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鎌田慧の現代を斬る/「戦争」とすら呼べない大量殺戮を許さない!

■月刊「記録」2003年4月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 またアメリカの戦争がはじまった。ミサイルと爆弾の大量投下のもと、バグダッド市内で、どのような殺戮がおこなわれているのか、と考えただけでもゾッとする。 ブッシュ米大統領がフセイン・イラク大統領とその一族にたいして、「48時間にイラクを離れろ。拒否した場合には、軍事衝突になる」と最後通告を発したのが、3月17日午後8時(現地時間)だった。これは、いいがかりである。
 いうことをきかなければ殺すぞという強盗の論理に、小泉は従うだけだった。ブッシュ、ブレア、コイズミは、戦争犯罪人として独裁者フセインとともに歴史から裁かれる。
 当初アメリカとイギリスは、国連の安全保障理事会でのお墨付きをもらい、国際世論をバックに自分たちの戦争を正当化しようとした。しかし拒否権を持つ常任理事国のフランス・ロシア・中国の賛成を得られず、議決に必要な全15ヵ国のうちの9ヵ国の支持も取り付けられなかった。態度を明らかにしていなかった中間派の6ヵ国(カメルーン、ギニア、メキシコ、アンゴラ、チリ、パキスタン)にたいしては、アメリカの「切り札」、経済援助という札束攻勢をかけた。それでも説得しきれなかった。国際世論の勝利である。
 恥ずかしいことにも、日本もODA予算をちらつかせ、アメリカの使いっぱしりとして中間派を説得したが、完全な不調に終わり赤恥をかいた。だいたい「カネをやるから戦争に賛成しろ」というのが、平和憲法をもつ国がやることか。平和と軍縮を訴えるチャンスだったのだ。
 結局、カネでの支配に失敗して、ブッシュは僚友のイギリスともども戦端を開くことになった。ブッシュの敗北は、ブッシュの人望がなかったことや、ブレアの人格破綻が主要な原因ではない。世界の民衆がしめした「戦争はいやだ」というごく単純な意見が、各国政府を突き動かしたのである。湾岸戦争の時代とちがって、反戦・厭戦気分が国際的に広がってきている。これは20世紀の反省から生まれた、21世紀の「希望」として評価できる。
 日増しに燃え上がっていった世界の反戦集会や反戦デモは、けしてフセイン支持の集会ではなかった。対立する国家や指導者を武力によって押し潰すという暴力的思想に、ただ「NO」と言ったまでである。ブッシュおよびアメリカ政府の主張は、「非民主主義的なフセイン政権が人民を抑圧しているから、我々が解放してやる」といったものだった。しかし、これはテロリストが正義を掲げて殺戮をおこなうのとおなじである。
 当事国以外が暴力によって政権転覆を目指すなど、「革命の輸出」でしかない。冷戦時代、西側諸各国が警戒した社会主義国による「革命の輸出」は、現政府にたいする人民の抵抗・反抗を根に持っていた。しかし国内の運動が煮詰まっていないのに外部から革命を注入すること自体、革命戦略として破綻していた。当然の結果として、「革命」は歴史的な悲劇を生んだ。
 そうしたソ連などの「革命の輸出」と角を突き合わせてきたアメリカが、冷戦構造が崩れた現在でも「革命の輸出」を続けているのには、呆れるほかない。このような「革命」が破綻するのは、歴史の必然といえる。
 まして今回は、30万人を超える米英軍を派遣しての政権転覆である。これこそ史上まれにみるクーデターだ。逆にいえば、大量の軍隊を使って無理に転覆させなければならないほど、フセインが民衆に選択されているともいえる。チリ、グアテマラ、コロンビア、ニカラグアなど、CIAを中心とした中南米諸各国の政権転覆計画は、これほどまでの戦力を要しなかった。そう考えると、今回のブッシュの「正義」が、いかに不正義であるかを理解できる。
 基本的にテロリストは少数者で行動をおこす。ところが世界最大の軍事大国が30万人もの兵力を集中して政権転覆を目指すのだから、大テロリスト集団といっても過言ではない。
 この戦争が始まる前、NHKの衛星テレビでABC放送を見る機会があった。その番組では、「バクダッド経由が家路への近道だ」と、前線の指揮官が若い兵士をアジっていた。早く故郷に帰りたい兵士たちに、バクダッドの市民の殺戮を通過して帰れと、がなっていたのだ。こういった洗脳もまた、大テロリスト集団のやりくちである。

