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鎌田慧の現代を斬る/ムダな公共事業が地域を殺す

■月刊「記録」2001年5月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 最近、ムダなカネ遣いの現場をいくつか歩いた。ひとつは、諫早湾の干拓事業である。総工費2490億円といわれるこの環境大破壊事業は、予想通り、有明海を汚染している。ところが、農水省の「調査検討委員会」は少なくとも一年間締め切りにすると発表した。この鈍感さは、致命的だ。
 たしかに防潮堤に近い漁民は、防潮堤の内側に堆積したヘドロが流れだして、漁場を壊滅させると開門に反対している。漁業権を手放し、生活のために干拓工事にでているひとたちの反対だという報道もある。しかし、いま辛うじて残されている漁場が、ヘドロによって完全につぶされる、という彼らの不安は理解できる。それにたいして、ノリなどを生産している佐賀県や福岡県など水門から離れた漁師たちは、有明海全体に汚染が拡大する事態に強い不安を感じ、より早い時期の水門開放を求めている。
 このように漁民同士の間で対立しているが、解決策はある。長期的には自然の浄化力をあてにできるのだから、いま防潮堤の内側に堆積されたヘドロを浚渫するなど、除去してから開放すればいい。干拓事業を中止して、その予算を海の浄化に使うべきだ。
 それにしても、なんの意味ももたない税金のムダ遣いであった。はじめは農地を作るといい。そのあとは防災事業だといい換えて、しゃにむにゼネコンのための工事を強行。環境破壊のためにムダなカネを遣って、地元住民を対立させただけだ。
 諫早湾の次に訪ねたのは、熊本県の川辺川ダムだ。工事によって壊滅状態になる五木村のダムの工事を見て回った。川辺川は球磨川に合流する清流である。絶滅も危惧される動植物が生きる地域に、巨大なダム本体の建設工事がはじまろうとしている。
 すでに付け替え道路や建設道路が造られ、五木村の住民たちはそのあおりをくらい、移住をはじめている。ダム建設によって五木村1000戸のうち500戸が水没する、という。
 国土交通省は、ダム建設は防災のための事業だという。しかし計画発表の66年よりも、10数年前から電力需要をまかなうために、発電用のダムを建設するプランがあった。それが防災用というオブラートに包まれて強行されているのは、農地開発事業が防災用に化けた諫早湾のやり口を踏襲している。
 電力用のダムが防災用に変わったのは、60年代前半に3年間、連続して発生した洪水が原因だった。そのあと、まだこじつけが足りないと思ったのか、灌漑をふくめて多目的ダムといい換えている。しかし、すでに周辺の農家は水源を確保していて、これ以上の水は必要ない。つまり農民のいらない灌漑用水を、巨大なダムで造りだすというデタラメである。
 防災にかんしても、必ずしもダムが必要ではない。そもそも洪水の原因は、上流の山林を乱伐したことによる土砂崩れだった。つまり上流の森林をいかに手当てするかが重要なのだ。当時、土砂崩れによって発生した流木が、川辺川支流に造られていたダムに堆積して水位を上げ、工事にいたったといういきさつまである。
 ダムですべてを解決するという発想はすでに破綻している。ダムは水が貯まれば放水するという問題もふくむ。ダムの放水によって、人が事故に巻き込まれたのは記憶に新しい。ダム建設こそが洪水を誘発する構造を生んでいる。
 結局、ダム建設のホンネは、ゼネコンの需要拡大なのだ。巨大な公共事業の浪費と政治家への環流が、ここでもまたおこなわれている。

