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鎌田慧の現代を斬る/恥をむき出しにする政府とマスコミの癒着

■月刊「記録」2003年8月号掲載記事

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 自衛隊出兵法案ともいえる、イラク復興支援特別措置法案が衆議院を通過した。いま、参議院で審議がおこなわれている。
 不法な米英軍のイラク侵略を批判しないばかりか、その暴虐行為に共謀し、荷担した小泉純一郎首相は、有事関連三法を成立させた余勢をかって、この法案を成立させ、総裁選をも乗り切ろうともくろんでいる。選挙民は愚弄されるばかりだ。
 これにたいする新聞の論調は、いっかんして冴えない。読売・産経などの政府御用新聞は、むろんイラン特措法に賛成の論を張り、朝日・毎日がかろうじて批判に傾いているのみだ。
 このように日本の報道機関は戦争にたいし、きわめて弱腰な対応になっている。いまさら読売・産経などを批判しても、という感情がないでもないが、しかし戦争に無抵抗な新聞にたいしては、批判しつづけなければならない。

■老獪な政府御用新聞のやり口

 産経新聞7月5日の朝刊は、一面トップに、尾道市教育次長の自殺記事を押しだしてきた。産経新聞では社会面トップでも同件をあつかっている。この事件は広島県尾道市教育委員会の山岡將吉教育次長(55)が、乗用車の後部座席で首をつって自殺した事件である。
 広島県では1999年2月にも世羅高校の石川敏浩校長(58)が自殺する事件が発生した。これは当時の文部省から派遣された辰野裕一教育長の強権的な指導に起因している。辰野裕一教育長が強行した、日の丸掲揚と君が代斉唱の業務命令に抵抗しきれなくなって自殺したものである。
 自民党は、この事件をことごとく広島教職員組合の責任にし、その死を利用して、日の丸・君が代の国旗・国歌としての法制化にもちこんだ。こんご、同様の混乱が起こることを防ぐためという名目であった。
 今回の山岡教育次長の問題では、先の3月9日に高須小学校に、民間校長として赴任していた慶徳和宏校長(56)が自殺するという事件が発端になった。慶徳校長もまた、教育委員会の強硬な方針に抗しきれず、過労と心労をたかめていた。慶徳校長は、休暇や転任の希望をくり返し提出していたが、広教委は対応せずに放置し、自殺に至らしめたものである。
 山岡教育次長は、亡くなった慶徳校長の指導役にあたっており、またその後の事件への対応にも追われていたが、とうとう過労からこんどはみずからが自殺した。これも文科省直属の教育委員会の被害者といえる。
 このように自殺があいつぐ広島県の異常な管理強化体制という問題にはいっさい触れず、あらゆる責任を広教組に押しつけようとする新聞の姑息さは憤懣きわまりない。
  さらに産経新聞の一面記事にいたっては、「尾道市教育次長が自殺/民間校長自殺調査、組合反発に悩む?」と見だしをつけ、事実関係のはっきりしないうちに、組合問題に「?」をつけてまでも、あたかも民間校長が自殺した原因に、組合からの強烈な批判があったかのように印象づける老獪さである。広島県では98年の文部省による「是正指導」という締めつけ以来、校長5人をふくめて12人が自殺する異常事態である。
 広教組には、さる6月27日夜にも、組合書記局に銃弾が2発発砲されるという重大な事件が発生したばかりだ。産経新聞はこれにたいしなにひとつ言及せず、ひたすらに組合攻撃を強めている。このように校長の自殺などがあると、鬼の首を捕ったように即座に教組のせいにするやり口ひとつをみるかぎりでも、文部科学省と右翼新聞が一体となって日教組攻撃をしている構図が浮かぶ。 今回の一面トップ記事は、産経新聞の体質をあらわしたものだが、読売ばかりか、朝日まで、社説で県教委と県教組の対立が原因としている。権力の横暴への抵抗を対立とよそおった表現は、犯罪的だ。マスメディアは、国に抵抗するものを「やりすぎ」といって血祭りに上げることによって、権力を擁護してはいけない。

