« 待ったナシ!駐車違反取り締まりの新ルール施行/初日ルポ 街の風景が変わった | トップページ | 『私は偽悪者』・ 山崎晃嗣と堀江貴文と »

現代のホームレス事情についての対談(神戸幸夫×大畑太郎)

■月刊『記録』06年4月号掲載記事

■路上生活者を追い続けて。
神戸幸夫(『ホームレス自らを語る』の聞き手)×大畑太郎(本誌編集者)

*『ホームレス自らを語る』の連載100回記念企画。神戸幸夫氏と編集部の大畑との対談形式で、現在のホームレスについて語した。

     *     *     *

■就労構造の変化に追い詰められる人々■

●大畑:ギャンブルや酒や借金など、ひとくちにホームレスといってもいろんな理由で路上にたどりつくわけですけれど、やはり仕事とホームレスは切っても切れない問題です。以前は、会社員として普通に働いていた人が解雇されたりして路上に行き着くまでの間には、ガードマンだとか日雇いとかラブホテルの従業員といった仕事がありました。

●神戸:日雇いがその典型ですよね。日雇いの労働者を調達するためにやって来る手配師にとってはアタマ数がそろえばいいわけだから、会社に勤める場合に必要な来歴や連絡先などまったく問わずに連れて行く。別に外国人だっていいわけですよ。
 しかし、最近では景気が悪いこともあって50歳以上の人は相手にされないようです。というのは、仕事に就くことができない若い労働力が余っているので、調達する側から見れば働かせるんなら若い方がいい、そういうことになりますよね。そもそも、景気のせいで日雇いの仕事も数自体が少なくなっています。
大畑:そう考えると、50代やそのあたりのホームレスが仕事をとるのはそうとう厳しいというのが現実でしょうか。

●神戸:そうです。景気について明るい話題がぽつぽつ聞こえはじめてはいますが、土木、建築をはじめ日雇い労働については人手を必要としていない。しかも、終身雇用が崩れた今、正社員といえども安定した身分と言い切れるわけではないです。大企業であってもいつクビを切られるのかわからない。若い世代を見ても、就労構造の変化によってホームレス予備軍が着々と増えつつある。正社員が極端に少なく、パートと派遣でその周辺を埋めるという構造です。正社員よりも低賃金で雇うことができるパートや派遣もいつ契約を切られるか分からないという不安定な状態で仕事をしなければならない。昔、サラリーマンならば中小企業であっても退職金があったし、厚生年金プラス企業年金もあったりして、老後の設計は立ったと思います。今は違います。60歳で定年を迎えたとして、年金の支給がはじまる65歳まで退職金で必死に食いつながなければならない。

●大畑:ひどい会社になると、退職金が前払いになっていて、払われなかったりする。極端に少ない正社員と言いましたが、ある大企業では、一般職のほとんどを別会社に移してしまい、経営状況が悪くなればその会社を潰せるようにしているところもある。以前だったら、労働基準法にてらして議論があり、そういうのはおかしいといわれるようなものなのに、現在ではまかり通ってしまっています。

●神戸:労働者のことなんて、上層部は考えもしないんでしょう。その場その場のさじ加減で状況を切り抜けていけると思ってるんじゃないですかね。そういえば、ここのところ、今までの日本では考えられないような事件が相次いでいるような気がしますね。耐震強度偽装事件、ライブドアや東横イン、雪印、伊藤ハム、各損保生保会社など各企業のモラルが崩壊し、日本全体が刹那的になってるような。ずっと先を見据えたものづくりや人を育てるようなことを考えなくなってしまった。そのいい例が、連載の03年1月号で取材させてもらった山根さんという方の話です。山根さんは当時51歳でコンクリートを流し込む型枠づくり専門の大工でしたが、45歳を過ぎたあたりから高齢を理由にだんだん仕事を回してもらえなくなる。それで、そういうベテランの代わりに図面も読めないとにかく給料が安い若手が使われ始めた。で、ある時、そんな若い大工ばかりを集めた現場で信じられないミスが起こる。図面を読める大工が極端に少なかったせいで、壁の内と外の寸法を間違えたまま壁を立ち上げてしまうんです。結局、つくり直しの費用の数千万円を払えるような大きな会社でもないから、なすすべなく倒産。経営者が人件費を切りつめようとして、結局それが自分の首を絞めることになってしまった。山根さんは「ベテランの知恵や経験を切り捨てるのは狂ってる」と言っていますが、まったくその通りだと思います。そして、経営を安易な人切りによるその場しのぎでやっていこうとするこの構図は、先に挙げた一連の事件や社会全体の風潮と重なっている部分があるように思えるんです。

●大畑:なんというか、救いのない話というか。経験があって、まだ十分に働くことができるという人が放り出されるようになってしまったのはいつごろからなんでしょう?

