« だいじょうぶよ・神山眞/最終回 一方通行の約束 | トップページ | サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/反省しきりの斎藤だ »

鎌田慧の現代を斬る/邪魔者は殺せの論理

■月刊「記録」2003年3月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

*           *           *

■「スピッツ」小泉、放し飼いの責任

 ブッシュ米大統領が抱くイラク攻撃への野望は、世界的にたかまる反戦の声によって、ギリギリのところで抑えられている。
 国連安全保障理事会では、攻撃開始派の米英に、議長国のドイツと常任理事国のフランス・ロシア・中国の主要4ヶ国が抵抗している。
 2月15日には、東京をふくむニューヨーク、ロンドン、ローマ、ベルリン、パリ、メルボルンなど世界各国の都市で、大規模なデモもおこなわれた。英メディアは、60ヶ国の400都市で計1000万人ものひとびとが参加したと伝えている。このほかにも大規模な反戦集会などもひらかれ、世界的な反戦の動きはますます大きなうねりとなっている。
 ブッシュの野望に石油利権が絡んでいることは、すでに世界の多くの人々が知るところとなった。こうしたブッシュの思惑は、「石油の一滴は、血の一滴」という日本の戦時中のスローガンを思い起こさせる。時とともに世界中で反戦の動きが強まっていき、ブッシュ大統領が語るイラク攻撃への大義名分は、ますますインチキ臭くなっている。
 ブッシュの頭のなかは、いまだテレビゲームのような爆撃のイメージで支配されているようだが、もはや世界の人たちは、これ以上血を見たくないと主張しはじめている。ましてブッシュの利権のために、血を流したいなどと、誰が思うだろうか。
 ただ注意すべきは、多くの日本人がブッシュ批判だけでコトが終わったように思っていることだ。イギリスのブレア首相は、ブッシュの「プードル犬」と揶揄されている。労働党出身の首相であり、一家団らんの写真で人気を集めた首相が戦争に突き進もうとしていることに、英国民は苛立っている。しかしブレアが「プードル犬」だとすれば、小泉は「スピッツ」である。彼を首相にしたのは、日本人の恥辱だ。
 ブッシュを支持している小泉の存在は、日本人が戦争に荷担している証明となる。そういう意味では、日本人にブッシュを批判する権利などない。ブッシュの野望に小泉が距離を取らないのは、日本人の有権者が甘くみられているからだ。
 日本は、国際紛争を武力によって解決しないという崇高な憲法をもっている。その国の首相が、憲法の精神をもってブッシュを説得しないのは、小泉の怠慢であるばかりでなく日本人の怠慢である。ブッシュの戦争は利権のための人殺しであり、人間のもっとも醜い行為であることを、もう一度確認すべきだ。

■「春闘」から「春倒」へ

 しかし放置されているのは、小泉だけではない。
 路上生活者(ホームレス)を殴り殺す少年や青年たちの事件が、たびたび起こっている。これは無抵抗で弱いものを殺すというブッシュ流の空爆論理とおなじである。たしかに青少年の殺戮は、ブッシュのような経済的な利益を狙ったものでないが、イラだちからの人殺しを止められない現実に変わりはない。
 戦争や路上生活者への襲撃は、他人の飯茶碗を叩き落とす暴力的な行為である。自分さえ生存できれば、他人を殺してもいいという人類にとってもっとも屈辱的な価値観が、その根底にある。共生と連帯の精神が市民や労働現場からますます奪われていき、その結末が戦争にむかうようで怖い。
 アメリカのイラク攻撃にたいして、日本最大の労働者のナショナルセンターである連合は、本来なら「イラク攻撃反対 小泉打倒」のスローガンを立てて、集会やデモ行進すべき存在だ。だが労働貴族たちは、そんなことを考えもしていない。もともと大企業の労組ダラ幹を中心として発足した連合に、国際的な労働者の連帯や反戦などの思想はこれっぽっちもない。かつて反戦運動の中心にいた自治労も連合に参加しているのだから、このさい組織内でこの問題を討議すべきであろう。
 だが労働組合への失望感は、ことしの春闘でも強まる一方である。この不況下で労働者の生活はますます厳しくなっている。にもかかわらず連合は、あいかわらずの御用組合ぶりを発揮している。経営者は調子にのり、「『春闘』ではなく『春討』だ」などとふざけたことをいう始末。闘争ではなく話し合いを強調しているようだが、それこそ「春倒」というべきであろう。
 中小企業は、大企業の優先救済策のとばっちりをくい、貸し渋りから貸しハガシという銀行の強攻策に追い詰められ、つぎつぎに倒産している。小泉のいう規制緩和や構造改革は、大企業優先の政策であり、中小企業の倒産を止めることはできない。労働者には、文字通り「春倒」の時代となってきた。
 定期昇給やベースアップなど、労働者の生活を年齢によって安定させる日本的経営を、経営者は完全に放棄しようとしている。これまで経営者のスローガンは、「会社を大きくしてパイを大きくしろ。そして自分の分け前を多くしろ」であった。それが次第に「不景気でパイが減ったから、分け前は少なくていいだろう」という論理にすり替わり、いまや「パイは大きくなった。しかしお前らにはやらない」という理屈となった。ことしトヨタ自動車や本田技研工業(ホンダ)などは、史上空前の高収益をあげている。それでも春闘では、定昇もベースアップもしないというのだから、労働者は完全になめられている。
 このやり方の本質は、不景気だから賃金を上げないということではない。定昇やベースアップなど、入社時に約束していた分け前を、労働者にあたえないでプールし、「成果主義」の原資に回すというヒドイやりかたである。
 そもそも労働運動は、同一労働、同一賃金を要求して、企業側が一方的に賃金を支配することに抵抗してきた。それこそが平等の思想だった。その平等は、いまや経営者によって「競争の平等」という歪曲された姿になっている。競争第一主義の社会は、弱いヤツは死ねという思想の強制であり、他人の飯茶碗を叩き落とす行動原理である。石油利権のためにイラクの政権を転覆させるブッシュの野望とさほど変わりはない。

