を既得権をもつ国から奪い取り、自国の軍需産業が喜ぶ兵器でイラクを徹底的にぶちこわし、自分で壊した街を自国の企業に作り直させて、イラクが生みだす原油で支払わせる。そのうえ回収不能の債権すらない。
 アメリカにしてみれば、殺せば殺すほど、破壊すれば破壊するほど儲かるのだから、これほどウマイ商売はない。理念はおろか自省の感情さえ吹き飛び、結局、ブッシュ、ラムズフェルドのイケイケどんどんのビジネスゲームである。

■ベトナム戦争の失敗に学べ

 このイラク攻撃にともない、ますますクローズアップされてきたのが北朝鮮問題である。安倍晋三官房副長官などは、「(北朝鮮に)何発も撃たせないためにはミサイル基地を攻撃しなければならない。それは米国にお願いするしかない」といった。
 これこそ情報操作というべきものだ。たしかに北朝鮮はミサイルをもっているかもしれない。だからといって北朝鮮人民軍がイカダに乗って日本に攻めてくるなど、誇大妄想でしかない。腹ぺこの国民を抱えているのに、どうしてアジアで中国に匹敵するような「自衛力」をもつ日本に戦争を仕掛けられるというのか。
 実態のない敵の驚異を煽り立てて戦争するのは、権力者の常套手段である。かつてマクナマラ国防長官が、自著の『マクナマラ回顧録』で、ベトナム戦争におけるアメリカの敗因として、「相手方の危険性を過大評価した」「相手国内の政治勢力の判断を完全に誤っていた」「すべての国家をアメリカ好みにつくりあげる天与の権利などもっていない」などの理由をあげた。
 今回のアメリカの行動は、ベトナム戦争のときとなんら変わりはない。それ以上にバカげている。大量破壊兵器疑惑も、フセイン崩壊後に起こるはずだった市民の歓迎という夢想も、マクナマラが指摘した失敗になぞらえる。あまりに巨大な軍事力は、おそらくアメリカの解体につながる。アメリカは、歴史に学ばなかったのだ。儲けにはしった拙さ、である。
 アメリカが好むように、イラクの人民が動くかどうか。イラクに親米政権をつくれなかったとき、アメリカはマクナマラが指摘した失敗の意味を悟ることになる。
 そして日本もまた、北朝鮮の危機を煽って進める軍拡路線の愚かしさを悟ることになる。もう一度、平和のために行動しよう。 (■談)

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» 「ドラえもんが何とかしてくれる」 [青木 ブログ]
汚いですよねこの元少年、あれこれつけて改めて殺意否認 。 鐓�鐓�鐓�えもんまで裁判に登場するとは思っていませんでしたよ [続きを読む]

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