■ゼネコン発想の戦争復興などやめろ

 また別の日に見たABC放送では、戦争開始直前の米軍前線基地を取材したレポーターが、その兵士たちの若さに同情していた。よく覚えているのは、「ほら見てください。13歳にしか見えません」というレポーターの言葉とともに映し出された、まだ十代にしかみえない米兵のあどけない横顔である。年端もいかぬ若者を待ち受ける死の危険は、アメリカ人に反戦・厭戦気分をあるていどつくりだすかもしれない。
 しかし本当に問題なのは、若い兵士たちが押し入り強盗のように他国に侵入し、幼児・児童をふくめた大量の人民を虐殺することに、まったく思いをむけていないことである。兵士は敵を殺すために送り出されるのであり、彼らが殺されるよりも大量殺人をおこなう可能性が強い。レポーターは「殺し合はやめろ」というべきだ。
 ましてこの戦争は、前段階で大量のミサイルと爆弾を投下する。その映像はテレビゲームのようであり、人を殺している意識は低くなる。
 こんどの戦争では市街戦も予測されているが、それさえ大空爆のあとである。しかも原爆に匹敵する、たかさ約3千メートルものキノコ雲が発生するほどの破壊力を持つ新型爆弾「MOAB(モアブ)」も準備されている。こうした新兵器に支えられた戦いは、すでに戦争とはいえない。ただの大量殺戮行為である。大量殺戮兵器をなくすために、大量殺人をおこなうのだから矛盾している。ほぼ勝敗がついたあと、強大な爆弾のあとの市街戦は、卑怯そのものである。
 朝鮮戦争およびベトナム戦争でも、米軍はじゅうたん爆撃といわれる無差別攻撃で人民を殺戮してきた。ベトナム戦争ではジャングル内にバラまいたセンサーで音をキャッチし、いきなり無差別に空爆する戦法を取った。 最近になってこそ、民間施設を識別するなどといっているが、戦争の論理はベトナム戦争以来変わっていない。誰がゲリラで、誰が民間人か識別できない場合は、一挙に殺害する。それがアメリカの戦争の「掟」である。いまさら民間施設は攻撃しないといっても、厳密に識別できる戦争などあるはずもない。その結果、病院や学校が攻撃されてきた。今回は市街戦も想定されているので、巻き添えになる市民は大量にでる。
 またたとえ民間施設を攻撃しなかったとしても、大気や国土を放射線で汚染する劣化ウラン弾をばらまかれれば、無差別じゅうたん爆撃よりむごい健康被害が何十年にわたってつづく。メディアで宣伝されるような「誤爆」など、戦争には存在しない。兵士も民間人も「敵は殺す」。それが戦争である。
 ところがアメリカをはじめとする国々は、大量に破壊することを前提に「復興する」と前宣伝する。人命を奪い、住居を奪い、故郷を奪って、そのあとにどんな復興があるのか。たんに建物や道路を造り直せば、それで復興になるのか。
 いわばゼネコン的な発想の復興には、もっと批判の声があがってもよい。日本もイラク復興に協力するなどといっているが、利権争いとなる。日本は、破壊のあとの復興よりも、破壊の前の平和に寄与すべきであり、そのほうがはるかに重要である。

