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鎌田慧の現代を斬る/東京地裁が認めたJRのインチキ賭博

■月刊「記録」1998年7月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■クビ・労組潰し・土地分割の11年

 国鉄を分割民営化してから、すでに一一年が経過した。これまでも何度か指摘してきたように、この民営化は、政府・運輸省・財界・マスコミなどが同一歩調をとっておこなった大陰謀であった。この結果、国鉄労働組合(国労)は、不当労働行為の繰り返しによって四分五裂、国労は少数化され、国鉄が所有していた都心の広大な国有地は、財閥系不動産会社に売却された。たとえば、東京丸の内の国鉄本社は三菱系の不動産会社に購入され、新橋周辺の汐留付近は、三井不動産などに売却されている。
 結局、JRが一一年間にわたって、労働者をクビにし、労働組合を潰し、土地を分割し続けてきたことになる。ここ一〇年、日本の労働運動がナリを潜めてしまったのは、国鉄解体が大きく影響している。
 ことし五月二九日、東京地裁から、組合を潰すためだけの極めて強引な判決が下された。これまで一〇四七人の解雇をめぐる裁判では、各地の地方労働委員会、その上部機関である中央労働委員会で、すべて不当労働行為として認められ、JRに採用するように命じられててきた。ところが東京地裁はそれを否定したのである。
 中央労働委員会を含め、各地方労働委員会は、労働者側委員ばかりではなくて、使用者側委員および公益委員をもつ中立的機関であり、労働問題に関しての最高決定機関である。ところが今回、中労委の決定に従いたくないJR側の提訴を受け、裁判所が企業の側に立った決定を出した。つまり、労働委員会の存在そのものを、裁判所は否定したのである。戦後の民主的な改革を足蹴にしたということである。
 これからは、労働組合を潰す不当労働行為にたいして、地方労働委員会や中央労働委員会が救済命令をだしても、企業が裁判所に訴えることによって責任逃れができるという道がひらかれたのだ。これは独禁法の緩和、労働法の改悪など、戦後の民主化の成果をすべて潰し、憲法改悪を狙う最近の自民党政府の方針に迎合したものである。
 この重大な結果について、「JRに人権を!一〇四七人の復職を求める一万人意見広告を広げる会」は、次のような声明を発表し、かつ記者会見をおこなった。だが一一年前の、ファッショ的なJR出発当時とまったくおなじように、マスコミは黙殺した。そこであてえて、ここにこの誌面を借りて、この問題について訴えてみたい。

【声明】
 昨日、東京地方裁判所民事第一一部と一九部は、国鉄分割民営化の際におこなわれたJR北海道、JR九州、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR貨物などによる不当労働行為に関する行政訴訟に判決を下した。第一九部の判決は、JRの不当労働行為を認めたが第一一部の判決はこれを否定した。
 私たち「JRに人権を!一〇四七人の復職を求める一万人意見広告を広げる会」は、第一九部の判決の不当労働行為認定を評価するが、復職をJR各社に命じていないことについては強く抗議するものである。第一一部の判決は、国鉄改革法の極めて形式的解釈であって、とうてい容認できない。
 そもそも、不当労働行為などの労働者の人権無視問題を第三者機関として審判するために、地方労働委員会、中央労働委員会が設置されてきた。中央労働委員会はJR各社の対応を不当労働行為と認定しているのであって、これを無視して中央労働委員会を被告として行政訴訟にでたJR各社の対応は、法治行政を無視するものといわなくてはならない。しかもそれを追認した東京地方裁判所のとりわけ第一一部の判決は、法の番人としての役割を自ら否定したに等しいものといわざるを得ない。
 旧国鉄職員の多くが職を奪われてからすでに一一年である。私たちは、昨日の東京地方裁判所の判決に強く抗議するとともに、政府ならびにJR各社が、民主主義の基本である法のもとの平等を踏まえて、早急にこの問題の解決に当たることを強く求めるものである。同時に、こうした判決ならびにJR各社の対応を認めるならば、この経済不況時に多くの労働者が職を奪われていくことにつながることを訴えつつ、広く社会的にこの問題の解決のために今後とも運動を広げる決意である。
        一九九八年五月二九日
        佐高信/新藤宗幸/鎌田慧/福島瑞穂

 さらに、この日の記者会見で、私たちは次のように主張した。

●佐高信 氏(評論家)
「JR東日本の松田社長が常務だった頃か、国労だけではなく、労働委員会を相手に闘うなどといって、まさに労働委員会をけっとばす発言を続けてきた。中労委の審問でもその考えを変えるわけにはいかないと、労働委員会を認めない発言を繰り返し、裁判所に訴えた。一方では、JRには長期債務の負担を強制する法律が成立したら、直ちに法的手続きに訴えて、会社と株主の利益を守るといっている。裁判とか法律をつまみ食いして、いうことを聞かなければ訴える。公的なものでも、自分たちの都合に合わなければ無視する。法的なものに従うという観念がまったくない。今度の判決は、世界に笑われた日立の残業拒否解雇に次ぐ物笑いの判決だと思う」

