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「テレクラつぶし」という名のバカ政策

■月刊『記録』97年10月号掲載記事

■東京では八割が閉店

 いったい何を規制したいのか皆目検討もつかない条例が、八月一三日に東京都で施行された。正式名称を「東京都テレホンクラブ等営業及びデートクラブ営業の規制に関する条例」という。舌を噛みそうなほど長い名前の法律だが、今年の五月から新聞紙上でもテレクラ規制条例として騒がれていたため、知っている読者も多いだろう。
 この条例、目的として「青少年の健全な育成を阻害する行為の防止」と、「清浄な風俗環境の保持」をうたっている。つまり青少年がテレホンクラブやデートクラブを利用しないようにするとともに、健全な環境を整えましょう、ということらしい。実際、この条例について、東京都生活文化局女性青少年部青少年課の平林宣広次長は、「テレクラやデートクラブを潰そうというのではなく、青少年の健全な育成のために、性に関わる産業と青少年との棲み分けをお願いしたいということなのです。最近騒がれている中高生の売春を減らすための規制です」と語っている。
 しかし、その「棲み分けのお願い」の実態とは次のようなものである。テレホンクラブなどの営業は公安委員会への届け出制となり、小・中・高校、児童福祉施設、図書館、病院などから二〇〇m内と、住宅地域での営業の禁止。禁止区域にある店舗は、二年後までに転居もしくは閉店となる。またチラシやティッシュなどを使った広告についても、風俗営業などがある青少年立ち入り禁止場所以外での配布はできない。
 この条例の影響について、テレホンクラブの業界団体・東京テレホン・サービス協会の中村仁氏は、「新宿・渋谷・池袋にある店舗はほとんど条例に引っかかります。現在、東京で営業をしている約五〇〇店舗のうち、八割が閉店に追い込まれるのではないでしょうか。特に営業禁止区域を広げているのが、病院から二〇〇m以内という規定です。埼玉県では営業禁止区域の起点として病院が入っていないため、県内の店舗の三割しか閉店になっていません。だいたい青少年と病院にどんな関係があるんですか」と、都条例の内容に怒りをぶつける。
 たしかに業界の8割を閉店に追い込んでおいて、棲み分けもへったくれもあったものではない。条例が業界潰しだと言われても仕方がない。

■NTTこそ主犯だ

 では東京都が目の敵にするテレクラとは、そんなに悪いものなのだろうか。じつはテレクラは、性風俗店でさえないのである。簡単に言えば、性的なサービスを提供する女性が待ちかまえていない。電話回線を使い、あくまで男女に出会いの場を設けているだけだ。もう少し詳しく見てみよう。
 通常、一括してテレクラと呼ばれることが多いが、実際には三つの営業形態が存在する。一つは個室型テレホンクラブと呼ばれるもので、繁華街にあるテレクラに男性が出向き、個室で女性から掛かってくる電話を受けるもの。次に、ツーショットダイヤルとよばれる無店舗型の営業形態。男性が自宅からテレクラに電話し、女性から掛かってきた電話回線をつなぐもの。三つ目が、伝言ダイヤルと呼ばれるものだ。これは誰でも聞けるテープにメッセージを録音しておき、伝言のやりとりをしながら気のあった者を探す方式だ。どの業種も、女性を用意して待つかわりに、雑誌広告やティッシュの配布などで、女性から電話が掛かってくるように営業努力を行っている。
 もちろん東京都も、テレクラを風俗店とは思っていない。東京都が発行している『青少年問題研究』の一八六号には、「テレホンクラブなどの営業は、電話などを利用して男女の出会いの場を提供するもので、風俗営業や風俗関連営業と違って、直接、業者が性的サービスを提供するものではありません」と書かれている。前述した平林次長も、「大人だけが利用するのであれば、問題はない」と発言している。
 さらに大手テレクラチェーンの津藤照吉課長も、「テレクラは女性が待っていてサービスをするところではありません。お客様のなかにも来店すれば女の子とエッチできると思っている人もいるのですが、テレクラは出会いの場を提供するだけです。ですから女性を誘い出すには、巧みな話術など、かなりの努力が必要ですよ」と語る。
 そもそも電話を男女の出会いの場に変えたのは、NTTだったのである。一九八七年、NTTが伝言ダイヤルを開設し、若者の間で一大ブームを巻き起こしたのである。NTTの伝言ダイヤルは、暗証番号を入力すると誰でも伝言が聞ける仕組みとなっていたが、揃目の番号や一九一九、六九六九など性的イメージを喚起させる番号には、男女の出会いを求めるメッセージが山のように集められることになった。そして次にブームになったのが、九〇年に始まったQ2によるツーショットだ。いうまでもないがダイヤルQ2も、NTTが始めたものである。NTT以外の企業が電話回線を使って情報提供できるQ2は、開設と同時にさまざまな風俗番組の巣窟となった。
 ところが驚くなかれ、NTTの伝言ダイヤは何の規制も受けずに営業を続けている。Q2も頭に三が付いた番号は風俗のチャンネルとされ、NTTに申し込まなければ利用できないことになっているが、実際にツーショットを開設している番号のほとんどは、三から番号が始まっていない。つまり誰でもかけられるのである。
 いったいNTTとテレクラ業者に対する扱いの違いは何なのか。NTTに既得権が与えられているということか。だいたいブームに火を付けた張本人が、しらっと営業を続け、後乗りの業者だけを規制するなど、誰が考えても不可思議だ。

