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サイテイ車掌のJR日記・斎藤典雄/戸惑うばかりの斎藤だ

■月刊「記録」1995年5月号掲載記事

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■頭の中が大混乱

「めちゃくちゃだ」。阪神大震災は想像を絶する悪夢だが、これは事実なのだ。何も力になれない私は心苦しく思うばかり。何もできない分、「負けるな、ガンバレ」と心の中で叫ぶ。
 それにしても、JR西日本の被害を見ると、社員のことをどうしても気遣ってしまう。一体どんな思いで職務に励んでいるのだろうと。民営化したからといって「やめた。倒産」とはいかない。第一、国民が許さない。春闘も自粛と聞いたが、こんな時こそ賃上げが必要なのではと勝手に思ってしまう。何とかならないのか。社員の今後の生活は大丈夫なのか。一刻も早い復旧を願うばかりだ。

■車掌の喜びと憂鬱

 気を取り直そう。「オレはJRの斎藤だ」のタイトルの響きが問題だ。「そこどけオラオラ、中央線のお通りだい、文句あっか」とでも続きそうで、横柄な印象を与えているのではと心配で仕方がない。しかしそんなことはありません。小心者の一労働者に過ぎないのです。編集部があまりにも立派なタイトルをつけてくれたもので嬉しさのあまり「第九」を口ずさんでしまうほどだ。
 さあ、本日もあなたを無事に会社までお送りするJRに乗務していると、毎日のように見かける微笑ましい光景がある。電車が通る時、ホームや沿線で赤ん坊や小さな子が「バイバイ、電車バイバーイ」とやるのだ。誰もが一度はやったことがあると思う。そんな時、私は思わず選挙の宣伝カーの立候補者のように白い手袋で手を振り返す。時には警笛を優しく鳴らし、前照灯(ヘッドライト)ピカピカなんてサービスで応えてしまう。子ども達は、それはもう身体全体でヨロコビを表現してくれるから、車掌冥利に尽きる。
 職場は今、9年ぶりの新規採用で、JR期待の新人が駅務などの経験を経て車掌見習いとして毎年30~40人配属されている。新採ゼロは、国鉄赤字・人員削減により実に9年間に及んだ。職場は活気に満ち、茶髪・ピアスの子とにぎやかだ。今しかできないのだから納得するまでおやんなさい。いつの時代も変わらないのだ。
 私は別に、子どもの頃からの「バイバイ」を卒業できないまま大人になり、電車が好きで乗務員になったわけではないが、中央線の車掌を卒業できずにいる。それはなぜなのか。年齢だけオジサンに突入した私はいつも思う。内勤の仕事に降りたい。事務職に降りたい。規則正しい生活に戻りたいと。

■希望をかなえるには脱会だ

 今では分割・民営化当時の会社側による露骨な恫喝や威圧的な攻撃は影を潜め、管理者の態度も穏やかに見える。「不当労働行為や差別はない」と会社側は豪語するが、実際どうなのだろう。
 年1回の昇進試験は何度挑戦しても不合格となる国労員だが、私の仲間には自分の時間でコツコツ勉強して「一般旅行業務取扱主任試験」という国家試験に合格した優秀な人も何人かいる。その中の1人であるH君と最近飲んだ。H君は「せっかく取得した資格なのだから何とか活かしたい。びゅうプラザ(旧旅行センター)にどうしても転勤したい」と打ち明けた。国労差別が何年かすればなくなるという保証はどこにもなく、現状のまま定年となってしまう可能性もある。だから「国労に留まって今までのように頑張ろう」とは言えず、「区長に頭を下げるんだな。決心して自分の道を歩め」と助言するほかなかった。後の行動は何も言わなくともH君も十分心得ている。それから2ヶ月後、心の中では悔し泣きしながら国労脱退届を提出し、「上野びゅうプラザ」へ転勤していった。
 このように国労脱退者は後を絶たない。忘れた頃にポロポロと脱けていく。「希望をかなえたければ国労にいてはダメ」という露骨な言動はないにしろ、「キミは優秀なんだから、意識改革してよく考えて行動しなさい」とほのめかすのは国労脱退強要に他ならない。確固たる不当労働行為であり差別そのものである。
 昨年11月11日、新宿車掌区の田中博さんの差別事件について最高裁判所の勝利判決があった。国労であるがゆえに、指導的立場の内勤業務から電車乗務に逆戻りされたという降格人事についてである。7年以上経っているとはいえスピード判決といえた。「K子ちゃん(Kは国労のこと)では内勤はダメという上からの指導なのだよ」という区長発言が動かぬ証拠となった、隠し取りテープの録音であり、何やら物騒な話だが、異常な労務管理がまかり通って追い詰められた国労はこれより他に手段がなかったのだ。最高裁が「JRの不当労働行為である」と断罪し、JR東日本の敗訴が確定した。国労の主張が正しいと認められたのである。
 国労が労働委員会に提訴してからというもの、会社側は地労委命令にも中労委命令にも従わなかった。「労働委員会は事実を誤認し、法令の解釈を誤っている。会社は不当労働行為は行っていない」と、初めての株主総会でも明言した。さらに「労働委員会は支離滅裂」とまで暴言を吐き、「裁判ならば絶対勝つ」と紛争をいたずらに引き伸ばしたのだ。ところが、東京地裁・高裁の判決にも「承服できない」と控訴・上告と続け、最高裁の最終判断に対しても不満を表明し反省のかけらすらない。「不本意だ、判決を取り消してもらいたい」とは極めつけである。

■強く偉く人に優しいJRよ

 JRツヨイ。何よりもエライ。週刊文春さえ締め出し、手品師のように差別を繰り返す。山ほどあるウサン臭いことにフタをして、顔の頂点である鼻を花粉防止のマスクで覆い隠すように、真の正体を見えないようにぼかしている。「人に優しいJR」ならば、理不尽なやり方は改めて自他共に認められるリーディング・カンパニーとしての手本を見せてほしい。JR以外にも似たような差別や人権侵害が絶えず行われ、何も言えずに泣いている弱い労働者が大勢いるのだろうが、それでも仕事にしがみついて生きる他はない。弱者切り捨ての競争社会を嘆かずにはいられない。
 分割・民営化当時を振り返ると、毎月1万人もの労働組合員が脱会し、20数万人を誇った組織が3万人台に転落したのだ。「断固」「断固」の強行路線に終始した結果であろうか。弱い一般組合員への配慮が十分でなかったと国労指導部は反省すべきだろう。
 弱い者の体験をマスコミや弁護士が代弁してくれることはうれしいが、本人が受けた屈辱や苦悩や痛みには及ばない。昔も今も変わらぬ弱き労働者に対する弾圧を何度も繰り返す大人の愚かさが社会も子どももダメにしていくのだ。 (■つづく)

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