●神戸:やはりバブル崩壊後でしょうね。今も新宿の中央公園あたりでは増えているようです。年齢層は50代あたり。厚生労働省の最新のデータでは、ホームレスの数は全国で2万5000人と発表されていますが、実際にはそれよりも多いと思います。

■生活保護を受けられない!■

●大畑:現時点のホームレスだけではなく、ニートや不安定なフリーターといった、ホームレス予備軍の問題もあります。

●神戸:彼らは……生活力はあるんですかねえ。

●大畑:いや、おそらくないでしょう。ある専門家がいうには、彼らが生活保護申請を出す前に彼らの問題をどうにかしなければならないと。たしかにそうかもしれないですよね。事故やなにかで親が死んだりしたら、もう路上に放り出される可能性だってあるわけですから。ところで、生活保護はどうなんでしょう。

●神戸:簡単には出さないようですね。

●大畑:やっぱり。

●神戸:あまりにも申請が増えすぎてしまって、役所は申請者全員を認めるわけにはいかないようです。去年(05)の取材で、高血圧がつらくて生活保護を受けようとした方がいます。その方は72歳で、渋谷の区役所に生活保護申請をしましたが、若い担当者が対応して、「入院経験はありますか?」ときいてくる。ないと答えると、「じゃあもうちょっとがんばって働いてください」と簡単に言われてしまう。それで終わり。緊急で保護しなければならない人は他にもいるからというのが言い分らしいですが、その方はひどい耳鳴りと血圧降下剤を飲んで暮らしている。薬を飲むから食欲不振が続いて体力がもたない。こんな方が、申請しても簡単に突っぱねられてしまっているんです。
大畑:72歳でもハネられている。実際にはさらに上の人の生活保護申請も認められていない可能性があるわけですね。

●神戸:生活保護を受けるためにはいくつか条件があるわけです。住所があることにはじまり、働くことができないという医者の証明書、所持金が最低生活費を下回ることなどですが、彼らはアパート代が払えないので、申請をする前に家を出ちゃうんですね。また、そうでなくても生活保護に対する精神的な負い目から受給を申請しない人もいる。これはイヤな話なんですが、申請した当人の何親等かまで家系をたどり、役所が「この人の面倒を見てください」と働きかけに行くんですね。人によってはそういうのがたまらない。田舎の親戚などからは東京に行ってまともに生活していると思われていたのに、実際はこんな生活になっていた、ということが知られてしまう。故郷に錦を飾るとはまったく逆の屈辱でしょう。そしておそらく役所は、近親者を持ち出せば申請をやめるという計算からそういうことをする。そこまで露骨ではないかもしれないけど、少なくともそういう姿勢のあらわれではないかと思います。

●大畑:役所に余裕がなく、企業にも余裕がない。

●神戸:そうですね。余裕といえば、それは家族にもあてはまると思います。路上にいる人たちの中には、実家があり、空き部屋まであるのだけど、そこには帰りたくないという人もいる。なぜかというと、実家に帰ったとしてもそれには義理の姉だとかがいるわけで、そこで迷惑がられるよりはホームレスをしていたほうがいい、ということになる。
 たしかに、義理の姉の立場で考えると、今まで別に暮らしていた人に帰って来られるのがイヤでしょう。また、義姉のいる実家に帰りたくないのも分かるんです。それで思ったのは「家族」の概念がものすごく狭くなってしまったんだな、ということです。

●大畑:たしかにそうです。親の実家には、戦前に2人くらい居候がいたらしいと聞いて驚いたことがあります。

●神戸:昔は、食客というか居候というか血がつながっていようがつながっていまいが、そういう人たちが家族の中にいるのが珍しいことではなかったんです。境界線が曖昧でいろんなものが混ざっていたという感じですか。今の若い世代では、家族といえば夫婦と子どもまでなのではないでしょうか。今の子どもにとっては昔の大家族がうまく想像できないかもしれない。地域という視点で見ても、近所にホームレスがいるとすぐに苦情が出る。これもコミュニティーの狭さからくるものだと思います。

●大畑:家族、地域と様々なものが狭まって、異質なものは排除するという考え方。ホームレスのなりわいのひとつといえる空き缶ひろいに対しても、地域による監視の目が厳しくなっています。「資源の日」などに家庭から出された空き缶を集めようとするホームレスへの対策として、「空き缶ひろいは犯罪です」という立て札を立てたりする。それくらいのことはいいじゃないか、と思うんですがねえ。やはり「異質」であるホームレスは排除したいらしい。
 驚くべきことに、ホームレス同士でさえ階級格差のようなものが存在していると聞きます。「俺はあいつらとは違う」という意識が多くの人にあることは、僕も取材をしていて感じました。

●神戸:あれはほんとに多いですね。

●大畑:似たような境遇なんだから助け合えばいいんじゃないかと思うんですが、そういうふうには絶対にならない。コミュニティーの狭さというか余裕のなさがあって、団結してなにかをしようということにはならない。
 そんな中で、どうにかお互いまとまって状況を良くしていこうとする場合、いったいどういう方法がありますかね?