■国内“暴走”を止めるために

 世界の批判にまみれつつ、アメリカは大量殺戮を開始した。そうしたなか、わたしが怒りを禁じ得ないのは日本国政府の対応である。
 アメリカとともに戦争を押し進めた張本人のイギリスでさえ、前外相であるクック下院院内総務が、イラクへの武力行使に抗議して閣僚を辞任した。一方の日本では、抗議運動をおこそうとする与党議員さえいない。
 小泉純一郎首相は、戦争開始以前からアメリカの行為のすべてをみとめる「腰巾着」であった。一方、国際平和を考えるべき川口順子外務大臣も、市民の健康を考えるべき坂口力厚生労働大臣も、憲法の理念を積極的に推進すべきき森山眞弓法務大臣も、アメリカの大量殺戮に諸手をあげて賛成する首相をいさめるでもなく、抗議の辞任をするわけでもない。
 あらためていうまでもなく、日本は武力によって国際紛争を解決しないという理想を憲法で高らかに掲げている。そして国務大臣や国会議員は、憲法99条により「憲法を尊重し擁護する義務を負う」。だから小泉首相はもちろん各大臣も、戦争に反対するのは政治家としての任務である。
 ところがそんなことを考えてもいない。だいたい日本の政治家には、理念がない。自分の選挙基盤を守るためだけに政治家となっている人たちである。暴力団の跡目相続とおなじように、自分の「縄張り」を維持するためにだけの政治家にすぎない。
 たとえば小渕恵三前首相の娘・小渕優子などのように2代目、3代目たちは、なんの見識もないまま父親の地盤を引き継いで当選している。そういった議員によって国会が構成されているのが日本国だ。ふがいない議員に歯がゆい思いをすることも多いが、それは自分たち有権者のダラシナサの表れでもある。
 小泉首相は、アメリカが最後通告を発表する以前から、新決議なしで米英が武力行使に踏み切った場合について、「その場の雰囲気で」などと支持を表明していた。「雰囲気で」大量殺戮に賛成する彼の無思想、無定見ぶりを、いまさらあげつらっても仕方ない。
 しかしブッシュにしろ、ブレアにしろ、小泉にしろ、どうして人間の命にたいして無痛覚なのか。このような指導者を駆逐できないアメリカ・イギリス・日本が、どうしてフセインだけを駆逐しようとするのか。不思議でならない。この“悪の枢軸国”だからイラクを攻撃するという独善、独断が、これから日本にかかわってくる。 最近でこそ少し落ち着いてきたものの、小泉の北朝鮮訪問以来、マスコミはラチ家族を英雄扱いして、北朝鮮攻撃を繰り返してきた。それは憎悪と蔑視の増殖のプロセスだった。憎悪と軽蔑の先にあらわれるのは、金正日政権打倒である。食糧難を中心とした生活の破綻が北朝鮮におこる可能性は否定できないが、気にくわないから、といって政権自体を日本やアメリカが転覆させるなど、けっして認められるものではない。
 しかし日本は、フセイン政権の武力による転覆を容認した。アフガンへの攻撃ではイージス艦をインド洋に派遣し、今回はAWACS(早期警戒管制機)の派遣も検討されている。アメリカに従って、武力で「邪魔者」を追い出す手法が朝鮮半島に使われないとも限らない。マスコミが生みだした「北朝鮮敵視政策」の延長線上に、政権転覆の武力解決が容認されれば、日本の世論が一気に危険な方向に進みかねない。だからこそ、戦争反対の行動が必要なのだ。イラクとおなじ「悪の枢軸国」だから、北朝鮮政権もやってしまえという暴論を抑える言論が必要だ。
 小泉などの自民党は、イラク攻撃を支持する理由の1つとして、北朝鮮との関係の緊迫化をあげている。しかし安倍晋三内閣官房副長官などの過激な発言が、両国の関係を損なっていることを、彼らは認めていない。
 こうした暴走に歯止めかけるためにも、こんどの戦争にたいする小泉政権の責任を追及をしていく必要がある。そうしない限り、東アジアの平和を日本人はつくりだせない。イラクの戦争は対岸の火事ではない。憲法無視の好戦主義者・小泉首相を政権から引きずり降ろさなければならない。(■談)

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