■憲法の誇りを砕く米追従小泉政権

 新聞といえば、『創』8月号には、安田純平という元信濃毎日新聞記者の手記が掲載されている。「イラク戦争取材のために新聞社を辞めた」と題されたこの手記によると、安田記者は米英軍のイラク攻撃直前、バグダッド市内で現場の生の声を取材することが記者の使命と考え、自分の手もちの休暇を使って取材にいかせてほしいと会社側に申し入れた。それも拒否されたことを契機に1月に退社した。
 信濃毎日新聞社が安田記者にしめした回答には、「イラクの戦争など長野県と関係ない。取り上げる必要もない。そうした取材はもういっさいさせない」と、にべもないものであった。安田記者は、イラク攻撃開始の2ヵ月前、昨年の12月にも市民グループとともに休暇をとって現地入りし、取材している。
 湾岸戦争以降もつづいた、米軍による空爆の被害や劣化ウラン弾の影響を追いかけたのだが、じつはこの取材も、一度は会社から却下され、仕方なく自分の休暇をつかって現地入りしたものであった。
 米英軍のイラク攻撃当時、日本の大手新聞・テレビ局の記者たちは、現場を引き上げてしまい、爆撃下でどのような状況が展開されていたかについては、外国の通信社やフリーの記者の報道を待つしかなかった。
 日本のマスコミは危険な場所に自社の社員を派遣しないという方針を貫き、安全地帯にのみ記者を置くようにしている。このような取材制限に不満をもつ記者のひとりが、安田記者であった。
 空爆下にある現地住民の表情を伝えることが記者の任務である、ときわめてまっとうな主張をし、取材を願いでたひとりの記者に圧力をかけ、退職に追いやったのが、歴史もふるく、言論に気を吐いてきた信濃毎日新聞だっただけに残念だ。それが最近の新聞社の低迷をよくあらわしているようだ。
 一方、政府はといえば、戦争準備法案である有事三法を成立させたのみならず、こんどは、いまだ戦場であるイラクに、自衛隊を派遣する法律を成立させようとしている。どさくさまぎれの既成事実づくりだ。きたないやりかたである。いうまでもなく日本国憲法では、「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇」「武力の行使」を放棄し、努力によって外交努力によって戦争をはばむ精神に貫かれている。それはかつて東アジアを中心に2千万人ともいわれた民衆の殺戮への反省にもとづいた精神である。
 しかし小泉首相とそれを支持する与党は、周辺事態法や有事法など、「戦争」という言葉を使わずに、憲法を否定する戦争参加の法律を矢つぎばやにだすことで、憲法の空洞化をはかってきた。今回のイラクへの自衛隊派遣でも、危険な地帯には派遣しないとしつつも、事実上、マスコミが記者を置くことさえも拒絶する危険地域に、自衛隊を投入する予定である。
 現地では、いつどこで戦闘がはじまるかわからない。これまで日本は約半世紀にわたり、ひとを殺さないことを誇りにしてきたのであるが、その誇りは今回のアメリカ追従小泉政権によってうち砕かれてしまうことになる。
 自衛隊が攻撃され、殺害される場合もあろうし、応戦して相手を殺す場合もあるだろう。あるいはゲリラとまちがえて民間人を殺すこともありうる。事実、自民党の麻生太郎政調会長は6月16日、自衛隊が携行する武器について、「トラックに爆弾を積み突っ込まれたら小銃ではどうにもならない」といい、機関銃よりも威力がたかい「無反動砲」などの小型重火器の携行が必要であるとの考えを示し、石破茂防衛庁長官もこれに同調している。
 このような、完全に憲法を否定する法律にたいし、従来、平和を標榜していた公明党は全員一致で賛成した。自民党は記名投票ではなく起立投票であった点を理由に、野中広務議員などの3人が退席しただけで衆院を通過させた。国会議員は憲法を守る義務を負っているのに。民主党は独自の修正案がとおらなかったことから、最終的には反対にまわったが、党内のウルトラ軍事派のつきあげに、管代表は対応しきれず、ぎりぎりまで動揺していた。
 イラクへの復興支援という名目で、自衛隊の出兵を既成事実化しようとする自民・公明・保守3党のやり方はあまりにも汚く、それにたいする野党の弱腰は情けない。今回の法案通過は、自民党にある核武装論へもすすみかねず、軍事大国化をめざす勢いは確実に強まっている。

