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鎌田慧の現代を斬る/憲法改正を叫びだした自自公串だんご政権

■月刊「記録」1999年6月号掲載記事

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 ついにガイドライン関連法案が成立しようとしている(五月一二日現在)。
 ウルトラ自自連合に公明党も加担することで、すでに衆議院は通過した。戦争好きの三党の共謀だ。自民党は自由党の後押しによって国会を乗り切ろうとし、小沢新進党の仲間だった公明党は自民党に貸しをつくって政権党になろうとしている。こうした国民不在の政党のもたれ合いが、もっとも危険で憲法の精神に抵触する法案を押し通そうとしている。いうまでもなく日本国憲法は、交戦権を否定し、かつ国際紛争を武力によって解決しない、と高らかな理念を掲げている。これを三党が共同で踏みにじってしまった。
 この法案が衆議院を通過した直後、哲学者の鶴見俊輔さんが、「これで憲法九条は空文になった。学校で憲法を教える人は、日本国家の偽善を教えるべきでしょう。事態はそこまで進んだのです」(『朝日新聞』四月二七日)と語っていた。国民の拠りどころとしての憲法で平和を唱えながら、戦争に参加する法律を成立させるのは、とんでもない偽善である。こんどは、その偽善を繕うために、憲法を変える動きが一気に強まる。泥棒の論理である。
 わたしは六〇年安保世代のひとりだが、日米軍事同盟としての安保条約が、三九年後、交戦権を解禁して、紛争国に自衛隊を派遣する形で強化されるとは考えもしなかった。冷戦終了後は、核廃絶の動きから世界は軍縮にむかうと考えていたからである。しかしNATO軍のコソボ攻撃にみられるように、軍事力によって相手を屈服させるという恐怖の哲学が、いまなお影響力を残している。
 日本の参戦法案ともいえるガイドラインもまた、その恐怖の哲学の上塗りである。しかも自衛隊のシビリアン・コントロール(文民統制)を外す方向に進んでいる。緊急事態には、国会が事後承認になるなど、まさしくかつての軍部の独走を再現しようとするものだ。これから、いったんひっこめた外国の軍艦を挑発する「船舶検査」の法案もだされようとしている。
 いままでにもさんざん述べてきたのだが、もっとも問題なのは、後方支援の名のもとに、戦争にむけての国内体制が整備されることだ。港湾・空港・病院などの施設と権力者が戦争に動員され、反対できない体制になる。地方自治体の権限が中央政府によって踏みにじられる。つまり、国家危機を錦の御旗にして有事体制は整えられ、戦争遂行のための国家総動員をかけられるようになる。憲法のもとでの国民の基本的人権など、ゴム草履のように捨てられる。
 自自公談合政権は、こともあろうに盗聴を公然と認める組織犯罪対策法案を、今国会で可決しようとしている。組織犯罪対策法案が盗聴法といわれるのは、これまで国民の基本的人権としてのプライバシー擁護のために、厳しく制限されてきた、通信傍受を合法化しようとしているからである。
 薬物捜査などにたいして、盗聴は必要だ、と説明されている。組織犯罪といえば、暴力団が対象と思いがちである。しかし組織犯罪という名目で、反政府の市民団体が標的になる可能性は否定できない。
 また自民党や法務省は、麻薬捜査ばかりでなく、殺人や誘拐事件も盗聴の対象にしようとしている。盗聴法は、容疑者の盗聴だけで終わるものではない。容疑者を探すために膨大な市民への盗聴へと拡大する。これでは一般国民を総容疑者として捉える管理国家になる。つまり多大なプライバシーが侵されて、そのなかから一人の容疑者を洗いだす恐怖政治が可能になり、こうした観点からも、それがガイドラインと結びついて、基本的人権を無視した盗聴法がひとり歩きする。
 通信傍受を実施するにあたっては、裁判所の検証令状が必要になるという。それが自民党のいい訳になっている。しかし検察の検証令状(家宅捜査令状)などは、ほぼ検事の申請通りにおこなわれている。しかもその現状を批判し、組織犯罪対策法案の反対集会に出席した寺西和史判事補が戒告処分になるという事件も発生している。これは裁判官に言論の自由がすでにないことをしめしているわけで、これも戦時体制への動きとして位置づけられる。