■「財界総理」の暴走が止まらない

 日本経団連の奥田碩会長は、こうした状況をさらに推し進めようと、もっと露骨な表現を繰り返している。
「国際競争力を維持するためにも総人件費を抑え固定費を減らすのが重要だ」(『日本経済新聞』2003年2月13日)。つまり国際競争力を強めるために、労働者を犠牲にしたダンピングしろ、といっているのである。
 賃下げと雇用の関係については、「賃下げも、緊急避難型のワークシェアリングも、結果的に同じだが、多くの企業が賃下げに移行しているというのが現状認識だ。雇用維持は、できれば定年までと考えている」と発言している。賃下げが雇用維持の条件だといいたいようだ。 しかし現実には、賃金も雇用も守らない悪徳経営者がばっこしている。1970年代、鐘淵(現・カネボウ)の伊藤淳二社長は、「賃金か、雇用か」と二者択一的な選択肢を組合側に提起して、労働者を脅したことがあった。それから30年、労働環境は確実に悪化した。奥田氏が会長を務めるトヨタでは、2月初旬「サービス残業」させられていた、として労働基準監督署から是正勧告を受けた。またトヨタによるトーメンの救済は、大リストラが条件とも報じられている。
 賃下げしても雇用を守らないという状態が、失業者の増大とフリーター・アルバイターという名の「臨時工」、ホームレスという名の「ルンペン」の急速な増大を導いている。「サンドイッチマン」も復活した。戦後失業時代の悪夢である。
 また、ことし1月に日本経団連が発表した「奥田ビジョン」では、政治献金に積極的に関与し、政界での発言力を強化する姿勢を打ちだしている。(『毎日新聞』03年2月4日)によれば、「日本経団連が前向きな姿勢を見せれば、企業は献金する」と語ったという。
 また同ビジョンでは、消費税の引き上げも提言している。税率を04年度から毎年1%ずつあげ最高16%にする、というのだからあいた口がふさがらない。
 日本経団連は経団連と日経連が合併した財界の指導部であり、奥田氏は独裁的な「財界総理」である。好調がつづく自動車資本を背景にした彼の強引な発言は、日本の政治家にも影響をあたえている。これにカネが加われば、それこそ“裏総理”である。
 政治献金は、戦後以来の自民党の泥沼政治をつくってきた猛毒だ。これが企業からの政治家買収でしかないのは、いまさらいうまでもない。政治献金に絡んだ疑惑の数々を、奥田会長はもう忘れているとみえる。

■政治献金に画期的な判決

 一方、政治献金の違法性については、2月中旬に画期的な判決が下された。熊谷組にたいする株主代表訴訟で、「欠損時の政治献金は違法である」と、裁判所が判断したのである。
 この判決は、松本良夫前社長に2860万円の返済を命じ、ゼネコンと政治献金の関係に重大な疑義をていした。 また「会社あるいは産業団体の寄付が特定の正当ないし政治団体のみ集中するときは、当該政党のみが資金力を増大させて政治活動を強化させることができ、ひいては国の政策にも決定的な影響力を及ぼすこととな」る結果として、「政界と産業界との不正常な癒着を招く温床ともなりかねない」と、政治資金の闇を指摘している。 熊谷組側は、政治資金が自由主義経済体制の維持ないし発展に必要だ、と主張したようだが、「政治資金の寄付が自由主義経済の維持ないし発展に結びつくとも認められない」と、熊谷組の詭弁も一刀両断した。
 1998年3月に2400万円の損出をだしていた企業が自民党に献金していた事実は、株主の意志さえ否定するやり方を、自民党が企業に要求していたことをしめす。
 まして熊谷組は、自民党長崎県連にも献金をしている。長崎県の諫早湾干拓事業を受注した会社1つに、熊谷組が入っているのにである。諫早湾干拓事業は、ゼネコン救済の公共工事だとの噂が、ずいぶん前から飛び交っていた。しかしゼネコンの政治献金も、無用な工事も住民は止めることができなかった。
 そういった意味でも、熊谷組の政治献金にたいする裁判所の判断は画期的である。当たり前とされてきた政治家と財界の癒着に一石を投じたといえよう。
 国際世界では、アフガニスタン・イラク・北朝鮮を睨んだアメリカの暴力支配がおこり、ミクロな世界ともいえる市井では、企業による労働者イジメ、路上生活者への虐殺などがまかり通っている。まさに暴力が地球を覆っているといえる。
 現在、盛り上がりをみせている反戦平和の集会やデモが、労働現場や社会の末端での差別や支配をどう解放し、どう猛な利権や利益の追求をどう解除していくのかに、注目していく必要がある。いずれにしても人間的な判断によって、自ら未来を切りひらいていくしかない。 (■談)

|

« だいじょうぶよ・神山眞/最終回 一方通行の約束 | トップページ | サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/反省しきりの斎藤だ »

鎌田慧の現代を斬る/鎌田慧」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7330585

この記事へのトラックバック一覧です: 鎌田慧の現代を斬る/邪魔者は殺せの論理:

» シビックタイプR [シビックタイプR]
ホンダのレーシングテクノロジーを詰め込んだシビックタイプRが生まれて10年今年3月に新型のシビックタイプRがデビューしました。このブログは、シビックタイプRについての情報ブログです。 [続きを読む]

受信: 2007年7月30日 (月) 22時04分

« だいじょうぶよ・神山眞/最終回 一方通行の約束 | トップページ | サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/反省しきりの斎藤だ »