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鎌田慧の現代を斬る/“臭いモノにはフタ”内閣の暴走

■月刊「記録」2002年7月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■核保有も「どうってことない」口先宰相

 新聞を広げると一面トップからサッカー、テレビをつけるとトップニュースがサッカー。新聞もテレビもサッカーだらけである。まるで日本の惨状を隠す陰謀の煙幕のようだ。
 サッカーボールの陰に隠れていたのは、“政府首脳”の「『(核を)持つべきだ』ということになるかもしれない」との踏んだり蹴ったり発言である。
 内閣と新聞とには奇妙な取り決めがあって、官房長官の言いたい放題は、“政府首脳”の煙幕ですまされてきた。福田康夫官房長官の「爆弾発言」を翌日の朝刊一面であつかったのは、『毎日新聞』だけ。『朝日』と『読売』にいたっては、申し訳ていどの記事を掲載していただけ。煙幕新聞である。
 このなかで気を吐いたのが『東京新聞』だった。福田が公式の記者会見で語った内容と“政府首脳”の発言を絡め、「福田長官『核持てる』」と一面トップで報道した。2面でも「タカ派体質浮き彫り」の見出しで福田を徹底批判し、社会面にいたっては福田にたいする被爆者の怒りを報じた。
 この『東京』の怒りの報道によって、各紙のあつかいがコロリと変わる。「政府首脳」こと福田官房長官は連日釈明に追われることになった。もし『東京新聞』がこれだけ力を入れて報道しなければ、この政府の最高責任者のひとりである官房長官の重大な発言は国民に知られることがなかったはずだ。
 そもそも福田発言は、早稲田大学で講演した安倍普三官房副長官の発言内容について述べたものである。「憲法上は原子爆弾だって問題はないんですからね、憲法上は。小型であればですね」(『サンデー毎日』2002年6月2日)という安倍副官房長のトンデモ爆弾発言を、福田官房長官が容認し、さらに拡大したのである。
 一方、事件の発端となった安倍は、『サンデー毎日』の取材にたいして、「政治の場ではなく、大学の講義という場で、しかもオフレコなので、突っ込んだ話をした。それを、だれが知らないが、テープにとり、外部に出し、揚げ足取りをする。卑怯で、ルール違反じゃないか。また、それをセンセーショナルに書くなら、ひどいことだ」などと語っている。オフレコを書いたのが問題であって、この発言は言い間違いではないといっているのだ。安部の思想は核容認である。こういう手合いが、日本の中枢を占めている。
 しかも“政府首脳”の問題発言について、小泉首相は「あれどうってことないよ」などとノー天気に発言している。本人自身もこの程度なのだ。この“口先”宰相は、「どうってことない」とたかをくくりつづけて60数年生きてきた人物だが、まるで首相正副官房長官が核武装のアドバルンを上げたのと、おなじことである。
 だいたい官房長官・官房副長官から首相にいたるまで、これだけの暴言を吐きながら、「正常」に政治運営をつづける小泉内閣は、まさに“臭いモノにはフタ”内閣。野党は完全にナメられている。
 いまさらいうまでもなく、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則は、被爆国である日本の民衆の究極の悲願である。いまだ年に何人もの被爆者が死んでいる。そんな悲劇を繰り返したくないという強い思いが結実したのが、非核三原則だった。それを無視して、「日本も核保有が可能」と政府首脳たちがいいきっている。戦争にたいする彼らの反省が、どれほど不徹底だったかがよくわかる。
 福田・安倍・小泉これらの二世、三世議員の政治姿勢は、幼稚園児クラスといって間違いない。「売り家と★唐様★(ルビ:からよう)で書く三代目」。江戸時代の川柳のように、小泉家が三代目のお坊ちゃん政治家によって倒産するのはかまわない。しかし三代目政治家が首相になり、日本低国は世界から見放されようとしている。

■証拠を隠せと官に圧力をかける幹事長

 おなじころ、防衛庁でも大きな問題が発覚した。防衛庁に情報公開請求をした人物の身元を組織的に調べ上げ、請求時には書かれていなかった必要のない職業や思想信条まで書き入れたリストを作り、庁内の職員専用LANに掲示していたのである。
 しかも問題発覚後に、伊藤康成・防衛事務次官が「『漏らしたやつが悪い』というのは、まさにその通りです」などと発言する始末。外国の軍隊ばかりではなく、国民さえも「仮装敵国」として監視する防衛庁の過剰防衛としての攻撃性があきらかになった。
 防衛庁自身は、情報を、防衛秘密機密、防衛秘密極秘、防衛秘密秘、機密、極秘、秘という6項目に分け、がんじがらめにコントロールし、国民の眼から隠匿してきた。また防衛産業で働く労働者の思想・信条を徹底的に調べあげている。塀を巡らせた工場内をさらに金網で区分するなど、秘密を守るためにきわめて閉鎖的な職場環境まで作っている。もちろん労働者には、何をつくっているかは秘密にさせている。
 その一方で、防衛庁に近づいた者のすべてについて情報を収集し、徹底的に監視している。思想および病歴、収入などはプライバシーに該当するものであって、コンピュータにいれることなどは防がなくてはいけないのだが、国民を敵とみなしている防衛庁は、せっせと情報を蓄えている。
 防衛庁には、「調査隊」という関係業者などの身辺調査や監視活動をおこなう秘密の部署がある。自衛隊の秘密を探ったり、基地襲撃を企てたりする行動に対処する部署だというが、もちろん今回の事件でも一枚かんでいる。情報公開を請求した市民運動団体やジャーナリストを、基地襲撃するもの、と認識しているとしたなら、「治安維持法」の時代とおなじで、すでに言論の自由などはない。
 内閣調査室や防衛庁の調査隊、あるいは公安警察などは、国民に敵対する存在であり、膨大な秘密費を使って情報を収集している。本来、情報の保護とはこのような官に個人情報が集中することを防ぐためにある。ところが小泉内閣は、それとは正反対に、政治家や官庁の情報を防御するために、個人情報保護法案成立などを成立させようとしている。
 きわどいスキャンダルを週刊誌に追求されている山崎拓幹事長が、個人情報保護法成立に真っ先に賛成するのは笑わせる。もちろん今度のリスト問題でも情報隠匿に走り回った。38ページにおよぶ防衛庁の調査報告書を公表せず、4ページの概要だけを発表するよう、防衛庁幹部に圧力をかけている。しかも概要の原文にあった「証拠隠しと言われてもやむを得ない」という表現まで削除した。“臭いモノにはフタ内閣”とは、こんなオソマツな連中でつくられている。