■危機意識で国民を支配

 日本の政治は、自自公ウルトラ政権によって(かろうじて民主は野党に留まっている)戦争準備にむかって進んでいる。いままでこうした発言をするたびに、「狼が来た」論だと批判されてきた。しかし「狼が来た」といいつづけてきたのは、むしろ政府であり、与党である。 たとえば日米安保体制から広範囲に踏みだしたガイドライン法案は、北朝鮮を狼にした戦時体制法案である。オウム真理教事件や暴力団を狼にしたてあげての、盗聴法も成立させられようとしている。
 それだけではない。
 国民の危機意識を煽り立てて、国民を支配する法律としては、「国民総背番号制」(住民基本台帳法改正案)をも、またぞろ成立させようとしている。すでに二〇数年も前から自民党が導入を狙ってきた制度だが、これまたドサクサ自自公連合政権によって突破しようとしているのだ。
 窮極には、外国人登録証明書とおなじように、IDカードをもたせることにする。IDカードの携帯義務を怠れば、逮捕できる算段だ。そこまでいかなくても、情報の集積によって、個人のプライバシーが丸裸になることはまちがいない。現在でさえ警官の不審尋問で名前をいえば、パトカーの無線で前科の有無がすぐわかる。このような制度が導入されれば、個人所得から預貯金の額、病歴、逮捕歴まで個人情報が一瞬にしてわかる。
 韓国でもIDカードが考えられていた。しかし最近、国民の反対によって中止が決定されている。プライバシーを侵害する危険が、きわめて高いからである。国民の恐怖心を煽り、国民生活の奥深くまで国家が関与する体制が着々と準備されている。それがオール与党体制の現状である。
 また国家体制の強化を批判するはずのマスメディアも、とんでもなく頼りない。現在、愛国論と愛国論者の過激な発言がマスコミを埋めており、それが一定の商品価値をもって巷に流布している。その一方で、体制批判をおこなうメディアが力を急速に落としている。
 出版界も例外ではない。不況のなかで本の売り上げが伸び悩み、ついに総合雑誌の一つである『宝石』(光文社刊)が休刊されることになった。この休刊がジャーナリズムにあたえる影響はきわめて大きい。というのも現在、総合雑誌でそれなりに体制批判のできるのは、『世界』・『月刊現代』・『潮』そして『記録』だ。週刊誌まで含めれば『週刊金曜日』が、これに加わるだろう。その程度でしかないのである。
 この一角が崩れるということは、『正論』『諸君』を中心にした産経・読売・文春などの愛国派と議論を闘わせる媒体の勢力が弱くなったことを意味する。さらにはライターがまっとうな意見を発表する貴重な場が減ることにもなるし、後継者を養成する場が少なくなることでもある。中央公論の読売からの買収にみられるように、不況が一つの言論統制として働いている。
 平成オジサンこと小渕恵三首相は、ガイドライン関連法案を「手みやげ」にして渡米。屈辱外交を展開して帰ってきた。
 米国は世界平和のためにきわめて重要な役割を果たしているという、デタラメなお世辞を振りまいて帰国した。もちろん衆議院通過を米国に褒められ、参議院通過への覚悟も固めたことだろう。しかしどうせクリントンに会ったのならば、すでにコソボでの誤爆を繰り返していたNATO軍の攻撃を取り上げ、平和主義憲法をもっている国の首相として批判すべきだった。それをお世辞だけに明け暮れ、帰国後に自分自身で自画自賛しているのだから始末におえない。
 また小渕首相はシカゴでひらかれた日米協会の夕食会で講演をし、日本の失業率が過去最悪の四・八パーセントに上昇したことをふまえて、次のように発言している。
  「日本経済が活力と競争力を再び取り戻すうえで避けて通ることのできない、規制緩和を含む構造改革の努力の結果として、直視しなくてはならない数字だ」(九九年五月一日『朝日新聞』)
 つまり彼は、四・八パーセントの失業率を当然のものとしているわけで、今後、さらに失業率が増えることを政治的に解決しようとは考えず、むしろそれを促進させようとしているわけである。
  「構造改革の努力の結果」とは、具体的には企業の再編整理、人員削減を指す。これらの促進を公然と彼は語っているわけで、かつて池田勇人首相が語った「貧乏人は麦を喰え」と等しい暴論である。しかし池田首相のときは、政治的に大問題になったが、今回は野党が追求しないまま終わってしまった。ここにも総与党体制の弊害があらわれている。
 さて、失業率が史上最悪の数字を記録するなかで、就職浪人が三〇万人も生まれている。つまり新卒者が採用されないという、これまでにない状態が広がっているわけだ。中高年の失業者ばかりではなく、若年層も採用されないというのでは、状態はますます深刻である。
 こうした不況に、青田刈りを公認する「就職協定廃止」が相まって、学生の就職活動ははやまる一方である。現在では、三年生の末ぐらいから就職活動がはじまっている。これまでも大学四年目の半年間は、就職活動に裂かれてきた。学生最後の一年を抑圧的な就職活動に振りむけることは、日本の知的水準の劣化にもつながる行為である。
 それが最近では、三年から就職活動をおこなうという。これまでもっとも充実した勉強がおこなわれていた時期にまで、就職活動が入り込んだことになる。しかもいま小中高という受験体制そのものが、就職の予備校と化していて、人間的な成長よりも就職に重点を置いた体制ができあがっている。そのうえ就職予備校としての大学で、長期間にわたる就職活動がおこなわれるのだ。極端ないい方をすれば、子どもたちの人生がすべて就職活動に振りむけられることになる。これは亡国的な状態である。