■コスト削減が事故生む原発

 浪費のきわめつけといえば、六ヶ所村の使用済み核燃料の再処理工場だ。計画されたころには、再処理工場、濃縮ウラン工場、低レベル核廃棄物貯蔵所、いわゆる3点セットを含めて1兆円といわれていた。なんといまは再処理工場だけで2兆1400億円という金額になっている。
 さらにこれ以外にも、プルサーマル計画が立ち上がっている。再処理工場でつくられたプルトニウムを、既存の原発に使う計画であるが、その燃料工場だけで1200億円が必要だという。もっとも危険なプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX燃料)をつくるために、これだけ投資するなど信じられない。
 さらに高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)が、2020年までに4万本でると推定され、この処分地の代金だけで3兆円かかるといわれている。
 つまり核燃料サイクルは、これから膨大な資金をむさぼり食らう。しかし電力会社の地域の独占体制は、自由化によって崩れ、電力会社の足元自体が危うくなっている。
 自由化の方針によって、電力会社はやっとコストを意識するようになった。しかし核関係のコスト削減は、先日のJCOの悲惨にあらわれているように大事故と直結する。JCOはコスト削減のために、バケツを使うという前代未聞の発想をつくりだした。
 最近は原発の老朽化が進み、それのシュラウド(炉心隔壁)の補修工事などがおこわれている。新規立地が難しくなったので、少しでも長く使おうという作戦である。これの作業によって発生するのが大量の被曝者だ。これまで隠蔽されてきた日本の被曝労働者が、ついに労働災害の適用を受けるようになった。
 まだ氷山の一角でしかないが、最近では福島第一、第二原発で働いた労働者が労働災害として認定されている。これは白血病を発症して、半年ぐらいの間に死亡した例である。この人の認定は日本の原発で5人目となった。これ以外にJCOの労働者が急性被爆者として3人いるので、被曝労働者として国に認定されたのはようやく8人になった。
 いままで隠蔽されてきたのだが、これから被曝量の増大によって、大量の被爆者が発生していく可能性がある。原発は国の核戦略によっておこなわれてきたが、ついに厚生労働省も国策の犠牲者を認めざるを得ない状況になってきた。
 日本政府は、これから核燃料サイクルによって大量発生し、行き場を失うプルトニウムを、MOXによって消費させるという姑息な手段を考えている。だが、これにたいして福島県と新潟県の知事は拒否を表明している。 最近では、電源三法の交付金も浪費してしまい、新たに地方交付税を申請する自治体が増えている。再建団体指定に転落する恐れの自治体もでてきている。これまで造ったハコモノ(体育館や公民館など)の維持費が、財政逼迫の大きな理由である。
 原発がもたらすカネは、地方を豊かにはしない。こうした状況に気付いた地方自治体は、これ以上の危険をいやがってプルサーマル計画に疑念を示すようになった。福島県知事は1年間の凍結を打ちだし、つづいて新潟県もすでに搬入したMOX原料の装荷を認めていない。福島が実施したあとでないといやだ、というのが新潟県知事のいい分である。危険な廃物利用、プルサーマル計画は、この2人の知事によって歯止めがかかっている。
 すでに原発は行き詰まっている。使用済み核燃料は日々増大の一途をたどり、置き場に困っている原発会社は、プールの増設を要求しはじめている。核高レベル廃棄物を最終処分地に移すまでの中間貯蔵所建設も、焦眉の課題になっている。産廃以上の危険な高レベル廃棄物は、移動させないのが一番安全だ。

■コソドロを繰り返す隠蔽体質

 コストアップ、廃棄物処理、被曝労働者の難問は、住民をカネで黙らせてきた乱暴な開発のツケである。そうした腐った体質が、先日、ヤミ給与事件として発覚した。旧動燃とそれを引き継いだ核燃料開発サイクル機構では、事業費を給与に充てていたという。つまり事業を喰ってしまったわけで、普段おこなわれている事業が、いかにムダだったかを明らかにしている。
 旧動燃は高速増殖炉もんじゅのビデオを隠したり、再処理工場の事故でもデタラメ報告をしたりと、さんざん批判されて名前を変えた。実態は変わっていないのだから、秘密主義の陰湿体質は、改善されるわけがない。
 これは旧動燃だけの問題ではなくて、原発全体の欠陥である。すでに建設段階から、原発隠しで用地を買収するというコソドロのようなやり方が当たり前になっていた。用地買収の欺瞞だけではない。漁業権放棄にむけた漁業組合の買収や工作手段も、きわめて陰険なものであった。そして事故隠しに、給与ドロボウ。原発会社は闇の集団である。油断も隙もない。
 これから自由化もはじまり、天然ガスによる火力発電、あるいは燃料電池、風力などの新しい発電が一層進展する。ムダだらけの原発が、コストで対抗できるはずがない。再処理工場を建設されている六ヶ所村では、米国が本社のエンロンの関連会社が、天然ガスによる200万キロワットの大型火力発電所を建設すると発表した。
 こうした外国からの進出は、今後さらに進んでくる。原子力産業も効率化の波に煽られることになろう。すでに原発プラントを生産する電機メーカーにとって、原発はお荷物になりはじめている。ITの新規需要にむけて設備投資が必要な電機メーカーが、発電プラントの赤字によって足を引っ張られるという皮肉な状態がある。
 もしも、たとえ再処理工場が100パーセント安全である、といったにしても、すでにそのコストはフランスの3倍と推定されている。それだけのバカげたコストアップを認めてまで、プルサーマル計画を進めるのか。バカはやめたほうがいい。
 自民党の政治献金を請けてきた銀行やゼネコンなどが優遇され、国の金庫に穴をあけてきた。そうした企業が、その上がりをまた自民党政治家にもどす。こうしたムダ遣いのサイクルは、国民の目にも明らかになり、自民党候補の落選が各自治体でつづいている。
 このまま諫早湾干拓、川辺川ダム建設、六ヶ所再処理工場の建設など、バカげた投資が進められれば、自民党の崩壊はさらに進む。自民党がどうなろうと知ったことではないが、ムダはストップして、引き返す勇気が必要だ。
 神戸市の市営空港の虚大開発、あるいは自衛隊の空中空輸機の購入など、まだまだ監視すべきムダは多い。孫の代まで残る巨大債権をどう解消するのか。あるいはあらたな日本をどうつくるのか。ムダだらけの公共事業をストップさせる。そこから世直しの道がひらかれる。(■談)

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