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鎌田慧の現代を斬る/崩壊にむかう小泉戦時体制

■月刊「記録」2002年5月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 有事体制に関する3法案――武力攻撃実態法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法改正案――が、閣議で決定され、本会議にもち込まれそうだ。これらの法案を見ると、自民・公明・保守の議員たちは、本気で戦争をやるつもりか、と思わざるを得ない。
 思い起こせば1991年4月、海部俊樹首相は、国内の反対を押し切って自衛隊を海外派遣した。自衛隊法99条に「危険物除去、処理の任務」が明記されていることが、海外派遣の根拠だった。
 それから8年をへた99年5月には、新ガイドライン関連法が成立。「地理的な概念ではない」という“周辺”で、「後方支援」という名の戦闘行為を自衛隊がおこなえるようになった。さらに昨年10月には、2年間の時限立法ながら自衛隊の海外派兵を可能にする「テロ対策特別措置法」が成立した。翌月には護衛艦を含む自衛艦3隻がインド洋にむけて出発。海外派兵の“実績”をつくり上げてしまった。
 そしていよいよ、政府は戦争体制の完成にむけて、国内弾圧態勢の整備に手をつけはじめた。有事三法案である。
 戦時体制の強化といえば、1933年8月に桐生悠々が『信濃毎日新聞』に「関東防空大演習を嗤う」という記事を書いていた。戦時体制下に入ろうとする軍隊の姿勢、あるいは国民が空襲をされるのを想定しながら戦争の準備を進めるアホらしさを、桐生は嗤った。空襲によって東京が大火災となり、多数の市民が逃げまどい、財産を失い、大量の死者が発生することを予想しながら、敵を迎え撃つナンセンスを突いた記事であった。
 今回の有事体制も、当時とまったくおなじようなバカげた愚行を繰り返そうとしている。有事三法案には、国民の主権を無視するような条文がならぶ。
 たとえば自衛隊改正法には、「必要な限度において、当該家屋の形状を変更することができる」などと書かれている。「形状の変更」などといってもリフォームしてくれるわけではない。家屋を撤去して陣地を作るなど、軍隊のやりたいように家屋を壊せるという意味である。戦時中には、「建物疎開」によってたくさんの民家が撤収された。
 また「墓地、埋葬等に関する法律の適応除外」という項目では、法律で定められた火葬場や墓地を使わなくても、自衛隊員の死体を処理できるようにした。有事に出動した自衛隊員の死体を野焼きして、どこか適当に埋めても法律に違反しなくなったのである。
 この項目だけを見てもわかる。有事三法案とは、戦争遂行法案である。しかもこの法案は、「武力攻撃のおそれ」ばかりか、「武力攻撃が予測されるに至った事態」など、どうでも解釈できる規定によって「武力攻撃事態」を定義している。武力攻撃事態ともなれば、それだけで自衛隊の武力行使ができるようになり、「戦時体制」になってしまう。
 これまでも政府は、有事法制成立に少しずつ歩を進めてきた。90年代末ぐらいまでは、「研究は進めるが、法制化は前提としてない」という屁理屈で準備を重ねてきた。そうした“研究”が、1度として法案化されなかったのは、その危険性ゆえであった。
 ところが小泉純一郎首相は、自身の人気に慢心して、死んでいた法律を地獄のそこからひきずりだした。冷戦時代の産物を使うなど、彼には国際情勢の判断などできない。いまや彼の思惑は狂い、人気は急落、頼みの支持率も50%を割り込んだ。それでも、国会内部を見ると、かなり議員が有事法制に賛成している。自民党・公明党・保守党ばかりか、民主党も半分も賛成。自由党にいたっては、国民の権利をさらに圧迫するような有事法制の強化に言及する始末。自民党内では野中広務などが時期尚早論を唱えているが、反対勢力としての力はもはやない。
 今回、通常国会で成立するかは別にしても、日本の危機もついにここまで来た。頼りは、国民だけだ。法案の閣議決定をうけて、ようやく市民運動も動きだし、衆議院会館前での抗議行動が起こり、デモ行進もはじまった。これからどれだけ運動が広がりをもつかにかかっている。