■ピンハネ産業の育成

 ことしの採用計画をみると、最大の採用予定者はイトーヨーカ堂で一四〇〇人、次がジャスコで一三〇〇人、つづいて東日本旅客鉄道で約一二五〇人、三菱重工業一〇七五人、コジマで九〇〇人となっている。採用が多い順に五社を並べると、目立つのはイトーヨーカ堂・ジャスコ・コジマなどの流通関係である。これらの企業は、賃金や生涯保証の面できわめて不安定である。とくに女性などは、長期に勤めにくい。
 こうした雇用状況を充分に把握していながら、「労働者派遣法」の拡大を政府は狙っている。この法律に関しては、成立した当初からわたしは批判してきた。問題は、ピンハネ産業を育成することであり、労働者の権利が著しく侵害されることである。労働市場から必要なときに必要なだけ、なんの制限もなく労働者を引っぱりだし、いらなくなれば簡単にポイできる。それが労働者派遣法の正体だ。
 法案が成立すれば、正社員を採用しないでパート・アルバイトの労働者を企業がどんどん増やしていく。しかも労働者を斡旋する業者だけが斡旋料によって稼いでいく。これでは労働市場の公正を願った職業安定法を解体し、労働者の混乱と労組のさらなる弱体化をつくりだしていくことになる。いうまでもなくアルバイターは正社員に比べて低賃金であり、ボーナスもなく、いつ解雇されるかわからない。そういった存在を堂々と増やすことは、社会全体の不安拡大につながる。とてもまっとうな国がすべきことではない。
 平和・公正・基本的人権などが無視され、一部のマスコミはそれに迎合し、批判の論調がバカにされる時代になってしまった。
 党利党略で国が動かされ、なんの理想もなく、日の丸君が代、軍需と原発で食う産業社会など、まっぴらだ。テレビをみて、バカ笑いしている場合ではない。まず、政党助成金法を廃案にして、国会を風通しのいいものにしよう。 (■談)

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