■援助交際は減らない

 おかしな話はこれだけはない。この都条例が施行されたことにより、新宿歌舞伎町などではソープやファッションヘルスの隣にあるテレクラが閉店に追い込まれているのである。このような矛盾に対し、先述の平林次長は次のように語っている。
「たしかにどちらが環境を悪化させているかというと問題はあるでしょうが、営業禁止区域の設定も新風営法と同様の規定ですから、テレクラが特別きつい規定をかけられているわけではありません。青少年が看板を見て電話を掛けようとする行為に歯止めをかけたいだけです」
 どうやら新風営法と同じ規制をかけると、テレクラだけが閉店に追い込まれるらしい。しかも実際にテレクラの看板を見てもらえばわかるが、電話番号などほとんど書かれていない。性的なサービスを行なう店舗が堂々と営業し、呼び込みまでしているのに、場所のありかを示す看板を掲げているだけのテレクラが営業できなくなるのは、どういったからくりなのだろう。
 さらに疑問は続く。いったいこの条例は、青少年の援助交際を止めることができるのかという点だ。
「青少年の目に広告などが入らないように情報を押さえれば、興味本位でテレクラに電話を掛ける女子中高生も減ります。条例を施行し罰則規定を設けたことで、テレクラを使った売春が規制できるようになったのです。これまでは法律がなかったために業者を罰することもできませんでしたから、大きな進歩です」と、平林次長は語る。
 そこで「それでは実際に援助交際は減るんですね」と質問すると、「それは現状では、まだわかりません」という答えが返ってきた。業者だけ締め付けておいて、肝心の援助交際が減らなければどうしようもないではないか。
 じつは条例の効果を疑問視しているのは、東京都だけではない。
「そもそもテレクラの利用者数は落ちているんですよ。だいたい常連のお客様は、援助交際を望んでいるわけではありません。女子高校生と援助交際をしたければ、それこそデートクラブに行けばいいんですよ。何も知り合うためだけに、テレクラにお金をつぎ込まなくともいいんです。顔が見えないテレクラでの売春は、女子高校生にとっても利点は薄いでしょう」と、前述の中村氏も語ってくれた。
 援助交際をしている女子高校生自身にも聞いてみたが、
「エー、テレクラなんか顔見えないじゃん。だいたいお金に困って援助したい時は、友だちからオヤジを紹介してもらったりナンパで捕まえるからテレクラは必要ない」
 と言い放っている。
 しかも驚くなかれ、九七年二月に東京都生活文化局がまとめた「青少年の生活と意識及び青少年と性に関する法制についての調査」という報告書にも、次のこのようなことが書いてある。
「利用の時期は、『半年以上前』とする者が五八・一%と最大で、これを中高男女別に見ても、中学男子を覗き、いずれも「半年以上前」回答する者が一番多かった。高校男子では六一・五%、高校女子では六五・九%と過半数を占め、高校生にとっては過去の流行現象となりつつあることを伺わせる」
 女子高校生の売春行為を減らす気が、東京都にはあるのだろうか。過去の流行を追って、一業界の八割にあたる店舗を閉店させるなど噴飯ものだ。

■都と公安委員会が対立

 さらに広告規制も問題だ。青少年の目に入らないようにチラシやティッシュの配布を規制したというが、レディースコミックなどには広告が掲載し続けている。チラシを街頭で手に入れなくとも、テレクラの番号などたやすく入手できるのである。番号の書いていない店の看板を規制して情報源を残すなど、実態が変わらなくとも見栄えだけよければいいという条例の本質が透けてみえる。
 そのうえ問題は条例の中味だけにとどまらない。条例をめぐり、行政側にも不協和音が響いているのである。
 実はこの条例は、東京都生活文化局と警視庁公安委員会の共管の条例となっているのである。具体的には生活文化局がテレクラの営業者に対する啓発活動や環境改善活動を行い、公安委員会がテレクラ業者の届け出から各種規制を行うという。つまり東京都が業者へ融和政策を掲げて問題の改善をせまり、公安委員会が暴走した業者を取り締まる腹だ。ところが肝心の両者が、しっくりいっていないという証言を関係者から耳にしている。とにかく取締りたい公安委員会にとって、都の融和政策など邪魔なだけ。取締りがきつくなれば、業者が法の目を逃れるようとするのは言うまでもない。
「テレクラ業者は二年後には、いなくなるでしょう。もっとも業種を変えるだけだけどね」そう語ってくれたテレクラ業者もいた。結局、東京都は新たな風俗を生むためだけに、動いているのではなかろうか。
「テレクラが青少年の間でブームになった原因の方にも目を向けるべきだろう」と、先述した東京都の報告書にも書いてある。東京都は自分が発した言葉の意味を、じっくり考えるべきだ。(■了)

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