●神戸:うーん……、しっかりしたリーダー…、いや、すぐには思いつきません。なんともいえないですよね。ただ、やはり企業といい家族といい地域といい、いろんなところで視野が狭くなり、他を排除するという考えが当たり前になっているのは事実でしょう。これは本当に危険な考え方なんです。

■ホームレスを脱出したのはただ1人■

●大畑:以前であれば、クビになる前に労働組合を中心とした経営者との闘争があった。それがセーフティネットになっていましたが、今はほとんど機能していない。また、クビになってしまったとき、路上で暮らすようになる前にあった日雇いのような仕事も、今では期待できない。要するに、セーフティネットの消滅だといえますよね。だとしたら、ホームレスになることを避けるにはどうすればいいんでしょう。

●神戸:はっきりといえるのは、毎日健康で働けることですかね。入院したりすると、医療費がバカになりませんし、何より解雇されてしまう場合があります。いったんホームレスになってしまうと、そこからは簡単に戻ってこれない。以前取材した方に、サウナを拠点にして再就職を果たした人がいました。就職の際には最低でも履歴書に書く住所が必要なのですが、顔見知りだった従業員に頼んでサウナの住所を使わせてもらったんです。彼は働いていた会社が倒産し、妻も難病で亡くしていました。

●大畑:一時的にホームレスになったが、結果的に戻ってきた彼と、他の人たちとの違いは何なんだったんでしょう?

●神戸:やはり、彼の場合はホームレスをしながらもきちんと生活をしようとしていました。毎日掃除をするなんて人はほとんどいません。鍋を買ってきて、回りの人たちにうどんを食べさせたりもしていましたね。そうしているうちに、彼のまわりには人が集まるようになっているみたいでした。コーヒーもあるぞ、何もあるぞ、という具合に人が持ち寄ってくる。そして、サウナの住所を借りて就職活動し、建設会社に就職できたんです。その後、彼に会いました。「あなたがいたからなんとか持ち直すことができた」と言われたときは嬉しかったですよ。いいスーツを着てましたよ。とても立派になった印象で。それで、お酒を飲ませてもらいました(笑)。しかし、私は今までだいたい300人くらいの人に話を聞いてきましたが、彼だけなんです。ホームレスを脱出できたのは。

●大畑:300人に1人。

●神戸:ただ、たしかに戻ってきたのは1人ですが、皆が皆ホームレスを脱却しようとしているわけではないんです。新宿あたりにいれば、食べるもの、寝る場所について一応はやっていけるということが分かっていますから。毎朝、アメリカの教会関係の方がおにぎりをふるまってくれる。水曜日には宗教団体がカレーライスを出してくれる。他にも、ゴミ拾いを手伝えば豚汁を出してくれるなんていう団体もあります。

●大畑:ボランティアの方たちのところをまわっていれば、飢えなくてすむと。

●神戸:そうです。場所によってはそういう援助がない曜日もあり、その日は腹を空かせながらじっとしていると。かえって冒険しなくてもなんとかやっていくことはできる。だからといって援助がまったく途絶えると彼らはやっていけない。複雑なところですね。

●大畑:景気がよくないとはいっても、勝ち組と負け組の二極化が明らかになってきているというのが実際のところでしょう。トヨタなんか当期利益が3年連続で1兆円を超すとかで最高に儲かっている。なのに、ベアで1000円がどうとかいってましたよね。

●神戸:この格差社会のモデルがどこにあるのかというと、アメリカなんです。この国は日本以上に格差社会なんですが、『ルポ・解雇』(島本慈子・岩波新書)によると、所得上位1%の所得が下位90%の合計所得より多いということが明らかにされている。今の日本はこのモデルに突き進んでいるんです。ここで考えるべきなのは、何もモデルになり得るのはアメリカ型のみではないということです。より労働者が守られるヨーロッパ型にならうという選択肢もあるはずなのに、今はそうなっていない。企業という強者がものすごい力を手に入れ、そこに属することができない大多数の人間の生活が追い詰められていくという方針には絶対に反対すべきです。(■了)

|

« 待ったナシ!駐車違反取り締まりの新ルール施行/初日ルポ 街の風景が変わった | トップページ | 『私は偽悪者』・ 山崎晃嗣と堀江貴文と »

月刊『記録』特集モノ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7204933

この記事へのトラックバック一覧です: 現代のホームレス事情についての対談(神戸幸夫×大畑太郎):

» 日雇い 手配 手 [日雇い情報]
手配師ある労働者は、トラック運転手として派遣され、 その仕事先からは、 派遣会社に対して「1万3千円」も支払われているのに、 当の労働者に支払われていたのは、「5千7百円」だったと云う。 これでは、「手配師も真っ青」と云う、悪どさではないか。 ...(続きを読む) [ウィまぐ] お金の価値を下落させるインフレ進行中!?あなたの資産は ...どう手配すればお金も時間も無駄なくできる?小中学生のホームステイ体験、 高校留学、社会人のワーホリ、語学留学など。 ●これで解決!留学資金 http://www... [続きを読む]

受信: 2007年8月 5日 (日) 20時39分

« 待ったナシ!駐車違反取り締まりの新ルール施行/初日ルポ 街の風景が変わった | トップページ | 『私は偽悪者』・ 山崎晃嗣と堀江貴文と »