■官民一体の毒ガス国家に

 臭いモノにはフタをしていたのは、何も政治ばかりではない。企業でもこれまで抑え込んできたフタが外れ、全国に悪臭がひろがっている。
 ミスタードーナッツを運営するダスキンは、肉まんに無認可の酸化防止剤が使われていたのを知りつつ、300万個もの肉まんを販売しつづけた。また口止め料として、問題を指摘した取引業者に6300万円を支払い、公表を促した幹部には「(秘密を)墓場まで持っていけよ」と厳重に口止めした、と報じられている。
 協和香料化学は、無認可の物質を含む香料を30年以上に渡って出荷。会社社長も7年前から違法なことを知りつつ、操業を続けていた。この企業が製造した香料は、全国175社の食品メーカーに出荷され、何も知らずに製品に使ってしまったメーカーは、連日、各新聞に謝罪広告を出している。社会面の3分の1を埋める謝罪広告は、隠していた悪臭がどれほどひどいものだったかをしめしている。日本は、官民一体の「臭いモノにフタ」の毒ガス国家となった。
 ここで注目したいのは、企業が悪事を隠してきた事実だけではない。こうした不正が発覚したいきさつである。協和香料化学の場合は、東京都食品監視課に郵送された匿名の投書がきっかけだった。30年以上伏せられた秘密は、内部告発によってようやく明らかになったのである。ダスキンの場合は取引業者の告発だったが、企業の秘密を知る、ひろい意味での内部告発者という見方もできる。
 現在審議中の個人情報保護法案が定める基本原則を活用すれば、ニュースソースの「透明性」の強制によって、あるいは、「本人が適正に関与し得る」として内部告発者を追いつめることができる。法案が成立すれば、防衛機密とおなじように企業の秘密も保護されることになる。
 1970年ごろ、わたしは長崎県対馬にある東邦亜鉛の公害を取材に行った。取材先では、毎日のように会社の守衛に尾行され、近くの駐在巡査が滞在先の家に調査に来たり、あるいは東京の留守宅に興信所が来るなど、激しい取材規制を受けた。また東邦亜鉛の副社長にも何十回となく申し入れて取材に応じさせ、取材内容を録音したテープで暴露し、問題を社会に喚起したこともある。
 当時はまだ、報道や言論の自由という観念が企業内にも強く、このような取材が中止になることはなかった。しかしメディア規制三法が成立すれば、公害企業にたいするしつこい取材は、権力によってあっさり中断されることになる。
 東邦亜鉛への取材は、『隠された公害』として三一新書から出版(現在は、ちくま文庫で刊行)した。そののちには、東邦亜鉛の技術者から内部告発の資料も送られてきた。その書類には、東邦亜鉛がいかに公害隠しをしたのか、きわめて具体的に書かれていた。
 参考までに例をあげよう。
 鉱業所で汚染されていた重金属の物質を、深夜トラックに積んで川の上流に放り投げた。投棄後に調査した厚生省(現・厚生労働省)の調査報告書の結論は、「上流も汚染されているので、汚染は鉱業所の起因するものではなく、自然発生である」になった。
 また、鉱業所に保管してあった、下流の調査用サンプリング水を、会社の命令を受けた労働者が汚染されていない水で薄め、汚染度を半減させた、などと詳しいデータとともに書かれていた。
 個人情報保護法があれば、こうしたデータを使おうにも内部告発者が犯罪に問われるかもしれない。また書いたわたしもニュースソースをいうように追求されることになる。あるいは会社側が「関与し得る」として、メディアへの発表を食い止めることもできる。
 しかも個人情報保護法と平行して審議が進んでいる有事法制が成立すれば、これまで「事変」や「事態」、「有事」などと呼んできた「戦争状態」に、政府が放送局や新聞社を支配できるようになる。小泉口先首相を中心にした「幼稚園児」内閣の二世、三世たちの無知にして横暴が、ここにもストレートにあらわれている。主権である選挙民への挑戦である。
 幸いなことに世論の反対により、メディア規制三法および有事関連法案の今国会での成立は難しそうだ。だが魯迅の有名な言葉「水に落ちた犬は打て」の通り、いまこそ徹底的に追撃して2つの法案を廃案に追い込むしかない。フタマタコーヤク民主党は、次の国会などで法案の修正に応じるのかどうか、見識が問われてくる。公明党はもはや「公明」などではなく、モーマイ党。
 ここでも何度か主張したように、政府が報道機関を抑え込もうとするのは、国民の知る権利を否定であり、けっして認めることができない。 加藤紘一は起訴されずに逃げ切ったが、鈴木宗男や田中真紀子など、まだまだ懸案の問題が山積している。鬱憤を晴らすかのように、サッカーで大声をあげている場合ではない。叫ぶなら「小泉を倒せ!」と叫ぶべきで、「日本バンザイ」など寝呆けたことをいうな。(■談)

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