●新藤宗幸 氏(立大教授)
「十一部・十九部の判決内容もさることながら、まず訴えたいことは、労働委員会という行政委員会がなぜつくられているのかということ。労働者の人権無視があり、労働紛争がおきた場合に第三者機関の審判を仰ぎ、使用者側、労働者側がそれを尊重し紛争を解決することを前提にしてつくられた制度である。地労委、中労委が不当労働行為と認定したものを、さらに中労委を被告として行政訴訟を起こすJRとは何なのか。次々と最高裁まで行ったら、この後何年かかるのかという問題だ。確かに、法的には中労委の裁定に不服がある場合にさらに裁判に訴えることは認められているが、これがそれなりに市場経済をとる国において経営者がやることなのか、憤りをまず表明したい」

●福島瑞穂 氏(弁護士)
「労働委員会の中では不当労働行為が明瞭に認められ続けてきたにもかかわらず、今回の裁判で形式的な法律論で敗訴にしたのはひどい。不当労働行為やこれが全体としてどういう問題なのかということを裁判所が端的に考えれば、こういう結論には絶対にならない。もし、この判決が当然ということになったら、労働組合潰しが大手を振っていくだろう」

■JRは確信犯

 しかし、この記者会見についても、毎日新聞が一段ベタ記事で十数行報じただけだった。国民に少しでも関心をもってもらうための試みだったが、惨憺たる結果に終わっている。
 国鉄改革当時も、それに反対する労働者や市民の集団はほとんどマスコミから黙殺されたという経験がある。政府がおこなっていることにたいしてマスコミが反対できないとは、極めて悲しむべき状況としかいいようがない。マスコミが取り上げないから、政府もますますいい気になり、やりたい放題になる。
 判決直後、運輸省の黒野匡彦事務次官は、記者会見で「我々はJRとおなじ立場に立っているので歓迎している」と判決を評価した。この発言などは、裁判の焦点ともなった不当労働行為が、運輸省・国鉄・JRの三社によっておこなわれたことをあらわしている。
 たとえていえば、窃盗に入った家で証拠隠滅のために放火したようなものだ。国鉄時代にやりたい放題に国労をいじめ、JRに看板を塗り替えたのは、インチキ賭博のやり方である。JRは確信犯なのだ。
 時事通信は、九八年五月二八日に、それをしめすような談話を取り上げている。
「JRが旧国鉄の人員を継承するのではなく、新規採用する形をとった国鉄改革法は、旧国鉄不当労働行為をJRに引き継がせないようにするのが狙いではないかとの指摘にたいし、(黒野事務次官は)『(当時)ベストの方法はこれしかないと決めた』とした上で、同法は『一〇〇年後も二〇〇年後も正義であり続ける』」
  私は北海道や九州の現場を歩き、国鉄改革に反対する労働者たちが、現場から離され、人材活用センターという「流刑地」入れられていることをなんどか書いた。そのあと、一〇七〇人も解雇された。彼らは、現代の「政治犯」ともいえる。

■結婚指輪も法律違反?

  国家機関の一員でしかない裁判所は、国鉄の問題について、ひどいデタラメぶりをこれまでもおこなってきている。たとえば九七年一〇月三〇日に、東京高裁がだした東京新幹線バッジ事件の判決は、裁判所が国家目的に迎合し、なおかつ企業の論理に従ったことを明らかにしている。
 この事件は、国労の組合員が国労のバッジを着けていたために、配置転換など差別的な処分を受けたことに端を発する。判決では、バッジを着けている労働者は「職務専念義務」に違反するというものであった。
 裁判官によれば、注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならない職務専念義務を、職員は課せられているという。
「本件組合バッジの着用行為は、国鉄の分割民営化に反対する東京地裁が昭和六二(一九八七)年三月三一日にだした『国労バッジは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする』などを内容とする指示第一六〇号に従ってされたものであることに照らせば、使用者および分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員にたいして、国労の団結をしめそうとする意味があるというべきであり、これにより、国鉄改革法に従って新会社の運営を推進しようとする支配者および分割民営化に賛成した他の労働組合組合員との対立を意識させ、そのことによって、これらのものが注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったというべきである」 国労バッジの着用が、職務専務義務に反する理由として、裁判所がこのように語っている。
 つまり労働者は脇見もせず、なにも考えないで働かなければ、「職務専念義務」に違反すると、裁判官は結論づけているのだ。しかし、国労は、企業内で法律的に存在を認められている労働組合である。法律的に認められている組織のバッジを、どうして企業内で着けることが悪いのか。
 職務専念義務というが、そこまで言うなら、たとえば家族の写真を事務所の机の引きだしの中に入れているのも、職務専念義務に反してしまうのか。あるいは結婚指輪をはめている労働者は職務専念義務に反しているのか。会社にいる間、片時も脇目もふらず、すべての注意を仕事のみに集中しろとは、経営者でさえいわないとんでもない脅迫である。しかし裁判官は、裁判所という最高権力によって、このように非常識な無理難題を強要する。
 このような人間の尊厳と人権と民主主義に反する行為が、裁判所を舞台に公然とおこなわれ、また、それが批判されないでいて、日本が「民主国家」だ、などといえるわけはない。 (■談)

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