■被害妄想が作りだした法律

 この法案の恐ろしさをあげればきりがない。
 憲法にある地方自治の精神を剥奪して、首相権限で命令できるようになる。基本的人権を踏みにじり、個人の財産を勝手に使い回せる。民間人の命令違反にたいして罰則規定をもうけている。かつての国家総動員体制の復活である。
 このような憲法を超えた法律をいまなぜ作るのか。アメリカの要求で、その軍事下請け化を、小泉の人気にあやかって一気に決めようとした自民党の焦りがある。
 これまで冗談としてしか扱われていなかったが、軍需によっての経済の活性化もあろう。ところが、小泉内閣は30兆円という枠内での国債発行をなんども言明していて、これ以上防衛費に予算をまわすことはできないはずだ。
 戦争状態になったとき、自衛隊が超法規的行為に走るのに歯止めをかけるために、法律をつくる、などのいい方もあるが、そもそも、どこの国が日本に戦争を仕掛けてくるというのか。たとえば仮想敵国とされる北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、どんな成算があって日本に攻めて来るのか。経済的に疲弊している北朝鮮の軍や艦艇や戦闘機が日本に攻めてくるなど、小泉の妄想である。現在の北朝鮮の国力からすれば、日本侵攻は経済が破産する暴挙であり、とても考えられない。それでは、中国はどうか? いまや中国も市場経済を目指す国家である。日本に戦争を仕掛けるより、商売に専念したい時期だ。
 だいたい有事三法が動きだす、「武力攻撃が予測されるに至った事態」とは、どういう状況なのか。武力攻撃された状態でもないのに、いったい誰が予測するのか。また誰が「事態」を判定するのか。こんなことも曖昧なままに、小泉のような妄想狂が日本を戦時体制に突入させるのである。
 この法案は、小泉など、自民党タカ派の“妄想”が生みだした戦時体制への悪夢である。ブッシュもおなじ夢をみているのだが、「草野球仲間」に、日本はこれだけやってますと尻尾を振ってみせたいのだ。
 米軍の同時多発テロからはじまった“最低権力者たち”の被害妄想が、ついに形となって現れた。いうまでもなく日本国憲法は、「武力によって他者を威嚇しない」と決めている。ところが新ガイドラインそして周辺事態法から有事体制にいたる道筋は、憲法の精神やいままでの戦後政治が培ってきた歯止めを全部かなぐり捨てた。「戦争状態」が予想されたら武力攻撃をする、という戦争宣言である。バーチャルな想定で法律をつくり、現実に民衆の支配が強化されていく。これは恐ろしいことだ。
 気が付いてみれば、日本はすでに海外派兵をしており、国内の戦時体制も強まり、先月号で触れたとおり、言論統制の3法まで成立させようとしている。表現の自由を弾圧する法案と、有事体制法案が同時に進んでいるところに、小泉首相のファッショ的な本質があり、日本民主主義の危機がある。

■1日80~90回の拷問

 4月9日、総務省は、第三種郵便と第四種郵便を廃止する方針を打ちだした。これは自民党総務部会の反対でお釈迦になったが、これも表にはでにくい言論統制である。
 ミニコミや零細出版社の言論活動は、定期的な発行物は郵便が安くなる第三種郵便によって支えられてきた。書店に置けない市民運動の機関誌やミニコミが、大マスコミとのハンディの中で生き延びているのは、この制度のおかげである。第四種郵便は、福祉あるいは通信教育の保護政策であるため、廃止には抵抗が強い。しかし第三種は、一般の人たちにあまり関心がないこともあり、狙われやすい。こんごも警戒が必要だ。
 有事法制の閣議決定と時期をおなじくして、成田空港の走路・暫定平行滑走路の供用開始記念式典がおこなわれた。華やかな形で報道されたが、これは残酷空港、人殺し空港の式典であった。
 この滑走路にむかう航空路の直下には、いまなお3戸の農民が住んでいる。ニワトリを4000羽、ブタを10数頭飼育している農家もある。その民家の40m上空をジェット機が離着陸している。国土交通省は、住民が住むための仮設住宅を準備した、といっているが、いわばアフガンの民衆への攻撃において、発生した難民をキャンプに収容するような野蛮な方針である。
 旧運輸省、国土交通省はこの成田空港を建設するにあたって土地の強制収用をおこない、反対運動をしていた若ものを機動隊が殺すという残虐な攻撃を使ってきた。そののち運輸省はこのような強硬策を取らないと約束し、農民に陳謝した歴史もある。
 「暫定滑走路建設」では、強行建設および強要はしないと約束し、2500mで計画されていた滑走路を、住民が住んでいる地域を外して2150mにした。しかし、それはなんと住民の庭先に滑走路を造る野蛮を意味している。畑を耕し、家畜を飼育して生活している住民を、まったく無視した工事だった。これは静かに暮らしていた住宅の屋根に、いきなり鉄道の線路を敷いた暴挙とおなじようなもので、人間の生命を無視した攻撃である。こういう野蛮が国際空港という名前でまかり通っていることは、日本の恥といえる。
 着陸するパイロットからすれば、着陸地の手前に人家があり、これはあたかも航空機の足で民家を引っかけるような恐怖を感じるという。もちろん住民の恐怖は、さらに大きい。いつ飛行機が屋根にぶつかってくるかわからないという、非人道的殺人的行為が、毎日80~90回もおこなわれている。
 このように、いまや小泉内閣の政治とは、まったく人民の生活を無視したやり方である。人心の荒廃はさらに高まっている。この国のどこが民主主義国家なのだろうか?(■談)

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