■なんら変わらぬ「金をばらまけ」姿勢

 核武装といえば、核武装の物質的な基盤をつくるプルトニウムの生産にかかわる核燃料再処理工場の稼働を政府はまだ断念していない。
 青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は、05年7月に稼働を予定しているが、すでにプルトニウムを利用した高速増殖炉の建設は、原型炉「もんじゅ」の破綻により手詰まりになっており、プルサーマル計画も頓挫している。にもかかわらず、なお再処理工場を建設し、稼働させようというのは、近隣の諸国から、核武装を狙う国家計画と考えられて当然である。
 六ヶ所村に建設中の再処理工場は、01年7月に燃料貯蔵プールで水漏れが発見されていらい、まる2年が経過しているが、いまだ修理の途中である。これはプールの底の溶接部分に250か所にもおよぶ、手抜き工事による不正溶接が発覚したためである。貯蔵プールが2年間にわたり修理されつづけているのは異常事態だ。いまだ工事が完了をみないというのは、つぎつぎに新しい欠陥が発見されているからである。この調子でもっとも危険な核燃料を再処理するなど、絶対にやらせてはいけない。 使用済み核燃料を保管するための中間貯蔵施設についても、青森県むつ市がうけ入れを正式表明しているが、いまだ予定地を明確に発表できずにいる。この地域には原発反対派の共有地もあり、施設の建設はきわめて見とおしは暗い。再処理工場の建設だけで、すでに2兆円をついやしているが、原子力船むつが失敗に終わったように、核サイクル事業計画など失敗に終わる見とおしがますます濃厚になってきている。
 このような状況下にあっても、施設の建設・稼働をどこまでもあきらめない政府と電力会社の姿勢は、国民の命などなんら考慮していないことをあらわしている。たびかさなる事故とトラブル隠しという不祥事によって、全面的に停止に追い込まれた原発を再稼働させるために、東電は柏崎・刈羽の市議・村議31人にビール券を配って批判されるなど、「安全性より、とにかく金をばらまけ」の姿勢はなんら変わっていない。
 夏にむけて東京電力は、電力不足による「停電パニック」を声高に宣伝し、自分の責任を棚上げにして、運転再開をめざしている。「停電パニック」は、政府と一体化したプロパガンダだが、たとえ本当に停電が起こったにしても、それは政府と電力会社による強引な原発推進政策がつくりだした問題である。これを地方知事や反対派の責任に転嫁すべきではない。また、現在14機が停止しても、代替え発電によりまかなわれているという事実を無視し、代替発電の建設をサボって、停電パニックだけを訴えるのは、見え透いたやり方だ。むしろこのような不安定な原発依存体制からどのように脱却すべきか、それを長期的に考えるチャンスである。

■退廃議員を支持する民衆社会

 さて、政治家・議員のこのところの退廃は、目を覆うばかりである。かつては周辺諸国を蔑視するような発言を世論に批判され、大臣を辞任する議員が続出したが、最近はひらき直っている。
 先日は、早稲田大学内のサークルが起こした強姦事件にたいして、衆院議員の太田誠一党行政改革推進本部長が、鹿児島市内でのPTAの討論会で、「集団レイプするひとは、まだ元気があるからいい。正常に近い」と発言し、超党派女性議員から批判されたが、居座っている。
 そうかと思えば、直後にはやはりこの討論会で、森喜朗元首相が「子どもをつくらない女性の面倒を税金で見るのはおかしい」と発言し、ひんしゅくを買っている。さらにさかのぼれば、石原慎太郎都知事の「第三国人」発言や「女性が生殖能力を失っても生きているっていうのは、無駄で罪」という暴言もあり、国際的にみれば政治家としてまったく不適格者である。人権無視の発言を口にしながら、なお高支持をたもつ議員が多いのは、日本人の意識を反映している。
 さらに、麻生太郎政調会長の「創氏改名は(朝鮮の人たちが)『名字をくれ』と言ったのがそもそもの始まりだ」という暴言や江藤隆美元総務庁長官の「日韓併合は両国が調印して国連が無条件で承認した」、などの歴史を改竄するような無知な極論まで飛び出した。自民党幹部たちの朝鮮・韓国への差別意識は、戦後、外国人の生命と人権にたいする考え方が厳しく問われることのなかったことのしっぺ返しであり、「戦後民主主義」欠陥である。
 多くの問題を抱える自民党がなお支持され、暴力と欲望の姿をむきだしにしたアメリカを公然と支持する小泉首相を打倒できない、日本の言論の劣化を、どのようにたて直すか、それがいま問われている。 (■談)

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